第42話  青龍の逆鱗

東side。


東は自分が蹴り飛ばした、ツヴァイの後を追っていた。

壁という壁を破壊してわりと遠くまで飛んでいったようだが…


壊れた壁に穴の中などを通りに通ったら薄暗い部屋にたどり着く。


…なにかしら気配を感じとる東。


(どうやらここに潜んでるみたいだね。まーた不意打ち狙いかな?卑怯者の考えは読みやすくていいよまったく)


「さてと…」


東は魔力を体から発っする。

すると霧が発生。

ただでさえ薄暗い上に霧だ。よけい視界が悪くなる。


「さあ来るならいつでも来ていいよ~準備万端だからね」


軽い挑発。

だが、乗ってこない。


「ふ~ん意外と警戒心あるんだね。まあいいや。なら自分から探そうかな…」


薄暗い部屋を歩き回る東。


少し目が慣れてきて部屋の中に、なにがあるかわかってくる。

中には本棚がいっぱいあった。

図書館のようにいろんな本が置いてある。


「ふ~ん魔獣についての本とかかな?」


興味を持ったのか手にとる。


「暗くて見えづらいな」


ペラペラページをめくり本を読み始める。

…スキだらけとしかいいようがない。そんな東を見逃すはずはなかった。


(バカめ!死ね!)


ツヴァイは本に夢中の東の背後から襲いかかった。



…東は言っていた。準備万端と。


東は即座に本を閉じ、襲いかかっできたツヴァイを振り向きざまに蹴り飛ばす。


ズガッ!


