第25話  三十三式・龍氷撃

 俺とダストの戦いは始まった。


 ダストは銃を作り出し、炎の弾丸を連発。

 魔力を撃ち出す、魔導弾という技が魔族にはあるのになぜ銃を……?

 何発も何発も撃ち続けるが、移動しながら回避して、一発たりとも俺には当たらない。


 ……見た目は普通の拳銃。

 だが弾切れを起こす様子がない。ダストの手を集中して見てみると……

 赤い魔力が、銃へと移動してるのがわかる。魔力を弾に変換し、放っている……?

 つまり魔力切れが起きない限りは、撃ち続けることができるということか?


 そしてもう一つ、魔導弾ではなく銃を使ってる理由……


「リロードの早さ……か」


 魔導弾は一発撃った後、すぐさまニ発目を撃てない。多少のリロードというか、時間が少しかかる。つまり多少のラグがあるわけだ。個人差はあるのだろうが。


 しかしこの銃は、魔力を送り続ければ勝手に弾丸へと変換し、放たれる。ゆえにそのリロード時間がない。

 一発の威力は低くなるが、連発が効く。


「「近寄らせたくないとかの理由があるなら、連発が効く銃のほうがいいのかもしれないな」」


 精霊のイリスが納得する。

 俺も同意見だ。


「まあ、剣使いを近寄らせたくないだろうから当然か」

「こっちも遠距離技のかまいたちでも撃てば?お兄さん」


 武器精霊スピリットウエポンのリーゼが提案。

 ――だが、


「俺は連発できないしな……」

「「それに遠距離技とはいえ、離れれば離れるほど威力は下がる。木属性は遠距離技にあまり向いていないしな」」


 そう考えると撃ち負ける可能性もある……か。


「「炎もそんなに遠距離に向いてるわけではないが、あの銃がその辺を補ってる。ややめんどうな相手だな」」

「なら、近づくまでだ」


 俺は走りながら剣を地に、その場その場で当てていく。

 何をしているのかというと、移動しながら地に魔力を送ってるだけだ。


 ダストを中心にして、円を描くように回りながら移動。

 どこから送っても、中心のダストのいる付近にたどり着くようにだ。


 ……準備が整い発動。


大地衝撃グランウェーブ


 地中から発生する烈風で、浮かび上がるダスト。


「なに!?」


 動きを止めるためにやったため、威力は抑えめだが、見事成功。銃の連射が止む。

 そのスキに、すかさずダストへ向かって斬りかかる。


「なら、今度はこいつだ!」


 ダストは大きな槍を作り出す。

 かの有名な蜻蛉切のようなデザイン。それで剣を受け止めてみせる。


 だがそれで攻撃は終わらせない。……俺は攻め続ける。

 今度はこちらの番。超スピードで斬撃を繰り出す。

 右、左、右、右、突き。

 連撃に連撃を重ね、相手を防戦一方に。攻撃こそ最大の防御戦法。


 ……いくら朱雀聖剣サウスブレイドが長剣とはいえ、さすがに奴の槍の方が長い。

 ゆえに剣が届かない範囲で攻められるのはまずい。

 だからこそ距離を離さないように距離を詰め、怒涛の攻撃を続ける。


 その様子を見て不適に笑うダスト。


「なかなかやるじゃん。でもよ、長物の弱点って知ってっか?」

「……?」

「懐に入られたらまずいって事だよ!」


 槍で大きく俺の一撃を弾き、そのスキをついて接近。

 そして槍が短剣に姿を変え、俺の懐に……


「終わりだ!」

「……どうかな?」


 首すじを狙われるも、俺は剣でガード、見事防いでみせた。


「バカな!?……なんで間に合った?」


 俺の剣の振りは速いとは思うが、それを計算に入れても防げないはず……と、奴は言いたげだな。


「……刀身、見なよ」


 俺の発言の後、ダストは朱雀聖剣サウスブレイドを見てみる。

 ――すると奴は驚愕する。


「み、短くなってやがる!?」


 長剣だったはずの朱雀聖剣サウスブレイド。……それがだいぶ短く、小回りききそうな長さへと変貌している。


武器精霊スピリットウエポン。……いや、うちのリーゼは有能でね。こういった芸当もできると前もって聞いててな……」

「……ゲヘヘ〜」


 褒められて嬉しかったのか?変な笑い方だなリーゼ……


 戦闘について忘れてることが多いからこそ、今自らができる手札くらいは確認済みだ。


 朱雀聖剣サウスブレイドの特性もそのため、前もって知っておいた。狭いところや、こういう状況では短くする事も必要のため、使える効力だ。


「厄介な代物をお持ちなこって」


 ダストは不意打ち失敗したので離れる。厄介ね……

 俺は言い返す。


「……人の事言えないだろ。さっきからころころと武器変えて……」

「コレは小生の能力だ。お前と違って、別の存在に力を借りてるわけじゃないからな」

「武器を変える能力?……思ったより地味だな」

「「いや神邏、魔力のこもった武器を作り上げるのは金属性の特性だ。能力じゃない」」


 イリスが否定するが、……その発言には違和感があった。


「金?いや、奴は炎使いだぞ」

「「むっ?そういえば確かに……」」

「なんだ?小生が金属性じゃないのにって思ったか?だからこその能力なんだよ」


 ダストは炎を手のひらに浮かべる。すると……銃に変換、槍に変換、ナイフに変換と、瞬時にいろんな武器へと変えていく。


「これが小生の能力、錬成だ。金属性の武器を借りたとしても、相性の悪さから火属性はそういった武器は使えないんだが、……小生はこの能力のおかげで、このように好き放題使うことができる」

