第56話  予選

「「会場にお越しの皆様方〜今回の解説実況を任された、DJダルロールと申します。お見知りおきを〜」」


肌黒パンチパーマの、ダンサースタイルの男がマイクをもち、会場の人々に挨拶。


「「今回も各国から選りすぐりの魔族が集まり、ワタクシとしても大いに楽しみで〜あります。前回大会のような大番狂わせか、はたまた順当な結果になるのか…ワクワクが止まりませんな〜!」」


「けっ…くだらねえ事してやがる」


南城はボヤくと、耳栓をつける。

聞く気ゼロだ。


「「帝王軍からメッセージが届いております「我々は強者のみ求む。それを見せつけるためには、どんな手立てでも卑怯な手でも構わない。邪魔な選手共を殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!…そうして勝ち残った、最強の選手だけが帝王軍へと入れるのだ」とのことです」」


…まさにルール無用。

勝ち残るためなら、なんでもして構わないか。…となると、毒だの不意打ちだの当たり前だろうな。

油断は命取りになる。


「「それではまず、参加者が多いためふるい落としの予選からであります!……ですが、予選程度に実況も観客も必要ありません。ですので別会場へと案内します。参加者の皆様どうぞ!」」


別会場?近くには何もないが…


「俺様達が予選で当たることは避けたいな」


……南城の言う通りだな。

予選なんかで参加してる四人の仲間が当たったら、複数で来てる意味がなくなる。

是が非でもそれは避けたい。


「…ところで仲間同士あたった場合、勝たせる優先順位はどうする?」


同士討ちになる場合は片方が棄権して戦いを避けることで、もう片方を無傷で勝ち上がらせる話になってるのだが……


「勝たせるのは当然強い者のほうがいいでしょうね。まあこの中だと神邏が一番強いから、神邏が最優先ね」


と水無瀬。……それはそれで責任重大だな俺は。


「…まあ、そこは仕方ねえ。だが次の優先順位は?俺様か?」

「何いってんの。十二クイーンの私に決まってるでしょ。あんたは八なんだから」

「生憎だったな、俺様は九に昇進した。ローベルトの幹部仕留めた功績でな」


どことなく自慢気な南城。

意外にも昇進が嬉しかったのだろうか?あまり地位に興味ないと思ってたから意外だ。


「それでも私より下じゃない。せめて同格の十三キングにでもなってからほざきなさいよ」

「階級で実力はわからねえ。それにお前は数少ない女の実力者。だから女のみの十二クイーンに昇進できただけだろ。同じ階級じゃ一番の下っ端だ」

「…なに?私はたまたま空いてた席に座っただけとでも言いたいわけ?」

「学園時代、全てにおいて俺様より劣ってたお前が、短期間で俺様を上回ったとは思えねえ」


どんどんヒートアップしていく二人。……実際どちらの意見が正しいかはわからないが、こんな時に喧嘩などしている場合ではない。

そう思い仲裁にはいる。


「…やめとけ。言い争いしてる場合じゃないだろ」

「素直に従わねえこいつが悪い。第一俺様は聖獣とついに契約したんだ。なしで八の階級だったんだぜ?水無瀬程度越えててもおかしな話じゃねえよ」

「…本当その昔からの自信満々の態度嫌いだったわ」


「やめろって…」


俺は二人の間に立つ。


「…どちらが上にせよ、ここでその判別はつけられないだろ。だからジャンケンでもして決めろ」


互いに譲らないなら、勝負して決めろって事だ。それも誰も傷つかず時間もかからない運だけの……な。


「…神邏が言うなら従うわ。私、素直な奥さんになりたいし…」

「素直どころかひねくれてんだろ」

「それはあんたでしょ?それに素直になるだけだから」

「ちっ、気に入らねえが、モメてる場合じゃねえのはわかるし、やってやるよ」


互いににらみ合い、しばしの静寂……からの、


「「じゃーんけーん!」」

「「ポン!」」


高校生くらいの年齢の子達が、超真剣な眼差しでジャンケンしてるのは、なんかシュールかも。


…で、結果はというと。


二人はグーを出していた。

だが決着はついた。


あいこではないからだ。

……なぜなら、


もう一人が参加してパーを出していたから。


「だ、ダスト!てめえ!」


ダストが割り込んできていた。


「小生の優先順位は2番目か、よしよし」

「てめえ勝手に割り込んで…」

「小生は魔族だし一番疑われない立場だ。優先順位は高いほうがいいと思うがな」

「……」


意外にもすぐ南城は引き下がる。