「ぬがあああ!」


勢いよくぶっ飛び、本棚をぶち壊して壁に衝突!そこに電気のスイッチがあったのか、部屋に明かりが灯る。


「あれ?明かりついたね」

「き、貴様なぜおっれの居所がわかったのだ。おっれのように闇夜でも目がきいたとしても背後から、それも音もなく近づいたのに…」

「さ〜あ?なんででしょうね」


ムカつくようにはぐらかす。


「今の僕に不意打ちはもう意味ないよ。不意打ちできないなら君に勝ち目は残念ながらないね」

「何を!このガキが!」


ツヴァイは激昂し剣で斬りかかる。


「九音切りぃ!」


超速の九連続切り。

しかし東はそれを全て簡単に避ける。


それも目を閉じた状態でだ。


「なめやがって!ならこれでどうだ!九音九十九切り!」


今度は九十九回の連続切り…


「うざい」


一言告げると懐に入り、掌底の一撃をツヴァイにぶつける。


「ごはあああ!!」


吐血し、本棚をさらに破壊しながら飛ばされる。


「さすがに九十九回も避けるの面倒だからね、悪いけど邪魔させてもらったよ」


この言い方だと避けること自体はできるように聞こえる。


「ゴホッゴホッ…ば、バカな…おっれの能力音速マッハによる攻撃がなぜ…」


血反吐吐きながら、今起きた出来事が信じられないように言った。


音速マッハ?なに音速で動けるとかいう能力とでも言う気?」

「そ、そうだ…それがなんだ」

「ぷっ…くふふ」


突然吹き出す東。

ーーそして。


「ふふふ、あっはっはー!」


ついには笑い出す。


「き、貴様なにが可笑しい!」

「あ~ごめんごめん…ふふふ。いやさあ、能力にしてはやけにちゃちなものだと思ってさ」

「ちゃ、ちゃちな能力だとお…音速で動く事のどこがちゃちだと言うんだ!」


バカにされるような力ではない。そうツヴァイは思って怒り狂う。


まあ実際その通りだ。

音の速度で動けるなんて、常人では反応もできやしないし、気づいたら殺されてたなんてこともありえる。ゆえに東も肯定する。


「ああそうだね。音速自体はすごいことだよ。僕もまだそんな速さに対応はそう簡単にはいかないし、むしろ厄介に思う」

「ならどういう事だ!」

「僕が笑った理由はまず君の能力音速は欠陥だってこと」

「け、欠陥だと?」


あまりに意外というか信じられない指摘だった。

ツヴァイは自分の能力音速に絶対の自身があった。

音速なんてとてつもない速度を容易に疲れもせず使えるのだからこれ以上ない能力だと…思っていたからだ。


「君の音速はだけ。攻撃速度は普通に速いだけなんだよ」

「な、に…?」


ツヴァイ自身気づいてないことだった。


「攻撃速度も速くはなってたんだろうね。それで勘違いしたんだろ」

「バカなそんなはず…」

「さすがに音速の斬撃ならあんなに簡単に避けられないって。僕が容易に避けたのがその証拠。まあそれでも常人なら躱せないだろうけどさ」


絶対の自信が崩れさった。

完璧と思っていた力に欠陥があったなど…


ショックではあったツヴァイ。

…だが弱点があったなら克服するまで…と、意外にも前向きだった。


「…な、なら本当の音速の一撃見せてやるわ!」


そう言うとツヴァイは離れ、電灯を壊しまた辺りを暗くした。


「こりないねえ…まあでも僕の意見をちゃんと理解して対策ねるなんてできるとはね、そこは褒めてあげるよ」


ツヴァイは何も答えない。

自分の居場所がばれないようにするためだ。

視界もまた暗くなったことでそう簡単には察知できないはずーーそう思っているのだ。


まあ霧はまだ晴れてないから、視界自体はまだそこまでよくはないのだが。


(攻撃速度が音速じゃないと言うなら本当に音速にするまでだ)


ツヴァイは刀を前に出す。


(腕の振りが音速じゃないなら移動速度の音速を使うだけだ)


つまり刀を前に出したまま、移動速度による音速で、その勢いのまま突っ込み東を刺し殺すつもりのようだ。


ダッシュ切りの要領と考えればわかりやすいだろう。


確かにこれなら音速による一撃になる。


(さあ…死ね!)


音速で突撃するツヴァイ。


ドグシャッ…鈍い音が鳴る。

部屋一面に血の色が漂う。


色は…黄緑。



ツヴァイは腹部を東の左腕に貫かれていた。そこから大量の出血をしていたのだ。


東はあの音速の一撃を避けて、カウンター気味に掌底をぶつけ、ツヴァイの腹を貫通させたのだ。

素手でこんな事ができるとは凄まじい攻撃力としか言えない。


「そ、そんな…音速で動いたはず、なのに」


能力を使っておこなった技だ。

間違いなく音速のはず。


「別に僕、音速避けれないとは言ってないよ。それに今のも結局音速じゃないし」

「そんな…はずが!」

「自分の足、見てみな」


視線を自らの足にずらすと…

自分の両足が凍りつき始めてた事に今気づく。


「な、なんだこれは…なんで凍ってるのに気づ…かなかった?」

「そういった感覚も麻痺しちゃってるのさ…この霧のせいでね」

「き、り…?」

「よく勘違いするやついるんだけど、これは目眩ましのためなんかじゃないんだよ。青龍霧氷ドラゴンミスト…遅効性の毒みたいなものでね、少しずつ相手の感覚を凍らせてから、相手の体や能力も徐々に凍結させるもの」


