第44話  乱れと直道 北山side

「おらどうした乱。かかってこいよ」

「このクソ兄ぃ!」


(思えば喧嘩ばかりしてたな)


北山兄弟は両親が顕在の時はしょっちゅう大喧嘩の毎日。

基本的に不良だった兄の直道が悪かった。

ちょっかい出して、北山を苛立たせる事が多かった。


孤高の不良というか、友人もいなかったからこそ、不器用なスキンシップだったのかもしれない。

でも小さい時ですら、殴られた事もあったらしく、北山としてはムカつく兄貴だったらしい。


中学にもなると体格は大きくなり、ガチの喧嘩で始めて兄の直道に勝った。

その時はざまあみろと思ってたが、よく考えるとその時の直道は悔しそうにはしてなく、むしろ笑っていた事を思い出す。


……そしてある日両親が事故死した。兄弟が多かったため、一つの親戚に全員がやっかいになるなんてことはできない。

つまりバラバラに一人ずつ、各親戚に引き取られるしかなかった。


兄弟がバラバラになる。

嫌だが仕方のないこと、そう思ってたのだが……直道は親戚一同に言い切ったのだ。


おれが働いて皆養う、と。

親戚一同は不良で学業もまともにしてないと聞いていた。

そんな奴に、兄弟まとめて面倒見きるなんて無理だと言われていた。


他人の子供を育てるなんて嫌だ。……みたいな親戚ばかりなら素直に、じゃあ頑張れとでも言って見捨てたりしたかもしれない。だがそうではなかったため、君じゃ無理だと止められたらしい。


ならば1人前の男と認めさせると、就職を決めるようと奔走。

そして、あのローベルトコンツェルンに入社し、親戚一同の度肝をぬいた。


それからは態度を改めた兄を、少しずつ尊敬するようになっていた。


だが今にして思えば、ローベルトコンツェルンは人間と部下をすり替えたかっただけだった。おそらく、なにか都合がいいと思われ直道は就職できたのだろう……


「乱はおれよりも強くなりやがったからまだいいが、他のチビ達がそのくらいデカくなるまでは……側で見ていたいもんだな」


生前時の直道の発言だった。

対し北山は鼻をかきながら言う。


「ジジイじゃあるめえし、見れんだろ。事故にでも巻き込まれなきゃよ」

「へっそうだな。せいぜい巻き込まれねえように、安全に動くようにしねえとな」





「巻き込まれてんじゃねえかよクソ兄貴!」

 

不良時代は警察のやっかいにもなってたろくでなし。恐らく同級生からも嫌われてたはず。

両親がしょっちゅう注意しても聞きやしない。

北山にとってはほんとクソみたいな奴だった。


でも、兄弟に対する愛情は本物だった。改心もしてた。

今となっては大事な存在になってたんだと北山はわかる。

やっぱり兄貴だから……


だからこそ、そんな兄をもて遊び成り代わっていた、リヴィローを許すわけにはいかなかった。

なんとしても自分の手で、仇討ちしなきゃ気がすまなかったのだ。



「なかなかしぶといじゃねえかよ乱!兄ちゃん驚いたぜ」


リヴィローは拍手する。

……舐めてるとしか思えない。


――しかしどうすればいいと北山は思う。

パワーアップしたのに倒しきれず、魔力ももう残り少ない。

先程の爆撃で魔力が削られたようにも思える。


リヴィローの能力爆手には、そういった効果もあるのかもしれない。


――万事休す。


そう思ったタイミングだった。


「北山!!」


背後から声がする。

振り向くとそこには……

神邏に南城達、東以外の仲間達が集合していたのだった。


東の通った道以外は、最終的にこのローベルトの部屋の前、つまりこのリヴィローが守る場所にたどり着くようになっていた。


そして少し前の道で神邏班、南城班、九竜班が全て合流していたのだ。


さすがのリヴィローも冷や汗をかく……

すでに疲弊してるものも多いとはいえ、全員集合してきたのだ。まとめて相手などできるわけがない。


……それに、


「あ、あの女がいやがる!帝王の匂いがやはり……」


恐怖を感じたルミアに畏怖の表情を見せていた。


神邏はその様子に違和感を感じたようだったが、それは後回し。

今は北山に……と思いきや。


「美波!!他の皆も頼む!この戦い邪魔しねえでくれ!」


やはりというか、当然助太刀拒否をした北山。


「なに言ってるの!そんなボロボロで!」


九竜はそう止めるが、意外にも神邏が手を彼女の前にだし諌める。


「朱雀?なんのつもり……」

「へえ、意外だな」


アゼルに肩を借りてる南城が言った。


「お前が止めるとはな、美波。俺様はてっきり、北山の命のが大事とか言って無視して、止めに行くものと思ってたが」

「……そうしたいのはやまやまだが、素直に聞く奴じゃない。邪魔しようものなら、俺達に攻撃までしてくる可能性あるしな」

「それくらいで諦めるたまか?」


確かに少し違和感を感じる。

死にに行くような者を、みすみす放っておくなどらしくない。それも友人なのに。


神邏は答える。


「……あいつの性格からして、命にかえても、成し遂げないきゃいけない事とわかる。それで倒れても本望だろう……だが」


神邏は北山に、叫ぶ。


「簡単に命を捨てるな。残された者の事を考えろ!」


説教……というより説得だろうか?

