第45話 ある奇跡 北山side
見えない魔力の塊、いわゆる地雷源を教えてもらい、不意の爆撃だけは避けれるようになった北山。
魔力も少し回復した。
……それでもイーブンとまでは言えない。
やはり戦闘能力はリヴィローのほうが上だ。
神邏達の加勢を危惧して、全力を出しづらくはある。だが不利な状況は変わらない。
だからこそ北山は突破口を考える。
(師匠は言ってた。火属性は魔力放出後に、着火のプロセスがあると)
北山は目を凝らして、リヴィローの動きを見る。
リヴィローは爆炎の魔導弾を放とうと魔力を放出し、すぐさま指を鳴らす。そうすると爆炎が姿を現し、北山に向かって飛んでいく。
それをなんとか躱す北山。
「ちい!」
舌打ちし、さらに攻撃を続けようとするリヴィロー。
北山は見逃してはいなかった。
指鳴らし……それが奴の着火、もしくは爆手発動のキーなのだと気づく。
ならばと北山は杖を前にだしタイミングを見計らう……
――そしてその時は来る。
リヴィローは手を前に出し、第二波の魔導弾を撃つ構えを……
「今だ!!」
北山は杖から玉状の水の塊を放ち、リヴィローの手にぶつける。
すると奴の手を覆うように、水の塊が装着された。
「あっ!?なんだぁこりゃ!」
水に包まれ指が鳴らせない!
つまり着火できない。
「どうだオラ!このスキに、」
「甘え!そんな程度でおれの爆炎止めれるとでも思ったか!」
爆炎が発生し、水は蒸発する。
ただ単に着火するだけなら指を鳴らす必要ないため当然の結果。
指ならしは爆手の能力発動のキーなだけ。
魔力を削ったり、通常の火属性魔力の威力を上げたり、地雷起動をしないなら、わざわざそんなことする必要はない。
……だが爆手を封じる事はこれで可能とわかる。
とはいえ今の爆炎で水は蒸発したため、封じるならまたやり直して水の塊を打ちつけなければいけないが。
「続けて行くぜ!」
北山は水の弾丸を連打。
リヴィローの爆炎は沈下する。
属性相性がいいとはいえ、パワーアップが効いているのか、爆炎を消化することができるようになっていた。
ならば攻撃は最大の防御として、水の塊で攻めつつ、爆炎封じが可能なはず。
「へっまどろっこしい。こんなもん避けりゃいい話じゃねえかあ」
と、リヴィロー。
確かに当たらなければ意味はないが……
だが、そうはさせないように、北山は付かず離れず一定の距離を保っていた。
攻撃を避け辛い距離だ。
速度もあるため、そう簡単には避けられない。
リヴィローはあまり動きが速いわけでもないし、避ける事はできないでいた。
水の塊が両腕を塞げば、着火で蒸発。そしてまた水で塞ぎ、炎で蒸発。……この作業が何度も繰り返される。
この攻撃自体は大して攻撃力もないから、リヴィローにダメージはほぼなし。
この繰り返しになんの意味があるのだろうか……?
「……魔力切れがねらいなのか……?」
神邏は北山のねらいを読んでみた。
「おそらくそうだろうな」
南城は肯定した。
……確かに魔力を使い続ければ、そりゃ魔力切れを起こすだろうが、それは北山も同じはず。
「相性悪い水に囲まれての着火は、普通より数段魔力の消費量は高い。それを加味すると、リヴィローが先に魔力切れを起こす可能性はある」
と、南城は説明。
ただの着火作業ではなく水の中、それも水を蒸発させる必要があるならなおのこと。
リヴィローの魔力自体が北山の何倍もあるというならわからないが、リヴィローが先に魔力切れを起こす可能性は高いかもしれない。
「北山!左に設置された!」
懲りずに地雷も設置してる。
神邏が場所を教えれば、そこから離れ、当たる危険性はない。
そして水の塊連打。これなら時間はかかるが勝てるかも……
だがリヴィローもいい加減気づくというもの。
「お遊びはここまでだぁ」
リヴィローは両手を重ねる。
無論水につつまれてる状態。
「そう簡単には消火できねえ一発、放てばいいだけのことよ」
黒い魔力が両手に集中される……
「北山!逃げろ!」
距離を保ってる状況じゃない……そう判断した神邏は叫んだ。
「遅え!ブラック・デッド・シュートボム!」
黒い爆炎が、両手の水を一瞬で蒸発し、北山めがけて飛んでくる!
