第54話  水無瀬ゆかり

「許嫁…君が…?」


…こんな美少女が俺の許嫁だと言うのか?


…彼女はため息つき、


「仕方ないから自己紹介してあげるわ。私の名前は水無瀬みなせゆかり。一応、そこそこの名家出身で、あなたとは許嫁の関係。私とあなたが生まれる以前から互いの両親が決めた事らしいわ」

「生まれる前…」


…そんな以前から決めてたとなると、両親同士互いに親しい間柄なのか?

それとも家のしきたり的なもの…


いや…それはないか。水無瀬は名家でもこっちは違うしな。


…いや、そうとも限らないか?

天界での美波家の立場なんて知らないし。

それに朱雀の一族なのは間違いないわけだしな…


…聞いてみるか。


「…親に逆らえないとか、家のためにいやいや許嫁…というわけではないのか?」

「…そんなわけないでしょ。例えば相手が南城とかだったら、親に文句言ってでもそんな関係解消させるもの」


「なんで急に俺様にとばっちりくんだよ…こっちも願い下げだっつーの」


南城はややキレ気味。

奴にとってはそういう事に興味もないから不服なのかもな。


…というか、文句言わないって事は…


「…それだと君は納得してるように聞こえるが…」

「そうよ。私、あなたが好きだから」

「一一!!」


どストレートな告白…

こんな真正面で…まっすぐに見つめて…

さ、さすがに照れる…


俺を好き…?まさかそんな…


記憶がないから、初対面の人に一目惚れされて告られたみたいな感覚だ…


ただ…なんというか、気持ちは嬉しいな…


自分を好きになってくれた…その好意はすごく嬉しい。

こんな俺を好きでいてくれるなんてな…

それだけで彼女に対する好感度が上がってしまっている。


別に美少女相手だからとか、そういうわけではない。

美少女でなくとも自分に好意をもってくれた人には好感はもつ。


…チョロいと思われそうだが。



「……」


ルミアの笑顔が俺には浮かんだ。

…だから俺は、


「…気持ちは嬉しい、だが、」

「待って!」


…俺の口を指で塞ぐ水無瀬。


「…あなたと私は許嫁…将来結婚する関係なの。あなたにとっては初対面みたいな女に、そんな事言われても困るでしょうけどね」

「……」

「だから時間をかけて惚れてもらうから、今の気持ちは関係ないわ。…覚悟しておいてね」


…そう言うと彼女は離れ、俺に向かって投げキッスした。

そして部屋から去っていった…


…なんというか、積極的な女の子だったな…





一難去って、九竜は安堵していた。


「思いの外荒れなくてよかった」

「…あんたが前に言ってた許嫁が、あの娘だったんだな」

「そう、あたしの友人の水無瀬ゆかり。彼女とあなたは同じ学園だったらしくて、朱雀になってた事も唯一知ってたのよ」

「…なら、少し話を彼女に聞いてみたいな」


知ってると言うことは、朱雀となったきっかけや俺がよく見る夢…いや南城門防衛戦とやらについて知ってるかもしれない

※南城門防衛戦については30話参照。


「…なんで彼女、俺と許嫁なんだろうな」

「さあ?そこまでは…」

「…まあ、この場にルミいなくてよかったが…」


それだけは本当によかった。


「あの娘に聞かれたくないの?何故?」

「…察してくれ。まあ、ルミは気にもしないかもしれないがな」


そう思って俺は部屋を出ると、…すぐ目の前にルミアがいた…


…まさか聞かれてたか?


…少し彼女の様子がおかしい。いつもの笑顔に陰りが見える…


「ど、どうした?ルミ」

「…その、あの、神邏くんに許…」


聞かれてたか…

…目がうつろになってる。


「キュゥ〜」


奇声を上げてルミアは倒れた。

危ない!


