第40話  名家南城

南城side


南城…朱雀一族の中でも名門と称される名家の内の一つ。

朱雀を排出したことはないが、歴代でも天界軍に名を残すほどのランカーが数多くいるほどの名門。


…南城春人はそこの本家でかつ、長男として生まれた。

故に次期南城家当主筆頭。


名家故に厳しい教育を施されてはいたが、そのおかげか幼い頃から優れた才能を発揮していた。

幼少期から同い年どころか、年上よりもはるかに優れた魔力。

学園では常にトップの成績で学園始まって以来の天才とまで言われた。


天下の鬼才、そう称されたものだった。


だがそれは南城本人の類まれない努力によるもの。けして才能だけではなかった。


それを知ってか知らずか、家でも学園でも、もてはやされたものだった。鬱陶しいとは思いつつも、悪くは思ってなかった。


だがある時気づいた。

自分はそこまで大層な男ではないのではないのかと。

そのきっかけは中等部入学時、一つ上の先輩の圧倒的強さをある時見かけたからだ。


年上だから…とは思わなかった

たかが一つしか違わなかったし。

天下の鬼才と呼ばれる者が一つ上の者に及ばないのかと、その時思った。


それから自らを追い詰めるために、辺りには自信家の姿を見せつけ、同級生から嫌われるようにふるまった。


自分には実力しかない、それがなくなり他者から陰口叩かれたくなければ強くなれと言い聞かせるために…


だがその先輩が、自分と同じ年の時に作ってきた数々の記録を破る事はできなかった。


悔しさからか、生徒会の連中に誘われようが無視していた。

先輩が生徒会会長だったから。


そして翌年はもっとプライドを傷つける男が現れた。


…そう今や朱雀である美波神邏。


最初こそ互角だった。

だが気づいたら奴は会長と渡り合えるか、それ以上の存在になりかけていた。


そして後日知った朱雀への覚醒…

家族からは失望された。

南城家始まって以来の天才と言われたのに、役立たずだのなんだの言われた。


8のランカーになってもそれくらいは過去にもいたと言われ認めてもらえなかった。

当の現当主の父親などランカーにすらなったことないくせに、と思わないでもなかった。


ムカついた…だが期待を裏切ったのは自分だ。

そう思い怒りを胸にしまいただひたすら努力を続けた。

朱雀になるため。


当たり前だが朱雀は一人。

二人はなれない、

要するに詰んでいる。


それでも…諦め切れなかった。

もしかしたらと思い…だから他の聖獣との契約なんて頭になかった。


だが数日前のある日…美波と話すきっかけがあった時だった。


「なんで朱雀にこだわるんだ?」


美波にそう言われた。


「どの聖獣をも上回る最強の存在だからだ。…後、南城家に認めてもらうためでもある」


そう答えたのだが…


「力がほしいのはともかく、認めてもらうだけなら四将軍にでもなればいいんじゃないのか?」

「それは…」


確かにそれはそうだ。

四将軍は南城家の歴史上いなかった。さすがにそれでケチつけるとは思えない。


「…まあ名門故の苦労があるんだろうな。かといって今となっては譲る気にもならないがな」


美波も戦う決意をしたからこそ、もう手放す選択肢はなかった。

…というより手放すなどできないのだが。


「なれなかった者のため出来ることと言えば、完全に力を使いこなし多くの人々を守る事だけだからな。…俺などには責任重大だな」


人々を守る…

あまり考えた事がなかった。

皆に認めてもらいたい、ちやほやされたい…なんてひとりよがりと言うか自らの都合しか頭になかった。


よくよく考えれば美波は記憶を失ってなお、身内や他人のために戦うかどうかしか考えてなかった。

ーー自分のためじゃない。


出世欲にかられた連中を見下していたが、そいつらと果たして自分はそう違うだろうか?…と美波を見て思った。


認めてもらいたい…それ自体が悪いことではけしてない。奴もそれは否定しなかった。


だがそこが決定的に違ったからかもしれない。そう思わざるえなかった。


敵を倒す事しか頭にない自分と、身内や他者のため、それどころか魔族にも手を差し伸べる男…


そうか…眩しかったのだ。

だからこそ気に入らなかった。

そして自分と違い美波の周りには人がいる、ちやほやされてると…そして挙句の果てには朱雀だ…

つまり嫉妬心だった。


嫉妬…なんかバカらしくなった。


自分は人に認められたいのに美波を認めれず嫉妬していたなんて。


認められたいなら他者を認めろ。

…美波を朱雀として認めろ。


自分の小ささに少し笑ってしまった。


ーーこの時だいぶ久しぶりに笑ったと気づいた。


美波を朱雀として認める。

そして新たな目標として美波を越える!そして四将軍となる!

