第22話  人質

 ――翌日。


 俺は東にななみちゃんに会うよう伝えようとしていたのだが……

 意外にも、東から俺たちの教室にやってきた。


「……東?」

「美波、お前あの後、ななみちゃんどうした」

「何がだ」

「無事に送ったのかって言ってるんだよ」

「……ああ。その叔父さんの家の前までな」


 東は何か書かれた紙を机の前に叩き出した。


「今日の朝、僕の家のポストに入っていてね」


 出された紙の内容は……


「「拝啓、東龍次殿。赤龍教団最後の生き残りノールです。お宅の大事な女の子を預かっています。夕方の4時頃指定の場所で待っておりますのでぜひお越し下さい。来られない場合お嬢さんの命の保証はできませんので」」


 ……それはななみちゃんを誘拐したという内容だった。


「……指定の場所とは?」

「裏面に書いてあった。それより本当かどうか、ななみちゃんの叔父さんと連絡とれるか」

「……いや、叔父さんの連絡先は知らない」


 少しため息交じりな東は決心。


「……仕方ない。行ってみるしかないかな」

「俺も行く。心配だからな……」

「ついてくるのは勝手だが、僕の邪魔はするなよ。したら殺すよ?」

「……物騒な奴だな。人を殺した事でもあるのか?」

「さすがに人はないよ。悪人とか犯罪者は再起不能にして、恐怖に苦しむほどのトラウマを植え付けてやったりしたことはあるけどね」


 ……なかなか過激な奴だ。


 話が聞こえたか、北山が寄ってくる。


「どうしたよ何かあったのか?」

「実はな……」


 北山に説明。


「そりゃえらいことだな。この話は神条とかには伏せて、俺ら三人で行こうぜ」


 提案に頷く。

 下手に話すとついてくるとか言いかねないしな。


「三人じゃなく四人では?」


 九竜も割り込んでくる。

 ……まあ彼女は天界軍だしいいか。


「その代わり、手伝いますんで東君、天界軍への入隊、考えてもらえないかな?」


 ……交渉下手くそか。

 そもそも東から手伝ってくれとか言われたわけでもないのに。

 そんな態度だと……


「ならいいよこないで」


 こうなる……


「え?え?ち、ちょっと、」

「そういう人の弱みに漬け込むような事をするのが天界軍なら、入る気になんてならないよ。僕自身はだいぶ昔の先祖がされた仕打ちなんて、気にしてなかったんだけどね」


 やはり逆効果だった。


 ……だが追放された先祖の事は特に根に持ってはいないようだな。

 まあ、そもそも追放された理由とかも知らないからなんとも言えないのだが。


「よ、弱みに漬け込むだなんて!た、ただあたしは考えてもらえないかと言っただけで……」

「同じ事でしょ?それに追放しておきながら、青龍の力を得たから手のひら返そうなんて……。わりとふざけてるよ、あんたら」


 まあぐうの音も出ない。

 これに関しては東が正論だ。


「あ、あたしも詳しくは知りませんけど、長い年月もたったし、反省の色が見えれば一族すべてを許す方向の話も出ていたと聞きますし、すべてを否定はしないでくれないかな」

「まあそもそも、僕の家系以外の一族なんて面識もないし、知らないからどうでもいいけど。かくいう僕の家族だって今や……」


 ……突然黙る東。

 もしや家族がいないのだろうか?


「……とりあえず軍の話は置いておこう。それとは関係なく俺は助けに行く気だったし」

「おれもおれも」


 俺と北山はその件とは関係ないし、何も言われるつもりはない。


「あ、じ、じゃああたしも今の話はなかったことにしてもら……」

「君はいいよ来ないで」


 ……バッサリ。

 まあ完全に信用無くしたといってもいい。


「そもそも誰の助けもいらないしね」


 そう言うと自分の教室に戻っていった。


「ど、どうしよう……」


 取り返しのつかないことをしたかもと、かなり冷や汗かいている九竜。


「……北山、励ましてやれ」

「え?」

「……好感度稼げるかもよ」


 俺がそう言ったら、目の色変える北山。


「姫ちゃん気にすんなって!あの子はおれらだけでも助けれるからさ!」

「それもだけど、完全に天界軍への印象が最悪に……。朱雀、ど、どうしよう」


 ……なんで俺に聞くんだ。そして学園で朱雀と呼ぶな。

 ……とはいえかなり気にしてるし、仕方ない……。尻拭いしてやるか。


「……まあ、ななみちゃん助ける時にそれとなく説得してみる。でも期待はするなよ」

「うう……」


 なんか泣きそうにしてる。

 ……この子こんなに頼りない子だったのか?