廊下に倒れる前に素早く俺はルミアを両手で支えた。


「…どうしたルミ!どこか悪いのか?」

「いや、違うでしょ。彼女はショックで気を失ったんですよ多分」

「…?」


ショック?…いや、自惚れてはダメだな。九竜の勘違いかもしれないし。


「…くだらねえ。ラブコメはよそでやれよ」


…南城は愚痴っていた。





その後ルミアを家に届けて帰宅。

そして自分の部屋でくつろいでいると…


「「なかなか骨が折れる戦いが始まりそうだな神邏」」


魔力の聖霊イリスが話しかけてきた。


「…そうだな。帝王軍…そして父の仇、シャドとかいう魔族が属してる軍」

「「まさに因縁の戦いが始まるというわけか。我々の腕が鳴るというものだな」」

「…ああ。リーゼ共々、二人には期待してる。…とても俺一人では戦えないからな」


不安はある。

英雄と言われていたらしい父、火人が破れた相手…なわけだしな。


「ま〜あ?あーしがついてれば大丈夫みたいな?朱雀聖剣サウスブレイドの切れ味は抜群だから、おにーさんも期待しててよ」


逆に自信満々な武器聖霊スピリットウエポンのリーゼ。

…俺と真逆でうらやましい。


「頼む。朱雀聖剣サウスブレイドには頼りっぱなしだからな」


コンコン…とドアが誰かに叩かれる音がする。


「…?いいよ入って」


家族の誰かだろうな。

俺は部屋に入るのを許可する。


部屋に入ってきたのは義妹の詩良里ちゃんだった。


「…しよちゃん?どうかした?」

「おにーちゃん、今誰かと話してた?」

「聖霊とね」


そう言うと俺は指輪になってるリーゼを見せる。


「あれ?いいのおにーさん」

「家族だし、事情も知ってるからな。隠す事なんてない」


こういう存在がいると信じてもらえる人、信用できる人なら隠すこともない。

別にそれで害が起きるわけもないしな。


そもそも黙ってたわけでもない。

言うタイミングがなかっただけ。

普通のものには見えない魔力の聖霊のイリスはともかく、目に見える物質に変化してるリーゼなら説明しやすいし。


…むしろ一人でぶつぶつ誰かと会話してると思われるほうがあまり良くない。


リーゼやイリスについて軽く詩良里ちゃんに説明した。


「へぇ…詩良里、おにーちゃんが戦ってるとこ見たことないし、全然知らなかった…」

「…悪い。別に黙っていたわけじゃないんだ」

「あ、いや怒ってなんてないよ!」


手をぶんぶん振って否定する詩良里ちゃん。


「…ところでどうした?なにか用事?」

「ああうん。その〜今の話もそうだけど、詩良里だけ仲間外れにされてる気がしてさ~」

「仲間外れ?」

「そもそもおにーちゃんが戦うきっかけの時も、詩良里だけその場にいなかったからまったく話についてけなかったし…ていうか、まだおにーちゃんが戦うの嫌なんだけど〜そこは置いといて…」


魔族や妖魔を唯一見てない、それはむしろついてる気がするがな。


常に遠くから家族にはボディーガードがついてるのもあって、あれ以来誰も危険にはあってないから、余計見ることはないかもしれない。


「ちょっと、お願いがあるの」

「…お願い?」


カワイイ義妹のお願い…無理なことでなければ、簡単に了承してしまいそう。

クールで無感情…なんて俺は言われるが、義妹にはデレデレ…と自覚してる。


「あの~詩良里も聖獣?っていうのと契約したいかな~なんて」


……予想外なお願いだな。


「…しよちゃん。本気で言ってるのか?」

「うん」


むしろ冗談であってほしかった…


「…何故?」

「仲間外れにされたくないし、悪い奴らやっつけられる力手に入れられるんでしょ?夏目さんが言ってたよ」

「…なっちゃんか…」


ついこの前同じく聖獣の力を得たなっちゃんがもらしたのか。

彼女もまた仲間外れが嫌とか言ってたし、理由は似てるのかもな。


だが聖獣だって有限だろう。

天界が仮に許可したとしても、その場合天界軍に入れられる可能性が高い。

戦力となる聖獣の力をただで軍人でもない人間にくれてやるわけがないしな。


…軍になど入れられればどんな危険な目に合うかわからない。

そう考えると、了承できる話ではない。


「…ダメだよ。俺のように軍に入れられるかもしれない」

「…ん~おにーちゃんと一緒ならそれもいいかもしれないけど〜」

「…どれだけ危険か、しよちゃんはわかってない。…絶対にダメだからな」


許可などできない。絶対に。


「お、怒ってる?」

「いや、…怒ってはいないよ。しよちゃんが心配なだけ」

「…心配してくれるのは嬉しいけど〜」


少し、考える素振りを見せる詩良里ちゃん


「う~ん…わかったごめんねおにーちゃん」


詩良里ちゃんは謝った。

…だがどうも諦めたようには見えない。


「じゃあ、おにーちゃんゲームでもして遊ぼうよ!」

「…そうだね」


義妹の動向を注意したほうがいいかもな…心配だし。



つづく


「あ~あ~聞こえませーん。神邏くんに許嫁なんていませーん」


「次回 いざトーナメント会場へ さあ新たな戦いですね」

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