第49話  決着 

 神邏の決め技である絶華。

 発動のタメ時間に無風の地中から潜り込み、神邏へと不意打ちを図ったローベルト。


 勝った!そう確信していた……


 だが結末は、



 ブシュッ!


 ローベルトの全身から血飛沫。

 ……何故?

 そうローベルトは思わざるえなかった。


 地中から飛び出て神邏へと攻撃を図ったのもつかの間、その瞬間全身がいきなり切り刻まれたのだ。


 ちなみに神邏はその間何もしていない。

 ただ絶華のエネルギーチャージしていただけだ。


 切り刻まれたローベルトはその衝撃で吹き飛ばされ、絶華によって作られた竜巻に内側から激突。

 よってさらに風圧でズタズタに切り裂かれた。


「うがああああああああああああああああああ!!!」


 ――絶叫。

 あまりの痛みに気を失いそうになる。


 義手はすでにバラバラ。

 手足も顔も無数の切り傷。

 全身真っ赤に染まる。

 着ていたスーツもボロボロでほぼ全裸に近い姿になっていた。


 竜巻によって打ち上げられ天高く舞う。

 ……すでに天井はなくなっていた。

 というかこの部屋全体がもう外になってるかのように竜巻によって破壊されていた。


 だが一部の観客席、ヒカリ達が座ってる所は全くの無傷。

 彼女らには被害はまったくない。


 見事コントロールして仲間には被害をださないようにしているのだろう。

 それもピンポイントで。


 竜巻の射程外まで打ち上がったローベルトは、そのまま重力に逆らわないように地へ落下。

 頭から大地に激突した。


 仰向けに倒れピクピク動いている

 まだ生きてはいるようだが……

 絶華を受ける前に満身創痍になっている。


 ……もう勝負あったと言える。


 竜巻が朱雀聖剣サウスブレイドに集中したことにより消える。


 エネルギーチャージは完了した。



 ――神邏side。


「う、ぐぐぐ」


 生まれたての小鹿のように足をぷるぷるさせ、ゆっくりと立ち上がろうとするローベルト。


「な、何故だ……な、なんで無風地点で、吾輩は切り刻まれたのだ。何かし、したのかね」


 その質問に俺は答える。


「……今一歩、遅かったんだよ」

「な、にぃ?」

「……前回の戦いの後、俺もずっと寝てたわけじゃない。絶華の弱点を身を持って感じ、克服しておいたんだよ」


 そう、何もまったく鍛錬してないわけじゃない。

 人間界だと無闇やたらに魔力を使った鍛錬はできないが、力を抑えたり魔力を上げるための瞑想くらいならできる。


 そして力を最大限抑えて絶華の練習をしていた。


 そこで弱点の対策をすでにねっていた。


「今の絶華には無風空間などない。俺以外が竜巻の中に入ればどこから入ろうが、切り刻む。例え地中でもな」


 今回はあえておびき寄せるために、地中内には風を送らなかっただけだ。


「……ただ、できたのはついこの間だ。完成前だったら危なかったかもな」


 今一歩遅かったとはそういう事。


「ぐぐ……なんてついてないんだろうねえ」


 はあはあと息を切らしているローベルト。


 ……沈黙。

 互いに睨み合ったまま動かない。


「……どうしたんだい?トドメ、ささないのかい?」


 ……俺は黙っている。

 トドメをささないわけはない。

 前回殺しそこねたからこそ、こんな事件が起きた。


 なっちゃんに怖い思いさせたかもしれない。

 軍の関係者の人質もそう。


 もう金輪際起こさない為にも、ここで始末する必要がある。

 逮捕の必要はない、その場で殺せという命令もある。



 ……だが簡単にできない。


 今のローベルトを始末するのは容易い。そういう意味ではない。


 今まで仕留めた相手は化け物みたいな妖魔だけ。人みたいな姿をしてる魔族は倒してはいるが、命は奪ってない。


 魔族とはいえ人みたいなもの。

 ……人の命を奪う。それは簡単なことではけしてない…手

 悪党だから。と、言うのは簡単だが、それでもじゃあ殺そうなんて簡単にできない。


 だが、殺らなければいけないと頭でわかってる。


「この期に及んで命を奪うのを躊躇……しているのかね?とんだ甘ちゃん、いや情けない男だねえ」


 殺せない……そんな俺を嘲笑うローベルト。


 ここは命ごいなどして、余計判断を鈍らせようとでもしかねないと思われたが、むしろ逆に煽りだすとは……


 とはいえ満身創痍で部下もいない。けして逃げられるような状況ではないのだが。


 スキを見せても観客席にヒカリ先生達天界軍もいるわけだし。


「そんなんでこの先戦っていけるのかね?そんな生ぬるい事をし続けるような男ではけして勝ち残ってなどいけない。いかに朱雀であろうともねえ」

「このチョビ髭うざあ……」


 朱雀聖剣サウスブレイドとなっている武器聖霊スピリットウエポンのリーゼが苛立っていた。


「おにーさん言われたままでいいの?早くぶち殺しちゃおうよ」

「……ああ。わかってる」


 そう、頭ではわかってるんだ。

 だが……手が……震える。


 命を奪うという行為が怖い。

 自分にそんな権限があるのか?

 悪党ならいいのか?


