第23話  だから言ったよね?

 ――指定場所の倉庫。


 俺達三人は倉庫の中へと侵入をこころみる。――だが、いきなり俺の前に雷のようなものが弾けた。

 頭上を確認すると、倉庫上に誰かいる。雷はこいつの仕業か……


「待ちな!青龍以外は通すなって、教団の奴らから言われてんだ!」


 ギザギザの刀をもった太っちょの魔族が、屋根の上から俺達を見下ろし言った。

 ――俺は問う。


「奴らから?じゃあ、お前は教団の人間ではないのか?」

「おおそうさ!ローベルト様直属の異能七人衆、雷刀のモルトレットさ!」


 ローベルトの手の者か……

 教団と協力関係にあったわけか。


「東、北山、……ここは俺に任せて先にいってくれ」

「いいのかよ」

「ああ……。頼む北山。」


 北山は頷き、先に倉庫内に入っていった。東は俺を無視するように素通りして同じく倉庫内へ。


 その様子を見たモルトレットは、


「おい!青龍はいいが、もう一人のデカいの!てめえは……」


 俺はかまいたちをモルトレットに向かって撃ち放つ。


「ぬおっ!?」


 そのギザギザ刀……。雷刀で防いで見せるモルトレット。


「ちっ、まあいいや。お前を始末してから、デカいのも仕留めてやる」

「そうは……。いかないな」

「ほざけ!」


 モルトレットは、そのデカいギザギザの刀をブンブン振り回す。

 それを全て紙一重で俺は避ける。


 剣で受け止めてもいいのだが、デカくギザギザなため、つばぜり合いになるとこちらだけ刀が刺さる可能性がある。

 それに雷刀というなら刀に電気を伝わらせて、感電させてくる可能性もある。

 だから可能なら躱すほうが賢い。


「ふん!ちょこまかとすばっしこい奴だな!うざいわ!なら!」


 突然後ろにジャンプして、少し距離をとるモルトレット。


「そらっ!」


 雷刀を前に突き出すと、ギザギザだった刀がまっすぐに!

 そしてギザギザの分だけ長く、刀が伸びてきた!

 ――速度は速い!


 だが、すぐさま反応し、朱雀聖剣サウスブレイドを瞬時に出してその刀の一撃をはじく。


 ……反応できたが少し驚いた。

 ギザギザが真っ直ぐ伸びてくるとは、思ってもみなかった。


「やるじゃねえかガキのくせによ!初見で避けられるたあ、思わなかったぜ!」

「……どうも」


 恐らく電気で痺れさせ、動きを鈍くして刀で切る。……というのが奴の戦法だろう。


 ただ異能とはいうものの、奴が能力持ちなのではなく、能力がついた刀を使っているだけみたいだ。


 ……あまり恐るるにたらない。


 俺は全身から風を放出。強力な烈風だ。それにより、吹き飛ばされそうになるモルトレット。


「ぬ!おおおおおお!!」


 刀を地に刺し、吹き飛ばないようにしがみつく。

 ……俺はそのスキに超スピードで背後へ回る。


「スキをついて背後から切るきか!させんぞおおおお!」


 何かしてくる様子だったが、意味はない。俺は地中に魔力を送り込み……


大地衝撃グランウェーブ


 モルトレットの足元から暴風が発生。そして風が奴の体を浮かしながら切り刻む。


「ぬわああああ!!」


 さらに地から樹木が生え、モルトレットの腕や足に絡みつき、動きを封じる。


「う、動け、ん!」

「……終わりだ」


 かまいたちを、動けないモルトレットめがけて撃ち放つ!


「うっぎゃあああああ!!」


 叫び声をあげ、倉庫に向かって吹き飛ばされる。そして扉をぶち壊し、倉庫内にモルトレットは転がっていった。


「が、あ、」


 ……気を失ったようだ。

 まず、モルトレットを倒せたか。


 俺も倉庫へと侵入する。内部の様子はというと……

 まず複数人の倒れた妖魔共。

 おそらく北山達が倒したのだろう。

 北山と東はほぼ無傷で立っている。妖魔共とだけ戦闘していたのだろうか?

