第29話 魔族との対話
俺は放課後、天界からの呼び出しを受けた。
前に戦ったローベルトの配下、異能七人衆ダスト。奴と話をさせてもらえる事になったからだ。
前にそれとなく頼んでいたので、ようやく許可が出たみたいだ。
……俺の性格上、大して知りもしない相手と話したいなんて珍しい事この上ない。
……それでも、魔族との対話をしなければいけないと思った。
天界でいう刑務所みたいな場所、そこの、面会室みたいなところに通される。
広いくらいで、さほど人間界とは変わらない。
俺の隣には他の兵と西木ミズチさんがいた。
そして刑務官と思われる人が、両手に錠をつけられ、囚人服のようなものを着せられたダストを連れてきた。そしてガラス越しの、向かいの椅子に座らせる
「よお元気そうだな朱雀よ」
ニヤリと挨拶してきたダスト。
「……そっちも、思ったよりは元気そうだな」
「へっまあな。なんか知らんが、小生は大した罪にはとわれないみてえだし、務所暮らしも今のとこは快適だな」
「……大した罪には、か。あんたあんな組織にいたわりには、大きな悪事はしてなかったってことか?」
「さあどうだかね。天界がそう判断したってだけかもよ?」
……何故かはぐらかすような言い草だな。だが天界軍が調べに調べての判断だろうから、そこは疑う気にはならない。
「ところで小生なんかと何を話したいんだ?ローベルト様の今の居所とかなら検討つかねえぞ。あんま信用されてなかったからな」
「……初めてまともに話せそうな魔族だと思ったからかな。……悪事にあんたが加担してないという仮定で話を聞くが、なんでローベルトに従がってた」
「なんで……ねえ。まあ借りがあったってのと、小生みたいな力も身寄りもない魔族は、組織に身を寄せるしか生きられなかったからかね」
そう考えると、魔界は力こそ全てな治安の悪い世界に感じられる。生きるために悪事を……
……だが、だからといって人を弄んで殺す連中に同情などできはしないがな。
「言っとくがこれは小生の場合の話な。ただ単に弱者の人間を痛ぶりたいってだけの連中も組織には多かったからな」
「……今まで戦った連中は確かにそんな感じだったな」
「それでもよ、ローベルト様は魔界にいたときはそんな悪い人じゃなかったと思ってたんだよ。……帝王軍が現れるまではな」
「帝王軍!」
隣にいた西木さんが反応した。
……知ってるのだろうか?
「西木さん……?どうかしたんですか」
「あ、いやその……」
「そりゃ動揺の一つもするわな」
ダストは西木を見てほくそ笑む。
「二年前の南城門防衛戦を起こし、天界に大打撃を与えたうえに……英雄、美波火人を殺した組織だからな」
「おまえ……!」
美波火人……俺の実の父親の名前だ。父を殺した組織……?
……初耳だった。死因は今だ聞いてなかったから。
……あのよく見る夢。
父、火人がシャドという魔族に討たれた過去を描いた夢……
その夢の出来事が南城門防衛戦?そして討ち取ったシャドという男は帝王軍……?
つまりその組織は俺にとって仇となる対象ってことなのか?
