第34話 七人衆の音使い
――約束の7時少し前。
指示された地点近くに陣取ってる天界軍の方々の元へつく俺達。
兵隊の数はいくつだろうか?
……見渡す限り百人はざっといるかもしれない。
「とりあえず指揮官の
九竜が案内してくれるようだ。
道中、すれ違う兵の方々からはあまりいい顔されなかった。
……人によっては睨むものまで。
いったい何故だ……?
だが今はあまり気にしない事にした。どうでもいい事だし。
「聞いた限りですとこの前哨戦は神邏は戦いに出ないんですよね?」
ルミアが質問してきた
……彼女もついてきていたのだ。
まあ今回は戦力がいると九竜から誘ったようだが。
……俺自身は彼女をあまり戦いに巻き込みたくないんだがな……
「ええ一応。朱雀は今体調悪いとのことですし、切札でもありますからね」
「……それなら神邏は休ませて、他の方々で救出に行くべきではないですか?」
「そうもいかないの……司令が戦力出してくれないし」
「あの司令ろくでもないですね……。まあそれなら私も今回は何もしません。神邏をサポートするためだけに来たので」
なんというか融通が効かなそうな子と思ってそうな九竜。
……というか昔のルミアに戻っているな。
※昔のルミアについては27話参照。
「まあでもそのつもりでも問題ないでしょう。指揮官の正殿は上位ランカー♧の11ことジャックだから」
トランプの11はジャック……なら12はクイーンで13はキングと言うことかな。通常はキングが最高位で、その上に四将軍がいるという事だろう。
前線に立ち尽くす隻眼の壮年が見えた。白髪短髪でシワもあり大ベテランな風貌。
姿勢がよく、立つその姿……まさにこの兵隊を束ねるリーダーそのものに見える。
「彼が正殿。あたし達の大先輩だから礼儀よくね」
九竜がまず正の前に。
「◇の7
敬礼して挨拶。
「おお九竜家の嬢ちゃんか。それとおんしが朱雀か……」
俺を値踏みするかのように、じっと見定める。
「……どうも美波神邏です」
見様見真似に敬礼。
愛想はない無表情だけどな。
「火人殿の息子か、期待しとるぞ。♧のジャック
ニカッと笑った。道中受けた視線とは違う。いい人そうだな……
――すると後ろから周防さんが現れ、正さんの肩をつかむ。
「正ちゃん頼むぜ。シンはオレの弟子だからよ」
……弟子?
俺の師匠だったのか?
「なんじゃ周防、お前も戦場に?ランクはワシと同じだが、実力でいえば軍の中でも5本の指に入る男に許可がでるとは……」
「またまた〜こんなおっさんにそんな力はもうないっての。四将以外にも莉凰とか鏡とかいるしな!それに許可は出てないよ」
「なんじゃと?なら司令にどやされるぞ」
「だ~から帰るって。……だからその代わりシンを頼むよ」
明るく笑ってた周防さんは最後に真面目な表情して、正さんに頼みこみ頭を下げる。
「……わかっとる。何百年ぶりくらいの朱雀、そんなこれからの逸材をこんな下らん連中共との戦いで消費などさせんわ」
「それを聞いて安心した。じゃあシン!無理せず正ちゃん達を頼れよ!」
そう手を振り周防さんは早々に去っていった。
俺は頭を下げ見送る。
……俺の身をそこまで案じてくれるとは。師匠だったらしいがそれほど親しかったのだろうか?
……そんな人の事を忘れている自分を恥じずにはいれなかった。
「ところで朱雀よ。……軍の兵達の一部はお主に対して不遜な態度をとるかもしれんが、あまり気にするなよ」
確かにすれ違った者達の中には冷たい視線を浴びせてきた者も多かった……
「美波修邏、国家転覆を目論だ男の弟。そんな目でみる下らん連中だからの」
……そういうことか。
まだ全て聞いたわけではないが、兄はとんでもない罪をおかしたらしい。その血縁者ならば……まあそういう目で見られるか。
父親が英雄という点を入れても、それでチャラになどならないだろうし。
どれだけの被害が出たかは知らないが、当事者の方々からしたら許せないだろうしな。……多少の恨みつらみくらいなら流さないとダメかもな……
そうしていると、北山に東も近くにやってくる。
「しかしへんびな所だな。都内とは思えないってか国内とも思えねえよ」
北山はキョロキョロして信じられなそうに言った。
辺りはほとんど何もないし人の気配もない。こんなに広い土地が余ってるなんて考えづらいほどに。
あるのはその砦とアジトのみ。
逆をいえばこの上なく目立つ。
……何故今までバレなかったのか不思議なほど。
「ここはローベルトコンツェルンの再開発地域……そう表向きにはなってたからな」
聞き覚えのある声が聞こえた。
そこには腕だけを縛られた丸坊主の大男。……ローベルト一味だった七人衆のダストの姿。
兵に連れられ俺達の前に突き出された。
「……ダスト、お前なにしに」
「小生はただここに連れて来られただけだぞ?理由ならそこのおっさんに聞きなよ」
正さんを見ると、
「朱雀、人質がおるのだろ?だからこいつらローベルト配下の者達と人質交換をしようと思ってな」
……なるほど。
それなら奴らも要求を飲むかもしれないし、労せず人質を取り返せるかも。
辺りを見ると、前に倒したローベルト配下と思われる魔族が複数人見えた。それにもう一人の七人衆トルーグの姿もある。
