第30話  高熱

 俺は西木さんと共に、先程の務所から少し離れた喫茶店へと入った。


 ――父親の死んだ戦いについて話を聞くために……


「二年前の、5月くらいだったかな。軍の上位ランカーが多く出払っていた時、帝王軍の急襲にあったんだ。南城門という場所で帝王軍を迎え撃った戦い。それが南城門防衛戦」

「……どんな場所なんですか?」

「そもそも天界は何者かの異世界からの侵入時、必ずある地点にワープされるようになってるんだ。別世界から天界内に入れるのは鍵を持つものに限られる」


 鍵……九竜に渡された物のことだろう。それがあるから俺は家から普通に天界内に入ってこられるわけだ。

 ※20話参照。


「侵入者がワープされる地点がその南城門とかいう場所なんですか」

「いや正確に言うならその南城門の前に別空間が3つほどあってねまずはそこからなんだ」


 その3つを突破された先が、その南城門となるとおそらく最終防衛ラインなのかもしれない。


「南城門は最後の砦、そこを突破されたら完全に天界への侵入を許すことになる。それだけは避けなくてはいけないことなんだ」

「……その決死の戦いで父は」

「うん。名誉の戦死を遂げたんだ。でもさすが英雄、火人さんは南城門を守りきったんだからね」


 聞いた話によると、父以外の主力は限られていたためその場にいた主力はほぼ戦死。

 被害事態は甚大だったらしい。


「その侵攻してきた魔族の組織が帝王軍。魔界にある強大な4つの勢力の一つで、支配地域はその中でも最大を誇るらしい」

「……」

「魔界の魔族達がこれ程力をつけていたとは予想外でね。なにせ天界最強だった火人さんが破られるなんて思いもしなかったから……」


 帝王軍は魔界でも最大級の組織。そんな奴らに攻められたから父親は死んだ。

 そんな相手、自分なら太刀打ちできないだろうと思う。……それでは復讐もクソもない。

 故に復讐で暴走するなんてことは考え過ぎな事だ。


「……父を殺した相手はわかりますか?」


 シャド、という魔族な事は知っている。ただ西木さんや天界人も把握してるのか気になっただけ。


「いや、すまない。帝王軍の者としか……」


 少なくとも西木さんは知らないようだな……


「……ところで、その戦いのとき君は現場にいたという話があったんだ」

「――!!」


 ……それは俺自身は知っていること。過去の記憶を夢でみていたからな。だがあえてそのことは隠してたのだが西木さんから触れてくるとは……


「そして君のお母様からの懇願で記憶を消した。君の記憶がないのは我々軍のせいなのだ」

「母の……」


 記憶消去は読めてたが母の頼みだったとは思わなかった。

 ……未だに軍入隊は母には伝えてないのは親不幸極まりない。


「でも記憶消去は魔力に抵抗のない、つまり魔力の低いものにしかできないことなんだ。君は当時天界の学園に通い、南城と互角に渡り合っていたという。ならそれには当てはまらない」

「低いというのは一般人クラスの……?」

「そう。だからありえない。そして九竜の話によると朱雀覚醒した日はその帝王軍侵攻の日……。だからますますありえないんだ」


 ならなんで俺の記憶が消えたのか……。謎が深まる。


「君も身をもって知ってるだろうけど、朱雀になったなら母親を説得してでも、軍にスカウトするはずなんだ。記憶消去の愚行をするなんて本来ないはず」

「……朱雀と気づかなかった可能性は?」

「記憶消去作業を行ったのは特殊部隊と言われる者達。魔力に関することならエキスパート……。だからそんな失態はありえない」


 なら考えられることは一つ…


「……朱雀であることを隠してたとでも?」

「うん。嘘の報告をした可能性がある」

「何故……そんなことを?」

「わからない。そして普通なら消せないはずの記憶を消せた理由もわからない」


 天界軍は一枚岩ではないのか?

 そんな疑問が浮かぶ。


「……そんなことしてなんの得が?まさか天界軍で内輪もめなんてことは……」

「ない、とは言い切れないね。今天界の王――五光大帝、光帝の座を争う動きもあるから」


 天界のトップということか?大統領だとか王様だとかそういう立場の……

 

「光帝……。でも、俺とそれは関係ないはず」

「うん、だから考え過ぎかもしれない。でも裏切り者がいる可能性はある。それを覚えていてほしい」


 理由はわからない。裏切り者とも限らない。

 ……何が目的なんだ?

