第47話  なんのための魔獣

「見せてやろう…とっておきをね」


魔獣ヴァホメットが吠える。

黒板に爪をたてた時の、耳に残る嫌な音。…例えるならそれくらい響く咆哮だった。


すると、どこからともなく魔力が集まってくる。

その魔力は魔獣をかたどっているが…まさかこれは…


「おい、ありゃあゾラの…七人衆達の魔獣じゃねえのか」


ダストが気づく。

やはりそうか…


「ガーゴイルにグレムリン、オルトロス、ミノタウロス、コカトリス…間違いねえ。みたことある魔獣達だ」


そんな5つの魔獣の姿をかたどった魔力が、ローベルトの魔獣ヴァホメットに取り込まれていく…

まさか全ての魔獣の力を一つにしたとでもいうのか…?


「これにプラス、オンガーツが始末したトルーグの力も吾輩の元に…」


魔獣なしの、ただの魔力も取り込まれている。これがトルーグの物なのだろうか?


「…クッフフフ。ダスト、君は生きてるのが残念だよ。七人衆全てを取り込む事ができないからねえ…」


そうダストに語りかけたローベルト。生きてるのが残念…?それはつまり、七人衆には死んでもらいたかったように聞こえるが…


「ローベルト様…どういう事ですかねえ」


怒りに震えるダスト。


「もしかして天界軍の手助けを許可して、七人衆とわざわざ戦わせたのは余裕からくるものではなく…」

「そうだよ。七人衆を殺してもらいたかったからさ」

「一一!!」


裏切った立場とはいえ、その発言はショックだろう。

曲がりなりにも恩を感じていたようだったし、ローベルトに対し、いまだに様付けをしてるくらい、完全に裏切り切れてないようにみえたしな…


「…七人衆は皆あんたに忠誠を誓ってた。小生も昔は…。それなのに!」

「奴らはお前も含めて孤児だったり、行き場のないガキばかりだったからねえ。そんな奴らを保護して育てたんだ、そりゃあ忠誠誓ってもらわねば困ると言うものだよ」

「…ちょっと待てよ、じゃああんたは従わせやすいと判断して小生達を拾ったってのか?」


…ダストの気持ちを考えると信じたくないだろうな。恩を感じてた相手が、


「その通りだよ。弱く醜い小汚いガキ共をそうでもなくては拾うわけないだろ」


こんな奴だったなんてな…


「小生は、あんたがこうなったのは帝王に敗北したからだと思ってた。…だからいつか昔のように戻ってくれるかもなんて、心の中では思っていた…」

「当てがはずれたかい?」

「…あんたは昔小生達に優しかったじゃねえかよ。覚えてるぜ、喋り方が変で親に虐待されてたゾラを助けた事とか、小生の身内を助けてくれたこともあった…そんな優しさは、」

「幻想だよそんなもの」

「なっ!?」

「君たちに愛情があったとでも思ったのかい?バカ言え。駒として使えると判断して、いい顔してただけさ昔からね」


手駒として使えるようにするために助け、育てた。ただそれだけ…

最初から自分の都合しか考えてない最低の奴…それがローベルトってわけか…


「ゾラの口調…あれは鬱陶しいねホント。もう聞かないでいいなんて嬉しいくらいさ。他の連中も似たようなものだ。一番忠誠あったリヴィローなんて生理的嫌悪を感じるほど気持ち悪かったしね」

「やめろ…聞きたくねえ。奴らの気持ちを踏みにじる言葉なんてよ…」


…いい加減、堪忍袋の緒が切れるというものだ。

俺は静かに剣をローベルトに向ける。


「…もういい。いちいち不愉快だお前は。…その口閉じてろ」


冷徹な表情。

無表情に顔には出さないが、静かな怒りが体の奥底から涌き出る。


「おっと…朱雀である君をあまり刺激するな…と、情報屋も言ってたっけ。ここいらでやめておこうか」


両手を前に軽く上げて、ニヤニヤしている。そうは言っても余裕だと思っているのだろうな。


「ただ、何故七人衆が死ぬ必要あったか知りたくないかい?それはヴァホメットの能力でねえ」


別に何も言っていないのに話を続ける。なんだこいつは…


「死者を取り込む力さ。能力だろうがなんでもね」

「…異能を全て取り込んだというわけか」

「ビンゴ!正解さ。本来人だろうが魔族だろうが、自らの持てる能力はただ一つ、神でもない限りそれは実力関係なく決まった事…だが死者を取り込んだ事でそれを可能にしたのさ。不可能を可能にね!」


