第38話  七人衆対七人衆

ダスト&九竜班side。


まずダストが先頭に立ち、あらゆる罠や仕掛けを解除していく。

アジトのあらゆる罠を把握しているようだ。これは心強い。


そのおかげでこの二人の班はどこよりも早く、すんなりと前え前えと進めている。


神邏が魔力で作った木の棒切れ、それに南城の火種で作った、明かり棒を二人は持って歩いている。

わりと明るく快適。


九竜はというとつかず離れずというか、一定の距離を保ちつつ進んでいる。

まあ、急に信用しろなんて無茶な話だし当然だろう。

罠を解除してるとはいっても、それは信用をえるためにやってるだけかもしれないし。


すぐ人を信じてしまうクセがあるからこそ、魔族にだけはそう簡単に気を許さないでいなければ…と、九竜は思っているのだ。


ダストもそれをわかってか、何も言わないし話しかけない。

ただ自分のやるべきことをやるだけ。


…やるべきこと。


(…何故あいつの手助けする気になったんだ?)


自問自答するダスト。


人間と魔族を差別しない人間性?それとも自分のような魔族に生き場を作ろうとしてくれているからか?


よく、分からないでいた。


だが少なくともローベルト一味は解散するべきだ。

そう前から思っていた。

今までは一人じゃできやしないし行き場もないからする気はなかった。


しかし今は仲間…というわけではないが協力者がいる。

務所だが居場所がある。


やる価値はあるかもしれない。


そして尊敬をしていたローベルトの目を覚まさせてやれるのなら…

ダストはそう考えていた。





大きな部屋に出る。

そこは明かりいらずの大きな電灯がついている。

それ以外は特に何もないただの広い空間。


「なんだ。もうここに着いたのかい」

「…なんの部屋なの?」

「侵入者排除用の戦闘部屋だ。ここで七人衆辺りが待ち構えて侵入者を叩くのよ。ここまでこれるとなると、洞窟に潜ましてる妖魔じゃ太刀打ちできない相手となるからな」


七人衆か…

九竜は警戒しながらキョロキョロと部屋の中を見渡す。


しかし誰もいない。

気配もない。


「…誰もいないじゃん」

「侵入者が居るってのに誰も配備してねえわけねえだろ」

「でも現に…」

「姿が見えないからって誰もいないとは限らねえぜ…なあゾラ!」


大声をだし呼びかけた。

声がこだまのように鳴り響く。

すると…


「へ、へへ。さすが、だな、ダスト。俺様、いるのわかったか」


どこからともなく声がした。

ーーだが方角がつかめない。

そのためどこにいるかはわからない。


「聞い、たぞ。お前、ローベルト様、裏切ったと」

「そうだぜ。だからあんさんも仕留めてやるよ。今日この場でな」

「ぬか、せ。いつまでも、いばれると、おもう、なよ。確かにお前、は、リヴィローとツヴァイと同じく、七人衆最強格…だったが今の、俺様には、魔獣が、いるんだ。強いんだお前より!」


ダストは自らの能力錬成により大きな槍を作成。


「魔獣の力得て気が大きくなったかい?わりいがそのくらいで小生を超えた気になってんじゃねえよ。オンガーツも大したことはなかったし恐れることはねえよ」

「なめ、んな!オンガーツ、なんかと一緒に、するな!俺様、最強!」

「最強ねえ…ならどんだけのもんか見せてくれよ。全力のパワー、そして魔獣を」

「いい、ぜ」


すると禍々しい魔力がただよってくる。


「ん?」


魔力は羽の生えた異形の怪物をかたどっていく。

大きく強大な魔獣だ。


「は、はははへはは!これ、が!おれ様が授かった、魔獣ガーゴイルだ!」


確かに強大な魔力を感じる。

ランクでいえばBランク相当あるかも。けしてダストが侮れる相手ではない。九竜はそう思い自分も戦わねばと前に…


「おっと嬢ちゃんは下がってな。こいつは小生が一人で仕留める」

「え?でも…」

「あんさんも信用できるかわからねえ奴と協力なんざできんだろ?あんさんが動くのは小生がやられてからでいーよ」


余裕があるような発言だ。

ダストは魔獣もないし、一人で戦うのは無謀ではないのかと思うのだが…


「一人ぃ?バカな、奴!勝てるわけ!ないだろ!」

「勝てるね。だってお前バカだもんな」


その言葉の直後、ある方角へ一直線!

