第26話  あいつのおかげだよ

 ――神邏side。


 敵はもう誰一人残ってないな。

 つまり、無事にななみちゃん救出に成功できたわけだ。


 ……本当に良かった。


 俺はルミア達の元へ向かおうとする道中、すでにノールを始末した東の姿を見かけた


「……もう倒したのか」

「当然でしょ、僕を誰だと思ってるの。あんな雑魚、相手になるわけないじゃん。そもそもボスをすでに始末してるんだからさ」


 教団がどんな連中で、今までどんな悪行をしていたか、結局詳しくはわからなかったな。

 まあ別に詳しく知る必要などないがな……


 東がここまで壊滅にこだわった組織だ。……ろくな連中じゃなかったんだろう。


「あ、東くん」


 九竜が恐る恐る話しかけた。


「ああ結局来たんだ君」


 来るなと行ったのに来た。

 東はそのことに怒りでも表すかと思ったが、あまり興味なさげ。


 まあななみちゃんは助かったし、教団は滅ぼした。だから機嫌がいいのかもしれない。


「そ、そのさっきは申し訳ない」


 頭を下げる九竜。

 救出を手伝う事で、軍入隊を考えるよう頼んだ事についてだ。


「助けてやるから見返りをよこせと言うようなものだったよ。……力あるものは世のため人のために尽くすのが正しい行い。……朱雀にも偉そうに言った事あるのに」


 見返りの要求、それは正しい行いだろうかと考えたのだろう。

 見返りなんてあろうがなかろうが、人は助けるべき。……それが根本から抜けていた。


 上司に頼まれ、どうやって誘えばいいかわからなかったとはいえ、それは言い訳にすぎない。そう彼女は反省したようだ。


「……まあ、謝ってるし水に流してやってほしい」


 別に大したことでもないしと思い、俺も東に頼んだ。

 そこまで根に持つような話ではないだろうし。


 東は気だるそうに九竜を見る。


「別に僕はそんな気にしちゃいないよ。ただ天界軍に嫌な感情もっただけ」


 充分気にしてるだろそれは……


「……でもまあ、君ら天界軍のおかげでななみちゃんの命は助かったわけだ。そこについては全員に礼を言うよ。……ありがとう」


 深々と東は頭を下げた。


 ……頭を下げた?あの東が?

