第36話  秒殺

「僕が一瞬で片付けてくる。だからそこで待ってるんだ。いいね?」


 俺を止めた人物は穏やかな大男、四将軍の西木ミズチその人だった。


「西木将軍!?黄木殿の命令でワシ以外の上位ランカーは作戦から外されてるはず……」

「正殿、そんなこと言ってる場合ではないのではないですか?あなたの技が防がれた今、朱雀以外では奴を倒せない可能性が高い。だから僕が行くんですよ」

「で、ですが……良いのですかの?」


 四将軍とはいえ、総司令の命令無視は軍議違反になる。処罰の対象になるやも……


「総司令とはいえ独裁者ではないんです。どうにでもなりますよ」


 そうニコリと笑い西木さんは前線に出る。

 ……四将軍と噂の西木さんなら問題ないか。俺の出る幕はないな。


「全員後退するんだ!後は僕がやる!」


 西木さんの大きな声に前線部隊すべてが反応。すぐさま命令通りに全員動く。

 唯一動かない北山には南城が、


「ボサッとしてんな!西木将軍の命令だぞ」

「いやでもよ、あいつかなり強いしおれらも戦ったほうが……」

「必要ねえよ、んなもん。西木将軍が出るというのなら俺様達の出番なんてねえよ。むしろモタモタしてたから将軍の手を煩わせちまったのが情けねえ……」


 南城は北山の腕を掴んで、引っ張り連れて行く。


「おいおい!引っ張んなって!」


 下がっていく天界軍を確認すると、高笑いし始めるオンガーツ。


「ブハハハ!このおれの実力に恐れを成したかゴミどもめ!だが逃さんぞ、全員まとめて……」


 奴の目の前に、突然西木さんが現れた。

 あまりのスピードに、ワープでもしてきたかのようにオンガーツは感じたはず。


「ぬわっ!?な、何者だあ貴様!」

「◇の零、西木ミズチ」

「ぜ、零……?」


 何だそれ……という表情をする。――だがすぐに、


「四将軍!?」


 後ろにジャンプして距離をとる。


「お、面白え、最高戦力なら相手にとって不足なし。力量はかってやるよ!」

「悪いけど、君程度で図れるほど四将軍は甘くないんだよね」

「黙れ!!」


 大声からの音波……


「喝!!」


 ――が、耳に届く前に西木さんが放った声がそれをかき消した。

 ただの声に魔力がまとわれて、一瞬で音波を砕いてしまったらしい。


「な、なに!?ならば……」

「遅いよ」


 西木さんの手には薙刀がいつの間にか握られていた。それに魔力を注ぎ込み、大きく振りかぶる。


超音波壁ナスティウォール!」


 オンガーツは先程と同じように何枚も防御壁を貼……


 ――ザザン!!


 壁などなかったかのように、豆腐でも切るかのように……あっさりと。壁全部とオンガーツの頭から下半身まで――


 全てを一刀両断してみせた。


「へ……?ぎゃあああああああ!!!」


 断末魔をあげ、半分に体を、頭を両断され、オンガーツは絶命した。


 ものの数秒間の話だ。

 ――まさに秒殺。


 あれほど皆が手こずった相手をこうもたやすく……さすがとしかいえない。





 とりあえず前哨戦は制した。

 ほぼ西木さんのおかげだが。


 すると皆に見えるようにバカでかい映像がアジトの上から映される。映っているのはローベルト。


「「素晴らしい、さすがは天界軍。魔獣で強化された七人衆をたやすく屠るとは!」」


 奴は大きく拍手した。

 ……挑発のつもりだろうか。


「「さあこれから何人でも我がアジトへ侵入してくるといい。次はこうはいかんという事を見せて差し上げよう!」」


「「だが無事、我が元に辿り着いたとしても、吾輩との戦いは朱雀との一騎打ちしか許さんのでそのつもりで頼むよ。なにせこちらには人質がいるのでな」」


 軍が入るのは許可するくせに、俺との戦いの邪魔は許さないというのはよくわからない。

 自信があるのかないのか……


「とりあえずアジトへ進行するものを選別しよう……先程の戦いで傷ついたものも多いのでな……」


 なんだかんだでオンガーツの被害は大きかった。正さんは魔力がもうないので戦えない。兵もほとんどが大きな怪我を負っていた。

それ故に万全な者以外は行かせても無駄と判断されたらしい。


 ……だが、


「朱雀と西木殿を除けば南城と北山という少年……。それとアゼルに九竜、ランカークラスはこれだけか……」


 ……いつものメンバーじゃねえかってツッコミが入りそう。


「で、君は?」


 いつの間にか俺の腕にひっついてる、可愛らしい幼なじみの女の子、神条ルミアに気づき正さんは尋ねてきた。


「身内みたいなものです。お気になさらず」


 スンとした態度。


「いや気になるわい……。軍の者じゃない部外者ならとっとと帰ってもらえんかな」

「……一応軍の者ですよ。許可もらったので」

「そうなのかい?でもランカー以外の弱い者は向かうだけ無駄というものじゃし」

「回復とか出来るんで、役にはたちます」


 ……なんかこの後暴言とまでは言わないが、モメるような事を今のルミアなら言いかねない。そう判断し、俺は割って入る。


「ルミの能力は必要です。……今の俺は体調も悪いですし、彼女がいてくれないと……むしろ困るので……」


 必死の説得をした。

 何時ものルミアではないが、その発言を聞くと嬉しくなったのか、笑顔をみせてくれた。


「むう……まあ戦力不足だろうし、仕方ないか。よかろう」


 無事許しをもらえたので頭を下げる。


「しかしローベルト一味、これ程の奴らとはのう。ワシの全力で倒せない相手までおるとは、司令も甘く見過ぎたのじゃろうな。これなら上位ランカーをもう少し用意してほしかったわ」