これだけでは完全な凍結まではできないものの、時間をかければ相手の動きや能力を鈍くしたり、使用不可能にしてしまう補助用の技なのだ。


ただの霧…寒くもないしダメージもないから、それこそただの目眩ましと勘違いしてしまう。

本当の目的を隠すための目眩ましになっているわけだ。


「だから言ったでしょ。不意打ちが決まらない以上、君に勝ち目ないって。だからここで死にな」

「ぐぞおおおおおおおまだだあ!!」


魔力を全開し、魔獣の姿が浮かぶ。


「魔獣ミノタウロス!やれえええええ!」


巨大な人型の大牛だ。筋骨隆々している。


「そんなパワーバカみたいな魔獣で何ができるの」


全開したツヴァイの魔力を見ても余裕綽々。

自分の勝ちは揺るがない。そう感じさせる東。


「死ねええ!」


ツヴァイの一撃は触れてもいない地面を、大きく削り上げる。

振ることで起きた衝撃で地を抉ったのだ。


破壊力はかなりのもの…だが当たらない。


「バカだねえ。パワーは上がったが攻撃速度がめっちゃ遅くなってる。そんなんじゃ余計当たらないでしょ」

「な、なぜだ…学園で見たときは…」

「弱かったとでも言う気?僕は学園では目立たないように魔力は限界まで抑えかつ、左腕に魔力制御の包帯を巻いてるんだ。そんな状態だったからね…」


腕を捲り膨れ上がった左腕を見せる。

もう包帯は解いているようだ。


「まあそれでも不意打ちがなければあんな事にはならなかったけど」

「ぐっ…」

「つまり君は制御していた&不意打ちがなければ、僕に勝つことできない雑魚って事」

「ぬわあああ!!」


怒り狂い襲い掛かるがーー


東は蹴りをツヴァイの顎にぶつける。顎が砕ける音が鳴り響く。

バコッ!!


「ごっ!がっ!」


顎を抑え、声にならない声を上げるツヴァイ。


「うるっさいんだよ」


蹴りを顔面にぶつけ弾き飛ばす。

そしてコマのように転がり壁に激突。


「しかし意外としぶといね。龍の尾のような僕の蹴りに、龍の牙たる左腕で貫いたっていうのに…」


耐久力はかなりのものと判断し、

右腕を光らせる。


武器聖霊スピリットウエポンだ。


「なら龍の爪たる青龍魔槍イーストランスで終わらせようか」


槍をクルクル回し氷の魔法陣を発生させる。


「う、うがあああああ!」


なりふり構わず突撃してくるツヴァイ。もう勝ち目などないというのに…


「全てが凍てつく青龍の息吹…」


呪文でも唱えてるのかのようにささやく。

そして目を見開き…放つ!


「砕け散れ!三十三式・龍氷撃アイスブリンガー!」


魔法陣から、氷の龍が飛び出してツヴァイめがけて飛んでいく。


ツヴァイは諦めの、恐怖の表情を見せ一言。


「ば、化け物だああああ!!」


龍はツヴァイを喰らうかのように襲い掛かった。そして切り刻まれるかのようなデカい耳に響く雑音が鳴り響いた…



完全に凍りつき氷像のようにツヴァイは姿を変えていた。

命も凍りついてしまった。


「チェック・メイト」


にこりと東がそう笑うと、氷像はバラバラに砕け散った。

氷の花弁のように宙を舞っていく…


ツヴァイはあっさりと東に殺された。七人衆じゃ上位クラスの実力だったというのに。


「しかし誰が化け物だよ。失礼だね」

「ハイまったくでありますな」


武器聖霊スピリットウエポンが肯定する。


「コブラ、僕はもう面倒だから帰るとするよ」


コブラとは聖霊の名前だ。


「主、朱雀らの手助けは?」

「あいつの手助けするなんてゴメンだよ。僕はこのバンダナ野郎仕留めたかっただけだしね。さてと、銭湯にでも行こうかな〜」


お気楽ムードで帰宅するようだこの男。なんというかマイペースというか、本当に自らのためにしか動かないのかもしれない。


神邏が気に入らないからとはいえ魔族は始末したいんじゃなかったのか…


それは聖霊のコブラも感じてはいた。何も言わないが。


(主にも困ったものでありますな…でもせめて皆の勝利を願っていますぞ)


コブラは心でそう願ってくれていた…



つづく


「さすがは青龍…圧倒的ですね。こんだけ強いなら神邏くんが無理に戦うことない気もしますね~心配ですし」


「次回 無謀な仇討ち これはつまり…」

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