そのためには力がいる…

だからこそ上級聖獣との契約に踏み切った。


以上、南城の独白だった。





「聖獣アグニ…俺様の聖獣の力を見せてやるよ」


南城の背後に魔力によってかたどられた、千手観音にも見える大型の魔人。

腕は六本、拳は炎に包まれ仮面をつけている。

人の形なので聖獣には見えないがれっきとした上級聖獣だ。


相対してる七人衆モルトレットはそれを見てニヤリとするだけ。


「へえこれから本気ってわけかい。面白え」


モルトレットは背後の電気ネットスパークフィールドに触れ、エネルギーチャージをする。


「ならこっちも本気といくかいスパークシールド!」


電気ネットから魔力が放出され、モルトレットの半径五メートルほどを取り囲むドーム状のシールドが展開された。

要はバリアーだ。


「てめえ程度じゃ破れないシールドだぜ」

「やってみなきゃわからねえぞ」


両拳に炎を作り上げ、シールドを連打連打!


「無駄よ無駄!」


腕くんで余裕を見せるモルトレット。気にせず連打連打連打!


すると…ピシっと少しヒビが入る。だがその瞬間突然シールドが消えて、電気の魔導弾が南城めがけて放たれた。


不意をつかれたため直撃し吹き飛ばされる。

…そして消えたスパークシールドが貼り直された。

貼り直したためヒビはなくなっている。


「どうだい?これじゃキリねえだろう?それに…」


体がピリピリする。

この静電気みたいなものは…


「はい!今のでお前の体に帯電完了!今度は直撃だから一発でチャージされちゃったねえ!」


それはつまりトリガーとなる攻撃をくらえば、またあの内部電気爆発が起きるという事。


さすがにもう一度アレをくらえばお陀仏だ。

ならばと距離をとろうとする。


「もしや雷刀が届かない所から攻撃すれば…なんて考えてねえか?甘えよ!」


雷刀から電気の塊を複数作り上げる。


「サンダマシンガン!」


塊が弾丸のように連射される。

おそらく一発くらえばあの帯電磁ボンバーなる技が起きるのかも。


ならば…


「アグニ!」


聖獣アグニの六本の腕が電気の弾丸を弾きガードする。


「何発耐えられるかな!」


続けざまに放たれる数々の弾丸。

これではこちらの魔力のガードが底をついてしまう。

相手は魔力のチャージができるからじり貧になるだろう。


ふと南城はモルトレットを見ると


(シールドが消えてる…?)


攻撃してる最中はあのバリアーがなくなっている。

…もしや攻撃とシールドは同時に複数できないのかもしれないと判断。


(ならむしろチャンスだ!)


南城は炎の斧を精製。

アグニの力で作られた魔力を宿した武器だ。


そして南城は無謀にもモルトレットに向かって走り出す!


「バカめ!蜂の巣にしたるわ!サンダマシンガン!!」


電気の弾丸が南城めがけ放たれた…


「シューティング・アックス!!」


斧を小さくし全力で投擲!