 失礼かもしれないが、ついそう思った。


「お、おめえ、謝罪なんてできたのか……」


 北山が明らかに失礼な発言をした。いや、俺も思ったことだが、口に出すなよ……


「……僕をなんだと思ってるの。謝罪もできない礼儀知らずとでも思ったの?」

「あ、いやよ、プライド高そうで人をバカにした態度。おまけにななみちゃん見捨てそうになる冷血漢と思ってたから。意外で」

「全否定まではしないよ。でも僕のやり方じゃななみちゃんは死んでたわけだしね。僕も好きでやったわけじゃないし」


 いくら悪を倒すためとはいえ、なんとも思ってないわけではないということだろう。犠牲を出さないですむなら、それに越したことはないだろうし。


「ノール始末のお膳立ても、してもらっちゃったし借りはできたね」


 九竜は手をぶんぶん振る。


「そんな!借りだなんて……」

「気にすることはないよ。これは見返りとかじゃないからさ。まあ何かあったら、手を貸してもいいよ」


 ただ、やはりというか天界軍に入る気はなさそうだな。


 ……なら、


「……天界軍、今回の件で使えるとは思わなかったか?」

「ん?」

「お前の目的、……魔族を狩る事に対して天界軍の情報は使えると思うが……」

「……何が言いたいの?美波」

「利用してみるって意味で、軍に入るのもありじゃないのかって」


 利用というのは人聞き悪いかもしれないが、これは九竜も俺に言っていた事。そして俺自身も、最初はそのつもりで協力する事に決めたわけだが。


「……まあ考えてみるよ。利用するだけするってのなら悪くないしね」


 今までで一番好感触。

 九竜はそれに少し安心していた。


 そうこうしていると、ぞろぞろと天界軍の兵の方々がやってきた。戦場の後始末なり、倒した魔族の捕縛のためにやってきたのかもな。


「ご苦労さまです九竜様、後は我々が……」

「お願いしますね。えっと教団幹部は死亡していて、ローベルトの手のものが……」


 ダストにモルトレットの二人はまだ生きているようだった。

 故に捕らえて……


「おや?一人いませんが……」

「えっ!?」


 九竜は驚いて確認。


 モルトレットの姿が見えない……。倒れていた奴のことは九竜が責任もって確認していたのに。


「い、いつの間に!?意識を取り戻して逃げたの?」


『この方は回収させてもらいますよ』


 全員が声のした方へ視線を動かす。そこにはモルトレットを担ぎ、ローブをまとった仮面の人物。……情報屋の姿があった。


「何者!?」

「……情報屋って奴だ」

「情報屋!?こいつが……」


 そういえば九竜はまだ見たことなかったか。

 この前のローベルトの時といい、また救出に来たのだろうか?


 ――情報屋は口を開く。


「お久しぶりですねえ朱雀、あいも変わらず強いではないか……」

「ローベルトの協力者とか言ってたな。……そして教団へも協力か、何が目的だ?そして、なぜ多くの情報を持ってる……」

「目的?そうですなあ。それくらいは答えても構いませんよ。自分はね、天界軍が憎いんですよ」


 憎いとは言いつつも、笑うように語る。


「天界人を潰したくて、軍を滅ぼすために情報を蓄え、魔族の皆さんに売っているのですよ。情報源については我が能力のおかげとでも言っておきますかね」


 能力。……そうは言ってもどこまで信用できるか……

 嘘を言ってる可能性も高いし。


「何が情報屋だよ。奴らに僕の情報、うまく伝えれてなかったじゃないか」


 東があざ笑った。だが情報屋は意に返さぬ態度で、


「教団になど、最初から期待などしてなかったですからねえ。教祖もいないし、案の定壊滅されてますから」

「言い訳でしょ。情報源は知らないけど大したことないね」

「……君はその昔追放された青龍一族の一つ、東宮寺とうぐうじ家の末裔。両親は東紀之あずまのりゆき東光恵あずまみつえ夫妻。共に故人」


 ピクリと反応する東。

 ……情報は正しいのか?


「それから姉の東竜子あずまりょうこと親戚の家を転々とし、今は祖父母の家に滞在」

「まあ自宅とかはどうとでも調べられるしね」


 末裔の事はともかく、家のことなどは学校、親戚辺りから探る事は確かに可能か。


「一年前のある出来事により青龍へと覚醒するも、姉は植物状態になる。君が魔族を恨むきっかけだね。大体の者には復讐したものの、親玉はまだ健在で現在捜索中。君の最も憎悪する対象それは龍……」


 東は言い終わる前に切りかかった。――が、奴の姿が消え、一撃は空を切るにとどまる。


「どこいった!?貴様あいつを知っているのか!答えろ!」


 鬼気迫る表情の東。

 あまりにも余裕を感じない。

 …これほど頭に血が登るとは、相当な憎悪をその相手に向けているのだろうか……?


「直接会った事はないですよぉ。ただ情報を得ただけです。それにあの方は魔族の中では有名人でしょう。魔界四大勢力の一つですしね」


 姿は見えず、声が音響として響きわたる。どこから聞こえてるかわからない。


「知ってることを話せ!」

「四聖獣に話すことなどありやしませんよ。ではまた次の機会に」


 ……気配を感じられなくなった。逃げられた?

