第24話 それぞれの正義
東は突如として出現した、槍のような物で俺に襲いかかる。
――速い!
剣で受け切るも、一撃が重い。
パワーでは東が遥かに上回る。
刃を滑らせ槍を受け流す。そして少し距離をとる……
東の出した槍は、切る事も出来そうな鋭い刃もついており、槍の穂は大きな両刃。
柄も長く大きな槍だ。
おそらく
「……何?僕の槍ずっと見てさ。君のと同じ
東は槍をクルクルと超速で回転させながら振り回している。
……巨大な長物だが、こうもあっさりと振り回すとはな。腕力も相当なものと見える。
……そう考えると
いや、重厚感といい、ぶつかった時の衝撃を感じるとそうは思えない。
軽いのは
「……どかないとマジで殺すよ?いいの?」
「俺がどけば、ななみちゃんが殺されるだろ」
「……ほんとぬるい奴。甘っちょろい考えでみんな助けられるとでも思ってんの?こういう場合は見捨てるのも手なんだよ」
「……何も考えず、すぐに諦めるのもどうかと思うがな」
睨み合いがつづく状況。
そんな様子を見てノールは、
「お、おい!青龍ほんとに見捨てる気なのか!?お前の正義とはそんなものなのか!」
……何故か敵が説得するとかいう、訳のわからん状況。
「くどいよ。これが僕の正義さ。言ったろ?悪を滅するためならなんだって犠牲にすると。……これが覚悟ってやつさ」
「覚悟か……。大事な人を見捨てる覚悟なんて俺はもちたくないがな……」
俺の発言にため息をつき、呆れる東。
「だからあまちゃんなんだよ。偽善者が」
「偽善?……別にいい、偽善でもなんでも。俺は逃げずに、最高の結果を出すために戦うだけ。やる前から諦めるつもりはない。可能性がある限り、足掻く」
「あっそ……。ならその可能性断ち切ってやる」
東は周囲に冷気を発する。空気が冷える……
水属性の氷の力だろう。
「僕の冷気で骨まで氷つかせてやろう。十式・
氷の塊を作り出し放つ。
俺は風を放出し、風圧で防ぐ。
続けて何発も何発も放つ東。それらも全てガード。
遠距離技ではらちがあかないと判断したか、東は接近!
……俺は威力に押され防戦一方。
「ほらほらどうしたの?美波くんさあ!防御ばかりじゃ勝てないよ!?」
攻めてこいと挑発してくる。
東の冷気で俺の服や指、髪が少し凍る。……寒気もすごい。
「……仕方ない」
俺は自分に烈風を放ち、無理やり距離をとる。
そして――かまいたち!
「無駄」
東はかまいたちを素手で掴んで凍結、そしてそれを投げ返す!
凍結したかまいたちを俺は叩き切ると、さらにかまいたちを放つ!
「しつこいね!しつこい男は嫌われるよ!」
同じように凍結させて防ぐと、俺が視界から消えてる事に奴は気づく。
「上か?」
予想通り俺は上空へ。そしてそのまま急降下!
勢いそのままに東に斬りかかる。
「面白い!受けてやる!」
東は一撃を受け止め……
「な~んて。嘘」
東は大きな氷柱を作成し放つ。
「串刺しだ」
投げられた氷柱は俺にグサリと貫通……
――だが、
俺の姿は消え、樹木の姿に。
「変わり身……?」
「――後ろだよ」
俺は東の背後に。声に反応し、後ろからの一撃を防ぐ東。
その衝撃で互いに少し距離が空く、
………東は不機嫌そうに聞く。
「なんで、後ろにいると言った」
俺の言葉があったから、ガードが間に合った。無ければ直撃していたかもな。それが不服と見える。
……俺が声をかけた理由は、
「……別に俺は、お前を倒すのが目的じゃないからな。とりあえず余計な動きをしないでもらいたいだけだ」
「……なめた口を」
「すでに、ななみちゃん救出のために動いてもらってる。……奴らの注意を引きつけるためなら、このまま続けてもいいが」
「……なに?」
小声で作戦を話す。
……実はルミア達にもここに来てもらっている。
倉庫の裏から侵入し、強襲する事でななみちゃんを無事回収するために。
東に話さなかったのは、九竜もいるから。
個人的にはルミアは巻き込みたくなかったが状況が状況だし、それに彼女の力はかなりのものと、お墨付きを軍からもらったため仕方なく頼んだ。
「ちぃ……。人質が意味をなさないとは思わんかったわい。ここはスキを見て逃亡するのも」
ノールは後退りする。
「ダストよ、お前その人質……」
「なあおい」
ノールを無視してスキンヘッドのダストとかいう奴が、急に俺に声をかけてきた。
……まさか何か気づかれた……か?