放たれた小さい斧は円運動しながら炎をまとい、弾丸を貫く。


まずいと思ったモルトレットはバリアーを展開…するも遅かった


バリアーは半径五メートルに発生、つまり五メートルよりも近くにすでに侵入ずみなら手遅れとなるからだ。


投擲された斧はかなりの速度だったため間に合わなかった。


…そして炎の斧はモルトレットに直撃する。

奴の左肩から心臓付近を抉り飛ばした。

ブッシャア!!と音をたてて。


「グッぎゃあああああ!!!」


モルトレットは崩れ落ちた

勝負…あった。


南城もまた倒れる。

わりと限界だったようだ。


「…けっこんな野郎に手こずり過ぎたな」


ただまあ勝ちは勝ちだと満足そうにする。


「これで…勝ったでつもりかよお」

「一一!!」


左上半身がなくなっていながら、モルトレットは立ち上がる。


「確かに…ゴホッゴホッ…おれは死ぬかもな。でもただじゃ死なねえぞ」


モルトレットの全身が燃え始める。南城の一撃のせいだろう。

だが奴はそれを気にもせず、スパークフィールドの電気を全て自分に集中させる。


「うぎゃぎゃぎゃ!!」


明らかにダメージを受けているため自分にも害がある行動とわかる。


「この炎と電気の塊となって、てめえに突撃してやるよお!!どうせほっておいても死ぬんだ!てめえも道連れにしてやるよお!!」


死を覚悟した特攻を仕掛けるつもりのようだ。


南城はもう動く力もあまりないため逃げる事ができない。


「詰みか…ちっ…まあ勝ちは勝ちだ」


すでに諦めの表情を見せる南城…


「死、ねええええええええええええ!!」


特攻してくるモルトレット。

しかしその時!


「ウルフズゲノム!!」


巨大な3つ頭の白い狼をかたどった魔力の一撃が、モルトレットに直撃する!


「な、なんだあああ!!邪魔すんなあ!!」


モルトレットも対抗し魔獣開放

2つの頭を持った地獄の番犬オルトロス。


…3つ頭の狼に2つ頭の番犬?

なにか似ている。


「ケルベロス!弟だろうがかまへん!喰らい尽くせ!!」


3つ頭のケルベロスと呼ばれた狼はオルトロスを押さえつけ身動きを封じる。


「クソクソクソクソクソクソクソクソがああああああ!!!」


そのまま動けなくなったモルトレットは炎と電気に身を焼かれていく。


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」


灰と化し消滅していった。


ーーモルトレットは死んだ。

南城の勝利だ…


ケルベロスの乱入がなければ南城も危なかったが。


そのケルベロスの技を放った相手は…


「えろう危なかったな春人」


仲間のアゼル・ディボルト。

…たしかアゼルは神邏と同じルートに行ったはず…


「お前…なんでここに。美波と一緒じゃなかったのか」

「実は頼れる援軍が美波のルートに来てくれてな、で、ワイは他の助けに行こうと引き返したんや。いやあほんと良かったわ」


頼れる援軍…?

まあ誰が来たにせよ、そのおかげで助かったから何もいう気にはならない南城。

まさか余計な事をなんて言えやしない。

アゼルがいなければどうなっていたか…


「…とりあえず礼は言うぜ。助かった」


やけに素直に言われたので少しあっけにとられる。


「お前変なもんでも食ったんか?」

「うるせぇ礼くらい素直に受け取れ」


南城はゆっくり立ち上がる。


「早く北山追わねえとな…あいつ一人でなにしてることやら…」


やけにふらふらしてるためアゼルが肩を貸す。


「悪い」

「ええって」


ゆっくりと歩き出す。

…アゼルはチラチラ南城を見る。


「んだよ」


様子が変だから聞いた。


「いやよ…お前気にならんのかワイがケルベロスと契約しとること」

「あいつの魔獣を弟とか言ってたな…つまり魔獣なのかお前のも」

「…そうや。天界人は聖獣と天使以外との契約は禁じられとるのに」

「そうだったか?てかそもそも魔獣との契約は普通できねえだろ天界人は」


もしや…


「後ろめたい理由でもなければ魔獣と契約なんて普通しねえ…なのに気にならんのか?」

「ないな。興味ねえし」

「もしかしたらやぞ…魔の者として天界に仇なすかもしれねえじゃ…」

「ねえよ。お前は天界に忠誠誓った俺様の仲間だろうが」


その発言に驚くアゼル。


「魔の者だったとしても関係ねえ。何年も俺様と共に戦ってきた仲だろ。ケルベロスだのなんだの知った事じゃねえよ」


ぶっきらぼうながらもアゼルの事を考えて信じているとわかる。

アゼルは口には出さなかったが、感謝の気持ちでいっぱいになっていた。


「悪いな…下らん事聞いたわ」

「わかりゃいい」


アゼルの目元には少し雫がこもっていた…



つづく


「いい友情じゃないですか!男同士の友情、私は好きですね~」


「次回 人質開放 …あれ?良い事ですが早いですね…なにかあったりして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る