第43話  無謀な仇討ち

ローベルトside。


ローベルトが待ち構えている部屋…

そこでローベルトと最後の七人衆であるリヴィローの姿があった。


「…どうやら七人衆はお前を除いて全滅したようだね」


ローベルトは座ったまま、特に表情を変えずに言う。

部下がやられた怒りだとか、悲しみだとか、はたまた失望だとか、いろいろ反応してもおかしくはない。


だがローベルトにはそのどれも感じられない。

…一体何を考えているのやら。


「最後の一人になったならぁ、おれ一人で奴らを始末してみせますぜ。奴らも疲弊してるでしょうし頼りの朱雀は情報屋によれば高熱でまともに動けないでしょう」

「うむ、故に朱雀との決戦を今日に決め、人質を餌にしたわけだが…」


どことなく腑に落ちない顔をしている。


「どうかされましたかぁ?」

「いやね、お前には朱雀をおびき寄せるための相手を攫ってこいと言ったであろう」

「へ、へい。だから奴はこうして…」

「身内でもなければ、奴の一番大事な女でもない。そんなただの友人を攫ったのはなぜだ?」


…攫われたのは夏目円香。

幼なじみではあるがただの友人。

家族ではない。


身内…もしくは神邏自身も狙われることを警戒した、もう一人の幼なじみルミア辺りが妥当なはず。


それらの中の誰でもない相手を攫ったのは変と言えば変。

神邏だから助けに来たが、他の者ならただの友人のために命をはれないと判断し、ここにこない可能性もあったかもしれない。


「い、いえその…家族も大事な女も軍の奴らが少し離れた所で常に警護されてましてえ…」


そう、神邏はその可能性を考えて天界軍にボディーガードを頼んでいた。※16話参照。


「ふむ…朱雀は身内が狙われることを前もって対処していたのかい?まあ警護の者を倒せばすぐに天界に情報もいくだろうし、攫うのは容易ではないだろうね」

「そ、そうなんです、で、奴の性格上友人でも来るはずと情報屋も言ってましたんで…」

「…なるほどそういう事か」


腑に落ちたようだ。


…リヴィローは冷や汗をかいている。実はそれだけが理由で諦めたわけではない。


(家族はともかく、あの女は…見ただけで…)


つばを飲み込むリヴィロー。


(殺されると思ったのは内緒だぜ…)


リヴィローは恐怖でルミアには近づかなかった。

…確かに彼女は魔力を扱えはする。だがそこまでの実力者ではないはずだ。

リヴィロークラスのものが恐怖で動けなくなるなんてはずはない…と思われるが…


(魔力自体はそんな大したものは感じなかった…だが、奥底に何かを…感じた。あれは過去に帝王カオスを見た時の感覚に似ている)


バラメシア帝国の帝王…戦闘能力はローベルトの比ではない。

そんな相手を見た時と似ている?

考えられない話だ。


(もちろん奴の魔力や実力がそこまであるはずはない…ただ似ていると思っただけだ…まさか帝王の血筋だったりしねえだろうな。いや、だがあの女はどう見ても魔族じゃねえし…)


「リヴィロー」


深く考え事してる時、ローベルトに声をかけられ焦る。


「は、はい!?」

「近くに来客の気配だよ。最後の一人としての働きをしてもらうぞ」


どうやらこの部屋近くに誰か来たようだ。

リヴィローは考えることをやめ、自らの任務に出る。


「はっ!ローベルト様ぁ!必ずや、奴らを仕留めて見せますぜ!」


リヴィローは部屋を出て戦場へ向かっていった。


そんな最後の一人の部下を見届けると…ローベルトは、


「まあ、吾輩としてはどちらでも構わないがね…むしろ七人衆の連中には…クハハハ!」


卑しく笑っていた…



リヴィローはローベルトのいた部屋の少し先にある最後の大部屋に入り、侵入者を待つ。


「ローベルト様の部屋へのルートに一番近い道を選んでいたのはたしか…キヒヒ」


誰が来るか読めているようだ。

そしてこいつが笑う理由…それを考えると相手は一人しかいないだろう。


大部屋の扉がこじ開けられ侵入者が入ってくる。

…無論その人物は…


「よお乱ぇ!会いたかったぜ数時間ぶりだなぁ!!」

「リヴィロー!!」


リヴィローを恨み、奴を倒すためにここに来たといっても過言ではない男。

神邏の友人、北山乱きたやまみだれだ。


北山はいきなり武器の杖を精製し…


「スプラッシュホーン!」


必殺技を放つ!