 少し離れたところにスキンヘッドのゴツい男、さらに後ろには偉そうに地べたに座り込んでる、主犯らしき魔族がいた。


 主犯は髭面の老いぼれ。

 その主犯近くに大きな十字架、それに気を失っている、ななみちゃんがくくりつけられていた……


「おいなんじゃ。異能七人衆は幹部で強いんじゃなかったんかの?こんな訳のわからんガキに、あっさりやられておるではないか!」


 大変ご立腹の主犯。


「まあそう怒りなさんな。小生はそこの倒れてるモルトレットより数段強いんで安心なされや。ふああああ」


 対し、あくびしてヤル気なさそうなスキンヘッドの男。


「ふん!どうだかのう。でもまあよい。どちらにせよ有利な状況は変わらん」


 立ち上がる主犯。


「しかし青龍よ、相変わらずの強さだのう。おまけに七人衆をたやすく仕留めるお友達までいるとは」

「相変わらずってあんたとまともに会ったことも、戦ったこともないけど?それにこいつらが友達?冗談言うな。ていうか……」


 倒れてる妖魔どもの死体をちらりと見る。


「こんな雑魚程度で僕の力を測れると思うなよ。ノール・イシュター」

「ほお。よくもまあ会ったことのないワシの名前知っとるの」

「本拠潰したときに組織図見てね。もう一人いたのかって思って、お前の隠れ家行ったらもぬけの殻だったからね。よ~く覚えてるよ。まあ殺したらすぐ忘れるけどね」

「なるほどの……」

「たかが数人とはいえ、取り逃がすとは失態だよ。幹部7匹とバカな教祖は始末できたけどさ……」


 それを聞いた途端、ノールはブチギレる。


「そうだ!よくも教祖様を殺し、教団をめちゃくちゃにしてくれたのう!許せん!」

「何が許せんだよ。お前らの被害者のほうがそう思ってるよ。悪事を重ねた結果、因果応報ってやつでしょ」


 逆恨みだろそれ、と東は笑った。だがノールは怒りがおさまらずに激昂。


「黙れ!殺してやるぞ青龍!」

「無理無理。君らのボスこと、教祖ドレイク・アバターだって僕に殺されてるんだよ?部下の君に何ができんの」

「ふん!勝算ならあるわ!情報屋から教えてもらった、貴様の弱点でな!」


 情報屋……。やはり奴から情報を買っていたのか。


「弱点ねえ。ななみちゃんのことか?」

「ふふふそうじゃ……」


 予想通りな展開だ……

 侵入した後、俺が今の今まで何もせず、話を聞いていた理由がそれだ。下手に動いてななみちゃんを盾にでもされたらまずいからな。


「どうじゃ?この子を人質にされたら何もできまい。大事な子なんじゃろ?」


 十字架からななみちゃんを下ろし、スキンヘッドの男に担がせる。


「いいか青龍!ワシに攻撃なり、危害加えようとしてみろ!この小娘の命はないからの!」


 ……卑怯極まりない。

 プライドもクソもない、クズその者な発言だ。


「ダストよ。その小娘離すなよ、そして青龍共が妙な真似しようとしたら、殺してしまえ」


 スキンヘッドの男、ダストというらしい。


「……あ~りょーかい」


 ほんとにやる気無さそうに答えたダスト。

 ……だがやる気がないなら好都合。スキをついて、人質開放が容易にできるかもしれない。


 それに妙な真似したら殺せとは言っていたが、ななみちゃんは奴らにとっての切り札。

 そう簡単に手放すとは思えない。殺したら人質にならないからな。


 気づかれないように壁に穴を開けるか?その音で意識をそらして……

 と、俺がどう助けるか考えているさなか……


 ――東は口を開く。


「ななみちゃん……」


 気を失ってて声は届いてはいないが、気にせず話しかける東。