小細工はしてるとはいえ、魔族じゃないとバレる可能性のある3人より、魔族であるダストを優先したほうが確かにいい。


「…むしろ状況によっては、俺より優先するべきかもな。例えば俺とダストが決勝の相手とかなら…」


と俺は言った。

天界軍のメンバーがかならず優勝できる状況なら、そのほうがいいと思う。本当に魔族なダストなら天界の者と疑われずらいしな。


「そうなると小生が帝王軍と面会するようか…まあ奴らにはひと泡吹かせたいからいいかね」


ローベルト一味にとっても、帝王軍は憎い相手だ。故にダストもまた思うところがあるのかもな。


「ほら、お前ら続けなよ。まだ3番手は決めれるだろ?」


どことなく煽り顔なダスト。

ムカツク…と2人は思ってそう。



「「おいおいあいつらは」」


他の参加者がざわざわしだす。

……何事だ?


「見ろよ、今大会の優勝候補共だ…」


その発言を聞き皆視線を動かす。


四人の魔族がそこにはいた。

三メートルはあるんじゃないかと思われる大男、腕が地面につくほど長い奇妙な男、腰が曲がっているただの爺さんみたいな魔族、そして一番人間に見える容姿の若い男。


「巨人ドゥパン、伸打のアールオン、仙人チバク、炎具のハーベル…揃いも揃ってとんでもない魔力だ…」


「なに?」


南城が反応する。


「知ってるのか?南城」

「聞いたことある程度だがな。人間界にいる魔族の中じゃ名のしれた連中だ。天界も動きを掴めてなかったんだが、こんな大会で出くわすとはな」

「…実力者ということか」

「詳細はわかんねえが、どこか支配している魔族らしく、ローベルトや赤龍教団みたく天界がマークしてる奴らだ。わかってんのは名前と風貌くらいだが」


町なのか一つの地域なのか、はたまた国全体なのかは不明だが、この四人は勢力をもち人間界で支配地域をもつというのか。

ローベルトすら会社を乗っ取っていただけだと言うのに。


どこを支配してるのかは常に隠しているのだろう。

ここは俺の支配地域だ!…なんて大々的に表明したら、天界に感づかれ天界軍を送り込まれて消されるだけだから。

 

だからこそ天界はこの四人の動きを把握していないのだろう。

つまり天界に喧嘩売れるほどの勢力ではないということだ。


「だがまあちょうどいい。人間界で言うところの指名手配犯みてえな連中だ、この大会でついでにぶち殺すまでだ」

「殺す……か」


少し考える。

迷うつもりはないが、……やはりまだ人を殺すのにためらいの感情はある。殺しありのルールな以上、あいてはそのつもりだろうし、実力者相手なら手加減などできるはずもないし。


「その四人だけでなく、別に参加者の魔族まとめて皆殺しでも構わないのよね?当然」


水無瀬が平然と言った。

女の子が言うにはやけに野蛮なセリフだな。

軍人だし高い階級だから、当然なのかもしれないが……


「そういう話にはなってる。大体が人間界で悪さするクズ共だろうしな。それに帝王軍なんて組織に入ろうって連中だ。前科なかろうが始末の許可はおりてる」


殺しはOK!……などと言われてもわかった!とは言いづらい。

…それでもやるしかないが。


ローベルトを逃がした時に、身を持って味わった事。

悪を逃すとどうなるか…


だから殺るしかない…悪ならば。



「「それでは~予選会場へ案内するので〜参加者の皆様リング上へ!」」


DJの指示に従い、参加者全員がリングに登ると、その瞬間会場から全員の姿が消える。


観客席に潜ませた天界軍メンバーの中にいたルミアがその光景に驚いていたらしい。


「え?神邏くん!?どこへ?」


消えた俺達参加者は、別のリング上に立っていた。

先程いたドーム内ではない…?


「「ここは地下闘技場。参加者は8つのブロックに分けられました〜。各ブロックの勝者一名のみが本戦出場となりますので、皆様頑張ってくださいねえ~」」


辺りを見ると、近くにいた水無瀬達の姿がなくなっていた。

同士討ちがないのなら都合がいいな。


「「予選のルールもいたって簡単。死ぬかリング外に落ちたら失格です。予選なんで早く人数減らしたいからこその、場外ルールなんですよねえ」」

「リング外に落とす…か」


……わかりやすいルールだな。


「…予選くらい軽く突破しないと…な」


帝王軍選抜トーナメント…始まる。



つづく


「私の出番少なすぎ!どうなってるんですかね~?」


「次回 優勝候補の四人 大した連中じゃないですよ」

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