前にローベルトコンツェルン襲撃時にいた、子供みたいだがムキムキな奴だ。
※トルーグとの戦闘は11話参照。
今までの魔族がほとんどローベルトの手のものと考えると、この組織を壊滅させられれば、人間界の魔族の犯罪件数がだいぶ経るかもしれないな。
「ところで勝算あんのか?今度のローベルト様と七人衆は前より数段強いぞ。魔獣開放したみてえだしな」
「魔獣……?魔界でいう聖獣みたいなものか?」
「まあ端的に言えばそうだな。聖獣ほど便利じゃねえがね。抑えるのも大変だし、力が長いこともたない可能性もある」
それ故に使った日に戦いを仕掛けてきたのかもしれない。ならば今日戦うのは得策ではない。
……だが人質がいる以上そうはいかない。
天界としてなら人質を見捨て戦いを行わない選択もあるだろう。
でも俺の気持ちを汲んで戦闘を決意してくれたのかもしれない。
「情報、天界にいろいろ話してくれたみたいだな……」
「甘っちょろい小僧に力貸してやりたくてね」
少しバカにしたように話すダストに対し……
「……なら一緒に戦ってくれないか」
俺は共に戦うように頼んだ。
「は?何言ってんの。小生は元々ローベルト様の配下だぞ?そんなやつ信用できんだろ」
「……自分で言ったろお前。辞めるって」
※24話参照。
「まあ無理強いはしないが。仲間だった奴らと戦いづらいだろうしな」
ダストは神妙な顔をしていた。どことなく悩んでるようにも見える。
「朱雀、お主なかなか面白い事をいうの。敵だった相手に」
俺の発言に驚いてはいたものの、バカにしたり怒ったりはしていない正さん。
「……一度戦った相手だからこそ、悪いやつではないと思ったので」
「ふむふむなるほどのう」
「正隊長!」
兵の者が大声で呼ぶ。
「敵が砦から出て参りました!」
「そうか!来たか!」
視線を砦に映すと、砦からわずかな兵隊と、真ん中にリーダーらしき魔族の姿が確認できた。
そのリーダーらしき、一本角を生やした白髪ロン毛の顎髭マッチョな魔族が口を開く。
「やーやー天界軍諸君!オレは異能七人衆が一人、オンガーツ・ベルだよろしく!」
高らかに自己紹介してきた。
「ところで君たち伝令なんかよこして何か話したいことでもあるのか?」
「取り引きがしたくてな!」
正さんは叫んだ。
距離が少し離れてるため互いに大声で会話している。
いつの間にか伝令をよこし、交渉しようとしていたみたいだ。
正さんは部下に指示し、捕らえていた魔族達をオンガーツに見せるように前に出す。
「こやつらは前に捕えた貴様らの仲間じゃ!」
それぞれの顔を見て確認するオンガーツ
そして首をかしげる。
「だろうな見知った顔もいるし、七人衆までいるからねえ。で、そいつらが何よ」
「つまりこいつらと人質の交換といきたいわけじゃ」
「あ~そういうこと……」
「人数はこちらの方が多いんだ。認めてもいいんじゃないか?」
「ふ~ん……」
顎髭を触りつつ何か考えてる素振り。
「オンガーツ様!お願いします〜!」
「我らが開放されればこんな奴ら仕留めて見せます!」
捕らえられてる魔族が懇願しだした。
「おら!考える必要ねえだろ!早くそっちの人質連れてこい!」
トルーグは怒鳴りちらしている。対しオンガーツは……
「ん~~そうだな」
急に目を見開き両手を広げる。
その瞬間――ダストが叫ぶ!
「逃げろ!!てめえら!」
「遅え!!音波弾!」
オンガーツはピンク色の、魔力の弾丸を多数出現させ――
ズドドドドドドドド!!
一斉に放った!!
その弾丸は何も天界軍だけを狙ったわけではない。いや、むしろ仲間の魔族を中心に狙ったまであるかもしれない。
現に、身動き封じられていた人質の魔族達は逃げ切れずに……
「ぎゃあああ!!」「オンガーツ様ぁ!!」
「なん……ぎゃあああ!」
ほぼ全員が射殺されたからだ。
「ば、バカな!皆無事か!?」
弾丸の雨がおさまると、正さんは皆の安否を確認。くらった者はいたが死傷者はいなそうだった。
――やはりどちらかといえば仲間を撃ったのだろう。
「ど、どういうつもりじゃ貴様!仲間を……人質交換は!」
「受けるなんて言ってねえだろ。それにこんな雑魚ども必要ねえしね」
オンガーツは憎たらしく笑いだした。……こいつらに仲間意識なんてものは存在しないのだろうか?
今の一撃で生き残っていたトルーグが、ゆっくり歩きつつオンガーツの元へ近づいていく。
かなりくらったようで全身血まみれ。
「な、なんのつもりだよ、オレは、七人衆だ、ぞ……」
オンガーツは面倒くさそうにトルーグの近くによってくる。
「何度も言わせるな雑魚はいらねえの」
「お、オレが雑魚だ……と」
「そ」
奴はトルーグの額に音波の弾丸を打ち込む。――ドン!
「がっ……」
トルーグは白目を向いて死亡した。そしてその死体を、邪魔なものをどかすかのように、蹴り飛ばす。
「さあてゴミ掃除は終わったよ。天界軍の皆さん。本番の戦いといきましょうや」
とびきりの笑顔を見せてオンガーツは……ほざいた。
――つづく。
「まあ悪人なんてこんなものでしょうね。むしろぶっ飛ばしやすくていいかもしれませんね」
「次回 軍の兵器 あ、なんかそんなこと言ってましたね」
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