 それもモルトレットと共に。


 ……だが、


「……あいつダストは連れて行かなかったな」


 裏切る発言したからなのか、ダストは置いていっていた。


「仕方ありません。この魔族だけでも回収お願いします」


 兵に指示する九竜。


 ダスト。……あまり悪いやつには感じなかったな……

 そう思い、俺は……


「……こいつと今度話す機会もらえるか?」

「え?ええ大丈夫じゃないかな」


 少し魔族について聞いてみたいと思った。

 今まで会った者の中では一番話せそうな魔族だったから……





 ――帰りの道中。


 東はななみちゃんをおんぶして歩いている。

 兵や北山、それに女の九竜が運ぼうとしたりしたが東が断固拒否。この子に触るなという態度を見せたため、東に任せた。


 それからしばらくして、やっとななみちゃんは意識を取り戻す。


「あ、れ?龍兄……?」

「目、覚めた?大丈夫?どこか痛いとことかない?」

「う、うん」


 見たところ彼女に外傷はなかった。ただ眠らされていただけだったようで良かった。

 何かされてないか心配だったし。


 ななみちゃんはななみちゃんで、急に優しい態度とってる東に驚いた様子。


「ななみちゃん……でしたよね?何か覚えていることある?」


 九竜が優しく聞いた。

 ななみちゃんは少し考え、


「……よく、わからないけど怖い怪物に捕まったような……」


 ショックのせいか記憶が曖昧なのかもな。

 東は不服そうな顔をする。


「……あまり嫌なこと思い出させないでもらえるかな。もう終わったことだし」

「あ、ごめんなさい」

「記憶消せるんだろ?後で頼むよ」

「そこは任せて」


 ならいい、東はそんな顔をした。


「ねえ、龍兄が助けてくれたんでしょ?」


 ななみちゃんは聞いた。


 ………

 東は複雑な顔をする。理由はどうあれ、一度東はななみちゃんを見捨てようとした。

 僕が助けた……。なんて口がさけても言えないのだろうな。


 ……だが、


「そう。東が助けたんだよ」


 俺はかわりに優しく答えた。

 何!?っと言いたそうな、驚愕した表情でこちらを見る東。


「……俺達も手助けはしたけど、君が無事だったのは、……東のおかげだよ」

「やっぱり……やっぱり優しい、ななみの龍兄だったんだ!」


 喜んで東の背中に引っ付くななみちゃん。


 ……東は何も言わなかった。





 その後ななみちゃんを無事家に送り届けた。よかった。誰もがそう思った。


「美波」


 東が呼びかけてきた。

 俺は振り返り聞く。


「……何?」

「さっきの、なんだ。ななみちゃんに僕が助けたなんて嘘吐きやがって」

「……別に嘘ではないだろ」

「僕は見捨てようとしたんだよ。なのに……。僕に借りでも作ったつもり?」


 別にそんなつもりはない。

 だが東にとってはそう感じられ、そして苛立たせているのだろう。


「勝手な事言いやがって、ほんとムカつくよ」

「……別にお前のためじゃない。ななみちゃんのために言ったんだ」

「なに?」

「わざわざ会いに来るほどお前を慕ってる子に、君は見捨てられた。……なんて言えるか?嘘も方便、お前も好きで見捨てたわけではないのだし、あの子を喜ばせるためにああ言ったまでだ」


 全てはななみちゃんを傷つけないため。……それだけの事。


 それでも東は気に入らなそう。


「ほんと甘っちょろい。悲しい真実より優しい嘘か?偽善者らしいお前のしそうな事だね」

「好きに思え。偽善偽善と人に言い張る奴が、善人とはこっちも思えないしな」

「まあ、いいよ。一応助かったのは事実だし多めにみるよ。でも前に言った通り、これからも僕を邪魔するなら殺すからね」


 東はそう言って一人帰っていく。


「ほんと口の減らねえ野郎だな」


 北山が文句つけた。


「神邏くん、あまり気にしないほうがいいですよ」


 ルミアが俺の腕にふれる。

 俺は優しく頷き、


「……気にしちゃいない」

「ならいいんですけど……」


 東龍次。……これからも奴とはぶつかる運命になるかもしれない。

 ……そう思わざるおえなかった。



 ――つづく。


「なんとか無事に救出成功ですね!良かった良かったです」


「次回は章変わりまして、 保健室の美人先生 先生がどうかしたんですかね?」

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