第21話  火人の遺産

 ――あの後、俺たちはななみちゃんの元へと向かった。

 意外と遠くには行っておらず、近くの公園のベンチにななみちゃんは落ち込んだ様子で座っていた。


 大丈夫だろうか……


「龍兄、ななみのこと嫌いになったのかな」

「……そんなことないよ。多分、機嫌でも悪かったんだろう……」


 俺は精一杯の励ましをする。

 今はそれくらいしかできない。


「そ、そうですよ!今日は少し変でしたけど、基本的に東くんは女の子に優しいですし」

「そうそう。特にファンクラブの子達にはね!」


 ルミアと武内も励ます。

 ……武内のファンクラブの子達という、限定的なのは微妙だが。


「ちょっとよう、晶子ちゃん。あいつのあんな態度見ても、まだ好きなの?最低な態度だったじゃん。あんなのよりおれのが……」


 北山が今は関係ない話をしだしたので、夏目が足踏んで黙らせる。


「いってぇ!」

「お前は黙ってろ」


 そんな中、あまり奴を知らないしよちゃんは……


「でも東先輩?なんか怖そうな人だったね。中等部でも名前知られてるくらい有名な人だったから、ちょっと意外っていうか〜」


 中等部でも有名なのかあいつ。


「そんなこと、ないよ!昔から優しかったし!友達はななみくらいだったかもしれないけど」


 と、ななみちゃんは否定すると、武内が意外そうに言う。


「え?意外ね。東君結構友達いるけどね。男女問わず」

「そうなんだ~友達できたならよかった。龍兄中学のときは友達ほぼいなかったし」


 人当たりは良さそうなフリしてるから少し意外。昔は態度悪かったのだろうか?


 中学の頃か……

 中3ならたかが二年前だから、幼いななみちゃんもギリ知ってる事なのかな……


「でも女の子には小学生の頃からモテてたけどね」


 と付け足す、ななみちゃん。


 ……ん?小学生の頃?

 そんな時まで知ってるって……


「……ごめん、ななみちゃん。君、年齢は?」

「え?13歳、中学二年生」


 中2!?と誰もが驚愕。

 小学生……それも低学年かと思ってた。


「嘘!?小学生かと……」


 つい口に出してしまうルミア。

 そしてすぐ口を自分で塞ぐ。


「あはは……よく言われる」


 見た目どころか、しゃべりかたまで子供っぽいからみんな勘違いするだろう……


「いや、おれはそこそこ年齢言ってるかと思ったがな~なんせ須藤とかに比べると、胸わりとあるように見えるし」


 ゲシッ!


 セクハラまがいに女の子の胸見たので、夏目に蹴り飛ばされ倒れこむ北山。





 それから、少し元気を取り戻したななみちゃんを泊まってるという彼女の叔父さんの家まで送った。

 東が会ってくれると言ったら、連絡すると伝えて……


 まだ何日か滞在するようなので、それまでに会ってやれと東を説得せねばと思う。





 そして俺は当初の予定通り、父の遺産の事で天界に向かうことに。

 聞いてた話によると、もらった鍵が使える扉が自宅のどこかにあるらしいのだが……


「ここですよ神邏くん」


 ルミアが何故か知っていたらしく案内してくれた。

 彼女は廊下に突然座り込むと……?

 床のタイルを取り外しだす。


 ……そこそんな簡単に外せたのか。自宅なのに知らなかった。


 そしてそこには階段があった。


「地下室ですよ」


 地下室があることすら知らなかった。いや、忘れていただけなのだろう……

 地下室の中、そこは何もないだだっ広い空間。

 そして魔法陣みたいなものが床に描かれていた。


「ここで呪文だかを唱えて、お義父とうさんは、家から天界に向かってたようですよ」


 ……おとうさんだとルミアのおとうさんと勘違いしてしまうぞ。俺の父親の事だろうが。


「でもこの鍵があれば……」


 魔法陣の真ん中にある鍵穴に鍵を埋め込み回すと……?


 ――部屋全体が光る。


 そしたら景色が変わる。


 同じく何もない空間だが、明らかに今いた地下室とは違う部屋だった。そして、そもそも地下ではなくなっていた。


 窓があり、そこから外の景色も見えるのがその証拠。


 外からは空飛ぶ車の姿が見える……。なんか、未来へタイムスリップした気分だ……


「天界につきましたよ。部屋出てみましょう」


 ルミアに続いて部屋を出ると……

 辺りは近未来都市のような世界が広がっていた……

 タイヤがついてない空飛ぶ車に、空飛ぶバイク。それどころかスケボーすら飛んでる。


 歩いてる人の服装とかは、さほど人間界とは変わりはなさそうだが、キッチリとした正装をしていて人間界とはまたセンスが違いそうだな。……興味ないが。


 空は見えづらいバリアーみたいなものが張ってある。

 雨とかが地面に落ちないようにするためか外敵のためか……

 建物は円柱状のものが多い。

 ……何で出来てるのだろうか?