 はっきり言ってわけがわからない。


「そしてその報告をした特殊部隊、彼らには特に注意してほしい」


 特殊部隊……どこかで聞いた気がした。


―――――――――――――――


『特殊部隊かつ♧の10皇舘文。よろしく朱雀』


―――――――――――――――


 ……遺産の話をしにいった時に会った人……

 ※21話参照。


 まあその人だけではないだろうし、これから特殊部隊という名前には気をつけて見るか。


 そしてもう一つ……聞いてみたかったこと。


「……あと、父の話ついでに聞きたいんですが」

「なんだい」

「……兄も天界軍として死んだのですか?」


 西木の顔が青ざめる。

 驚いたというよりついに気づいたかと察したかのような表情。


「まあ、そう思うよね」

「超天才だった兄なら軍でもトップクラスの階級で活躍してたと読めますから」

「……そうだね。修さんは並ぶものなどいないほどの天才だったよ。はっきりいうと英雄である火人さんも上回ってた」


 ……だろうな。

 予想外でもなんでもない。


 今まで英雄英雄と聞かされてた父よりも、兄のほうが数段上でも予想の範囲内。

 それほどに兄、修邏は優れた男だった。


「若年ながらも数多くの魔族を打ち取り、魔界でもその名が轟く人だった。天界の切り札キリングジョーカーと呼ばれてたし」

「……」

「若くして出世する修さんは、別枠のジョーカーズという組織のリーダーに任命された。そこには彼を慕う若い逸材が揃った。僕もその内の一人さ」

「西木さんがあいつの……?」

「うん。でもわりと独断行動も目立ち、上層部の中には煙たがるものもいた」


 話の途中なのに……少しめまいがする。なんだこんな時に……


「……そして考えられない事だけど、上層部の命令で任務中に事故と思わせ、不意をついて暗殺を企んだ者達がいたんだ。彼らはいずれ修さんが光帝候補になるのを恐れたのかも」

「そんなんじゃ……あいつはやれなかった……でしょう?」


少し息を切らす……。目が……かすむ。


「その通りさ。まともに傷すらつけれず返り討ちにあったらしい……そして修さんはそれを利用した」

「り、利用……?」

「自分の命を狙った上層部の始末。ジョーカーズは独立し、悪なる天界軍を壊すとね。その真の目的……実力行使で修さんは光帝になろうとしたんだ」

「……ゴホゴホッ」


 俺の様子がおかしい事に西木さんは気づく。


「どうかしたかい?調子悪そうだけど」

「つ、続けて下さい……」

「う、うん、それは別名――修の乱。……それもまた激しい戦いで……」


体がぐらつく……

……暑い……。喉も変な感じするし……これは……


 ついに俺はテーブルに倒れ込む。


「えっ!?朱雀!どうしたんだい」


 うろたえてわたわたする西木さんが見える……そんな時……


「なにしてんの。西木」


 そんな西木さんを見て、店にたまたま入ってきた、壮年の口ひげ蓄えたイケおじが話しかけてきたのが……見えた。


「あっ周防すおうさん!」

「まったく天下の四将軍ともあろう方がなにあたふたしてるんだか。ドンとしてなきゃいかんぞ?お前はこれからの天界のリーダーとなるべき存在、オレや黄木殿みたいな引退間際のおっさんとは違うんだからな」

「そんな、お二人共まだまだ――ってそんな場合じゃなかった!」

「だから一体どうしたと……」


周防という方は……テーブルに倒れてる俺に気づくと……


「シン!?シンじゃないか久しいなあ!」


 驚くと同時に、喜びの表情を見せる。……俺を知っているのだろうか……?

 天界で過ごしてた時の知り合いか?……だが、返事する気力も……ない。


「――って喜んでる場合じゃなさそうだな。何があった?」

「いえその突然倒れて……」

「見たところ高熱を出してるな。もしやこれは朱雀特有の……」

 

 周防さんは……俺を抱えあげる。


「とりあえず応急処置でも出来るところに連れて行くぞ」

「僕も行きます!」


 そうして俺を抱えながら二人は店を後にした……


 俺の身に、なにか起きたのだろうか……?


 ――つづく。


「し、神邏くん……だ、大丈夫でしょうか?心配です……」


「次回 最悪のタイミング いや予告とかどうでもいいです!神邏くんが〜!」

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