「……西木さん」
「す、すまない今まで言わなくて。君の父上が亡くなった戦だというのに……口止めされてるわけでもなかったんだけど、言いづらくてね……」
申し訳なさそうに平謝りする西木さん。別に責めてはいないが……
「いや、まあ俺も聞こうとしなかったんで」
「そうだったのかい?……まあ亡くなった戦の事など、詳しく知りたいとは思わないだろうしね」
聞かなかった理由は違う。
その後俺の記憶が消えたこと、 それが天界軍の仕業と推測したからだ。
消した理由もわからない。それが何か良からぬ事かもしれない。
……今はまだ、探りを入れる時ではないし、イリスにも忠告されたからだ。
ただ、それとなく聞くだけなら問題はないかもしれない。
父親が死んだ戦なのだから。
だが無闇やたらに聞くのも危険と思った。まだ軍に入って日も浅い。誰が信用できるかなど分からないし。
九竜や南城辺りならアリだが、そこらの若手はおそらく知らないだろう。
だが今回はうまくそのことに触れられた。このタイミングなら聞くのもありだろう。
西木さんは信用できる気が、しないでもないし。
「君は軍に入って浅く、まだ朱雀としての力もまだまだだ。そんな状況で仇の話をして復讐にとりつかれ暴走する……なんて事も考えられたからね。君がそうなるとは言わないけど、復讐は人を狂わせるし」
……確かに不用意に仇の話をするべきではないのかもしれない。
話を聞く限り、ローベルトなどとは比較にならないほど強大な相手なのだろうし。
それで復讐に駆られ挑んでも、返り討ちに合うだけだろう。
暴走してるとまでは言わないが、今現在復讐相手を倒すことに躍起となっている北山を見ているからこそ、納得せざるおえないな。
……それにまだその対象を見てないからピンときてないだけで、俺だって帝王軍やシャドを直接見たら、怒りに身を震わせる可能性も……ないとは言い切れないだろう。
「……理由は分かりました。でもこのあと、その戦いについてもう少し聞いても?」
「あ、ああもちろん構わないさ」
とりあえず言質はとった。
聞けることは聞いておこうと思う。
「……話を戻そうか。ダスト」
とりあえず帝王軍の事は後回しにして、ダストについて話を聞く。
「そうだな。帝王軍もといバラメシア帝国……奴らは急激に成長した組織だ。そして巨大戦力で各地に侵攻し、魔界で強大な勢力を気づきあげた」
「……」
「そして奴らはローベルト様の国に侵攻するとあっという間に占拠。まったく抵抗できなかった。当時ローベルト様は自らの力に自信があった。それがこのざまだ。プライドはズタズタだったろうな」
帝王軍……恐ろしい組織かもな。ローベルトと戦ったからこそわかる。あれほどの実力者が手も足も出ない組織なんて……
「魔力のランクがBもあるのに人間界へと逃げてくるなんて……と思ってたけど、戦に負けて追いやられたわけか……」
西木さんは納得してる。
魔界で生きられないほど弱い魔族が、人間を喰らいに来る。それが一般的な人間界にいる魔族。
だがBランクともなると天界軍でも上位ランカークラスの実力らしい。とても魔界で生きられないほど弱い魔族ではない。
それ故に別の理由を考えていたのだろう。
「……でだ、帝王軍首領兼、バラメシア帝国の帝王カオス。そいつはもうボロボロだったローベルト様のプライドを、さらにグシャグシャにした」
「……なにをしたんだ」
「奴は大人しく死を選ぶか、軍門に下るか選べと言ってきた。下れば国の者すべての命を保証するとな」
何だそんな事か……
つまり降伏すれば、すべての者の命を助けてくれるというのだろう。
配下になるのは嫌でも、死ぬよりかはずっといいだろうし、なんなら民にも手出ししないというのだ。悪くない話。
……それが悪い話になったということか?
「まさか……帝王は約束を守らなかったのか?」
考えられる最悪の事といえばそれだが……
「さあ?奴が約束守る気だったのかは、今となっては分からん」
……わからない?どういう事だ。奴は生きてるから死を選んだわけでもないはず……
「その発言でローベルト様の何かが切れた。ローベルト様は少数の使える者だけ連れて逃げた。部下を、民を盾にするなり、殺して爆炎で目眩ましをしたりしてな。要は見捨てたんだよ民をな」
……全く想像だにしなかった事だった。自分だけ逃げるために、他のものを犠牲にしたというのか!?
