第31話  最悪のタイミング

 高熱の影響で気を失っている神邏。そんな彼を周防は病院へと運ぶ。


「心配はいらん。これはおそらく朱雀特有の高熱だ」


 周防は西木に説明した。


「朱雀特有の?」

「ああ。朱雀となったものが一年に一度だけ引き起こす重度の高熱。どのタイミングで起きるかはまったく不明なんだが、翌日になればすぐ直るらしい」

「一日だけの病気ですか」

「ああ。朱雀になった者の弊害なのかわからないが、歴史上の朱雀もそうだったと文献にも書いてある」


 となると心配はないという結論になる。一日安静にしてれば勝手に治るのだから。


「まあ今日はここに一日だけ入院させておけば間違いないだろ。ここの医者の腕は確かだからな!」


 周防はハッハッハッと高笑いしだした。


「そういえば周防さん、朱雀を知ってたようですが」

「ん?二年前修行つけてやった事があってな……」

「師匠だったんですか?修さんといい兄弟揃っての師匠だったのですね」


 神邏の兄、修邏の師匠…

 この周防という人物やり手かもしれない。


「……修はあまり教えることなかったがな。逆にいろいろ教えてやればあんなことにはならなかったかもしれんのに。……オレの責任だ」

「そんな……あれは修さんの責任ですよ。周防さんのせいでは」

「いや、いいんだ。それよりシンはどうなんだ?朱雀となったと風の噂で聞いてるが」


 愛弟子の活躍が気になるようだ。


「そうですね。朱雀としての活動も浅いのに活躍してます。Bランクの魔族を追い詰めたほどですから」

「そうかそうか。……さすがは修の弟だな。あいつには頑張ってもらいたいし、死なないでほしいもんだ……」


 寂しそうに、物思いにふけるかのような表情をしていた。





 ――学園side。


 神邏が病院に入院することになったその時間。学園は……今放課後。



「じゃあ私達先に帰りますんで」


 ルミアは北山と夏目、須藤の3人に言った。3人は掃除当番なもよう。


「美波もいねえし、オレらと一緒に帰らねえのか?」

「神邏くんの妹ちゃんに、私の弟と妹いますし」

「まあそんな大人数なら心配もねえか。最近は魔族の動きもねえしな」

「では」


 スタコラサッサと急いでルミアは教室を出ていった。


「なんか用事でもあんのか?あいつの家なんかやってるみたいだし」

「婆さんが旅館の女将だかやってるらしい。たまに手伝わされるとか言ってたな。あいつ意外といいとこのお嬢さんなんだよな」

「ふ~ん」


 掃除を始める3人。


「ねえ北山、魔族ってなにさ」


 須藤がツッコんできた。さっき北山は魔族のワードを話に出していた。聞かれるのも当然だった。

 事情を唯一知らない友人がいる中でそれらの話するべきではないというのに……

 本当に北山は迂闊だ。


「えっ?いや、あのだな」

「気にすんな須藤、こいつはただ厨二病なだけだから」


 謎なフォロー。いやこれフォローになるのか?

 ――と思いきや。


「ガキだなホント北山はよ!」


 笑いながら北山の背中をたたく須藤。……ごまかせたようだ。

 わりとこの子も単純だ。


「そんなんじゃ武内に好きになってもらえねえぞ~」

「うるせえ奴だなてめえはよ!そういう須藤は誰か相手でもいんのかよ」

「え、え?いやあたいは……そういうのはまだなんつーか……」


 突然照れだした。

 そういう話には弱いのだろうか?