 最初にあったときの偉そうな態度、そして人を守るためなら自らの身を気にしない覚悟を見てたからなおさら驚く。


「何女の子泣かせてんだ」


 夏目と友人の須藤が九竜の様子に気づき寄ってくる。


「北山か?シンなわけないし」

「そうでしょ。こいつは人の気持ちわかんないだろうし」

「んだと!」


 いつもの喧嘩をしだす。


 その三人を遠目で見てると後ろからルミアがやってくる。


「神邏くん……」


 少し心配そうな表情。

 ……聞いてたのだろうか?


「大丈夫。こっちは三人もいるし助ける」

「何かあれば言ってくださいね」

「ああ……。ありがとう」





 ――そして放課後。

 指定の場所へと向かう俺、北山、東の三人。


 ……道中口を開く東。


「僕はね、悪い奴らを狩るのが趣味なんだ」

「……さっき言ってた、再起不能にしたりしたって話か?」

「そうそう。いろんな街に行ったりしてね。いじめっ子が逆に引きこもりになるようにしたりもしたけど基本人は殺さない。でも魔族は別」

「……」

「魔族は嫌いなんだよ。奴らは悪しかいないクズばかり。赤龍教団潰しもその一環。相当悪どいことしてたからね」


 心の底から憎しみを感じる。

 魔族に相当恨みがあるのだろう。

 ただ全てがそうとは限らないだろう。人間だって良いやつもいれば悪い奴らもいる。

 魔族だってそのはずだ。


 まだいい魔族に会った事はないがな……


「教団潰しはいいんだけど、取り逃がした幹部がいた。手紙を寄越したノールって奴さ。奴は僕を恨んでいるはず。だからこんな事をしたんだろうね」


 まあ、そんなところだろうな。


「でもまあ今回のケースはこれからも起こる可能性はある。悪や魔族相手とはいえ、潰していけば逆恨みしてくる生き残りいるだろうからね」


 ……それはローベルトを取り逃がしたとき俺も恐れた可能性だ。


 俺が思いついた最悪な出来事、それが東の身に起きたのだ。

 ……だからこそ身近に感じる。

天界軍に言って身内へボディーガードをつけてもらってはいるが。


「だからこそ僕は引っ越した。少なくともノールを始末するまでは周りに危険があると思ったからね」

「……ななみちゃんに厳しかったのは」

「近しい者がいればこうなる。だから遠ざけたまでさ」


 東には東なりの理由があったようだ……


「君らには身内だけでなく無駄につるんだ仲間も多いみたいだし。いつこんなように狙われてもおかしくないって僕からの忠告さ」

「お、脅かすなよ!そんな事あっても守りゃいいだろ!」


 北山は軽く考えてるのか強く反論。北山も少し考えたほうがいいかもしれないぞ。


「君たちはぬるいんだよ。大事な人が多ければ多いほど苦しむことになる……。それなら持たないほうがいいまであるよ。戦い続けるなら尚更ね」

「……持たないほうがいい?さすがにそれはどうかと思うがな」


 そこについては俺も納得しない。


「まあ勝手にすればいいけどさ。ただ僕は疑問があるんだよ。たまたまやってきたななみちゃんが、なぜノールの耳に入ったのか。あいつ僕をストーカーでもしてるのか?」


 昨日訪ねてきたばかりの女の子を攫った理由か。

 確かにずっと見張ってでもいない限り、近しい女の子と気付きはしないかも。前から知ってたならもっと前にやるだろうしな……


 考えられるとしたら。


「情報屋とかいう奴かもな」

「……誰それ」

「俺も詳しくは知らないが、魔族にいろんな情報を売る謎の人物らしい」

「そいつが僕の情報を売ったと?なんでそいつは僕の情報知ってるのさ」

「いや、知らないが……。単なる可能性の話だ。教団の比賀士とかに成り代わってた奴らも、情報屋から情報を買ってたらしいからな」


 人間界の魔族はほとんど情報屋から情報を得ているのかもしれない。ローベルト一味以外もそうだったのだから。


「でもそいつ僕の事は知らなかったのかね?教団の奴ら僕が青龍と気づいてなかったし」


 ……そういえばそうだ。前回は情報屋も東に一杯喰わされた事になる。


「ノールもそうだけど、生き残りは僕と直接会ってない。だからこそ青龍が誰なのか知らずあんな結末になった。それから僕の事調べてノールに僕が青龍とバラしたのかな?」

「……それが可能性として一番高いかもな」

「それなら詰めが甘そうだね。その情報屋とかいう奴。そんなに大した奴じゃないよ。でもこんななめた事してくれたわけだし、そいつも始末しなきゃね…」


 静かに、冷たく言い放つ。

 ……相当キレているとわかる。



 そして三人は指定の場所、ある倉庫の前にたどり着いたのだった……



 ――つづく。


「ほんとに悪い奴の考える事は下衆ですね許せませんよ!プンプン!」


「次回 だから言ったよね? ――?なにをですか?」

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