第41話  人質開放

ーー南城とモルトレットの戦い…その数十分前の事だった。


神邏side



俺とルミアにアゼル班…だったのだが。

そこに何者かが凄まじいスピードで背後から近づいてくる。


気配を感じ前に出て警戒…したのだがすぐ俺はその警戒をとく。


なぜなら…


「やっと追いついた~。平気そうね神くん」


その相手は白虎かつ、保険教諭西ヒカリ先生だったからだ。


「…先生、どうして」

「少しサポートにね。ところで渡した風邪薬飲んだ?」


渡した風邪薬…?あっ…

※27話参照


財布に入れっぱなしで忘れてた。


「もう、ダメじゃないの。早く飲みなさい。わりと効くと思うから!」


先生からペットボトルに入った水を渡され、さっそく薬を飲む。


「それで少しは楽になると思うから…」

「すいません…」

「いや謝る事はないけどね」

「あの」


手を上げてアゼルが声をかける。


「なに?」

「西将軍がここに来るなら、ワイは他のルートに行っても良いッスかね」

「…構わないけど。今から道戻って他の子達に上手く合流できるかしら」

「大丈夫ッスよ。じゃあ!」


走って道を引き返していく。

…他のみんなが心配なのだろうか?


「先生も司令から止められたりしたのでは?」

「ああまあね。でも私はあのおっさん嫌いだし、言う事聞く気ないの」


それは軍人としてはよくないのではないだろうか。まあ休職中だからいいと言いたいのかも。

こちらとしては助かるし。


「実は他にキングの奴らも連れてきたんだけど遅いわね…まあ先行きましょうか」


先頭に立ち歩き出す先生。


「…なんか後から来たのに仕切り出しましたね」

「いや、上司だし、それに先生だからいいだろ」

「…なんか神くん、先生には甘い気がしますね。昔なじみだけに見えないんですけど」


ジト目で見てくるルミア。


「…気の所為だろ」

「そうならいいですけどね」


上手くはぐらかす。


これから俺、ルミア、先生班となった。


 



3人はそこから先に進む。特に危なげなく。

そして、ある部屋にたどり着く。


研究施設みたいな場所だ。

多くの機械が設置されている。


水槽のようなカプセル状の機械に化け物が入った物などもある。

培養して作ったようにも見える。


妖魔…はたまた魔獣の研究施設かなにかであろうか?

だが研究員みたいなものは見当たらないな。

いや、そもそも人の気配がしない。


辺りを見回しながら角を曲がると…なにかいる。

遠目ではっきりとわからないが…壁に何人か貼り付けにされている…?


俺は目が悪いのではっきりとわからない。


「神くん、目に魔力集中してみなさい」


先生に言われ試して見ると…


辺りが鮮明に見えてくる。

視力が明らかに上がっている。

魔力はこんな使い方もできるのか…少し感動する。


上がった視力により、貼り付けにされている人がちゃんと見えた。

複数人いるが誰も見覚えはない。

天界関係者も人質としているようだしその人達だろうか?


さらに奥を見ていくと…

幼なじみの、さらわれた夏目円香の姿が!


「なっちゃん…!」


俺はつい、急いで向かいそうになるが、我慢する。

罠の可能性がでかい…そのため、周囲を警戒しなければ…


「冷静で良かった。これ罠かもしれないからね…慎重に行ったほうがいいね」


先生は言った。人質がああもわかりやすく、目立つように置いてるなんて罠としか思えない。

辺りに人の気配がないとはいえ…油断できない。


周囲を警戒しつつ人質達の目の前に着く。


「見覚えある人達ね。天界関係者の身内とかだと思う。擬態した魔族ってわけでもないし…」


先生が確認したところ、正真正銘人質は本物のようだ。


貼り付けられてるので全員を降ろし解放する。

皆気を失っており反応はない。

だが誰も怪我などはしている様子はなく、眠らされてるだけに見える。


一人だけ別枠な所に置かれてた、なっちゃんも外傷はない。

少なくとも酷い事されたわけではなさそうで安堵。


…もしなにかされていたら…怒り狂っていたかもしれない…


それでも怖い思いはさせたはず…

目を覚ましたら謝ろう。


ゆっくりと彼女に近づく…と、


「隙あり」


背後にどこからか降りてきた、謎の人物が切りかかってくる。

だが、それくらいよんでいた。


背後に朱雀聖剣サウスブレイドを出現させ、相手の一撃を防ぐ。


「ぬっ!?」


防がれたのが想定外だったか、驚きすぐさま奴は距離を取る。

…相手を確認。


バンダナを巻いた、長身で2本角の魔族。

俺は見てないが、なっちゃん誘拐時に来ていて東を切った魔族…ツヴァイという奴だろうか?