そしてある地点で槍を…突く!


ドスッ!と、なにかが刺さる鈍い音がなった。

槍からは緑色の血が付着している。…そして少しずつ実体が移りだしてくる。


巨体の鬼のような魔族。

ロン毛で上半身裸に大きな火傷傷をしている。

こいつはまさか…


「え、ええ?な、なんで?」


姿が見えなかった七人衆ゾラのようだった。


「なん、でおれ様のいる所わかった…完全に、見えなかったハズ」

「そうだな見えねえよ。お前の能力、ステルスは厄介だな。喋っても声の方角わかんねえし」

「じゃあ、なんで」

「なんでってお前がバカだからよ。あんなに魔力出して、魔獣の姿なんて出したら…その魔獣の下にお前がいるって丸わかりじゃねえか」


…確かに少量ならまだしも、全力の魔力を相手に見せるように流したらバレるのは当然だ。

なにせ魔力は体から放出されるわけだし、流れ出た瞬間の地点がわかればそこにいるのは至極当然。


「強力な能力でも使い手がバカじゃどうしようもねえな」

「まだ!言うか!殺す殺す殺す殺す殺す!」


また姿を消しその場から離れた。


「もう、同じヘマ!しない!ポイズン・ダガー・アロー!」


なにか音がするが何も見えない。

攻撃技もステルスしているのだ。


ダストは避ける事も防ぐ事もできずくらう。


「ぬがっ!」


ダメージ自体は大した事ない。

…ただ、ナイフのような物が複数刺さった感覚がする。

だが深く刺さってもないし大して血も出ない。

弱い攻撃だったが…


ぐらりとふらつくダスト。

…これは…


「毒…か?」

「御名答!おれ様の、投げたナイフ、には強力な毒が塗ってある!ガーゴイルの強力な毒だ!」


しびれに吐き気などのかなりの体調不良を感じる。

これではまともに戦えない。


「へへ、そのまともに動けない、状況で、おれ様お前の首切り落としてやる!」


何も見えないが、他に強力な武器で首を切ろうとしているのだろうか?近づいて来てるのかどうかもわからない…

万事休すか?


「甘い…んだよなあ」


ダストは燃え盛るほどの強力な炎を全身から吹き出す。


「なに、しようと無駄、おれ様の居場所、わからんだろ」

「この炎はちげえよお前狙いじゃねえ」


するとダストは真上に炎を噴射する…そして炎はダストに向かって落ちてくる。

それによりダストの身は焼かれる。


「ぐおおおおおおおおお!!」

「は、は?とちくるった、か?自殺でもする気かよ?」

「そんなわけ…ねえだろ」


身を焼きながらもダストの体調が良くなってきている。

ダメージはあるはずなのに…

いや服も大して焼けていないし、器用に自分の体だけ焼いて…いや違う。


体でもなく内部、体内を焼いているのだ。

なぜか…それは毒を焼却して解毒するためだ。


紫色の煙が流れ出て、それが収まるとダストはニンマリしながら一言。


「解毒完了」

「げ、解毒ぅ!?」

「ああ。ダメージはくらったが毒はこれで消え去った」

「ば、かなそんな身を削る解毒方法なんて」

「身を削ろうが毒を消せるなら普通やるだろ。生死がかかってるんだからな」


とはいえふらふらしている。

こんな状態で戦えるのだろうか。


「ふ、ふふふ。そんなからだじゃ怖くねえぶっ潰す、ぞ」

「無理無理。いいハンデにしかならねぇよ」

「この、クソゴミ!減らず口たたけなくしてやる!」


ダストは槍に残った自分の全魔力を込める。



「長期戦するほど力残ってねえからなこれ一発で決めてやるよ」


槍投げの要領の構えを取る。

対神邏戦で使った大技だろうか?

