第53話  神邏の許嫁

「…で、その厄介な帝王軍がなんなんすか?やられる前にやれって事で殴り込みかけるとか?」


と南城が聞いた。


「仮にそうするとしても、奴らの支配地域はデカいし守りも強固と聞く。ローベルト一味の時と違いアジト乗り込んで倒すなんて、簡単にはいかんさ」

「部下の数も桁外れだろうしね。1日そこらで全滅させるなんて不可能だよ」


と黄木指令と西木さんは答えた。


「あれだけの組織だ。頭を取れば終わりとはならんしな。そもそも帝王を討ち取るなんて、今のままでは不可能だが…」

「…やはりそれだけ強大な敵だと?」

「帝王の詳細はよくわかってはいないが、幹部クラスで上位ランカー以上という情報もあるくらいだしな」


現段階では天界軍の総力を持ってしても、帝王軍を倒すことは不可能…ということだろうか。


「だからといって殿下のように諦めるわけにはいかん。どの道、天界を攻めてくるのも目に見えてるわけだからな。…そのためにまず奴ら帝王軍の情報を少しでも得たい。今回呼んだのはその件についてだ」


やっと本題に入るようだ。


「情報を得るなら奴ら、帝王軍の兵でも何でも捕らえ吐かせるのが一番。…という事で奴らが現れる可能性が高い、帝王軍選抜トーナメントなるものに出場してほしいのだ。魔族と偽ってな」


帝王軍選抜トーナメント?

ここにいる者たちのほとんどが首をかしげた。


「なんでも人間界に住む魔族共を帝王軍がスカウトするイベントらしい。そのトーナメントの優勝者ははれて帝王軍へと入隊できるとか」

「ふざけた話っすね。遊び感覚としか思えねえ」

「実際そうだろうな。奴らが人間界の魔族をスカウトする必然性がない。弱い兵隊など増やしたところでなんの意味もない。だからこそ優勝者一名のみの入隊なんだろう」


兵隊がたくさん欲しいのであれば、確かに定員一名だけは少ない。黄木司令の言い分は正しいのかも。


「それと人間界の情報を得るのも目的なのだろうな。出場選手はおそらくローベルトのように徒党を組んだり、それなりに人間界に精通してる連中が多いだろうからな」

「…人間界でトーナメントをやる理由もそういうことですか?」


俺は質問した。


「そうだろうな。そしてトーナメント会場は魔族の支配地域…もしくは魔族と組んで甘い汁を吸う、クズな人間共が提供した場所のどちらかだろうな」

「人間が提供…?」

「悪どいやつはどの時代にも、どの人種にもつきものだろう?魔族に魔力なり提供して、犯罪を手伝ってもらうよからぬ人間も中にはいたりするからな」

「……」


…俺は黙る。

そんな俺を見て南城は、


「なんだ?そんな人間がいるなんて…って感じでおどろいんのか?まあ人間の悪意ってのに触れてきた事なさそうだからなお前」

「…いや、そんなことはない」


きっぱり否定した。


「人間にもそういう者がいる事くらい理解してる。むしろそういう悪い連中の方が多いかもしれないしな…俺の周りは恵まれてるからそんな者はまずいないが…」


…冷淡というか冷めた意見に思われるかもな。


「…頭お花畑ってわけじゃねーのな」

「…まあ、な…」


「話を戻すぞ」


黄木司令が説明に入った。


「そのトーナメントに何人か出場、そして他の者は会場近く、観客席などなどに潜み、何かあったときに備えてもらう」

「…出場する理由はなにかあるんですか?」

「うむ、もしかすると帝王軍はわざわざそこにはこない可能性もあるからだ。だが優勝者には必ずコンタクトを取るはず…そこを捕えるという寸法だ」


…要は保険という事だろうか?

会場に現れれば誰かしら捕らえれば事足りる。

だが誰が帝王軍かなんていちいちわからないし、優勝者になれば必ず帝王軍が現れるはず。


「出場する魔族など大した奴もいないはずだから、お前達なら問題なかろう」

「…で、誰が出場するんです?面白そうだし俺はやりてえんすけど」


やる気満々の南城が立候補。


「よかろう、後はローベルトを討ち取った朱雀を保険として入れておきたい。よいな?」

「…ええ、わかりました」

「多すぎてもアレだしな、後はダストと水無瀬に任せよう」


水無瀬…この場にいる見覚えのない女性の事のようだ。

先程俺に手を振ってきていたが…


「トーナメントの日時はおって話す。今回はそれだけだ。解散としよう」


軍の要件は終わった。

なら早く帰るか…と俺はこの場を後にしようとするが…


「神邏!」


…その水無瀬という女性に呼び止められた。


サラッとしたロングヘアーの黒髪。スタイルもよく胸も大きい。

眼鏡をかけている女性。


容姿はかなり優れている。

カワイイ系というより美人系といった感じのクールビューティな少女。


…そんな一見クールそうな少女だが、俺を前にすると顔を赤らめ、照れくさそうにしている。


「ひ、久しぶり…ね!し、神邏。実は私今、◇の十二クイーンなのよ!」


…久しぶりと言われてもな。

俺は憶えてないのだが。

それと十二…かなり上の立場だ。


十三キング十二クイーンは男女で分けられてるだけで同格の立場…つまり司令を除けば上は天界四将軍だけの、二番目に偉い立場の上位ランカー。


どう見ても俺達と同年代くらいの少女がそんな立場とはな…


「…どうしたの神邏、黙って…」


俺の様子が変と気づく水無瀬。

変というか、知らない人だから反応に困ってるだけなのだがな…


「おい水無瀬、」


南城が口を挟もうとするが俺は手を前に出して止める。

…自分で言うためだ。


「…あの、水無瀬さん…実は俺、一部記憶を失ってまして…」

「…知ってるわ」

「え?…なら、お分かりかと思いますがあなたの事は…」

「憶えてない…とか?」


表情が急に冷たくなる…なんか恐ろしい。


「…ええ。すいません」

「そう、いかに記憶なくしたと聞いても、私の事くらいは憶えてると思ったんだけど…」


「おい水無瀬、さすがに無茶な話だぞそれ」


また南城が間に入ろうとするも、水無瀬に押しのけられる。


「無茶じゃないわよ…そこらの相手じゃないのよ私」


はっとする。

九竜の方を見ると、彼女は困ったのか視線をそらす。

この反応は、今まで九竜が話に出していた彼女の友人…それが水無瀬で間違いないのかも。


そして九竜は彼女のことを俺にとってどんな存在か逐一もらしていた…

ーーそれは、



「許嫁の私の事を忘れたなんて信じられなかったのよ!」


許嫁…

九竜から聞かされてた事だ。


水無瀬…彼女が俺の許嫁だったのか…



つづく


「………ま、まあ許嫁なんてものは親が決めた事でしょうし…どっちの親でしょうか?」


「じ、次回 水無瀬ゆかり 名前なんてどうでもいいですけどね…」

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