「僕はね、こういう悪い奴ら潰して回っているんだ。悪は許せないからね。……だからこいつらを仕留めたい」


 ……どこが悲しそうな表情をする東。


「でね、こいつらは君を人質にして僕を止めようとしてる。クズそのものだよね。……でもね、どうせこいつらは君を殺すよ。僕が動こうが動かなかろうがね」


 ………


「何故かというと僕らを殺すのに成功したら、人質は用済みになるから」


 ……ちょっと待て、


「殺られるつもりはないし、悪を逃がすわけにはいかない。……だからさ、ななみちゃん……」


 まさか……


「君を、……見捨てる」


 そう口にした瞬間、東は攻撃を仕掛けようとした!?

 俺はとっさに前に出て止める!


「……な、何考えてるんだお前。……見捨てるって……。正気か!?」

「そ、そうだ美波の言う通りだ!バカかてめえは!そんなことしていいとおもってんのかよ!」


 必死に止める俺と北山。

 そしてその様子を見て、うろたえつつノールは……


「せ、青龍!き、聞いとらんかったんか!?手を出したら小娘殺すんじゃぞ!?大事な娘じゃないんか!?」


 そんな三人に対し静かに、なかば呆れているかのように東は言う。


「もちろん正気だし、そんなことしていいと思ってるし、ななみちゃんは大事な娘だよ」

「い、意味がわからんぞ!大事な娘ならなんで見捨てる事ができるんじゃ!?普通はそれで何もできずむざむざ殺られるものじゃろ!」


 なんか敵なのに、東を説得しているかのようなノール。

 ……心なしか少し震えている。


「おまえは!そういう正義面した甘い男ではないのか!?」

「別に僕は正義の味方のつもりはないしね。だから人質とられて戦えない――なんて甘っちょろい考えはないんだよ。残念だったね悪党共」

「ほ、本気か貴様!」


 ノールとしては人質をとって、労せず東を討ち取るつもりだったのだろう。……こうなると必死にもなるか。


「……そういう事だからさ、どけよ美波」


 前に立ち尽くす俺に言ったが、俺は動くつもりない。

 退いたらななみちゃんの命がないかもしれない。


 ――俺は説得する。


「……諦めるな。策をねって、ななみちゃんを救うべきだろ。……そもそもここに来た理由は、ななみちゃんを救出するためのはず」

「そんな時間も暇もない。あとここに来た理由?まあななみちゃんを助けるのは確かに理由の一つだけど、教団の生き残りの始末が一番の目的だよ」

「……なに?」

「人質を取ることで安心でもしたのか、こうして僕の前にノールは現れたわけだしね。ななみちゃんのおかげだね。感謝しなきゃ」


 何食わぬ顔で言う東に腹が立つ……。俺は怒りを抑え、奴に問う。


「なら、ななみちゃんのことはついでだと言うのか?」

「……言い方はわるいけどそうなるね。僕にとっては人の命より、悪を始末するのが最重要。一人の命だろうが百人の命だろうが、敵一人始末するためなら無視するよ」

「悪を消すためなら、他人の命などどうでもいいと言うのか?」

「そうだって言ってるじゃん。……いい加減ウザいよお前」


 明らかに苛立ち始める東。

 ……だがそれは俺も同じだ。


「なら俺はお前を止める……」


 朱雀聖剣サウスブレイドを抜く。


「――だから言ったよね?僕の邪魔するというなら……」


 東は懐から何かを取り出し……

 ――動く!


「殺すって!!」



 ――つづく。



「ちょっと大変な事になってきましたね。無事に助けられるんでしょうか?」


「次回 それぞれの正義 人の数だけあるといいますもんね」

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