 コンクリートや木材も人間界のものとは違ってそう。

 天使とかが住んでる神の世界みたいな物を想像したが、近未来的ではあるものの、人間界が進化した世界みたいなものにしか見えなかった。


「え~っと、とりあえず本部にでも行けばいいんでしょうか?と言っても私にもよくわからないんですけど」

「行ったことないのか?」

「まあその……すいません」

「ああいや、責めてるわけじゃない。俺なら行ったことあっても、方向音痴だから迷いかねないし」


 となると、どうしたものか。


 北山なら知ってるかもしれないが、奴は自分の家から向かうと言って一度別れたし、そもそも修行がどうこう行ってたからこっちに来るかもわからない。


「九竜が来るの待ったらどうだ?来るんだろ?」


 と夏目。

 ……着いてきてたのか。しよちゃんまでいるし。


「……なっちゃんにしよちゃん、なんでついてきた」

「細かい事気にするな。ちょっと天界ってのがどんなものなのか見てみたかったんだ」

「私も〜」


 まあ未知の世界だし、事情も知ってれば見に来たいのも仕方ないか。ここは危険もないし……


「……仕方ないな……」

「話がわかるなシンは。そういうとこ好きだなホント」


 笑って肩をポンポン叩くなっちゃん。……子供扱いか?別にいいが。


「……はあまったく。まあ、何言っても聞かないでしょうけど」


 少し呆れた様子のルミア。


 辺りを観光するかのように見て回るなっちゃんにしよちゃん。


「あまり遠く行くなよ二人共」

「それにしても遺産の話って何でしょうね?そういうのって亡くなった時に貰えるものじゃないんですかね?」

「さあな。まあお金じゃないんだろう。そうならすでに母親がもらってるだろうし」

「まあそういう話ならその間席外しますんで……」


 すると遠くから誰かが近づいてくる。二人いる。一人は九竜だ。


「すいません待たせました。今司令はある場所で待ってます。案内するので……」

「待った待った、ちょっと挨拶させてよ姫ちゃん」


 一緒に来た一人の男がいう。

 肌が黒くタバコをくわえた長身の男だった。


「どうもどうも特殊部隊かつ♧の10、皇舘文すめらぎたちふみです。よろしく朱雀」

「……どうも、美波神邏です」

「おやおや思ってたより線の細い子じゃないか。ちゃんと飯食ってる?」

「ええまあ……」


 タバコをプカプカしてるため煙い……

 九竜が咳払いする。


「皇さん。自己紹介終わったなら司令のところに連れていきたいので」

「ああ悪い悪い。早く行こうじゃない」


 ――道中。


「北山君からも話聞いてるけど、君、なかなか強いみたいじゃない。同じ10の階級なだけある感じだね」

「北山と知り合いなんですか?」

「同じ♧ってのもあるけど、彼の師匠の燕さん訪ねた時にね。まあ仲良くさせてもらってるよ。大変そうじゃん。ローベルトとかいうのや青龍の件とかさ」

「……いろいろ必死です」

「朱雀だし君には将来性あるからねえ。司令も期待してるんだろう」


 ……などと話してると黄木の待つ場所へ着いた。

 黄木司令が一人立ち尽くして待っている。


「ご苦労だな皆」


 九竜と皇が黄木司令に敬礼。俺も軽く頭を下げた。他の者は特になし。


「ここからは朱雀と、最低でも身内だけにしてもらう」


 まあ、遺産の話だしな。


「司令、その前に少し伝えることが」


 皇さんが手を上げて言った。


「緊急でないなら後にしろ」

「……すいませんでは」


 皇さんは下がる。……緊急事ではないのか。


「ではいくぞ朱雀」

「はい」


「……あれ?詩良里は身内だからついていっていいのかな?」


 しよちゃんが、聞いてきた。……まあ確かに問題はないな。


「身内なら構わんぞ。それに金ではなく土地だからな」

「……土地?」

「そうだ。火人が残した一つの街くらいの空間……」


 黄木司令が小さい鍵を取り出し、何もない空間に鍵を指しひねると、突然扉が出現した。


 天界に来たときみたいだ。

 また別の世界なのか?