「何だよその乙女みてえな反応はよ!似合わねえんだよ」

「んだとコラ!」

「……痴話喧嘩は後にして掃除しろ掃除」

「「誰がこんなのと!!」」


 二人は息ピッタリだった。


「だいたい背も胸も何から何まで小さいちんちくりんなメス、興味ねえっつーの」

「あんだと!こっちもデカいのは図体だけの器のちっちゃーい男興味ないわ!」

「あ!おれが一番言われたくないことを!」

「ホントの事でしょが!」

「……あ~うるせえうるせえ」


 呆れてる夏目。


「喧嘩するほど仲がいいって言われるだけだぞそんなんじゃ。だから将来結婚するってからかわれてるんだ」

「はあ?それ言ったら夏目だってこいつと喧嘩してるじゃん」

「喧嘩?バカ言え、シメてるだけだろ。第一、そういう恋愛事に興味なんてねえし」


 馬鹿らしいと言いたげに飴くわえて掃除を始める夏目。

 ……旗から見たらタバコ吸ってるように見える。


「それはそれでどうかと思うけどね。まああんたがまともにしゃべる男子なんて北山以外じゃ美波くらいだしね。てか美波とは幼馴染だっけ?」

「そうだけど?」

「北山はともかく、美波みたいな無口な優男と気性が荒いっていうか、ヤンキーみたいな夏目が昔からの仲だなんて意外」


「ともかくとはなんだともかくとは」と北山がぶつぶつ文句たれる。

 須藤は性格的に逆というか合わなそうなのにと思ったのだろう。


「……シンはこんな私でも一緒にいてくれたからな。私の事よく見てて優しいところもある……なんて言うのあいつくらいだし」


 少し照れくさそうに、だかどことなく嬉しそうに神邏の事を語る夏目。


「シンと一緒にいると落ち着くし、話も合わないってほどじゃねえし……無口だがそこもまたいいところっつーか」


 なんかのろけに聞こえる……


「まああんた、あたいらと知り合うまでは美波くらいしか友人いなかったもんね。ヤンキーだけど群れない一匹狼だし」

「べ、別にいなかったわけじゃねえし。……でも他のシンの幼馴染とはあんま話さなかったが……」


 いなかった事の否定はあまりできない夏目。


「まあでもシンは友人というより親友かな」

「おいおい美波の親友はおれだっつーの」

「付き合いの長さで私に勝てるやついないのにか?」

「そういうのは長さじゃねーっつーの」


 今度は北山と夏目の言い合いが始まった。


「親友ってのは同性ってのが決まってら」

「関係ないな。私はあいつの幸せを願えるほどの女だぞ。現にあいつにふさわしくない女は近づけないよう心がけてるからな。それは男の友人もおなじだが」


 という事はルミアの事は認めてるということだろうか。


 すると、ガラッとドアが開く音が鳴る。誰か入ってきたようだ。


3人はドアの方を見ると、東と九竜の二人だった。


「東……ここお前の教室じゃねーだろ何しに来たんだよ」


 いきなり挑発するような態度をとる北山。


「いやね、面倒くさいんだけど、九竜さんがいろいろ説明したいだのなんだの言うから仕方なく……ね。ところで君は……北ブツくんだったっけ?」


 対して煽り返す東。


「北山だ北山!なんだ北ブツって!デカブツからきてんのか!」


 沸点が低い……


「てか、説明?何の話だよ姫ちゃん」

「軍の……」


 須藤もいるから小声。


「なによなによ。学園のアイドルさんは人気者の東くんにも手をだしてんの?」

「手を出す?」


 茶化す須藤に対し、?マークが出てるかのように首をかしげる九竜。


「モテねえからって僻んでるんじゃねーよ。そもそも姫ちゃんはそんなんじゃねーし」

「僻んどらんわ!」


 やれやれとしながら東は教室から出る。


「えっ!?東くんちょっと!」

「違う違う。ちょっと喉かわいたから飲み物買ってくるだけ。教室で待っててよ」


 そう言うと東は上の階に上がって行く。売店は確かに上の階だし嘘ではなさそう。


 とりあえず待つか……。と、九竜はイスに座る。

 それと突っ立ってる3人。


「あの、掃除続けていいよ?」

「あ、ああそうだな」


 北山は真面目に掃除する。

 さっきはいやいややってたくせにと須藤は思う。

 夏目もまた黙って掃除。


 ……なんか急に機嫌悪そう。


 そういえば神邏にふさわしくない女は近づけないとか言ってたが、九竜はどうなのだろうかと北山は思った。だがこの不機嫌そうな態度を見ると、アウトだと聞かなくともわかった。


「なんだよお前、姫ちゃん嫌いだったりすんのか?」


 小声で話しかけた。


「……別に嫌いとは言わねえけど。ただ誰にでもいい顔して、いかにも自分はいい人ですよ~みたいな態度なのが癪に障るっていうか」

「自分と真逆っつーかできねえ事やってる姫ちゃんに嫉妬してんのか」

「……うるせえ」

「でもさっきの話しじゃねーけど美波に近づく女でも、姫ちゃんはいい子だからアリにはならねえのか」


 めちゃくちゃ嫌そうな顔をする夏目。誰がどう見てもってレベル。


「そんなに嫌か……」

「神条なら許せるが、九竜が美波の恋人になんて許せねえっつーか嫌だわ」

「あ、いやそういうことならおれも嫌だぜ?姫ちゃんはおれがねらってるし」


 いくら親友でもそこは譲らねえぜって態度だ。


「だったら早くおとせよ。あいつ誰にでもいい顔するくせに、ここぞなときはシンを頼るしムカつくんだ」


 この間の男子に囲まれた時とかのことだろうか?


「お前も須藤と一緒に嫉妬か?見苦しいって」


「「そういう事言うなよお。そんな態度ばかりしてると女の子に嫌われるぜえ?」」


「へ、おれは好きな子に好かれればそれでいーんだよ」


 ……

 ん?

 今この場にいるのは北山を除けば女子だけ。

 だが北山に今話しかけてきた奴の声は低く、とても女の子の声ではない。

 いやそもそもこの声はどこかで……


 北山は声のした方に振り返る。


 そこには開いた窓に座り込んでる魔族の姿――

 北山が憎むあの……


「てめえリヴィロー!!」

「久しいなあ乱!」

 ※詳しくは10話参照。


 神邏が高熱でダウン中。朱雀がいないこのタイミングで、ローベルト一味が動き出してしまった。


 まさに最悪のタイミングだった……



 ――つづく。


「あ~タイトルそういう意味だったんですね。一度負けたのに懲りない連中ですね」


「次回 大事な友人 また卑怯な手、してきそうですね」


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