神邏の発言に呼応していたため、すぐさま逃げに転じてはいたが、完全には避けきれない。
爆炎が地に直撃し爆風が起きる。
「うがああああああ!!」
北山は左手足に、大火傷を負いながら転がり落ちる。
だがそんな状況でも水の塊をリヴィローに放っていた。
それにより、またリヴィローの両腕に水の錠が。
しつこいくらい同じ事を繰り返す。魔力の消費はできるかもしれないが、今の技を続けて撃たれれば北山のほうが先にやられる。
しかも今の一撃で倒れたため、攻撃の連打は止まり、スキだらけ。
すぐ立ち上がり、攻撃を再開しようにも、大火傷した左手足がうまく動かない。
「ぐ、クソ!は、早くしねえと」
「これまでみてえだなぁ」
またもリヴィローは両手を前に出す。
……さっきの技を撃つ気だ。
「次は外さねえ。直撃したら骨も残らねえかもなぁ。いい火葬になるぜぇ?墓にはちゃんといれてやるから感謝しろよお」
両手に黒煙が吹き出す。
同じように、包まれた水が一瞬で蒸発し、爆炎を飛ばしてくるはず……
「トドメだぁ!」
「クソ!おれは負けるわけにはいかねえんだ!」
力を振り絞り、北山は立ち上がるが恐らく、もう遅い。
「おい美波!」
さすがに観戦中の南城もまずいと判断。なにか手立てを……
「……いや、待て」
神邏は冷静に止め、なにかに気づく……
リヴィローは唇をなめて勝利を確信し、言い放つ。
「さぁサ・ヨ・ナ・ラだぜぇ!」
「兄貴ぃ!!」
とっさの状況で兄を呼ぶ北山……もう、あきらめかけていた。
「ブラック・デッド・シュートボム!」
ドガアアン!!!!
――瞬間大爆発が起きる。
耳を貫く爆発音。
燃え上がる手、飛び散る魔力。
そして右腕が一部吹き飛んだ……
その大爆発は技が放たれる前に起きていた……
――つまり、
腕が吹き飛んだのはリヴィローの方だ。
「ぐ、ぐきやわああああああああ!!な、なんで?なんでオレサマの腕、があああ!」
痛みに悶え疑問を叫んでいた。
一体何が起きたのだろうか?
「美波、ありゃなんだ?何が起きたんだ?」
ボー然としてる南城。
ただ、神邏の方も……
「いや、俺もよくはわからない……」
「でもお前、なにかに気づいたんじゃねえのか?だから止めて……」
「……ただ奴の手を包んでいた水が膨張して、魔力が膨れ上がってたのに気づいただけだ。てっきり北山がなにかしたと思ったんだが……」
「膨張……?」
すると急にヒカリが神邏の頭を撫でだす。
「あれはね、多分水蒸気爆発かも」
「水蒸気爆発?熱せられた水蒸気が蓄積された爆発……でしたか?でもそれは人間界で、それもマグマとかの熱などで起きる現象で、魔力の水や炎でそんな事は起きないのでは?」
四将軍だからか、先生だからかは不明だが、ちゃんと敬語を使う南城が聞いた。
「うん。普通なら100%、絶対起きない事だと思うよ。魔力でできたものに、人間界の常識は通用しないからね」
「ならなんで……」
「考えられる事と言えば……そーね、二人の魔力が、人間界のそれと限りなく近いうえに偶然……いや、奇跡的な確率でそれが起きたのかもしれないね」
リヴィローの爆炎と北山の水が、人間界の熱や水とあまり変わらない性質であることが前提条件。そんな水蒸気爆発が起きかねない状況でも、数%くらいしか起きない奇跡。それが起きたわけだ。
なんなんだそれは……そう思いかねない。
互いの魔力性質が人間界のものに近いだけでも、どんな確率だというレベルなのに……
最初に放った奴の必殺技の時も、その条件下だったが今の爆発は起きなかった。
それが普通、普通なら起きない爆発が2回目に限り起きたというのか……?
……本当にそうなら奇跡としかいいようがない。
「……北山の執念が起こした奇跡……なのかもしれないんですね?」
「そういう事かもね。神くん」
……ヒカリは神邏の頭を撫でるのをやめない。
されてる当人も、別に嫌じゃないので何も言わないのだが。
イチャついてるようにも見えるのでルミアがむくれている。
爆発によりダメージだけでなく、自らの能力のせいで魔力も削れてしまっているリヴィロー。
……はっきり言って北山にとってはこれ以上ないチャンス。
「「これならいけんだろ乱、負けんなよ」」
……そんな声が、どこからともなく北山に聞こえた気がした。
「もしかして兄貴が助けてくれたのか?」
北山はそんな気がしてならなかった。死んだ兄がこの奇跡を起こしてくれたのではないかと。
「まあ、なにはともあれこのチャンス、逃すわけにはいかねえな!」
北山は一直線に突っ込む。
リヴィローは痛みと、なにが起きたかわからない動揺で気づかない。
「うぉらあ!!
北山の両拳に水の魔力が集中され、リヴィローに向かって連打連打連打!