バンダナもしているし…東が探してた奴で間違いはない。


「やるねぇ~あの不意打ちよけるたあ見事よのお。さすがはローベルト様を一度退けた事はある」

「…あからさまに罠だったからな。ただ警戒してたほど卑怯な罠は仕掛けてなかったな」

「ローベルト様がするだけ無駄と言ってたからなあ。それに人質はもう役目を果たしたからねえ。どうでもいいわけよ」


…役目を果たした?

俺達をおびき寄せることか?


だが人質を救出した以上無理に戦わず逃げの一手を取れる…


「人質の首見てみ」


奴の発言通りになっちゃんの首を見る。すると首輪みたいなものがつけられてる事に気づく。


「…まさか爆弾かなにかか?」

「少し違うね。時が経つと毒針が刺さるようになってるおもちゃだ」


結局人質の命を脅かすものなのだから同じようなものだろうが。


「…外し方教えろ」

「普通ならだれが言うかってとこなんだが…ローベルト様の命令だからな~教えてやるよ。おっれ達七人衆とローベルト様の死で外れるぞ。でも制限時間があるから急がねえとダメだぜえ」


それを聞き、すぐさま俺は奴に斬りかかる。


「うおっと!!危ねえ危ねえ。いやあおっかねえな。いきなり殺しにかかるかよお。冷血漢だな〜殺しに何も感じないとはとんでもねえ奴だ」


…どの口で言ってるんだこいつ。

人質はとるし、ろくでもない悪事を続けている連中にだけは言われたくない。


「…なっちゃんの命がかかってる。なら迷う事なく殺しにかかるに決まってる。そもそも悪人相手だしな…」

「おいおい悪党なら殺しても構わないってか?最低だな。正義の味方なら悪だろうが命は平等だろうがよ!このクズめ!」


ああ言えばこう言う奴だ…いちいちイラつかせる…


「…別に正義の味方のつもりはない。第一俺には恐れ多いからな。だが正義の味方ならなおさら悪党を許すわけ無い。第一他者の命を蔑ろにしてる連中が平等など笑わせるな…」

「んだとカス虫い!」

「いい加減耳障りだ…さっさと始末してやる…」


剣を構える。

さすがの俺でも怒りの表情が少し見え始めていた。


なっちゃん達の命を蔑ろにしてるくせにガタガタとぬかして…

当然腹立つというものだ。


だが、そんな時だった。


「「あーやっと見つけたよ」」


どこからか別の声…この声は。


「あ?誰…」


ツヴァイが振り向く前に、何者かの蹴りが炸裂。


その一撃で勢いよく吹き飛ぶ。


「ぬぎゃあああああ!!」


吹き飛びながら、壁をぶち壊していき、この部屋から姿を消した。


蹴りを入れた人物が俺の元へやってくる。


当然ながらその相手は…


「東、来てたのかこの部屋に…」


青龍、東龍次だった。

東は全身に血がついている。

だが怪我して流れた血液なのではない。ただの返り血だ。

返り血を大量に浴びた状態でニヤリとしながらこの場に現れた。

…言ったらなんだが、気味悪い。


「僕が通ってた道、大外れだったみたいでさ。妖魔とかが百人くらいいただけで、挙句の果てには行き止まりだったんだよ。で、面倒だから壁壊しまくって道作ってたらここに出たんだよ」