「ふん!」


ユニコーンの角を模した水の一撃

だが、リヴィローが右手を燃やし一撃を受け止める。

そして爆炎と共にスプラッシュホーンは水蒸気と化し消え去った。


「まだだまだだまだだー!」


北山は続けてスプラッシュホーンを連打。

だが全部リヴィローの爆炎によりかき消されてしまう。


「はーっはーっはーっ」


息を切らす北山。…打ち止めだろうか?

全魔力を使って放ちまくった必殺技だが、まったく通用しなかった…


「バカだねえ。その技、前にやりあった時も使ってたけどよぉ…あの時のおれさまにも通用しなかったのに、魔獣グレムリンの力を得た今のおれさまに通用するわけないべ」

「はーっはーっはーっはーっ…」

「まあでも前より腕を上げたのはよーくわかるぜぇ~兄ちゃん嬉しいぜぇすごいじゃねえかよ」

「てめえ!まだ兄を語るかよ!」


どうしても兄の仇であるリヴィローの前では怒り狂い、冷静ではいられない北山。

こんなにも頭に血が登っていては戦いに支障がでかねない。


そうでなくとも勝ち目はゼロに等しいというのに…


おまけに必殺技の連打で北山の魔力は尽きかけている。


「…やっぱ無理か…南城の言う通り勝率ゼロ%だったわけか」


南城の忠告を思い出す北山。

一人じゃ絶対勝てないと言われたのも当然だ。


ポケットに手を入れる北山。

そこから丸い飴みたいな物を取り出した。…これは南城からもらった超丸薬だ。


※39話参照。


南城は一種のドーピング薬と言っていた。魔力の低い者の魔力を無理矢理強化できる代物…だが凄まじいリスクがあるとか。


勝ち目がないなら使うしかない…

南城には死にそうになったら使えと言われたが構うものかと北山は決死の覚悟。


超丸薬を飲み込む。


一一その瞬間!


「うっ!ガアああああああ!!」


(全身が熱い!痛い!痒い!飲んだだけでこんな…こんな体に異変が起きるなんて…)


おそらくこれはまだ序の口だ。

これからさらにとんでもない事が身に起きるかもしれない…


だが、


「ま、魔力を感じる…今までのおれとは比べ物にならないような…」


魔力の高まりを感じていた…

本来の北山の魔力をはるかに上回るほどの…


「あぁ?何飲んだんだ乱ぇ。やべえ物じゃねえのか?兄ちゃん心配だぞお」


北山は瞬時に走り、リヴィローの目の前に…

そして全力で顔面を殴りつけた。


「ごばああ!」


地に倒れるリヴィロー。

この様子を見ると効いたのか?


ならば攻めて攻めて攻めまくるのみ!

そう思い杖での一撃をくらわそうとするが、すぐに起き上がるリヴィロー。


「おらっ!」


燃える魔導弾を放つ!

北山は水の弾を放ち相殺!


リヴィローの一撃を抑えられるとは…これはかなりのパワーアップができた証拠だ。

ならば副作用がこれ以上起きる前に決着をつける必要がある。


ならば必殺技しかない!


「うおああああ!スプラッシュホーン!!」


ユニコーンの角がリヴィローを襲う。両手で受け止め、またも爆炎で蒸発させようとするも…


「ぬ、ぐくぐ!」


今回はできない!


これは今回の必殺技の威力がリヴィローの爆炎を上回った証拠だ。


「いけええええええええ!!」


角が伸びリヴィローの両手を弾き…奴の腹部に直撃!


「がっは…」


リヴィローは勢いよく吹き飛んでいった。

勢いそのままに壁を破壊し、その残骸の瓦礫に巻きこまれる。


…決まったか?


全身全霊全力のスプラッシュホーン…これがまったく効かなかったら終わりかもしれない。


「は、はーはーはー…や、やったよな?」


誰に聞いてるんだと言いたくなる独り言をつぶやくと…


「や、やったぜ!か、勝ったんだおれは!!兄貴ぃ!やったぜ!!」


大喜びする北山。


絶対に勝てないと言われた相手に大金星…北山は狂喜乱舞。


「ざまあみろクソ野郎が…へへ。なら、後は美波達と合流…」


ボガアアアアアアアアアン!!!!