異能を手に入れるために、七人衆には死んでもらわねば困ると言う事か。…下らない理由だ。


「そして魔獣もストックできた…魔獣の力は長くは持たないが死者事取り込んだ事で魔獣の力を後5回使えるようにもなったのだよ」

「…聞いてもいないのにペラペラと…よくもまあ手の内をさらけ出せるものだな」

「それだけに余裕と言う事だよ。自分に自信のない君にはかんがえられんかね?」


俺の事も詳しく聞いていたのだろうか情報屋に。

…いちいち癪に障る奴だ。


「さあて第2ラウンドと行こうかい」


…だが警戒はするか。

先程以上の力だけでなく、能力持ち…一瞬の油断が命取りだ。


「ばっ!!」


大声を出すと音波のような攻撃が放たれる。

これはオンガーツの能力か。


俺は無言で烈風を放ち、音波を砕く。音の振動も耳に届く前に烈風でかき消せばあまり怖くはない。


常に烈風を周辺に、バリアーのように俺は貼る…これで音波攻撃がどこからこようが問題ない。


「ならばこれはどうかね!」


頭上へジャンプし、トルーグの能力超術で俺の体の動きを…止められる前に、俺は瞬時に移動し避ける。


超術は見えない魔力の奔流に当たる事で能力が発動する、故に当たらなければ意味がない。

それにおそらく当たったとしても風で体の動きをコントロールし、所有権を奪われようが動かせないようにするまでなのだがな。


能力は把握済みだ。なにしようが無駄な事…


「面白い、面白いよ美波神邏!」


バカ笑い…余裕綽々な顔が腹立つな。


…この風の流れ…今度は爆手の地雷か。それも何の意味もない。設置場所も風でわかるんだからな。


その後、俺は奴を見るが…いない?どこにも姿は見えない。


これはステルス能力ってやつか…ダストが言っていたな。

まったく感知できないな。


だが動けばわかるはず…

姿が見えなくても動く事で、どうしても空気に触れる。その空気の流れでいずれ感知できるはず。


…なのだが。


空気の流れを感知し、居場所を確認…するのが遅かった。


俺が気づいた時にはローベルトに首を捕まれていた。


速い…音速って奴か?

さすがに見えない状態で、どこから来るかも、どのタイミングで来るかもわからない状態の音速の速さ…さすがに無理だな。


「くっ…」

「どうだい苦しいか?じゃあ、おさらばだ」


リヴィローの爆炎とモルトレットの帯電能力を合わせ一気に放つ。


ドン!!!ガアああああああン!!


ブラック・デッド・シュートボムに帯電磁ボンバーの合わせ技、それもローベルトの一撃。

考えられないレベル…


一点集中した技のため周辺に被害はほぼないが、威力の凄まじさは遠目でもわかるだろう。


爆発の衝撃でゆっくりと宙に浮かび、そして俺は地に落ちた。


「美波!」「神くん!」

観客の仲間達が叫んだ。


あまりの威力に皆騒然。

…負けた?ほとんどの者がそう思ったかもしれない。


「フフフ。さすが死んだろうね。この威力、素晴らしい…これなら帝王軍とも戦えるかもしれない」


自らの力に惚れ惚れとしているローベルト。


そんな奴をよそにヒカリ先生が観客席を立つ。


「し、将軍?」

「もう、我慢できない…私が奴を始末する」

「で、でも人質が」

「言ってる場合じゃないでしょ?神くんが…多分まだ息はあるはず…助けないと」


加勢に向かおうとするヒカリ先生だったが…急に動きが止まる。


アゼルは首をかしげ、リングに目をやる。



一方ローベルトはそんなヒカリ先生達に気づいた様子。


「おや、朱雀の仇討ちに来るきかい?いいだろう。今の吾輩は誰にも負けんぞ。フフフ」


「…勝手にころすなよ」


一一!!

俺の声に驚き、振り向く前に距離をとるローベルト。


頭部から流血してるがわりと俺はピンピンしている。

普通に立てるし、目立った外傷もない。…まだまだ余裕だ。


「…前も勝手に勝利したと思い込んでいたよなお前。死体確認まで油断はするもんじゃない」

「な、なんなのだね君は…あれだけの一撃を受けたと言うのに…はっ」


ローベルトは俺の頭部を見る。

切り傷のようなものが、小さい煙を出しながら塞がっていく…

…後で聞いた話だがな。俺からは見えないし。


「こ、これはまさか…」


「「神邏、朱雀の第二解放に成功したのか、さすがだな」」


聖霊イリスが突然称賛しだした。


「…何の話だ」

「「それは朱雀の特殊能力の一つ超速再生だ。自然回復能力が大幅に高まり、あらゆる傷も時間と共に治っていくもの」」

「第二解放というのは能力の解放なのか」

「「ああ、だが魔力の方も高まっているはずだ。知らないうちに朱雀の力をものにし始めてるようじゃないか」」


パワーアップの理由はこれもあったようだな。


「「魔獣ごときと四聖獣では格が違うということ…それをそこのチョビ髭に見せてやろう神邏」」

「…ああ…そうだな」


全身に朱雀をかたどる魔力が放出される。魔力を解放し家族を救ったあの日のように…


…そしてあの日からつづくローベルトとの因縁に決着をつける時がきた。



つづく


「白熱する戦い…う~早く私も合流したいですう~」


「次回 絶華封じ 対策なんて無駄だということを教えてやりましょう!」

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