第57話  優勝候補の四人

予選開始の合図が鳴った瞬間、皆一斉に動き出す。

近くの者から攻撃する者もいれば、一時的に手を組み、複数で動くものもいる。


リング上に仲間がいないかもう一度確認するか。

……見当たらないな。

いないのは間違いない。


その間も、敵から攻撃は受けていたが回避に徹し、避けるだけだった。だが、もうその必要はない。


全身から魔力を放出。

荒れ狂う風圧と、風の刃を俺の周り、360度に放つ!


その風圧に耐えきれず、参加者全員浮き上がり、回転し、身動きが取れなくなって、風によって切り刻まれていく。


「「な、ぎゃあああああああああ!!」」


そして圧力により、リング外にまとめて吹き飛ばした。……俺以外の全員。


「……え?…あ、勝者が決まりました〜」


アナウンスが鳴り響いた。

労せず俺は予選を勝ち抜けた。


体力の消費も大した事なく幸いだった。


「勝者の方しばしお待ちを…他の予選ブロックが終わってから会場に戻すので…」


アナウンスで言われたので、この場に待機する。

さすがにここまで早く終わるのは想定してなかったみたいだな……


まあ数十人はいたし、当然か。


上を見ると他予選ブロックの映像が写っていた。

仲間の3人はどうしてるかな…


南城のブロック。


南城は炎撒き散らし、魔族共を焼き尽くしている。


「雑魚共なんざ相手にならねえよ」


かなり余裕を感じる。

大丈夫そうだな。


水無瀬のブロック。


水無瀬は返り血にまみれていた。

……血が苦手だから、その風貌に少し恐ろしさを感じるが、それでも映える美貌とも思った。


戦いはというと、レイピアのような細い剣で、突き貫いたり、切り裂いたりと圧倒的速度で、バッタバッタと薙ぎ倒している。


「まあ、所詮こんなものよね」


こちらもまったくもって問題なさそうだ。


残るはダストのブロック。


…こちらは少し様子が違う。


このブロックはすでに二人しか姿が見えない。その二人はダスト、そしてもう一人は……

やや背丈が低く、髪の長い…人間に見えなくもない若い男。…優勝候補の一人、炎具のハーベルとかいう奴だな確か。


ダストは肩で息をしており、疲弊しているように見える。


「おやおや。他の雑魚共と違って君しぶといじゃないか。伊達にこの大会に出てないね」


ハーベルは感心するような態度。

だがその顔に焦りはない。

余裕、それしか感じられない表情をしていた。


「な、舐めんなよ若造…小生の力はまだまだこんなもんじゃねえ」


ダストは手に持っている、錬成した銃を放つが。


「無駄無駄ぁ」


ハーベルの全身から炎か浮かび上がり、ハーベル自身を包む。

その炎は人の形を作り上げる。

炎人とでもいうべきか?


その炎人に弾丸は通らず燃える。


「くそ、またそれか…」


どうやらこの炎人に攻撃が、受け止められ続けているようだ。


「この炎人のガード、君程度では太刀打ち出来やしないよ」


ハーベルはこの炎人の中に入り込んでるため、炎人を貫けるほどの攻撃をしない限り、ダメージのひとつも与えられないと見える。


「ならこれだ!」


ダストは大槍を生成。


「決め技、この槍大砲ランサーキャノンでぶち抜いてやる」

「なにする気か知らないけど、無駄無駄」

「そいつはどうかな!槍大砲ランサーキャノン!!」


炎に包まれた大槍を、ハーベルめがけて放つ!


高速で、一直線にハーベルめがけて飛んでいき、炎人に直撃。

そしてその腹部を見事ぶち抜いてみせた!


決まった。…そう、思った。


「どうよ…小生のとっておきは」

「すごいすごい」

「!?」


ハーベルはいつの間にか、ダストの背後に現れていた。


「お前に炎人をプレゼントしようじゃないか」


ハーベルが指を弾くと、突然ダストに奴の炎がまとわりつく。


「う!?な、なんだ!?」


炎がダストを包み込み、その全身を焼きはじめる。


「ぐ、ぐああああああ!!」

「この炎はお前の全身にまとわりつき離れない。焼き尽くさないかぎりねえ」

「ふ、ざけるなああ!!」


地面に転がりながら、炎を消そうと暴れまわる。

だが、炎は消えない。


痛みと火傷傷に悶え、転がり落ちる。…リング外に。

リングから落ちたことで、ダストの敗北は決まった。

いや、負けた事はいいが、このままだと!