「「金属性が常に使える特性。それを能力にしただけだろ?大したことは……」」

「大したことない、とでもおもったかい?」


 精霊のためイリスの声は聞こえてないはずだが、彼女の思考を読んだかのような発言。


「金属性の特性でこんなに素早くかつ、高度な錬成が果たしてできるかね。その上に別の武器への変換も容易ときたもんだ」

「……やけにペラペラしゃべるな。能力なら黙っといたほうがいいんじゃないか?」

「別に知られてどうこうって能力でもないし、それにお前さんも薄々感づいてたろ?」


 ……まあ、そのとおりではある。だがだからといって、そうしゃべるものでもないはず。

 おしゃべりなのも一長一短だな。真逆な俺みたいなのがいいとは言わないが。


 この男、明らかにこの戦いを楽しんでいるな……


 しかし邪悪さは感じられない……。ななみちゃんを返してくれたり、今までの魔族とは明らかに違う。


 ……こいつには話し合いの余地などがあるのかもしれないが……

 この戦いは奴への礼だ。

だからこそ、全力をもって相手するのが道理。


「しかし思った以上の強さじゃないの。たのしくなってきたぜ」


 ダストは先程の槍より、一回りデカい代物を錬成する。


「人質やお嬢さん方の身が気になるなら、離れてもらったほうがいいぜ?」


 俺は目でルミアに合図。

 ……心配そうな表情をするが、ルミアは動いてくれた。

 まずななみちゃんを背負い……


「九竜さん!離れますよ!」


 そう呼びかけ倉庫から出ていく。九竜もその後ワンテンポ遅れて出る。


「大丈夫かな彼」

「……心配ですけど神邏くんの表情には余裕が感じれましたし、…信じます。もし危なかったら助けに行きますし」


 何か話しながら離れてくれた。


 二人はこの場からいなくなった。ダストはそれを確認後、


「じゃあ始めるとするか。小生のとっておき、受けてみなよ」


 槍に炎の魔力がまとわれる。

 周囲の温度が急激に上がる。

 それにより、……汗が互いに流れ出す。

 俺はつい声を漏らす。


「……暑いのは、……苦手だな」

「いい若いもんがそんなこと言ってんじゃね~よ」


 ダストは槍投げのポーズをとる。


「行くぜ!必殺――槍大砲ランサーキャノン!」


 獄炎に巻かれた槍が放たれた!

 速度も速い!


 すぐさま対応。

 剣で受け止め、そしていなす……


「お〜い」


 ダストの声、ふと見ると……

 もう一発目の槍が用意されていた!


「一発で終わりとは言ってねえかんな」


 2発目の槍大砲ランサーキャノン


 ……さすがに2発は……


 ――ドォガアアアアアアン!!


 防げない……





 倉庫の半分以上が消し飛び、周囲に炎が舞う。

 あたり一面火の海状態。


「さすがに死んじまったか?2発はやり過ぎだったかね……」


 殺す気はなかったかのような態度。……こいつ一体何を考えているのだろうか。


 煙が多く、視界がはっきりしないなか足音が奴に聞こえる。


「ん?こいつはまさか……」


 足音が近づいてくると、煙も少し晴れ……


「……残念だったな。まだ生きてるよ」


 俺は奴の前に姿を表す。

 ボロボロではあるが、……無事だ。


 頭からかなり出血。

 緑の髪の毛が半分近く、赤く染まっているようだった。

 服は多少焼けてるだけで大したことはない。魔力のガードが上手くいった証拠だろうな。


「おいおい、傷の割にはピンピンしてるじゃねえの。頭の出血すげえのに」

「……出血?ああ、まあな。もう止まってるが」

「止まってる……?今受けたばかりなのに早すぎないか?」


 ……傷の治りが早いなんてレベルではないかもな。言われてみれば。


「お前さん痛くないのかい?やけに平然としてるけど」

「……さあ、どうだかな」

「わけわからねえぞ?傷の治りもそうだが、痛み感じてねえのか?少しもそんな素振りねえじゃねえか」


 普通なら確かに頭を押さえたり、苦悶の表情をしたりするかもな。それなのに俺が全くの無表情だから驚いてるわけか。


 まあ、確かに痛みなんてないが。朱雀の特性か何かかもな。


「……ところで、これでお前の手札は出し切ったんだよな?あの全力の技、それも2発。……魔力、そう残ってないだろ」


 図星。そんな顔を奴はしていた。ダストはあの2発で全てを出し切ったようだな。

 残ってるのは出がらしの、生命活動意地する魔力くらいなものか?


