第28話  白虎参上

「授業、戻ったらどう?九竜姫御子さん」


 西ヒカリは、説得に来た九竜にごくごく当然の事を言った。

 しかし、九竜は話しを続ける。


「……朱雀が軍に入り、もしかすると青龍も加わってくれるかもしれません。その上白虎のあなたが戦線に戻ってくれるなら、帝王軍にも対抗できる戦力に将来的にはなりえます」

「そうかもね。でも私は戦いってものに嫌気さしてるの」

「戦いが嫌なのは朱雀も同じですよ?でも彼は結果的には軍に入ってくれました」

「そうね。あの子が入るとは思わなかったわ。……あまり危険な事してほしくないのだけど」


 ヒカリは神邏の身を案じ、少し心配そうにしてる。

 

「司令が、朱雀の身が心配なら時期に戻ってくるだろう。……なんて前に言ってました。お知り合いだったようですね。彼のためにも戻られたら……」

「……あいも変わらずムカつく男ね司令は」


 イラつき貧乏ゆすりするヒカリ。


「別に戻らなくても神くんの手助けくらいならできるでしょ。それなら激しい戦いもしなくていいし」

「四将軍がサポートだけしかしないと?四聖獣としての責務を果たそうとは思わないのですか!?」

「知ったことじゃないの私にとっては。もう人の生き死には見たくないから」

「朱雀がこれから先、帝王軍と戦うことになっても……あなたは戦線に出ないのですか?」


 貧乏ゆすりをやめ、動きがぴたりと止まる。


「いずれ奴らは天界、いえ人間界にも侵攻してくるはずです。そんなときに、あなたという戦力がいなければどうなるか……」

「……」

「あなたにとって朱雀がどんな存在かは知りませんが、大事なら一緒に戦って上げるべきでは?」


 ため息ついてから、ヒカリは立ち上がり薬の整理を始める。


「とりあえず戻りなさいな。…その話は考えておいてあげるから」

「では」


 頭を下げ九竜は部屋を出てった。



「……は~あっ。まあ、いずれ戻らなきゃいけない時が来るとは思ってたけどね……」


ヒカリは北山から取り上げた写真を見つめる。


「しょうがないから戦いに戻ろうかしらね。……あなたも見つけたいしね」





 ――神邏side。


「なんか結局美女投票できなくなったらしいな」


 北山が呟いた。

 教師達の妨害により企画は潰され たらしい。


「流れによってイケメン大好きクラブとかいうふざけた連中が、その逆のイケメン投票もやる気だったらしいし、潰れてよかったかもな」


 そんなものもあるのか。


「それって神条も入ってるやつじゃん」

「ち、ちょっとなっちゃん!!」


 ルミアが夏目をポカポカ叩く。あまり痛くはなさそうだ。


 北山は引くような目でルミアを見る。


「ええ……お前そんなん入ってんのかよ」

「いや、私は二次元専門の話しかしませんけどね。リアルは~その~一筋というか~」


 ルミアはモジモジし、顔を赤らめながら俺をチラチラ見ている。


 ……カワイイ。


「え~っとぉ~。は、恥ずかしいですね~」

「「あーハイハイ」」


 北山と夏目は興味なさげにあきれた。


 ……二人はカワイイと思わないのかな。

 

 というかもう昼休みだな。今日は弁当ないし売店にでも行くか……

 普段はありがたいことに義父ちちが作ってくれてるんだが、今日は寝坊したらしいのでない。


「……売店行ってくる」

「あれ?今日はお弁当じゃないんですか?」

「まあ、な」


 スッと皆から離れ、売店へと向かう。


「おーい美波、オレも行くぜ」


 北山がついてきた。そういえばいつも売店で買ってるらしいな。


 

 売店に着くと昼時とあって、そこそこ賑わってる。

 ……まあ仕方ない。適当に好みのパンでも買ってさっさと……


 ブン――


 ――背後から何かの気配を感じ、振り返る。

 すると何かが飛んできた。

 それをうまくキャッチし、確認すると……


 ただの紙を丸めたものだった。

 投げて来た者の姿は見えない。


 ……とりあえず、くしゃくしゃの紙を開く。

 近くの町周辺の地図が、そこには描かれていた。

 そして赤いマークがかいてあり、そこには……今魔族出現中と書いてある。


「「何だ?これは罠じゃないのか」」


 聖霊イリスが警戒。

 ――だが……


「そうかもしれないが。違うかもな」

「「どういうことだ?」」

「……まあとりあえず行ってみよう」


 俺は売店をUターンして、地図周辺に向かう。大して遠くはないし昼休み中に戻ってこれる。


 俺の様子に気づく北山。


「おい美波、どうした?」

「……魔族が出たかも」

「かも?まあいいや、オレも行くぜ!」


 北山と共に現場へと直行する。





 ――地図周辺。


 この周辺、人があまり寄り付かないようなところだな。……路地裏で薄暗く、建物の裏口とかもない。

 確かに魔族が潜んでいてもおかしくはなさそうだが……


 ――建物の影に気配、

 身を隠しつつ様子を伺う……


 ……そこにはローブを纏った、見るからに怪しそうな連中が複数。

 ほんとにいた……のか?

