第55話  いざトーナメント会場へ

トーナメント開催当日…

俺は天界軍の人達に連れられ、会場へ向かう。


開催地は外国のとある場所。

ほぼ平地で何もない。

田舎どころの話じゃない。何せ家もなく、とうてい人が住んでる場所に見えないからだ。


そんなところにポツンと、バカでかいドーム球場のような建物がそびえ立っていた。


……そこがトーナメントの開催会場なのだろう。


「この地域は魔族に支配されていると聞くので、みな警戒を怠らないように」


今回の作戦指揮を任せられている♡の十三キング、風見さんがこの場にいる全員に呼びかけた。


……しかし、知らなかった。

外国とはいえ、魔族に支配された場所が人間界にあるなんてな。


……まあ、日本もローベルトを放置してたら、町どころか、市区町村だって支配されていた可能性もある。

そう考えると、そんなおかしなことではないか…


この国では魔族の存在……おそらく隠しきれてないだろうな。

支配されてるのだから当然だが。


天界も人間界全てに目を向けてなどいられないから、支配されてる国があるのも仕方ないのだろうが……気分はよくない。


そもそもこの国が、魔族に支配されてたのは天界も最近まで把握してなかったようだし。


日本も知らないだけで、どこか支配されてる可能性もそう考えるとありえる話だ。


日本で活動してた二大勢力、ローベルトと赤龍教団が潰れたから幾分マシだとは思われるが。



ドームの近くに向かうと、多くの魔族らしきものや、人の姿がちらほら見受けられる。

観客かそれとも参加者か…



「参加者以外のものは観客に紛れるものと、外で警備するものと別れるように」


風見さんが各人に指示。

俺は参加者なのでここで待つ。


「参加者の四人…朱雀、南城、水無瀬…あとダスト氏か。君たちはこれから魔族に見えるように軽い変装と術をかける」


確かにこのまま参加でもしたら、ダスト以外は魔族じゃないわけだし、気づかれる可能性がある。


「…そうか。魔族だからこそ、ダストはこの任務にうってつけだったわけか…」

「そういやそうだな。気づかんかったわ。新参でかつ、魔族だから危険な任務につけられたのと思ったわ」


ダストはそう軽く笑った。

…だが確かにその可能性もある。

仕えてる者がいなくなったから、裏切る確率は少なく思われるが、それでも魔族だ。あまり信用できないものもまだ多くいるはず。

故に体よく使われてるだけかもしれない。


他に行き場もないし、冷遇されてるという程でもないからか、当人はまるで気にしてなさそうなのは幸いだが。



ダスト以外は軽い変装道具を受け取る。

つけ外し簡単な角に、色のついたコンタクトに牙の作り物など。


別にそれらがない魔族も多くいるが、角がある人間はいない。

少なくとも人間と思われなければいいので、魔族ならあってもおかしくないものをつけるわけだ。


さらにその上に術をかけられた。

よくわからないが、人に見えないようにするための小細工らしい。

匂い、魔力の感覚、血の色…それらを誤認させるための術だそう。


それでも感覚が鋭い者など、わかる奴にはバレる可能性はあるらしいが。


「これでよし…後は各自適当に名前考えておいてもらいますね」

「名前…?」

「大会に参加する以上、名前は聞かれるでしょう」


……確かにそうだな。

しかし実名はまずい。……だからこそ名前を考えろということなのだろう。


「名前以外はこちらでいろいろと考えてあるので、このメモに目を通して置くように」


渡されたメモには、出身なり魔族のどういう一族かなど、事細やかに書いてある。

…覚えろというのはやや無理があるかも。


「まあそこまで細かく聞かれはしないとは思いますがね、念のためというやつですよ。一応矛盾なく疑われないように、考えられたものなので、もしもの時はメモの通りに答えれば問題はありません」


とりあえず一通り目を通す。

その後、覚えられないならメモを無くさないようにしなくてはと、ポケットに潜ませた。


「…名前…名前か…」


別にどうでもいいからなんだって構わないのだが、いざ言われると考えてしまう。

……みんなは決めたのかな?