「とても昔はいい人だった。……なんて奴には思えないな。プライドなど捨てて軍門に下るだけで良かったじゃないか……」
「まあそれは小生も同感だ。世話にはなったが、それで仕える気が失せていた。とはいえ行くところもねえから、適当にしたがって今の今まで生きてきたわけよ」
まあ、そうだろう。王として失格だからな。
「……そう思うお前だからこそ、汚いことを嫌い、人質を開放してくれたわけか。やはりあんた魔族でもまともな人だな。少しでも話が聞けてよかった。あんたの人柄がわかったから」
「なんつーか、めでてえな。あんさん」
呆れるというか、どことなくバカにするようにダストは笑った。
俺は問う。
「……何がだ」
「こんな見ず知らずの魔族の言い分信じて、まともな奴とでも判断すんのかい?嘘だとか思わねえのかよ」
まあ口でどうとでも言えるしな。自分がいいヤツアピールしてるだけかもしれないし。
――だが、
「嘘ついてるならそうやってわざわざ嘘かも、なんて疑われるような事言わないだろ」
「わからねえぞ。小生は影で人を喰らいまくってる悪魔かもしれねえし」
「ただの予想というか直感だが、あんたは人を喰ってない気がする」
「――!!」
図星なのだろうか?ダストは口ごもる。
「確かに調べたところ、彼は人を喰ったり、殺した形跡は見当たらなかったよ」
西木さんが補足してくれた。
そうなるとたまたまだろうが、直感は当たっていたようだ。
俺は言う。
「まあそれでも奴らに協力はしてたんだろうし罪人ではある。ちゃんと罪償うんだな。もしその後行くところないなら、父親の作った町に住まわせてもいい。無論、悪事を二度としない条件だが」
「父親?美波火人が作った町だ?」
ダストはキョトンとしていた。
まあ当然か。
「人間、魔族、天界人が一緒に暮らせる町。別空間だがな。父親の夢だったらしい。すべての人類の共存が」
「全人類の共存だ?クク」
笑いをこらえるように震えるダスト。まあ、おかしな話と思うのも無理はないか。
「相当おめでたい奴だったんだな英雄さんはよ。あんさんも同じ考えだったりするのかい?」
「……立派な考えだと思う」
「立派ねえ……ただの夢物語ならともかく、本気で実現させようと思ってたなら相当頭お花畑だぜ」
「……何故?」
「魔族は人間を見下し嫌う。人間は魔族を恐れ化け物呼ばわり。そんな種族が共存なんてできるものか」
鼻で笑う。かなり呆れた様子。
「共存ってなると同じ世界に住むわけだろ?人間はどう思うかね?自分達をあっさり殺せる種族と住むんだぞ?寝首かかれるって気が気でないぜ」
「……」
「小生のように人を襲わない魔族だけを連れてったって、人間からしたらそんなこと知るかって思うはずだ。――例えるならこのライオンは人を襲わないから大丈夫、といって同じ檻に入れられるようなものさ。それでも怖いもんは怖いだろ?」
する気はなかろうが、殺ろうと思えばできる相手とは生活できないって事か。
……まあそういう人は多いかもな。
「お前も父親と同じ考えならやめとけ。全人類に、そんな理想世界押しつけるなんて不憫だろ?」
「別にそんな世界考えてないが」
「つまり所詮夢物語――ん?」
俺に否定された事に気づくダスト。
「いまなんつった?」
「そんな世界考えてないと言った」
「父親と同じ考えじゃないと?」
「いや、共存はいいと思う」
「なら理想世界考えてないってのは、どういう事だ?全人類に共用するんじゃねえのかい」
俺は首を横に振り、否定する。
「俺は父親の作った街に、差別せず、ほか種族と暮らしたいって人たちだけ住まわせる気なだけ」
「……なんか急にスケール小さくねえか。それにそんなやつ少しでもいるかね」
「行くとこない人はいるだろ。お前もそうだし……それに混血児とかな」
「混血……?それは盲点だな」
少し納得した様子だが、腑に落ちない様子を見せる。
「だがそれは共存ってほどじゃ」
「そんな街もあるってだけで印象違うだろ」
「確かに互いに手を取って生きられるという証明にはなる、か」
共存してる人がいるといないとでは大違い。現実に存在するなら共存は可能なのかも……と思わせることはできる。
「そんな街が少しでも増えていけば……見下し差別するものも将来的には減るんじゃないか?まあ、時間かかりすぎるだろうが」
「生きてる内には無理かもねえ」
「礎になれればいいだろ」
「……面白いじゃないの。まあ考えとくよ、その街に住むかどうかは」
父親の夢を理解してくれたよう。いや、これは父親というより俺が考えたものかもしれない……
父の火人がそういうやり方を考えてたとは限らないし。
「面会時間終了です」
兵の方が終了を宣言した。
「またなにかあれば答えてやるよ。いろいろと手伝ってやる」
ダストは晴れやかに協力を提案してくれた。
「……ああ頼む」
こうして魔族との対話は終わった。
やはり話せる奴はいる。全てが全て悪人なんかじゃない。
そう思うと父の願ってた共存の道も、けして不可能ではないのかも……しれない。
――つづく。
「なかなか興味深い話でしたね。亡くなったお義父さんなかなか立派なお考えですね」
「次回 高熱 え?風邪ですか?」
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