「ぬがっ!がっ、ぐっ!」
リヴィローの顔面、腹、顔面、腹と何発も何発も殴りつづける。
……効いている。
魔力が少なくなった影響か、ダメージも与えられるし、避けられもしない。
今まででは考えられないほどの勝機を感じた。
「がっ!ぐっ!!く、クソがぁ!!」
何発も何発も殴り続け、ダメージを与えているが、決定的なダメージは与えられていない。
やはり必殺技のスプラッシュホーンか……
(ユニコーン、聞こえるか?)
北山は自分の聖獣に問いかける。
「「ん?なんだよ」」
(力の回復なり、パワーアップだの、なにかできねえか?)
「「なかなか無茶言うじゃねえの。でもまあほんの一瞬だけ、おれの力100%にして渡してもいいぜ」」
(ホントか!?)
「「だが本来、それは自らの成長などで使いこなすものだ。例え一瞬でも、無理矢理力を送り込んだらどうなるかわからねえぞ」」
道理だ。
耐え切れない力かもしれない。
使えば死ぬ覚悟を求められてもおかしくない。
……だが北山にとっては今更な話。
(すでにリスクは負ってるんだ。今更怖くなんてねえよ)
南城にもらったドーピング薬の事だ。
※39話と43話参照。
今更とはいうが、リスクにリスクを重ねれば、倍になって返って来るかもしれない。
だが例えそうでも、北山は臆したりしない。
(頼む)
「「仕方ねえな。死んでも骨は拾ってやる。安心して死んでこい」」
(死ぬ気はねえよ。じゃあおれの合図で力を送ってくれ)
会話をしつつも、拳の連打は続いていた。
反撃のスキは与えない!
疲れようが痛みがあろうが関係ない!
「このクソガキがあ!兄貴を何だと思ってやがる!」
リヴィローは拳を避け、逆に北山にボディーブロー。
「ごっふっ!」
血反吐を吐くが、倒れず踏みとどまる。
そしてリヴィローの追撃がくる!
「今だ!!」
北山は杖を精製し……
「スプラッシュホーン!」
ユニコーンの角を模した水の一撃!リヴィローはすぐ反応し、受け止める!
「ぐくぐぐぐぐ!!」
両拳に爆炎を集中し、スプラッシュホーンを蒸発させようとしている。煙が立ち、少しずつ蒸発していく。
「な、何度も何度も同じ技ぁ!こんなもんでおれを倒せるわけが……」
「スプラッシュホーン!!」
まさかの2連打!!
「なにィ!連発できる力があるわけがあ!」
「聖獣のおかげでなあ!!」
リヴィローにとって想定外の出来事。
魔力全開の時ならともかく、爆発で魔力が少ない今のリヴィローでは2発目を防ぐ手立ては……
「貫けええええええええ!!!」
ない。
「ぐぎゃあああああああああああああ!!」
スプラッシュホーンは見事リヴィローの腹をぶち抜き貫通!
腹どころか胸部にも穴がぽっかりと空き、そこから大量の血が流れ落ちる。
「う、嘘だ……お、おれがおれがおれが!」
口から血反吐を吐き散らし、自らの死期を悟るリヴィロー。
敗北が信じられない……そんな顔だった。
「兄貴を手に掛けるなんて……酷えよ……みだ……れ、よぉ」
北山の肩を掴む……が、すぐ振りほどく。
「何度も言わせんなよ。誰が兄貴だ」
「……ろ、ローベルトさ、ま。お許し……くだ、せえ……」
白目を向き、北山にもたれかかるようにして……絶命。
――リヴィローは死んだ。
北山は勝った、見事仇を……取ったのだ。
ほっとしてか、膝から崩れ落ちる北山。
神邏と南城が駆け寄り。
「……よくやったな。すごいよ」
「確かに、これは褒めてやらねえとだめなくらい大金星だぜ」
二人に褒められ、照れくさそうにする北山。
「よ、よせよ……ドーピングにユニコーンへの無理、そして南城の回復に美波の指示、何一つ誇れることねえよ」
「……そんな事はない。宣言どおり一人で仇を倒したんだ。誇っていい。それに無事生き残ったからな。お兄さんも喜んでるだろ」
「へへ。なんかさ兄貴に助けてもらった気がするんだよ。あの爆発さ、偶然にしちゃ出来過ぎなんだろ?」
「……らしい」
肯定されると満足そうに目を閉じる北山。
「やっぱり、そうか、サンキューな兄貴。それに美波に南城、も……」
「……北山?」
問いかけに返さない……
「おい、北山?……ルミ!回復を!」
神邏の声がこだまする……
北山は満足そうに笑顔を浮かべていた……
やったぜ兄貴。
そう言いたそうなと安らかな笑顔で……
つづく。
「お見事!ですね。助けがあったとはいえ無事に撃破。仇討ちできて本望でしょう。あ、回復ちゃんと頑張って助けますよ、もちろん!」
「次回 再戦ローベルト ついに御大将と決着をつけるとき……ですね!頑張れ神邏くん!」
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