北山を思いとどませようとしているのか?


「残された……者?」

「……お前には幼い兄弟がいるだろ。今度こそバラバラになるぞ。……お前の兄さんが止めようとしたこと、なんだろ?」


死んだ兄のことばかりで、今いる兄弟達の事を考えてなかった。


兄が守ろうとしたもの。

それを守り遂げることこそが、本当の兄への手向けとなるのでは無いのか?

……そう神邏は言いたかったのだろう。


だが、それでも……


「美波、悪い。わかってる。理屈はわかってるんだけどよ。それでもおれは自分の手で、一人でこいつを倒してえんだわかってくれ」


北山は信念を曲げる事はできなかった。

……幼い兄弟達をどうでもいいとは思ってない。

もちろん大事なはず。


――それでも譲れないようだ。


「……別に止めるつもりで言ったわけじゃない」

「へ?」


神邏の意外な発言に驚く北山。

そして、神邏は口を開く。


「だから絶対死ぬな。勝てと言ってるだけだ……」

「美波!」

「……そのかわり、口出しくらいは許せ。その程度の手伝いなら、一対一の邪魔にはならないだろ?」

「よくわかんねえけど、分かったぜ。サンキューな美波」


握りこぶしに親指を上にたて、感謝を告げた。


神邏は言う。


「あとな、弟達だけでなく俺達も悲しむからな。その事……肝に命じてくれ」

「オッケーだ」


二人の会話を聞くと南城も動く。


「なら俺様も協力してやる。口出しじゃない手助けをな」


南城は北山を手招きする。


「のこった魔力をお前に託す。それで魔力の回復にはなるはずだ。微々たるものだろうけどな」

「ならワイも手をかすで」


南城とアゼルは自分の魔力を北山に送り込む。

他者からの魔力を全て、自らの魔力に変換はそう簡単にはできない。だが、いくらか回復するくらいなら可能だ。


「みんな、次から次へとすまねえ!絶対勝つからよ!」


少し涙が浮かんでいる北山。

一人じゃない……そう感じることができたから。



「悪いな南城……」


神邏は小声で礼を言った。


「大した事じゃねえ。しかし無謀な事には変わりねえと思うが」

「そうでもないさ……俺達が来たことで奴に余裕はなくなったからな」

「どういう事だ?」


リヴィローを見ると、冷や汗をかき微動だにしてない。

なにか考えてるようにも見えた。


「さっきまでは北山だけだった。だが俺達の合流により、下手に北山に力を使いすぎると、俺達との戦闘に支障が出る……と、奴は思ってるはず」

「つまり最低限の力で北山を倒そうと考えると?」


神邏は頷いた。

実際南城も対モルトレット戦で、似たような事を考えていたからわかる。


「それに口では手出ししないなんて言ってても、敵からすれば本当にそうか信用できないはず。……故に、俺達の動きにも細心の注意をするはず」


ただここで見ているだけ。

それでもリヴィローにとってはプレッシャーがかかるわけだ。


「そこに付け入るスキがあるってわけか」

「ああ。……後は北山の腕次第だが……まあ大丈夫だろう」


二人は安心して見守るだけ……


一方北山は戦闘準備と言わんばかりに、魔力を全開にしてリヴィローの前に立つ。


「さあ第2ラウンドと行こうぜ!」


と、叫んだ北山。

その声にはっとするリヴィロー。


「まあいい!兎にも角にもまず、てめえをぶっ潰すぅ!」


おそらく神邏の読みどおり、他の者をどう倒すか考えていたのだろう。神邏達の動きを注意してるように視線が泳いでいる。


「北山!地雷の魔力が近くの足元にある。離れろ!」


神邏がさっそく口出し。

地雷の居場所を教えた。


何故見えた?そもそも何故能力を知っている?と、リヴィローは思ったろう。


答えは簡単。

この場にいる元七人衆ダスト。

彼がリヴィローの能力をバラしたからだ。


見えた理由については……正確には見えてはいない。

空気の流れで、そこになにかあると判断しただけだ。


「くっおのれ……」

「リヴィロー、残念ながら、もう簡単におれを倒すことはできなそうだぜ。仲間がおれにはついてるからな!」



つづく。


「おそらく次回決着ですね。神邏くんのサポートで見事撃破といくでしょう!」


「次回 ある奇跡 どの奇跡?ですかね」

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