第32話  大事な友人

 窓から教室に入ってくると、久しぶりと言わんばかりに手を振ってくるリヴィロー。

 そんな仇に、北山は憎しみを込めた拳を振るう。


 だが爆炎の魔導弾を放ち、それが北山に直撃。彼は勢いよく壁に激突!

 攻撃をくらった部分の服と体が焼け焦げ、ただれてるように見える……

 たった一撃で北山にはそうとうなダメージだったと見受けられる。


「うっがあ……」

「わりいな乱、今日はお前に会いに来たわけじゃねえんだあ。用があるのは……」


 3人の女子に目を向ける。


「な、何!なんなんだよ!これ!」


 魔族について何も知らない須藤は慌てふためいていた。

 夏目はじっと睨みつけて動かず。九竜は戦闘態勢に入っている。


「二人共!逃げて!」


 九竜が叫ぶが。


「なんなんだよ!意味わかんない!」


 聞こえてないのか須藤は喚いて膝をついていた。


「おい、ゾラ。騒がれると面倒だ黙らせろ」

「了、解」


 リヴィローが何者かの名を呼ぶと、どこからともなく返事が聞こえた。まだどこかに仲間がいるのだろうか?


「う、」


 須藤が急に気絶した。

 リヴィローの仲間の仕業だろうかと、九竜は警戒する。


「だ、だれ!どこにいるの!」

「ばあか、誰が、わざわざ居所、教えるか、よ」


 どこからともなく衝撃を受け、九竜は吹き飛ばされる。


「キャ!」


 教室の机に激突。多くの机が壊れ崩れた。


「ゾラ、もう一人だ。狙いはとりあえずそいつだからよ」

「わ、かった」


 もう一人……残ってるのは夏目だ。何故夏目を?


「……なんだか知らねえけど、かかってくるなら相手……」


 言い終わる前に一撃をくらったか、気絶してしまう夏目。


「よおしじゃあそいつ連れて」

「待てっつーん、だよ、クソ、野郎……」


 なんとか立ち上がる北山。


「だーからよ。お前に用はねえってのぉ。今度遊んでやるからさぁ。兄貴の言う事は聞くもんだぞ?」

「誰が兄貴だクソ野郎!」


 一触即発のこの状況……。そのタイミングでたまたま席を外していた、あの男がやってくる。

 ドアが開き……


「いやあごめんごめん。時間かかっちゃってさあ」


 状況を把握してない東が九竜を待たせた事をわびながら入ってきた。そしてこの状況に気づく。


「――は?何この状況」

「やれツヴァイ」

「了解」


 瞬時に東の背後に目をバンダナで隠した怪しい魔族が現れた。

 即、攻撃開始――


九音切くおんぎり」


 目にも止まらぬ超スピードの九連続斬撃。完全に不意をつかれた東は防御もできずにまともにくらってしまう。


「……がっ!」


 だが倒れず踏ん張る東。


「何?仕留めれんかったか。リヴィロー!ゾラ!」

「任せろ」「了、解」


 リヴィローと姿が見えない魔族の魔導弾が連打!