「…あまり無理に壊すと洞窟なんだから崩壊するかもしれないぞ」

「知った事じゃないよ。僕はそんなんじゃ大してダメージも受けないし」

「…人質がいたんだぞ」

「だから知ったこっちゃないの。僕はあのバンダナ始末しに来ただけなんだから」


人質の命なんて気にしない…か。こんな奴とは一緒に戦ってなどいけないな…


だが敵幹部を倒してくれるというのなら利用するべきか。


「…まあいい。別にどうもなってないしな。…あのバンダナはお前に任せていいんだな」

「いいよ。君の手助けになるってのは気に入らないけど、こちらにもプライドがあるしね」

「…じゃあ任せる」


東は軽くピースし、ツヴァイを吹き飛ばした方へ向かっていく。

すれ違うルミアに笑顔を見せながら…

…なんか気に入らない。



とりあえず人質は皆救出できた。

しかしローベルト達を倒さねば皆を完全に救えた事にはならない。

…それでも、この場からは避難させたほうがいいかもしれない。


だが人質を皆起こして、彼ら彼女らだけで帰るように指示するのも…危険だ

となると誰か一人護衛につけたほうがいいかもしれない。

時間制限もあることだし戦力が減るのは痛いが…


などと思っていたらなっちゃんが目を覚ます。


「…ん?」


安堵し、俺は優しく声をかける。


「なっちゃん…無事で良かった」

「シン…?そういえば私は…」

「もう、大丈夫だ。痛いとことかはない?」

「…ない、が…」


なっちゃんはどことなく元気がない。

まあ、つかまっていたのだから当然なのだが…理由はそれではないのかも。


「…なにがあったかはわからないが、私のせいで大変だったんじゃないのか?」

「…いや、別に」


…はぐらかしたが、なっちゃんにはバレている。


「私なんかを助けるために来たんだろ?悪い…普段強がってるくせにこのザマで…」

「仕方ない。相手は魔族だ…というかむしろ俺のせいなんだ。俺をおびき寄せるために君が攫われた…すまない」

「私が簡単に攫われたのが悪いんだ。シンは悪くない…」


なっちゃんは拳を地に叩きつける。


「…なっちゃん、怪我するよ」

「一匹狼気取って強いつもりだったんだ。なのにシンを守るどころか足手まとい…」

「相手は化け物みたいなものだ。仕方ないさ」

「仕方なくない…そうでなきゃ、私がシンの隣に立つ資格ない」


唇を噛みしめ血が出ている。

…何を気にしてるんだ…


「女として立てるのは神条だけ…なら私には女友達として…対等な立場でいたい。守られる立場じゃ…その他大勢にしかなれない」


…言いたいことがよくわからない。乙女心…なのだろうか?


…なんと言ってあげればいいのだろうか?…口下手だから、ろくな言葉が思いつかない。


「…なっちゃんがその他大勢なんてことはありえないがな。昔からの付き合いで、大事な幼なじみだから」


なんとかひねり出した言葉だ。

だが間違いなく俺の本心だ。


「だ、大事な…?」


少し効果あったのだろうか少し照れ顔を見せてくれた。

俺は続ける。


「それに守る守られるで立場がどうなんてのは間違ってるだろ。俺となっちゃんの絆はその程度で崩壊するものでもないだろ」

「…そう、かな」

「ああ」


…これで少し元気出てくれればいいが。


「なら夏目さん、聖獣と契約してみる?」


ヒカリ先生が驚愕の発言!?


「せ、先生!?」

「あらいい考えだと思うけど。力手に入れられるし、それで今後こんな事起きないかもしれないじゃない?」


…確かに魔族と戦えるようになればさらわれることはなくなるかもしれないが…


「それに人質の皆さんを夏目さんが安全な所に連れて行くの任せられるしね。アホ司令の姪っ子黄間鈴さんもいるし、無事にみんな帰さないと行けないし」


黄間鈴…

人質を確認すると自分くらいの年齢のお嬢さんを見つける。

かなりの美人。


……ん?

見覚えが俺にはあった。

もしや過去に会ったことがあるのかも…


「はい、契約完了!これで夏目さんも聖獣の力を会得したわ」

「一一え?」


俺がよそ見してる間に…

というか早すぎないか?


「私の白虎の力で契約補助したからあっさりだったでしょ?ほら魔力扱えるようになってるはずよ」

「…こうか?」


なっちゃんから魔力が噴き出す!

もうただの人間レベルの魔力ではなくなっている…俺ですらそれがわかるほど。


…少なくとも北山並みかそれ以上かも。


…ただそうなると北山みたく天界軍に誘われる事になる…

また知り合いを戦いに巻き込んでしまう…


そんな俺の様子に気づいたのかなっちゃんは…


「気にするなシン。私が自分で選んだ事だ。これで足手まといにならないかもって思うと嬉しいしさ」

「…あまり無理してほしくないんだが…まあもう遅いか」


…ため息をつかざるえない。

今回は自分のせいでもあるから気が滅入る…

いくら本人が選んだとはいえ。


「これで人質の皆さんの事は気にしなくてよさそうよ。今の夏目さんなら実戦経験なくとも妖魔くらいならこわくないだろうし」


先生は人質の内、一人の男性を掴み上げる。

…なにをする気だろうか?

そしてこの男も見覚えが…


ーーあ、。

…たしか美女崇拝クラブだかの先輩でたしか木崎とかいう…

※27話参照。


すると木崎先輩は光かがやき、先生の両拳に別れ、そして…


長い爪のような武器へと変貌した。…要は鉤爪だ。


…つまり木崎先輩は武器聖霊スピリットウエポン


人の姿な上に、高校生を装っていたのか?


「驚いた?神くん。この子、私の武器聖霊スピリットウエポンだったの。普段は生徒として学校通わせてね。まさかさらわれるとは思わなかったけど。多分この事知ってて、ワタシに対する人質だったんでしょうね」

「…そうだったんですか」


聖霊が人に…

それはつまりリーゼもまたなれるという事になるのだろうか…?



なにはともあれ人質は救出成功。

…だが命はまだ助かっていない。


ローベルトを倒さねばならない。

…まだ戦いは終わっていない。



つづく


「まだ安心はできないみたいですね~でも大将首とればいいんですし、わかりやすいですかね」


「次回 青龍の逆鱗 なんかおっかなそうですね」

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