突然の爆発音が鳴り響く。

耳を劈く強烈な音。


一体何が…?



「うぎゃあー!!!!!!」


…北山の足付近が大爆発したのだ。足がちぎれたりはしてない…だが出血量は半端ないほどドバドバ流れ出ていた。


(何が起きたんだ?どういう事だ?)


北山の頭には疑問が何個も何個も浮かび上がる。

理解ができなかったのだ。

なんでこんな事になったのかと…


「あーっ痛えなぁクソ…」


瓦礫を押しのけ、リヴィローが起き上がってきていた…

腹部からは少し血が出ている…だが致命傷にはとても見えない。


「…このおれさまがお前程度の攻撃をガードしなきゃいけねえとはな…プライド傷つくぜえ」


魔力で防御していたようだ。

だがそれくらいでこの程度のダメージ…


やはり無謀だったのだろうか?


「何が起きたかわからねえだろ?実はな、おれさまはお前の近くに着火前の魔力を設置してたんだ。それを能力爆手の力で起爆した。要は地雷みてえなものだな」


(着火…?)


北山は思い出す。師との修行を…





数週間前…


ある食堂で師、燕タスクというガタイのデカい、ちょんまげヒゲヅラのおっさんと食事していた北山。


そんな師匠は問う。


「い~か乱、お前の属性は水、火に強く地の属性に弱い。ならお前はこれからどういう修行をしてくべきだとおもう?」

「んなもん決まってるだろ?当然不利な地属性に対抗する修行だろ?弱点は克服してこそだかんな」


フフンとわかった風な笑みを浮かべている北山。どうだと自慢げ。


燕はひょうたんに入った酒を口に含み…

ブゥー一!!っと北山めがけて吹き出した。


「うわっ!何すんだ汚えなあ!」


すぐさまおしぼりで吹きかけられた酒を拭き取っていく。


「大間違いだボケ!」

「なんでだよ!?」

「いいか?弱点の事なんて後回しなんだよ」


ひょうたんを北山に投げるも首だけ動かして躱す。


「なんで後回しなんだよ!」

「おめえはまず水属性の本質、氷や水蒸気みたいな応用技も使えねえ。そんな奴がいきなりそんな事やっても仕方ねえんだよ」

「はあ?」

「つまり弱点克服も応用みてえなもんなんだ。いきなりやっても美味くいかねえ…だからまず基本を完璧にすることだ。例えば長所を伸ばすとかな」


(長所…?)


北山にはよく意味がわからなかった。


「おめえがさっき言った通り、相性の悪い属性に対する手段は誰でもやってること」

「じゃ間違ってねえ…」

「それはお前の得意な火属性の奴らもしてるんだぞ」

「!!」

「つまり弱点ばかりにかまけたらおめえの半端な水じゃ対策ねられた火に負けるんだよ。だからまず相性のいい火について知れ」


まずは不利な地属性との戦いよりも、有利な火に確実に対抗できるようにする。

…確かにまずはそれからだというのもわかる。


「火属性には唯一の特徴があってな。まず放出しただけの魔力にはなんの力もない。他の属性と違ってな。そのなんの力もない魔力に着火の動作をして始めて火の魔力が宿る。実力者ほどその動作早いからスキは少ねえがな」



…師はそう言ってた。

リヴィローの地雷攻撃の正体がそれなのかもしれない。

なんの力もない魔力をいろんな場所に設置。

本来はその近くで着火の作業がいるが能力のおかげで好きなタイミングで起爆可能。


そのただの魔力の居所がわからなければ今のように何回も爆撃をくらう。

発動タイミングや場所がわからなければ防御もまともにできない…

だが、


「師匠に…火属性対策聞いていて正解だったな…」


北山はゆっくり立ち上がる。


爆撃で満身創痍だがまだ諦めていない…そんな表情が見えた。


「おれは…負けられねえ…リヴィロー、てめえをぶち殺すまではな!」



つづく


「無謀な戦いはつづくようですね。果たして決着は…」


「次回 乱れと直道 北山兄弟の絆…でしょうか」

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