「ああああああああああああ!!」

「うるさいねえ。しぶといというかなんというか。まあいい勝負は俺の勝ちだからね」


ダストの叫びが不快だったか、ハーベルは炎を消す。

黒焦げになったダストの姿があらわになる。

……死んではいない。

ピクピク動いているから。

少なくとも命は大丈夫そうで安堵する。……だが、


「ダストが…やられるなんて…」


驚きを隠せなかった。

ダストの実力は身を持って知っている。戦ったことがあるから。


ダストほどの実力者が負ける。……帝王軍選抜トーナメント…そうやすやすと勝ち上がる事はできないようだ。





他ブロックの予選も終わりが見えてきていた。


「ぐははははははは!!どうだ吾輩のパワーは!!」


巨人ドゥパン。

持ち前の怪力で多くの魔族を薙ぎ倒し、殺しまくって予選を突破。


「ホッホッホ。なんじゃなんじゃ?何もしとらんのに勝手に敵が倒れておるわい」


仙人チバク。

腕を後ろに回したまま、何もしていないのに周りの魔族達が泡吹いて倒れ死んでいく。

労せず予選を突破していた。


「雑魚ばかりで面白くないわ~」


伸打のアールオン。

棍棒でバッタバッタと敵を全て薙ぎ倒して、予選を突破する。


人数は多かったが俺の突破から、さほど時間がかからないうちに全ての予選は終了した。


勝ち残った者達は一斉に、本戦を行うドーム内のリングにワープされた。

つまり戻ってきたわけだ。


「む?やはりお前ら勝ち残っておったか」


巨人ドゥパンは他優勝候補達を見て残念そうに言った。


「当然の事じゃろ。今大会は儂ら四人のうち、誰かの優勝と決まっておるのじゃからの」

「ま、そりゃそうだ。優勝はこの俺だけど」


仙人チバクと炎具のハーベルが語る。どうやら他の参加者は眼中にないようだな。


「「皆々様。予選終了お疲れ様です〜。しかしお疲れのところも~しわけない!本戦を今すぐ開始します!」」


DJのマイク音声が鳴り響いた。


「へっ疲れてなんてないって。雑魚しかいなかったしねえ」

「「それでは組み合わせ発表します!」」


観客席の上部に設置されている、巨大なテレビ画面。そこに勝ち残った八人の名前が記されたトーナメント表が映る。


神邏対チバク、水無瀬対アールオン、南城対ハーベル、岩絶がんぜつ対ドゥパン

一回戦の組み合わせだ


「「準決勝は準決勝でまたランダムに組み合わせを決めますので一回戦の順番は関係ないので〜お気をつけくださいね!」」


組み合わせを聞くと四人の優勝候補が、


「ホッホッホ。な〜んじゃ儂ら優勝候補は誰も初戦では当たらないようじゃないか」

「って事は一回戦は大番狂わせはなさそうだね。楽で良いけど」

「まーた雑魚狩りぃ?」

「フン!初戦は肩慣らしくらいにしかならなそうじゃねえかよ!」


優勝候補共は対戦相手をなめた発言をしていた。

自分達意外に敵はいないと思ってるのだろう。

気に入らない……が、


「……言わせておくか」 


俺は特に気にもせず、スルー決め込む。逆にそれで油断してくれたほうが戦いも楽になるしな。


「そうね。どっちが雑魚かはこの後わかることだし…」


水無瀬も同感なようだった。


……だが、もう一人は……


「おい、そこのズッコケ四人組」


南城は優勝候補共に話しかけた。

……事を荒立てる気か?よせばいいのに。


「あ!?んだてめえは?」

「随分と舐めた事言うじゃねえの。なら賭けでもするか?てめえら優勝候補が何人準決勝進出できるかを」

「はあ?賭けにならんだろそんなもんよ!全員進出に決まってる!なあ!」


ドゥパンが3人に問いかけた。


「ホッホッホ個人的には何人か倒れてもらったほうが都合はええが、まあありえんじゃろうて。当然全員進出じゃ」

「右におなじかな」

「雑魚共じゃ相手にならねえしね」


他3人も同意見なようだ。


「賭けにならねえ…ねえ。じゃあ俺様はお前達3人は初戦負けと予想するぜ」


と、南城は断言した。


「ああ!?」

「なんじゃと小僧!!」


ドゥパンとチバクは怒り狂い、他の二人は唖然。


「突破可能性があるのは巨人のてめえだけ、後は負ける。特にお前は確実だ」


南城は自分の対戦相手ハーベルを指差す。


「…へえ。デカい口叩けるだけの力はあるんだろーね?」

「当然だ焼き尽くしてやるよ」


にらみ合う二人。


「試合が楽しみだ」

「奇遇だな俺様もだ」


その後、踵を返した。



そんな様子に呆れるようにため息つく水無瀬。


「…あのバカ下手に挑発なんかして」

「まあ……それだけ自信があるんだろ。俺も負ける気はないしな」

「それは私もそうだけど」


ただこの四人の底はまだわからない。予選を見た限りでは全員大したことはなさそうだが…油断は禁物だしな…


少なくとも今現在の見立てでは、そこまでの実力者はいないように見える。ダストを倒したハーベルを含めても。


「「それでは〜初戦始めたいと思います!サウス選手にチバク選手どうぞ」」


さっそく試合か……


「神邏、勝利信じてるわ」

「ま、余裕だろ?お前ならよ」


水無瀬と南城の激励。


「ああ。まず初戦突破してくる」


俺とチバク以外のものはリング外に出る。


目に魔力を集中。

そうすることで視力が上が、り観客席の人の顔が判別できるようになる。


そうすることで、観客に紛れるルミアの姿を確認できた。すると彼女はこちらに気づき、笑顔で手を振ってくれた。

…カワイイ。


口元だけ笑みをこぼし、チバクに視線を戻す。


「…まあ、たまにはカッコよく勝って、良いところ見せたいな」



つづく。


「いやいや、いつも神邏くんはカッコイイですよ~。常日頃見てる私が言うから間違いないです!」


「次回 トーナメント開始 さ~て見ものですかね~」

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