第46話  再戦ローベルト

ローベルトside。


「異能七人衆…フフフ全滅したか。それはいいぞ…」


部下の死を知って悲しむどころか、ローベルトは嬉しそうに笑っていた。

無能な部下めと怒るならまだしも喜ぶとは解せない態度ではある。


「準備完了というわけか…さあて、始めようか我が復讐の第一弾をねえ」


神邏side


目を開かない北山に、ルミアと南城の回復可能なメンツが必死に手当てをしてくれている。

傷が少しずつ塞がってはいるものの…一向に目を覚まさない。


「…ダメージだけならともかく薬の副作用もあいまって下手すりゃ…」


死ぬかもしれない…

そう言いかけたように感じた。


「…すまないが二人共、北山を…たのむ」


…心配だが、俺にはやるべき事がある…ここで俺のやれることもないし、二人に任せるしかない。


ローベルトの待つ部屋の扉の前に…俺は立つ。


人質の爆弾の解除のためにも、俺はここでローベルトを倒さねばならない。

※41話参照。


七人衆は全滅し、後はローベルトただ一人…奴を倒せば爆弾は解除されるはず。


「神邏くん」


ルミアは俺を見ず、回復に専念しながら話しかけてきた。


「北山くんは必ず助けて見せます…だから死なずに、無事に戻って来てくださいね私達の元へ」

「…ああ。約束する」


約束は、守らないとな。

俺は扉を切り刻んで破壊し、中へ突入する。


「さあ回復できない役立たずはみんな神くんと共にいこうね」


ヒカリ先生は九竜達に指示し、共に部屋へと入っていく。



部屋…というよりバカでかい空間に出る。ドーム球場の中かと思いそうなほどの広さ。

外側には大きな観客席が並び、中央には闘技場のようなリング。


リングの広さもかなりのもので、普通のプロレスとかのリング場とは比べ物にならない。

リングだけでプロ野球のグラウンド並みかそれ以上に見える。


…そしてそのリング中央に奴が、ローベルトの姿を確認できた。


「やあやあ待っていたよ。美波神邏!」


ローベルトは笑顔で、歓迎するかのような態度で手招きしてくる。


「連れの方々はどうぞ観客席の方へ。吾輩と美波神邏の一騎打ちをそこでご覧下され」


手出しは許さない…そう言いたいのだろう。


闘技場のリング全体に目にはっきりと見えるバリアーのような、結界が貼られる。


「この結界に入れるのは吾輩と美波神邏のみ。他の者が入ったり、結界を破壊などしたら、人質の爆弾が爆発するので注意してくれたまえ」


…一騎打ちの邪魔はどう合ってもさせないという事だろうな。

そこまでして俺との決着をつけたいのだろうか?

なら、こちらも条件をつけよう。


「…一騎打ちは構わないが、それならお前も観客…俺の仲間に手出しはするなよ」

「いいだろう。卑怯な手はせんよ。正々堂々といこうではないか」


…人質で誘き寄せておいてどの口でほざく。

あまり信用せず戦おう…

油断は禁物。


「しかし観客が少ないねえ。情報屋辺りでも呼ぶべきだったかねえ。なにせ君との一世一代の決戦なんだからねえ…」

「…えらくあんたに評価されてるんだな。…俺は」


無論笑顔は俺にはない。

別に嬉しくなどないから。

というかむしろ冷たい表情をしてるかもな。


「当然だよ、君は吾輩に屈辱を与えた男だからねえ…」


ローベルトは自らの右腕を見せる。右腕は鋼のようなもので作られたように見える義手だった。

前回の戦いで俺の奥義、絶華を受けた事で奴の右腕はチリと化し消滅した。

そのため義手となったのだろう。


「この右腕の借り…返さずにはおられんのよ。絶対に許せはせん」

「…お前らに殺された被害者達やその遺族を考えれば…許せないのはこちらのセリフだ」


北山といい、多くの被害者がいるはずだからな。


「関係ないねえ。知ったことではないんだよ、下等な人間どもがいくら死のうがね。吾輩の右腕とは釣り合わんよ」


…こいつ…

人間の被害者達は自分の腕以下の価値しかないというのか?

自己中なんてレベルではない…

悪そのもの…救いようのない邪悪さだ。


「なら…お前はなんなんだ。何様なんだ」


苛立ちを感じる。

俺自身、相当頭にきているのかもしれない。


「吾輩はいずれ世界の頂点に立つ存在さ。誰との命にも釣り合わない王のような者なのだよ」

「偉かろうが何してもいいって事にはならない…」

「そうかね?お前達人間の世界は昔、権力者がそうではない者たちを蔑ろにしていたと聞くが?」

「そんな時代が間違ってたってだけだ。けして許される事じゃない…」

「相変わらずの甘ちゃんだねえ…いいからリングに上がってきたまえ」


ゆっくりと歩き、結界の中…リング上に上が…る前に、ローベルトは魔導弾を俺にめがけて放つ。


…不意をついたつもりか?

