帝王軍選抜トーナメント編

第52話  帝王軍

「「人殺し」」

「「偽善者」」

「「悪とはいえ、人の命を奪うなんて…」」

「「お前は善人なんかじゃない!」」

「「…人殺しだ!」」


「「偽善者偽善者偽善者偽善者偽善者偽善者人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し人殺し」」




「黙れ!!」


…鳥のさえずりが聞こえる。


一一朝。

…俺の自室だ。


夢にうなされ、飛び起きた俺の姿がそこにはあった。

体は汗でびっしょり。


「……はーっはーっ…」


…ローベルトを倒してからというもの、こうやって誰かに責められる夢を見続けていた。

いつも見ていた過去の夢、あれの代わりかのように…


魔族で悪人相手とはいえ…人の命を奪った。

それにより、精神が多少まいっているのかもしれない…



…今日は休日。

少し休養を取ったほうがいいと思いつつ、居間へと降りていく。



「神邏くんおはようございます」

「おにーちゃんおはよ~」

「シンちゃんおはよう」


義妹いもうと義父ちち…それと、


「おはようございます…ルミ、来てたのか」


幼なじみのルミアの姿があった。


「はい。…神邏くん、汗すごいですよ。今朝暑かったですものね」

「あ、ああそうだな。後で着替えるよ」


普段と態度は変わらないつもりだった。…だが、俺の様子がおかしいとルミアはすぐ感づく。


「…どうしました?一一もしかして、この前の戦いの事で悪夢でも見ましたか?」


あまりにも鋭い発言につい、動きが止まり反応してしまう。


「…やっぱり。あまり思い詰めないほうがいいですよ?何かあれば言ってくださいね?私にできる事ならなんでもしますし」

「あっ!なら詩良里も!」


義妹のしよちゃんも元気よく手を上げた。

二人の気持ちをとても嬉しい。

…とはいえ、そう簡単に元気などでない。


「やはり、無理してるんじゃないかい?」


義父ちちの水斗は言った。


「今のところ大きな怪我して帰ってきたりはしてないから、今まで何も言わなかったけど…」


大きな怪我…してないことはない。他の戦いはともかく、ローベルト戦はわりと出血もしてたし。

…ではなぜ知らないかというと、軍の手当てで傷が目立たなくなってたりするからだ。

前回にいたっては朱雀の能力、自然治癒だけで傷跡すら帰宅時には完全に消えていた。


その為、激しい戦いをしてることを家族に気づかれていなかった。

心配させずにすむからいいのだが。


「…この前通帳見たら、驚くほどの金額が振り込まれてたし、危険な事の対価としかおもえないよ」


天界軍としての仕事の報酬だ。

まだ未成年だし、人間界での活動しかしてないなどの事もあって、それでも結構引かれてる。それを考えても高校生ではまず稼げない額だった。

…ちなみに引かれてる部分は成人後払われるらしい。


天界でも会社なりプロスポーツとかあるが天界軍、それも上位ランカーともなると、天界内のどんな職業よりも一番稼げるらしい。


だからこその給料なのだが…

父親としては子供がそれだけの額をもらってるとなると、危ないことしてると判断するのも当然だろう。


…とりあえず安心させないとな。


「…まあ、大丈夫ですよ。ビビりなんで危なくなったら、一目散に逃げてるんで。…現に大して傷だらけでもないでしょ?なんなら脱いで全身見てみますか?」


脱げばどこにも傷ないからと証明できる。実際どこにも傷跡すらないし。


…脱ぐという発言にルミアとしよちゃんだけ反応し顔が赤い。

…セクハラになるかなこれ。


「…いやいいよ。ホントに何も問題ないなら特に言う事ないしね」


断られたため脱ぐのはやめた。

…ルミアとしよちゃんは少し残念そうに見えるが…まさかな。


「…朝から脱ぐとか何?露出にでも目覚めたの?お兄」