 だが魔族と決まったわけではない。まず確認を……


「おいコラてめえら!魔族だな!」


 ……思わずズッコケそうになる。北山が確認もせず、どうどうと奴らの前に出ていったからだ。

 ……もし魔族としても、逃げられたらどうするんだ……


「な、なんだ貴様!」「話聞かれたかもしれん!」「殺せ!」


 この反応。魔族で間違いはなさそうだ。結果オーライなのか?


「よし、腕がなるぜ。ここんとこまともに戦えてねえからな。リヴィローとの決戦前に腕磨いておかねえといかねえしな」


 拳をポキポキならす北山。

 いざ戦闘……。と、いきたいところだったのだが、

 

 ――急に何かを感じる。魔力?いや……これは!


「伏せろ北山!」


 そう叫び、北山を無理やり伏せさせる。すると、何者かが凄まじいスピードで現れ、あっという間に……


「うぎゃあ!!」「ぎあ!」「ぎゃあ!!」


 魔族を全員まとめてバラバラに切り刻み、殺してしまった……


 ……あまりにも一瞬の出来事。

伏せた時からものの数秒しかたってないのに……全滅。

 誰一人逃さず始末したようだ。


 ……そんな事を一瞬でやり遂げた人物は……


「大丈夫だったかな二人共!」


 ……ヒーローポーズをとりながら二人の安否を確認してきた。


「あんた、なんなんだ?ふざけた格好しやがって……」


 北山の言ったふざけた格好とは……ポーズのことではない。


 ――この人物、頭全てを覆うマスクというか仮面をつけて、全身タイツ、…いやスーツを身にまとっている。そして上半身と腰辺りにちょっとした鎧がついている。

スーツは真っ白で、マントを羽織ってカッコつけてる。


 要するに、ヒーロースーツみたいなものを着ているのだ。


「フフフ。申し遅れたけど私は……」


 ヒーロー的ポーズを決める。


「四聖獣の白虎!そしてまたの名を!ジャスティース!ウーマン!」


 決まった……というような態度をしてる。表情は見えないが。


 ――暫しの静寂。


「あ、あんた恥ずかしくねえのか……」


 口をあんぐりさせて呆れる北山。


 一方の俺はというと……

 ……わりと、カッコいいと思ってた。


 それと、もう1つ気になることがある。この声……だ。

 じっと俺はを見つめる。


 ちなみに女性なのはすぐにわかった。声だけでなく、胸がやけに大きく、スーツを着ながらも強調されていたから。


 ……俺の視線に気づくと、


「おや?どうしたんだい無口なハンサム少年。じっと見つめて。私に惚れたかい?」


 俺にはとしか思えなかった。


「あの、西ヒカリ……先生ですか?」

「――!?」


 ……彼女は大きくたじろぐ。

 ビンゴだ。


 北山はポカーンとして聞いてくる。


「へ?保険の先生?なんでそう思うんだよ美波」

「いや、声とかな。……あと、なんとなく」


 ジャスティスウーマンさんは、ため息混じりにマスクをとる。


「もう少し引っ張る気だったのに~気づくの速いよ神君」


 中身は予想通り西先生だった。

 北山は分かりやすくうろたえる。


「え?え?どうなってんだよ、先生は天界関係者だったっての?」

「……そこについては俺も知りたいですね」


 どことなく言いづらそうにしている先生。


「まあ一応、天界軍に席は置いてるけど休職中というか……ね。いろいろ事情あって、学園で働いてるんだけどさ」

「……紙くず投げつけたのも先生ですか?」

「まあね。ちょうど魔族の反応あったし、自己紹介かねるのにいいかなって思ったんだよ」


 他にも根掘り葉掘り聞くのもいいかと思われるが、あえてしなかった。

 事情があるというし、話しずらそうな事をしつこく聞くのも失礼だからな。


「……それでなんだけど、こういった町中で戦う時、市民に顔バレしたくなければ、神君もこういうスーツ着てみる?ヒーローみたいな気分でカッコいいよ」


 このスーツ着て戦うとなると別の意味で目立ちそうだが、顔バレが嫌なら悪くないのかもな。


「……まあ考えておきます」

「おいマジかよ……」


 ……北山は苦笑いしていた。

 


 ――つづく。


「……なんか、面白い人ですね」


「次回 魔族との対話 この前の相手……でしょうかね」


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