25話参照


「へ?そんな技あたんねえよ。おれ様どこにいるかわかんねえくせに」


先程みたいに魔力は出してないから同じ方法で場所を見つけるのは不可能。

さっきの攻撃も見えなかったし、そもそももう場所も移動してるわけだし。


だがダストにはある確信があった。


…ぴちょり。

何か音がした。


「そこだ!槍大砲ランサーキャノン!」


獄炎の魔力に包まれた大槍が一直線に飛んでいく!


「え?」


槍はを貫き、部屋の壁に突き刺さりそれを粉々に砕いてみせた。


そのなにかの部分は大量の緑の血が流れ出ていた。

つまりなにかとは…


「ごばあ!!な、なん、なんで…」


姿が見え始める。

そこには腹に大穴空いたゾラの姿が。


少なくともさっきまでは姿は見えていなかった。

なのに何故居場所がわかったのだろうか?


「答えはそこだ。ほら床」


地を指さし視線誘導する。

ゾラは足元を見ると緑色の血が床に…


「お前のステルスは確かに強力だ。自分だけじゃなく触れたり身につけてる物に、魔力を宿した物までも見えなくなるからな」


そのため奴の技なども見えなくなっていたのだろう。


「それはお前の血も同じ事。流れる血も見えない…だがその血は別だ」


その血…床に付着している血液のことだろう。


「流れる血は魔力を宿してないが体に触れているから見えない。だが流れ落ち、お前の体から離れ床に落ちた血液…それはさすがに能力対象外。小生はそんなお前の落ちた血液を目印に、居場所を突き止めたんだよ」


…血液は最初の不意打ちによる突き、それによって流れたもの。

それが決定打になったということは最初のゾラのミス…あれで勝負ありだったわけだ。


「ぐ、クソこんな、ムカつく奴に…負けるなん、て…なんでおれ、様の能力そんな詳しいん、だよ、おれ様も知らなかったのに」

「仲間だったからな。…当然だろ」


さっきまで散々バカにした態度をとっていたのに、急に寂しそうな表情をするダスト。


「お前は最低なカス野郎だった。ローベルト様の言う事第一とはいえ悪どい事してきたからな。だが長いこと仲間として過ごしてきた相手の性格や能力くらい把握してる」


キレやすい、簡単にのせられる。そういった性格をわかっていたからこそ、上手くのせて一撃与えたりできたのだ。


元仲間だったダストにしかできない芸当…


「な、仲間…そ、そうか。そうだよな…敵ばっかでそんなの…いない、思ってた。昔から、そうだったし」

「ゾラ…」

「そうだよ、な。仲間いた、んだよな…は、はは…」


涙を浮かべるゾラ。


「なんで仲間で、戦うこと、になっちゃったのかな…悲しいなあ…ダスト、」

「ん?」

「友達、ほしかったんだ昔か、ら…生まれ変わったらいいやつに、なるから…友達になってく…」


ダストは駆け寄り倒れそうなゾラの体を受け止めた。


「ああ。小生なんかでよけりゃあな」

「あ、ありが…とう」


ゾラの目は閉じられ息途絶えた…


「…こいつも苦労してたのかもな。仲間の時、もう少し話聞いてやりゃよかったぜ」

「…兎にも角にもやったみたいね」


九竜が戦闘がおわった事を確認すると寄ってきた。


「ああおわったよ。ローベルト様に少し聞きたいこともできたし、俄然やる気出た。先に進もうぜ」


少し怒りが滲んでいる。

ダメージは大きいが足を止める気にはならない。

ダストと九竜はこの場を後にした…



つづく


「へえ一人で倒しちゃうとはなかなか強いんですね。敵同士の仲間意識もあるとは意外でした」


「次回 雷刀再び あ、前に神邏くんが倒した奴ですね~」

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