もう一人の妹、莉羅がやや引き気味に居間にやってきた。

二人の女子とは対照的。…そう思われても仕方ないが。



…あまり家族に心配かけられないし、少しは元気出さないとダメだな。



休日らしくルミアと妹達で、ゲームなりして遊んでいると突如天界から連絡が入る。


…ローベルトを倒したのだから、少しは落ち着くと思ってた矢先にこれだ。


また何かしら魔族が暴れているのだろうかと思い俺は天界へ向かう。






ーー天界軍本部。

とても大きな円柱状のビルだ。


中では軍の者達がざわざわしてる。…何かあったのだろうか?


「朱雀、こっちです」


九竜がお出迎え。彼女についていく。


歩いているとすれ違う者達の会話が聞こえる。


「どうすれば…」「ついにその時が…」

「勝ち目なんて…」


うろたえるというか、焦っているというか、それぞれ表情は違うが何か大変な事が起きたのだろうと想像がつく。


「…ところで神条さんは?」

「ルミは呼ばれてないだろ」

「いやそれでもついてくる人だから」


俺は後ろを指差す。

すると少し離れた所にルミアの姿が見える。


「やっぱり来てるんだ」

「まあ話に入っちゃダメなら、部屋の外で待っててもらうが」

「…今日に限ってはそのほうがいいと思う」


俺は首をかしげる。

…今日に限っては?…なぜだ?



司令室にたどり着くと、言われたとおりルミアには部屋の外で待ってもらう。

中に入ると、黄木司令に西木将軍、南城とダスト、それとこの前会った風見という人物。

…他にも誰かいる。

眼鏡をかけた美少女だ。


その眼鏡の彼女は俺を見ると、あからさまに笑顔を見せ、手を振ってくる…


…一切見覚えないが、この様子を見ると…過去に会ったことある女性なのかもな。



「来たな朱雀、では始めよう。…ここに集まってもらったのは他でもない。帝王軍が近いうちに人間界に攻め込んでくるとわかったからだ」


帝王軍…ローベルトがこだわっていた組織だ。

魔界で一大勢力をもち、ローベルト一味とは比較にならない組織。


「時期まではわからない…だが天界軍としては見過ごせない自体だ」

「つっても、人間界を見捨てるべきだって派閥もあるみたいじゃないの大将」


ダストが口を挟んだ。

…というか普通にこの場にいるがどういう事だろう。


「確かにそういう意見も多い。だが司令としては見過ごせないのだ人間界の侵攻など。放っておけばいずれ天界も危険であるしな」

「…へ、こっちの派閥に入って正解だったな」


派閥…一体何の話だ?


「よお朱雀、何の話だって面だな」


そんな俺の様子に気づき、声をかけてくるダスト。


「実は小生、この前の戦いの働きが認められ天界軍にスカウトされたのよ。行くとこもねえし丁度いいと思ってな」

「…そうなのか?魔族でもいれてもらえるんだな」

「そこは意外と小生も思ったさ。で、派閥ってのは次期光帝候補の派閥の事よ」


光帝…確か天界の最高権力者の事だったか?


「司令の黄木派、四将軍の天海派、先代光帝の実子、五龍館派の3つあってな。特に先代のどら息子の方は人間界を見捨てる気みてえだからな、話にならねえよ」


それは聞き捨てならない話だな。

五龍館派…一応憶えておいたほうがよさそうだ。



「一応詳しく説明すると、帝王軍はバラメシア帝国という魔界の大国の別名だ。他にも3つの巨大勢力があるが、帝王軍は魔界の支配地域が一番大きく、特に脅威的な魔族の組織だ」



魔界で一番厄介な組織…そういう事だろう。

…そんな組織に人間界は攻め込まれるというのか…

かつてない危機が迫ってると予感された…



つづく。



「新章突入~さて次なる相手はとても厄介そうですね〜」


「次回 神邏の許嫁 ………は?」

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