俺は眉一つ動かさずに、片手で魔導弾を弾き飛ばした。


魔導弾は誰もいない、観客席の方へ飛んでいき爆発する。


「フフ、さすがだねえ。前より強くなってるようだ。とても体調不良には見えないよ」


…薬や回復術のおかげでだいぶ楽にはなってるが、体調は相変わらずよくはない。

それでも戦えなくはないがな。


「では君に見せてしんぜよう。吾輩の魔獣ヴァホメットをね!」


ローベルトの全身から魔力が溢れ、鹿のような大きな角を生やした魔獣の姿をかたどる。


溢れ出した魔力は闘技場全体を揺らす。地震でも起きたかのように大地が震える。

それだけ強大な魔力ということなのだろう。


「大した魔力ね…Aランク相当はあるかも」


ヒカリ先生はローベルトの魔力をそう称した。


「え、Aランク!?人間界にそんな魔族がいるなんて考えられへんですよ!」


アゼルがうろたえている。

魔界の戦いに破れたりして逃げてきた者が基本人間界にいる魔族。

そんな奴の魔力がAだなんて信じられないのだろう。


「もちろん魔獣のせいだろうけど…それでもそれだけじゃここまでの魔力にはならないでしょう。聖獣よりは弱いはずなんだし魔獣は…人間界でそれだけ鍛えたのかもね」

「Aランクを朱雀一人は荷が重いんじゃ…」

「そうは言っても人質の命もあるし…神くんを信じるしか今はないかも。…どうしようもなくなったらその時は…私も出る」


ヒカリ先生が乱入すると決める時が来るとしたら…人質の命を見捨てるということ。

それは避けたい…

だが俺との命に天秤をかけたら…ヒカリ先生は見捨てる判断をするということだろう。

…気持ちは嬉しい。


「…できればそうはしたくないけど、ね」


ただ俺の戦闘能力が前回と同じだとしたら勝ち目はないかもな。

それだけ前回のローベルトとは実力が違う。

BランクとAランクでは大きく差があると聞いたことがある。


ただ前回も無謀と言われていたし…なんとかなるだろ。



「さあて…そろそろ始めようか」


ローベルトはそう言うと…

瞬時に俺の背後をとる。


「いやこれで終わりかな?」


膨大な魔力を込めた拳が俺を襲う。こんなものを受けたら確かに一撃で終わりかねないかもな。


一一だが、

それは俺が先程言った通り前と同じ実力だったらの話。


俺は振り向きもせずに、瞬時に出した朱雀聖剣サウスブレイドでその拳を受け止める。


想定外だったのかローベルトは怯む。

そのスキをつき、振り向きざまに風圧を混ぜた蹴りの一撃をローベルトの腹部にぶつける。


「ぐふっ!」


衝撃で少し飛ばされ、その勢いを使って距離をとる。

腹を抑えてるローベルト。

不意をつかれたかなかなか効いたように見える。


「さすがに変だねえ」


腑に落ちない…そんな顔をしてるローベルト。俺は問う。


「…何がだ」

「君の成長速度は尋常ではない、それは認めよう。遅かれ早かれこれくらいの力を身につけてもおかしくはない」

「……」


褒められているのだろうか?

別に嬉しくはないが…


「だがいくらなんでも早すぎやしないかな?今回の成長は」

「…知るか。そんな事」

「そこで思ったことがある、君、情報屋の話では過去に天界で修行をしていたらしいね。そして記憶を失ったと聞いてる」


なんでそんな事まで知ってる…


「記憶を失った事で魔力の使い方を忘れ、ただの人になったと」

「…それがどうした」

「おそらく君はその出来事で自らの魔力も封印されてしまったのではないかい?」

「…何?」


聖霊二人に聞いてみるか…


「そんな事…ありえるのか?」

「ん~~わかんなーい。でもありえない事じゃないかも〜」

「「小娘の言う通りありえないことではないな。だが恐ろしく少ない確率かもしれないがな」」


俺の二人の聖霊、リーゼとイリスはそう言った。


「2年もの間使えなかった、それにより肉体に流れる魔力が硬直し、なかば封印に近い状態になってしまったのではないかね」


…そうローベルトは推測した。


「凄まじく可能性が低い事だろうけどね。現に魔力を扱えないが強い魔力が流れる人間がいたりするわけだしねえ。そう考えると君、相当運が悪いのかもね」

「…何が言いたい」

「簡単なことさ。つまり成長したのではなく封印された魔力が少しずつ解けてきてると言いたいのさ」


封印が解けて強くなっている…ということは…


「「今の神邏の力は元々持っていた物と言う事か…?」」


イリスは察した。


「へ?おにーさんは昔からこれくらい強かったってこと?」

「「奴の言い分が正しいならそうなる」」


…本当なのだろうか?

Aランク相手に戦えてる力が元々あった物?

中学の時点でそれほど強かったと言うのか?

…あまり信じられない。

そのときは朱雀でもなかったはずだしな。


「だとしたら辻褄あわないかい?ほんの少し前は吾輩の部下に手こずってた男が、今や魔獣ありの吾輩と互角以上の力をもっているんだから」


元々持ってた力を取り戻した…異常な成長速度もそれなら合点がいくという事か。


「まあその若さでそれほどの力を持っていたのだから、成長速度が凄まじいのは間違ってはいないだろうがね」

「…今はどうでもいい。昔の力だろうがなんだろうが、お前を倒せるならな」

「おや、まさか今の手合わせ程度で吾輩に勝てるつもりかい。甘いねえ…こちらにはまだとっておきがあるのだよ?」


ローベルトはまたも魔獣ヴァホメットの素顔を形づくる。


「見せてやろう真の切り札をねえ」


つづく


「う~回復がかりのせいで戦い見れません…

神邏くんが心配です」


「次回 なんのための魔獣 …どういう意味でしょう?」

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