第39話  雷刀再び

南城、北山side。



こちらはいうほど罠も妖魔の襲撃もなく、すんなりと進めている。

むしろ罠だらけの道をダストが選んだからなのかもしれない。


「しかし狭くてジメジメしてて嫌なところだなあ」


愚痴をこぼし歩いている北山。


「…なあ、仇がこの道に出てきたら譲ってやるが、出てこなかったらどうする?道は四つあったからな」

「あいつはこの道で待ち構えてるぜ、間違いなくな」

「なんで言い切れんだ」

「あいつは兄の記憶を持ってるからおれを知り尽くしてる。つまり容易な相手と思ってるはずだし」

「そうかい。ただまあ仇以外なら俺様が代わりに相手して、先行かせてやるよ」


肩に手を置き北山の意思を尊重してくれる。


「サンキューな。お前意外といいやつじゃねえか」

「は?そんなんじゃねえよ…敵の頭数減らすのに使えるからってだけだ」


あいも変わらず素直じゃなく意地をはる

まあこういう男だから仕方ないだろう


「ただ一つ聞くが勝算あんのか?」

「小3?小学3年生か?」

「前にお前やられたことあるらしいが、そん時よりはるかに力増してるんだろ?」


北山のギャグは完全にスルー。


「前の力でも勝てない相手にどう対処する気だ?」

「…へ、前より強くなったってんなら、それはおれも同じことだぜ」

「お前のパワーアップなんてたかがしれてんだろ。よくて前回の力とやりあえるかってレベルじゃねえのか?」


北山は軽く考えてたのかもしれないが、南城は現実を叩き込む。


「…結局特に策もなく、自分の力を過大評価し、根拠なく倒せると考えてたのか」

「うるせぇよ。万が一勝率1%だろうが勝ってやるさ」

「今のお前じゃ0%だ。一対一ならな。誰かと協力でもしねえ限り無理な案件だ。…とはいえ邪魔はされたくないと」

「…ああそうだ。あいつとのケリは誰にも邪魔されたくねえ。一人でやる」


だからそれだと0%だと言ってやりたくなる南城。

一人じゃ死ぬ。

でも、誰かと協力して戦いたくない。…わがままな事だ。


なら勝手にしろ…とまでは薄情になれないのが南城。


「…かといって一人でやらせて死んじゃいました…なんてなったら美波とかになに言われるかわからねえしな。それに七人衆が残るのも面倒だ」

「悪いけど、なに言われても協力は受けつけねえぞ」

「結論急ぐなよ。あんま勧める気にはならねえが…これをやる」


南城はなにか丸いものを渡した。

薬?飴?よくわからないがそれくらい小さい物だ。


「なんだコレ?」

「Dランク以下の低い魔力の持ち主限定で使える、…一種のドーピングみてえなものだ」

「ドーピング?強くなれんのか?」

「端的に言えばそうだが…かなりリスキーな代物だ。その力が長く持つかもわからねえのに、自らの体にどんな悪影響が起きるかわからねえ。できれば使わねえほうがいい」


その丸い物をよーく見てる北山。


「ただの飴にしか見えねえがな」

「死ぬかもって時にだけ飲め。そのをな」


とりあえず受け取った北山。

どれだけ恐ろしい副作用が起きるかわからないが、背に腹は代えられないだろう。



二人はその後も苦労なく先に進み、ダストらのように一つの大きな部屋にたどり着く。


そこには一人魔族が立っていた。


「あ?あいつは確か…」


北山は見覚えあるようだ。

だがこの様子だとリヴィローではない。

ーーその魔族は小太りでギザギザの刀を持っている。


こいつは七人衆の雷刀モルトレットだ。

北山は前に神邏にすぐ任せたがこいつを見ていた。

※23話参照。


「こっからさきは!行かせねえさ!かかってきなよ雑魚ども」


大声で挑発してきた。


「まあいいあの野郎は俺様が相手する。北山は先に行け」

「いいのか一人で」

「お前が言うんじゃねえよ。こんな奴、俺様が相手してやるまでも本来はねえんだ」


お言葉に甘えて北山は南城を残し先の道へ走って行く。

…モルトレットは追わない。

前もそうだった。


「なんだよ。追う素振りも見せねえとは」

「あいつはリヴィローの獲物らしくてな、譲ってやんのよ」


…それはつまり、この先にリヴィローが待ち構えてるという事になる。


「ホントにいんのかよ…仇とやれるのはいいんだろうが…」


なんだかんだ心配してくれてそうな南城。素直じゃない。

仮にドーピング使っても、勝てる保証はないのだから心配にもなるだろう。

それだけ力の差は歴然…

本当にヤバそうなら手助けしたほうがいいはず。

だが手助けする、しないにせよ。


「とにかくてめえを始末して、あとを追うとするか」

「あ?舐めとんかガキ。七人衆のモルトレット様をなめるなよ」

「そもそも七人衆ってのが大したことねえんだよ。それと前、美波に軽く倒されたって噂の野郎だろてめえ」


確かにわりとあっさりと倒されている。

刀の特徴をすぐ看破されて…


「まだ戦闘経験ない七人衆ならともかく、てめえは前の戦闘のおかげでデータあんだ。その雷刀の能力もな」


手の内はわかっている。

だから怖くない…


相手の能力を調べているのは立派だが、敵を舐めすぎてるようにも見える。


「前と一緒とおもうなよ!魔獣オルトロスの雄叫びで貴様を粉微塵にしてくれるわ!」


2つの頭を持つ地獄の番犬の姿を魔力が一瞬形どる。

その後、指を鳴らすと部屋の壁周り一周に電撃が入る。

逃げ道をなくす電気のネットみたいなものだ。


「スパークフィールド…展開完了っと」

「なんだ?逃げ道塞いだのか?逃げやしねえよ」

「そんな理由じゃねえよと。グフフ…これはバッテリーさ」

「バッテリー?」

「魔力の補充のな」


つまり魔力を回復できるということなのだろう。

となると南城にとっては長期戦は不利になる。


(ならば短期決戦にするまでだ)