 それもまともに全てくらう東。

 最後にさらに追撃の……


「こいつで終いだなあ。九音九十九切くおんつくもぎり」


 さっき以上の、目にもうつらない超高速の斬撃の雨。


 東の制服は裂け、血にまみれる。そして……


「死ね」


 最後の一撃の斬撃を受けると、そのまま窓を突き破り、外へ落下。3階から校庭へ真っ逆さまに落ちていった。


 外からは――


「なんだ!?窓割れたぞ!?」

「今人落ちなかった!?」「おいおい!?」

「キャ~!!」


 校庭にいたと思われる生徒達の叫びがこだましていた。


「う、そだろ、東が……」


 嫌な奴だとは思っていた。だが、実力は認めざるおえない……そう北山が思っていた東が、不意打ちとはいえああもあっさりやられるなんて、彼は思いもしなかった。


「フン。我々ローベルト様直属、七人衆の実力を見誤ってでもいたのか?あんな小僧わけはない」

「まあ乱が驚くのも無理はねえよ。少なくともこの前よりはおれ達七人衆はパワーアップしてるんだからなあ」

「パワーアップだと……?」


 リヴィローの発言が気になった北山。


「ああそうだぜ。実はおれ達は魔界に存在する魔獣の力を手に入れたのよお。それにより全員パワーアップよ。さすがはローベルト様。やられた後の事は考えておられたのよ」


 北山は前回のリヴィローにすら歯が立たなかった。それから北山は力をつけた。

 だがリヴィローはさらに強くなっているという……

 下手すれば差が開いている可能性もある。それは北山にとって絶望に等しい。


 ……だがその程度で諦めるような男ではないが。


「上等……だ。強くなったってんならその実力……見せて、もらおうじゃねーの」

「そんなボロボロで何言ってやがる」


 はっきり言って北山は立ってるのがやっとだった。


「安心しろよお。今日は見逃してやるからよぉ。こっちとしてはそこの小娘連れて行ければそれでいいんだ」

「ざけんな!」

「い~から寝てろ」


 もう一発、爆炎をくらう北山。


「がっ……」


 直撃を受け、あっけなく気を失いたおれる北山。


 これで残るは……


「うっぐ、くそ」


 九竜だけとなってしまった。


「おっとまともに会話できそうなのお前だけになっちまったな。しまったしまった。全員潰しちまったら伝言もできねえもんな」


 うっかりしてたぜと思いだしたかのように言った。


「で、伝言……?」

「そうだぜ。ローベルト様はまず朱雀に対して復讐を敢行したのだぁ。大事な者を人質におびき寄せるためになぁ」

「……この間の教団の連中といい、なんでそんな卑怯な真似しかできないの?人としての良心とかないわけ!?」

「あるわけねえだろバカかてめえ」


 聞くほうがおかしいと言いたげ。そもそもこの組織の連中はダストが例外なだけで人を家畜以下に見下してる者ばかり。

 言うだけ無駄なのだ。


 それでも言うしか九竜にはなかった。

 それだけ卑怯なこと、悪意に満ちたこと、人を人とも思わないこと。……それらが九竜にとっては許せないことだったから。


「……そうだな今日の七時までには来いよ。我らが新アジトで待ってるからよ。遅れたり、来るつもりなかったらこの娘の命はないぜ」


 気絶してる夏目が浮いている。

 どういうことだろうか?


「だがローベルト様は寛大だぞ?朱雀さえくれば良い。仲間は連れてきても構わないとも言っておっしゃった。ローベルト様とはタイマンしてもらうがなぁ」

「なにが寛大だ……女の子人質にして恥ずかしくないの?」

「るせえ」


 またも爆炎で攻撃。

 九竜に直撃すると、彼女は衝撃で吹っ飛び、奥の壁をぶち破ったすえに倒れた。


「よおし任務完了だ。天界軍が駆けつける前に帰るぞ」


 ――状況は北山と九竜は重症。

 東は生死不明。

 須藤は気絶で夏目は……誘拐された。


 そんな事は露知らずに神邏はいる




 ――神邏side


 ……どれだけの間、俺は寝ていたのだろうか?

 話を聞いてる途中で倒れ、気づけばこの病院にいた……

 あの、俺を知ってる様子だったおじさんが連れてきてくれたのだろうか?


「大丈夫〜おにーさん?」


 指輪に化けてる武器聖霊スピリットウエポンリーゼが心配してくれた。


「ああ……。まあ薬が効いたのか多少は楽になったな……」

「「なんだ珍しい。お前が素直に心配するなんてな」」


 もう一人の精霊シルフィードのイリスが茶化しだした。

 まあいつもなら雑魚だのなんだの言って煽り出しそうだし、そう思うのも無理はないか。


「い、いや心配ってゆーか、貧弱なおにーさんを煽っただけだし!それにいつまでも寝込んでられたら、あーしの活躍の場がなくなるからだし!」


 イリスの発言にはっとしたのか、照れ隠しにガタガタ言い訳をしだす。そんなリーゼにため息つくイリス。


「「……別に素直に心配でいいだろう。素直じゃない奴だ」」

「活躍の場……か」


 リーゼの言った事が俺には引っかかった。


「リーゼ、いやイリスもだが……二人共俺と共に戦う事を使命としてるのか?いやいやだったりは……」

「そーだよ。あーしら武器精霊スピリットウエポンは生まれながらにして、四聖獣の相棒となることを名誉として、日々研鑽してるし〜」

「「私はお前の魔力や人柄を気に入って手を貸すのを決めて宿っただけだ。私の力を使われようが、使わまいが別にどちらでも構わないが」」


 ……いやいや協力してるわけではないならよかった。


「「しかしお前が日々研鑽?そうは見えないぞ」」

「あーしは生まれながらのエリートで朱雀、おにーさんと相性よかったから選ばれただけだけどね~。朱雀聖剣サウスブレイドへの変換はおにーさんのおかげかもだけど」

「「お前が努力するようには見えんからな。納得いった」」

「は~?そっちこそ惚れたから~なんて理由の人に、とやかく言われたくないってのー。スケベ精霊イリス〜」


 内部の魔力が高まる。

 イリスが怒ったからだろうか?