「……俺の友人の手助けしてもらってるんですし、充分ではあるかもしれませんがね」


 手伝ってもらってる以上、あまり強くは言えない。


「いや何言っとる。ローベルト一味は天界にとっても、早く排除する必要のある敵じゃ。それに人質はお前さんの友人だけではなく司令の姪っ子などもいるんじゃ」

「え?初耳なんですが……」

「おそらく奴らは意地でも今日の戦いにこだわったのじゃろうな。多くの人質をとったのがその証拠じゃ」


 魔獣の力が切れる前に俺以外の天界軍も仕留める……それが目的なのかもしれない。

 だからこそ天界軍を引き入れる気だったのかもしれない。

 宛が外れたか、上位ランカーはほぼいないが。


「……もし軍の主力を仕留めるのが奴の狙いなら、俺たちがアジト潜入してる間に正さん達を襲撃する者があらわれるかも……」

「……その時はその時じゃろうて。この程度の戦いで疲弊したワシらが悪い」


 動けない兵も多い。

 回復などしてからでないと帰るのも難しい。

 無論天界に助けを要請はするが、来てもあの司令の事だ、回復専門の特殊部隊とかで主力はよこさないだろう。

 それに来るのに多少の時間がかかる。そのスキをつかれたら……


「「ならばミズチ、お前がここに残り守護しろ」」


 俺達の前に映像が送られてくる。映っているのは黄木司令。


「司令、僕はここの最高戦力です。僕が前線に出ないでどうしますか」

「だからこそ、正達を確実に守れるのではないか。なに、救護班の到着までの間だ。それに朱雀達なら心配いらん。こいつらの成長には目を見張るものがあるからな」

「しかし……」


「大丈夫です」


 南城が西木さんの言葉を遮った。


「心配無用ですよ。俺様達であんな連中どうにでもなる」


 どこからくるんだその自信……

 俺は自分の体調不良もあり、そうは言い切れないというのに……

 この自信、少し羨ましくもある。

 自分の力を信じているからこそ言えるのだろうしな。……俺にはその自信が足りてない


 ……まあ南城のただの強がりかもしれないが。


「「よく言ってくれた。救護班はすぐさま向かわせるから安心しろ。ミズチ、また命令違反すると処罰の対象にするから気をつけろ」」 

 

 司令は軽く脅すと、映像は途切れた。


「……別に処罰なんて怖くはないけど」

「ですから大丈夫です。俺様を信じて」

「わかったよ南城。でも無理は禁物だからね」


 しぶしぶ指示に従うようだ。


「小生も手、貸してやる」


 手錠が壊れ、自由の身になっていた元ローベルト一味のダストが寄ってきた。


「な!?貴様、元は奴らの仲間であろうが!信用できるか!?」

「どう思うが勝手だがよう。……さっきの騒動で錠が壊れてんだ。戻ろうと思えばとっくに戻ってるだろ」

「わ、わからんぞ戦いの最中に裏切るかもしれんし……」

「仲間を殺した奴らの元に?」

「うっ、」


 確かにオンガーツは見殺しどころか、不要と判断し捕らえていた仲間を皆殺しにしようとしていた。そんな組織に戻りたいと思う奴がいるとは思えない。いたら信者かなにかだ。


 幹部なら実力もあるし歓迎するかも……という話も、同じ七人衆のトルーグが殺されてるから関係ない。

 実際あの時の攻撃はダストも狙っていた。


「じゃが、魔族のお前が天界軍に協力なんかしてなんの得が」

「いや得はねえが、そこの甘ちゃんの行く末というかなんというか、見てみたくなってね。少しなら手伝ってもいいかもなって」


 俺を見て、どことなく嬉しそうにしゃべる。

――断る理由はないな。


「……なら頼む。力をかしてくれ」

「朱雀!?正気か!?」

「直感でしかないですが、こいつは信用出来ると思うんです。それにやったことのケジメをつけてもらいたい」


 ローベルト一味で加担した悪事のけつをふく。それは奴ら組織を潰す事で果たされる。


「その後、罪の償いなどはしてもらうが」

「へいへいやりますよ。なんでも無罪放免とはいかねえだろうしね」

「し、しかしだな朱雀……」


 まだ納得しかねない正さんに、俺は条件をつける。


「自分達を裏切る素振りを見せたら、自分がこのダストを責任もって始末します。――なのでご容赦いただけませんか?」


 俺は頭を下げる。

 ……覚悟を感じてくれるだろうか。


 ダストは人を喰った形跡もないとの事だし、まったくの検討外れではないと思いたい。


「よかろう。そこまで言うのならな」

「ありがとうございます」

「よいよい。はよ頭を上げろ。さあアジトへ潜入準備をするんじゃ」


 ――そう、戦いはこれからだ。

 ついにローベルトのアジトに侵攻する。


 なっちゃん……無事でいてくれ……



 ――つづく。


「ホントに秒殺でしたね~伊達に四将軍名乗ってませんね」


「次回 別れ道 これはありがちですね~私は神邏くんと同じ道で!」

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