「お前さん、なんでそこまでするんだ?」
「……何が?」
「この小娘のためにだよ。こいつはその青龍にとっての大事な子なんだろ?お前さんにとってはそうでもないんじゃねえのでは?」
……確かにななみちゃんは東にとっての人質だ。
俺に対してではない。
「……その娘とは確かに会ったばかりで大事な存在と言われれば……違うかもな」
「ならなんで?人間ってのは仮に大事な存在でも自分の命がかかってれば、そいつみたいに見捨てるのが普通だろ?青龍の言い分のが正しいまであるんじゃねえか?」
「別に他人がどうだとかは関係ない。普通だろうと、そうでなかろうと、俺は俺が正しいと思ったことを……してるだけ」
「……要はそれがお前の正義か?」
正義……?別にそんなことおもったことはない。ただそうしたいからそうするだけ……
「……さあな。本能なのか、正義なのかはわからないが……な」
「お前の独自の感覚なのかなんなのかは知らねえが、そうやって見ず知らずの相手助けようなんてしてたらキリねえし、身を滅ぼすぞ」
「悪人なら助けないし、無理のない範囲で勝手に言ってるだけだから、大した事はない。自称、正義のヒーローもどきだからな所詮」
俺は自虐するかのように言った。現にそんなたいそうな人間じゃないからな。
「無理のない範囲ねえ。そうは言いつつ、こんな危ねえ橋渡ってるじゃねえの」
「こんなの大して危なくない」
「ふはっ!言うねえ!教団や小生なんざ大したことないってわけか!」
ケラケラ笑っている……。何がおかしいのか。
「お、おいダスト!こんな小僧と話してないで、ワシの話しを!」
「ならよ、その実力見せてくれや。こいつ返すから」
ノールを無視して、ダストは放り投げた……
――ななみちゃんを。
「なっ!?」
「どけっ!」
俺を押しのけ、投げられたななみちゃんを優しくキャッチする東。
……必死に受け止めに行っていた。
口ではああ言ってはいたが……やはり心配は心配だったようだ。
自分の正義だなんだと、口で言い聞かせてはいたが、奴にとって苦渋の決断であったことはこの様子を見るとわかる。
なんとも思ってない……そんなわけない。
「だ、ダスト〜!!な、なにをしてくれたんじゃ!?ワシの、青龍を潰すための切り札を〜!!」
「どうせ無理だったろ。ガタガタ言うなって気楽にいこうや」
自分がやったことなのに他人事のように気にすんなって態度……。これはキレられるのも当然だろう。
こっちにとっては労せず助けられたから良かったというか、助かったが。
「こ、この!裏切りじゃぞ!ワシはお前の上司ローベルトと同盟結んどるんだ!ローベルトに対する反逆ともとれ……」
「もうめんどっちいからそれでいいって」
「なっあ!?」
「ローベルトコンツェルンもやめる!だから同盟も無し!それで気兼ねなくこいつと
開いた口が塞がらない……。まさにノールはそんな様子だった。
「で、だ。朱雀、人質は開放してやったんだ。お返しに小生と一対一の勝負してもらうからな」
「……なぜこんなこと」
「人質いたらちゃんとした実力見れねえかもだしよ。なぜ戦いたいのかって事なら、」
首をポキポキ鳴らすダスト。
「甘い戯言……他人すら守りたいというお前の覚悟をかって、実力が見てみたいと思ったからよ。いうだけの力があるか見てみたくてね」
「……よく、わからないが……ななみちゃんを返してくれた礼がそんなことでいいなら……断る理由もない」
俺は一対一を甘んじて受ける。
「……東、ななみちゃん連れて――」
「逃げろとでも言う気?嫌だね。僕はノールを始末しに来たと言ったろ」
「ならななみちゃんどうする気だ?安全なとこに連れてくべきだろ……」
二人が話し合ってる一方――
「くっ、こうなれば逃げの一手じゃ」
ノールはスキを見て、逃亡を図ろうと企む。
「奴らめ、揉めておるな……今なら!」
ノールは倉庫の裏口に走る。
「者共!撤退じゃあ!ワシを守れ!」
と、残りの自分の部下に呼びかける……が、
突如倉庫の裏口が爆炎で吹き飛ぶ。
「……は?」
爆炎にまみれて部下達が倒れ落ち、焼け焦げていた。
「ば、バカな!控えさせておいたわ、ワシの部下共が……いったい?」
「逃亡なんて許すわけないでしょ」
爆炎の中からルミアと九竜が出てくる。
ルミアは言う。
「ななみちゃん救出はする必要なくなったから、私達出番こないかと思いましたけど、ここぞって時にきましたね~」
「出番なんてないにこしたことないでしょ」
「そうですか?私神邏くんにカッコいいとこ見せたかったですし、出番あって良かったですけどね」
ルミアは黒い炎を手から放出。
――となると、この爆炎はルミアが起こしたもののようだ。
「
可愛く技名を言うと、可愛くない黒い爆炎が全ての部下を焼き尽くす。そして炎がノールの周囲をとりかこみ、逃げ場をなくす。
「な、なああ!?」
部下も逃げ場も無くしたノール。……もう一巻の終わりだろう。
「す、すごいね神条さん……。こんな力持ってたんだ」
やや引いてる九竜。
ただの人間だと思ってたからこそのギャップかもしれない。
……まあ俺も驚いてるが。
「私、魔力だけは凄まじいって評判でしたからね」
ルミアはえっへんとしてる。……可愛い。
でかい胸もなんか揺れてる……
「まあこれで逃げる事は不可能……。東君!」
九竜は東に大声で呼びかける。
「お嬢さんはアタシと神条さんが保護します!だからノールはおまかせします!自分自身の手で決着つけたいでしょ?」
東は唯一取り逃がしたノールの始末にこだわっていた。
それならば自らの手でやりたいだろう。なら邪魔をされたくないと九竜は判断したみたいだ。
「……ふーんお膳立てしてくれたわけ」
東は優しくななみちゃんを地に下ろす。ルミアと九竜は急いでやってきて、ななみちゃんを保護。
「まあ、一応感謝しとくよ。奴に逃げられる可能性はこれでなくなったからね」
「青龍の実力……見せてもらうね」
「……好きにしたら?すぐ終わるけどね」
東はノールの元へ向かう……
俺はダストと、東はノールと互いに一対一の戦いが始まろうとしていた……
――つづく。
「出ましたね私の必殺技〜。私結構強いんですよ」
「次回 三十三式・
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