「……だったらなんだい?降参しろとかか?ざけんなよ。最後まで足掻くぜ。……お前さんの言ったようにな!」


 素手で殴りかかってくる。

 錬成する力もないようだな。


「……なら、全力で答えるだけだ」


 木の魔力を朱雀聖剣サウスブレイドに注ぎ込み、奴めがてけ……縦に振り下ろす!


 ――ザンッ


 全力の縦斬り――


 ダストの体は、切られた部位から激しく出血。


「ごっ!ぐっくぐ……」


 傷口を押さえ、後退り。


「……終わりだ」


 最後にもう一撃、……俺は放った。ダメ押しの一発だ。

 深い切り傷が奴の体に刻まられ、大量の血が吹き出すと……


「つ、強いじゃないのお前さん……こ、こりゃ小生の、…ま、負け、か」


 ぐらりと後ろ向きで、奴は倒れた。


「これで、ゲームオーバーだな」


 勝者 美波神邏。

 ……なんてな。





 ――東side。


 一方もう一つの闘い。東とノールだが……


「ごばあっ!」


 転がり倒れるノール。


「まだまだ、そう簡単に終わらせないよ?」


 拳をパキパキならす東。


 実力差は目に見えてるほど大きい。先程から、東の素手による攻撃でボコられまくっているからだ。


「こ、この罰当たりめ。年寄りはいたわるものじゃろ」

「あれだけ悪行重ねた奴が老人だのわめくなよ。悪なら僕は、老若男女構わずぶち殺すだけだからね。善良なご老人なら優しくするけどさ」


 東は左手でノールの左腕を掴み……握力でにぎり潰す。


「ぬぎゃああ!!」


 絶叫し、またも転がるノール。


「いいざまだね」


 今の一撃で、東の左腕の服の部分が破けた。凄まじく発達した筋肉。めちゃくちゃ太くガチガチだ。

 着痩せするタイプなのか、誰にもこんなムキムキと気づかれていなかった。

 ヒョロい神邏とは真逆。


 ただ特に発達してるのは左腕のようで、他は普通のムキムキくらい。


「こ、このままでは殺される。…ならば!」


 ノールは瓶のようなものを取り出す。


「儀式のために貯めておいた魔力だが、ここで使わせてもらう!」


 瓶をあけるとかなりの密度を誇る魔力が飛び出してきた。

 魔力の奔流。そしてそれは積乱雲のように漂う。


 二人の闘いを見物していた北山は驚く。


「素人みてえなおれでもわかるぞ。この魔力の強さ、……明らかにリヴィローを上回る力だ」


 北山なら太刀打ちできないほど、強力な力のようだ。


 ノールは笑う。


「フハハ!これで貴様を葬ってくれるわい」

「くだらない。……こんなもので僕を倒せるとでも思ってるの?」


 青龍魔槍イーストランスをクルクル回す東。

 高速で回すと、龍の紋様が描かれてる魔法陣が出現。


 氷でできたかのような魔法陣。


「フフフ。では互いのとっておきの技で決着つけようではないか!」


 ノールは動いた。

 積乱雲から雷がほとばしる。

 ――そして……


「死ねえええええええええ!!青龍ぅぅぅぅぅ!!」


 積乱雲が消え去り、雷撃が東めがけて放たれる。

 その衝撃で尻もちつく北山。


 一方の東もまた、ほぼ同じタイミングで技を放っていた。


「三十三式・龍氷撃アイスブリンガー


 魔法陣から螺旋を描くように、氷の龍が飛び出していく。

 その龍が通り過ぎた場所は一瞬で凍りつき、辺りは気付けば銀世界に――


 そして同じく、ノールの放った雷撃は凍りつき止まっていた。

 自分のとっておきが凍った事に驚愕するノール。


「なに!?」

「残念だったね。これでチェックメイトってやつだよ」


 龍はノールに襲いかかる。

 ――ズバババババッ。

 全身切り刻まれたかのような音が周囲に響きわたる。


「うぎゃあああああああ!!」


 ノールの悲鳴とともに、顔以外の全てが凍りついてしまった。


「ば、バカな……な、んで」


 敗北を信じられないノール。


「あの程度の魔力で僕に勝とうなんて甘いんだよ。舐められたものだね~。でもまあ、これで教団は全滅良かった良かった」


 満足そうに首を振る東。


「お、おのれ教団の、大義が赤龍が、き、教祖様お、お許しを」

「その教祖様もくたばってるんだからさ、地獄で再会しなよ」


 東はノールの顔に触れると、そこも凍りつき、分厚い氷が出来上がる。……そして。


 ――パアアン!と、ガラスが割れるかのように、一瞬で砕け散り、ただの水にかえっていく。


 ……ノールの体はない。

 全身氷そのものとなり、砕け水となったのだろうか?

 だが奴の魔力は完全に消え去り死亡確定。


 勝者 東龍次。



 ――つづく。



「無事終わりましたね~。東くんもなかなか強いです。さすがは青龍といったところでしょうか。神邏くんも無事でなによりです!」


「次回 東のおかげだよ お人好しですからね~。ま、そこがいいんですけどね」

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