「天界は天界だが、別の空間だから別の世界といえなくはない。さっきも言った通り、そこまでバカでかくはないがな」


 扉を開け、入るよう指示される。……少しドキドキする。


「……行こうか、しよちゃん」

「う、うん」


 俺としよちゃんは中へ侵入する。

 その扉の先には……

 ただの街並みが、視界にあった。


「な、なんか普通の街だね〜異世界とは思えないんだけど」

「……確かに……」


 人の気配はなく、いくつかの建物や、無人の店みたいなものがあるだけ。……なんかゴーストタウンみたいだ。


「これが父親の遺産?」


 これらの店を人に貸したりして、収入でも得ていたのだろうか?


「ここがなんなのかわからんだろう」


 と黄木司令が聞いてきた。

 俺は頷く。


「……ええ。……父はいったい、ここをなんのために?」

「火人はな、天界人、魔族、人間……3種族すべての共存を願っていた。それが奴の夢」


 すべての異世界人の共存……?

 争いもなく平和に……?


 ……あまり3種族に詳しくなくても無理がある、そう感じる。


 それぞれ住む世界があるのだし、無理して共存する必要性はないようにも思えるし。


「この街はその礎のつもりだったらしい」

「……というと?」

「共存を願う者達の住む街だ。人が増えれば、それから空間を大きくするつもりだったらしいが……志し半ばで、奴は倒れてしまったからな」


 そう言うと黄木司令は俺らをある教会へと案内。


「おお、これはこれは黄木司令」


 神父さんのような方が俺たちを出迎える。この街で初めてあった人だ。一応住人はいたみたいだな。


「どうも。彼が火人のご子息です」

「おお!そうなのですか。お父上には生前お世話になりまして」


 頭を下げてくる神父さんにつられて、俺は頭を下げる。


「い、いえ……」

「惜しい方を亡くされましたね。自分はあの方の考えに賛同し、ここで子供のお世話をしているのです」


 ――子供?

 それはどういう……


「え?隠し子ってこと?」


 しよちゃんがまさかって顔で驚く。

 ――もしそうなら……


「いえいえ!そうじゃありませんよ!あの方は奥様一筋でしたから!」

「……そ、そうですか」


 ……ホッとする。

 さすがに母になんて言えばいいのか……と思ったし。


「子供とは身寄りのない子供、それも魔族と人の混血です」

「……混血」


 そうか……と納得する。

 別の種族の混血……そんな子供はどの世界でも差別の対象になりかねない。

 そういった子供には、このような別の世界が必要なのかもしれない……


 黄木司令は言う。


「火人はここの経営も資金提供をしつつ、していた。入る者が多ければ、家賃などを払ってもらうことで収入にはできるが、今は教会のみなため、むしろ寄付してただけのような状態だった」

「……よくそんな金ありましたね」

「奴は天界四将軍、天界最高幹部だったからな。収入は天界トップクラスだったから当然だろう」

「初耳なんですが……」


 天界最高幹部?それに収入もトップクラス?その割には自分達は普通の生活してたが…

 人間界で贅沢なお金持ちな生活なんてしてない。

 ……まあその普通の生活できただけても幸せだろうが。


「すまなかった、言ってなかったか。火人は英雄で当時天界最高戦力だった。本当に奴の死は天界軍にとっても痛かった…」

「……それで、この街を俺に経営しろと?」


 さすがに荷が重いというかそんな暇もないのだが……

 いやそもそも金の問題も。


「いやそこは税金などで賄うし気にする必要はない。ただお前が火人の意思を継ぐ気があるのなら、この街を利用してもかまないというだけの話だ」

「……意思?利用?」

「例えばここの子供達のようにここにすみたいという者がいれば、ここに案内するだのしても構わないということだ」


 あまりピンとはこない。

 そんな子供とかそんなにいるのだろうか?

 だだもしそんな子がいて、見捨てずにすむなら良いのかもしれない。

 さすがに街を経営しろとか言われたらどうしようかと思ったが。

 そんな遺産ならいらんし。

 現時点では赤字間違いないわけだからな。


「まあ、そういう時がくれば…」

「ああ。もちろん無理する必要はないがな」



 俺としよちゃんは天界に戻ると待ってたルミアや夏目に説明した。別に隠すような事でもなかったので。


 一方黄木司令は九竜に一言。


「ところで九竜、お前青龍説得したのか?」

「あ、」


 完全に忘れていたようだった……



 ――つづく。


「いや意外な遺産でしたね。お義父さんはなかなか立派な人なんですね」


「次回 人質 え、なんか物騒ですね…」


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