「「誰がスケベだ!それに惚れ……まあそういうのは恋愛だけに当てはまる言葉ではないから良しとするが……」」

「エロい事考えてんの〜?」

「「貴様!」」


 俺の近くでやいのやいのキャンキャン騒ぐ女子精霊二人。


 ……だが、なんか落ち着く。

 少し孤独感あって寂しかったのかもしれない。


 だか、喧嘩はよくないし、話を変えるか。


「……少し元気になったしゲームでもしていいかな」

「え?いーんじゃない?」

「「おいおい……少しだけだぞ」」


 意外と甘いな二人共……

 カバン……は近くにあるな。一緒に持ってきてくれてたようだ。

 荷物を取るため席を立とうとすると……


「お、どうしたシン。トイレか?」


 ……あのときのおじさんの声。

 おじさんが今ちょうど病室に入室してきたみたいだ。


「……あなたは自分を助けてくれた」

「おう。周防武意人すおうたけいとだよろしくな。とは言っても昔会ってるんだぞ?おれたち」

「そうでしたか……。すいません」

「いやいいんだ。事情はわかってるしな!それにおれは、――ってそれよりなんか連絡入ってるらしいぞ」


 周防さんは小さい機械を俺に渡す。


「……これは?」

「天界での連絡機械っつーかなんというか」


 ……ようは電話だろうか?

 天界で人間界の電話が通じるわけもないし、天界内では必要なものかもしれない。


 ホントに小さく人差し指くらいの長さしかない精密機械。

 ただ見た感じ、ただの真四角の物体。スピーカーの穴とかそういうのはない。


「なんか軍に朱雀の居場所は?とか九竜が聞き回ってたらしくてな。それでおれが取り次いでやろうと思ってよ。ほら繋がってるぞ」


 ほらと言われても……。使い方わからないし、どうすればいいんだこれ。


 ……しかし俺の居所を聞き回ってたとはな。何かあったのだろうか?


「「朱雀!?」」


 真四角の機械から映像が飛び出してきた!映像を映す機械でもあるのか……。驚いた……

 そこには九竜が映っている。

 ――よく見ると怪我をしてる様子だった。


「どうした?何かあったのか」

「ローベルトの一味が学園を襲撃してきて……夏目さんを攫っていきました……」

「――何!?」


 目を見開き驚愕した。

 ……こうなる事を予測、いや万が一を考えて、身内全てとルミアにはボディーガードをつけてもらっていた。

 ――だが、なっちゃん達友人にはつけていなかった……

 正確にいえばつけてもらうように言ってはいたのだが……

 まさかただの友人を狙うとは天界軍も思ってなったろうし、ボディーガードの要請は遅れていたのだろう。


 だが俺に対しては友人でも人質として効果がある。それがローベルトにはわかっていたのだろう……


「とにかく詳しく話したいのでどこかで……」

「……俺の家でいいか?」

「分かりました!」


 映像が切れると俺はすぐに動く。


「すいません、帰ります」

「おいシン!」


 走る俺を周防さんも追いかけてくる。


 高熱だろうが関係ない……

 そう思い俺は走る。

 なっちゃんを救出し、そして今度こそローベルトを始末するそれしか頭になかった……




 ――???side。


 神邏が去って数分後……

 一人の女性が花束と果物をもって神邏のいた病室を訪ねにきた。

 だがそこにはもう神邏の姿はないのだが。


「……あら?」


 キョロキョロする女性。

 女性は看護師の姿が見えたので声をかける。


「もし、ちょっとよろしいかしら」

「はい?なんでしょう」

「ここに美波神邏という人が入院してると聞いたのだけど……」

「ええ。ここの病室ですが、あれ?」


 姿がないことに気づく看護師。


「トイレでしょうか?探してみますね」


 そう言って立ち去る看護師。


「……久しぶりに会えると思ったのだけど」


 ため息をつく女性。

 病室に入り神邏の眠っていたベットに座る。


「神邏……私の事憶えてるかな?」


 物思いに耽る彼女は語る。


「水無瀬ゆかり……あなたの許嫁よ」



 ――つづく。


「まさかまた誘拐とは……。 なんて奴らでしょう。てか許嫁ってなんですか?お呼びじゃありませんよ〜だ」


「次回 作戦会議 事は冷静に、ですね」

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