南城はそう思い、殴りかかりに向かうが…


「おらっ!」


長く広範囲に届く雷刀を振り回すモルトレット。

これでは迂闊に近づけない。


「そらそらそらそらそらそら!」


ぶんぶん振り回すが、南城は全て紙一重で交わしてく。

すくない動きで躱すため体力もほとんど消費しない。


(戦いはここだけじゃねえんだ。できるだけ余力は残しておきたいところだ)


ビリッと静電気みたいなものが、躱すたびに南城に届く。


(なんだコレ?大して痛くもねえし気にするこたあねえか)


何発も何発も振り回すが当たらない。だが、モルトレットは笑っている…

この静電気みたいな小さい電気になにか意味があるのだろうか?


そんな可能性を考えてもみない南城は、避けつつ攻撃のチャンスを伺っている。


大きな振りをするモルトレット。


(しめた!)


その一撃を避けて懐に潜り込み、燃える拳を…


ドグゥ!ーーぶつけた!


「がはっ!!」


その重い一発を受け、電気のネット付近まで転がるように吹き飛んでいくモルトレット。


「へっ。やはり大した奴じゃねえな。すぐに片付けて北山の後追うとするか」


余裕を見せる南城。

一方よろよろと立ち上がり、血反吐を吐くモルトレットの表情にもまた、余裕を感じられた。


雷刀を真っ直ぐ向ける。


「ん?その構えは…」


前に戦ったとされる神邏の情報によると、雷刀は真っ直ぐ伸びる

そう南城は聞かされていた。


「確か速度速いとも聞いてるな。それにこの距離でも届くってことか」


警戒はしつつもどことなく驕りが見えた。


(美波が不意をつかれても見切れた速度なら、くるとわかってる俺様が見きれねえはずはねえな)


一一それが油断なのだ。

忘れていたのだろうか?

モルトレットは前と違い魔獣を得てパワーアップしてることを…


ギュン一一!


(速…!)


あまりの速度に対応が遅れ…


ドスッ!


伸びた雷刀が南城の左肩を貫く。


「ぐっ!」

「おっとこれで終わりじゃねーぞ。帯電磁ボンバー」


その一言の後、南城の全身から雷でも落ちてきたかのような激しい電撃が発生!


「ぐああああああああああ!!」


黒焦げになりかねない、感電死しにかねない電撃が、南城の全身を駆け巡った。


「かっは…」


煙が漂い、南城はゆっくりと地に倒れた

…そして倒れたまま動かない…


「クフハハハハハ!残念だったなあ!今の全身を駆け巡った電撃は雷刀の効果だ!」


わずかに避けてた時静電気みたいなのが発生していた…

あれは相手の体に雷刀の電撃を侵入させていた時に発生する現象だったのだ。


それだけではなんのダメージにもならないのだが、最後の伸びた雷刀による一突き…あれがトリガーとなり、体内中の電撃が内部から大爆発を起こす。


体内に送り込む電気は長くはとどまっていられないため、早くトリガーを押さねばならない。そして雷刀の電気が届かないくらい大きく回避してれば電気を貯めることも出来ない。


こういった弱点や回避方法はあったが、それを知る由もなく油断があった南城は、まんまとくらってしまったわけだ。


「はーあ。あっけねえな。バッテリー使うまでもなかったじゃねえかよ。な~らもう一人の奴始末にでも行くかぁね〜」


北山の通った先の道へ歩き出すモルトレット。


「「待てよ」」


南城はゆっくりと震えながらも立ち上がりモルトレットを止めた。


「なあんだよ、まだ生きてやがったかしぶとい奴。とはいっても…」


全身から出血し、息も切らして…バイブレーションしてるかのようにぷるぷる震えている。

…まさに死にかけといっても差し障りないかもしれない。


「虫の息もいいとこじゃねえかよ!クハハ!」

「うるせぇ…てめえ程度にはいいハンデなんだよ」

「ぬかせゴミ虫が。すぐにあの世、送ってやっから」


南城は深く深呼吸する。


「…まだこんなとこで使いたくなかったんだがな…だが負けるわけにはいかねえ以上仕方ねえか」

「なにブツブツ言ってやがる。念仏でもとなえとんのかあ!」

「念仏唱えるのは…てめえのほうだ」


南城は両拳に力を集中する。

すると火の魔力が溢れ南城の体を包むと…それは怪物の姿を形どる

怪物…いや、聖獣だ!


「あ?てめえは聖獣を宿してねえと情報があったんだが」

「情報古いな。まあ契約したのはつい先日だからかもな」


ボロボロだったはずの南城は、生気を取り戻すかのように立ち尽くす…


「さあ反撃といこうか…」



つづく


「この人朱雀にこだわってたみたいですけど、心境の変化でもあったのでしょうか?」


「次回 名家南城 お偉いさんらしいですね確か」

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