 頭の中で自問自答がぐるぐる駆け回っていた。


 逆に誰もローベルトを助けにこない。逃げられる心配もない……人質の時限爆弾の制限時間もまだだいぶ余裕がある。

 ……そんな状況だからこそ迷うはめになったのかもしれない。


 制限時間が近い早くしなければ!とか、逃げられる!とか、そんな追い詰められた状況なら考えるひまもなく殺せたかも。


 ……なんにせよ、なっちゃん達の命がかかってるんだ。……殺るしかない。



「友人の命のためだ、だからしょうがないなんて思うなよ。理由があるにせよ、君が今からすることは人殺しに他ならない。逃げ道を作るな受けいれろ!……殺しをな」


 ローベルトは精神的に俺を追い詰めだす。

 ……確かにそうかもしれない。だが当人のお前が言うなといいたい。お前はそんな事をし続けたくせに……


「殺しなんてする時点で、善人などとは言えない。正義のためだのなんだの言おうが関係ない。そんな奴らは善人などではない。そしてお前はどうしようもない……」


「偽善者、だよ」


 俺は目の色を変え、剣を振るった。



 絶華ぜっか一閃いっせん


 竜巻も消え、剣一本に集中された斬撃。

 ただのトドメなため、周囲の被害も考え威力を抑えた。


 だがローベルトの命を奪うには充分すぎる一撃……



 ローベルトの体を裂いた一撃のあと、奴の体に腕、足、顔と至るところが少しずつ……チリとなるように消えていく。


 絶華の風圧が分子レベル以上に切り裂き、全てを無にしていく。


 消えゆく自らの体を見て、死期を悟るローベルトは。


「見事……そう言う他ないねえ」


 恨み節でも言うのかとおもったがまさかの称賛だった。

 どことなく満足そうに肩の荷が下りたかのように、晴れやかな表情をしている。


「朱雀、いや美波神邏……あっぱれだね。ここまでやって負けたのだ悔いはない」

「……」

「まあ帝王カオス……。奴をこの手でしとめる事ができなかったのは残念極まりないがね。まあそこは吾輩を仕留めた美波神邏、君に任せるとするよ」


 勝手に自らの仇?と思われる相手を倒すように懇願するとはどういう神経しているのだろうか。


 仲間でもなんでもないどころか敵なのに……


「……帝王は近い内に人間界を手中に収めようと動き出す。いずれ必ず相対する。せいぜい頑張って倒してくれ。そうでもなくては吾輩が負けた意味がないからねえ」

「……いずれか。俺達の平和を脅かすというなら……倒すまで」

「ふ、ふふその意気だよ。甘さは今日この日に捨て、必ずや帝王を仕留めてくれたまえ」


 ローベルトの顔面はもう半分以上消滅している。

 残った右の目でダストを見る。


「魔獣ヴァホメット……お前に託そうかね」


 消えかかっているローベルトの体から魔力の珠が出現しダストの元へ……


 手のひらに受け取るダストは物珍しそうに。


「な、なんだこりゃ……」

「ふ、ふふ、餞別……だよ」


 視線を俺に戻す。


「美波神邏……君の戦い、の、人生に……幸あれ……………」


 ローベルト……奴の体などの痕跡が、完全にこの世から消え去った。

 チリ……いや、何も残らないかのようにローベルトの全てが消滅した……


 ――俺の勝利だ。


「ゲームオーバー……だ、ローベルト」


 俺は静かにつぶやいた。

 その表情に覇気はない。

 これで皆助かった……だが……


 命を奪った心の傷は深い。


 観客席にいるヒカリ先生が立ち上がり俺の元へ駆け寄りに走る。

 つられて九竜達も向かう。


「本当なら代わって私が殺すべきだったかもしれない……傷つくとはわかってた。……でもそれで戦いを避けるようになるならそう思ってしまったの……」


 少し悔いるヒカリ先生。先生は何も悪くないですよ。


「おにーさん……元気出しなよ」

「「そうだ。これは仕方無いこと。この先も起きる事だ。慣れる必要があるんだからな」」


 俺の聖霊二人が励ましてくれた。


「……ああそうだなありがとう」


 二人には感謝しかない……

 何時までも気にしてなどいられない。そう自分で納得するしか……


 むにゅ……


 やわらかい感触が俺の背中に。


 誰かが後ろから抱きしめてきたのだ。この感触は……胸

 ……凄まじく大きな胸の感触。

 

 ……この感触で理解する。

 抱きしめてくれた女の子を。


「……頑張りましたね神邏くん。でも、無理しないでいいですよ。なんなら私の胸で泣いて下さい……」

「……大丈夫。ありがとう……ルミ」


 北山の治療をしていたはずの幼なじみ神条ルミア。

 駆け寄るヒカリ先生達の誰よりも早く俺を抱き寄せたようだ。


「……先、こされちゃったか。まあ、あの娘なら仕方無いかな?」


 どことなく残念そうにヒカリ先生はしていた。


 ――つづく。


「……さすがですね……」



「私のヒロイン力!!これぞメインヒロインルミアちゃんの実力です!!さすが神邏くんの未来のお嫁さん!!」


「次回! 戦い終わって このヒロイン力、どこまで発揮するでしょうかたのしみ〜」

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