側にいる南城に聞いてみるか……


「南城、お前は決めたか?」

「あん?…す、スプリング」

「……よくすぐ決めれるな」

「適当に決めただけだ。…つーかダサいとか言うかと思ったがな」

「いやまさか。どうのこうの言えるほどのセンスは俺にはない」


…スプリングか、春を英語にしたってところか?

適当に考えたのか、ふと思いついたのか、はたまた意外と考えて決めたのかな。


「…ただ直訳か。……なら俺はサウスにするか」


南を英語でサウス。

字は違うが、同じ美波だからいいかと思い決める。


「あらいいじゃない。ちなみに私は一文字変えて、ナナセにしたわ。いいセンスでしょ?」


水無瀬が俺にだいぶ近づいて聞いてきた。息が当たるほど、顔が近い……


「…ああうん」


……その積極性に少したじたじになるな。





選手受け付けをドーム内でやっていたため、さっさと選手登録をしに向かった。

ただ、名前を書いたりするだけだったのでスムーズに終わった。


その後参加者は、別の道からドーム内に案内される。


近くで見ると相当デカいドーム。

野球のドーム球場5、6個分はあると思えるほどの大きさだった。


参加者が戦うリングもデカい。

ドーム球場一つ分くらいはあるかもしれない。

リングの大きさだけでだ。


しかし、こんなバカでかいドーム球場作られてたら、例え外国の話だろうとニュースにくらいなっててもおかしくなさそうだがな……


まさに世界一の広さのドーム球場となるだろうし、それなりに有名になっててもおかしくはないだろう。それがないということは、それだけ情報統制されている証だろう。


とはいえここは魔族の支配地域、人間に発信する力はないだろうから魔族による情報統制だろうが。


……と、言っても俺はニュースなんて見ないから、やってた可能性あるかもしれないが。


おそらく知ってる人間はここを支配している魔族の協力者くらいだろう。


観客席を見る。

…ちらほら客が見えるが、この広さを考えると一万人くらいはいるかもしれない。

魔族や妖魔が大半とはいえ、それだけの数がいるとは驚きだ。


おそらくこの国だけではなく、各国に潜む魔族が一部集まって来ているのだろう。


観客は帝王軍に入れるわけではない。なら何故来るか。

ただの憶測だが、賭け試合目的やこの戦い…殺し合いを楽しみに見に来た悪趣味な連中なのかも。


ルールブックを受け付けでもらったが、ルールなんてあってないようなもの。

武器を使おうが、卑怯な手を使おうが、殺しだろうが、構わないという内容。


一応10カウントルールはあるらしいが。

リング上で戦うといっても、別に外に落ちても失格になどならない。勝敗は死か10カウント負け。まあ、棄権もあるらしいが。


なんでもありというなら、警戒はしておいたほうがいい。


ここに来る連中は、なにがなんでも帝王軍に入りたい者達。どんな手を使ってくるかはわからない。


黄木司令はさほど厄介な相手などこないと、高を括っていたが……果たしてそうだろうか?


人間界で力を蓄え、魔界に戻ろうとしてる連中ともとれるわけだし、思いもよらない実力者が紛れている可能性も……



ゾワッ!!


な、なんだ…⁉


一瞬、


ただ一瞬、凄まじい魔力がこのドーム全体に響いた気がした。

どす黒く、寒気が伝わり鳥肌が建つかの如く……


あまり感覚が鋭いわけではない俺が感じるほどの魔力……

……相当な手練れだ。


やはり……いた。

恐るべき実力者が……


誰かはわからない。……何故一瞬魔力を放出したのかもわからない。


……わかることといえば、感じた魔力。


ーーそれが、


ローベルトすら上回るほど、強大なものだったということだけだ。



つづく。


「あ、私ついてきてますよ。次回ちゃんと出ますので。ヒロインですからね~」


「次回 予選 まあそれは軽く突破ですかね~」

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