第18話  儀式

 東田、東、比賀士の三人が下校  するやいなや、追跡開始。

 まっすぐ帰宅するだけか、寄り道するか、はたまたボロを出すか。ボロを見つけるなら追跡がバレないことが前提。


 この前の儀式と思われる魔法陣には、あえてまだ触れてはいない。理由は教団の動きが、天界にバレてないと思わせるためだ。

 とはいえ、あの場に軍が現れた事には気がついているはずだし、警戒して今日のところは行動に移さないかもしれない。


 根気よく、粘り強く張り込む必要があるかもしれない。



 ――北山side。



 まず比賀士を追跡中の北山。

 あまり警戒心があるようには見えない。普通に歩いている。


 北山は少し離れたところで、付かず離れず追っている。

 一人の男を連れながら……


「北山君、一体どうしたっていうんだい?比賀士君をつけるなんて」


 彼は大泉太郎。神邏と北山共通の友人だ。

 体格は大きいものの、気弱な少年だ。他の友人の安野とは真逆なタイプ。

 夏目が前に、比賀士と話してたと言ってた人物だ。


「いやよぉ。ちょっとあいつが怪しくてさ~。太郎ちゃん、あいつと知り合いらしいじゃんか。なんか知ってたら教えてほしいと思って」

「怪しいって……酷いな北山君。確かに比賀士君は少し、いやだいぶ変わった子だけど、そんなに悪い子じゃないって」


 食い気味に否定する大泉。

 こんなにムキになるならと、北山は聞く。


「――って事はよく知ってんの?」


 奴を庇うということは、それなりに親しい証拠だ。大泉は頷く。


「うんまあ、幼馴染みたいなものかな。家も近いし、最近はあまり話さなくなっちゃったけど」

「おれの第一印象は姫、九竜ちゃんに対する反応見たところ、ただのドルオタなんだが」

「うん。元々あるアイドルの大ファンだったんだけど、今や九竜さんのファンに鞍替えしたみたい」

「おいおい気の多いこって」


 北山は思う。


 (う~んドルオタなうえによわそうだし、……とても魔族とも、青龍とも思えねえな。太郎ちゃんも違和感ねえみたいだし)


 だが近しいものが気づかないのはおかしい事ではない。……なぜなら北山がすでに体感済みだからだ。


 (リヴィローみたいなことあるし、演技派なのかもしれねえか……)


 とりあえず大泉と共に見張るしかないようだった。



 ――九竜side。



 一方、東を追跡する九竜はというと……


「なかなか本屋から出てこない……」


 本屋に入った東を待ちぼうけていた。


「出口はここだけだし、他のとこから出たわけないよね?」


 もう一度三人の顔と名前の確認。


「東田辰巳、東龍次、比賀士竜。擬態可能な魔族なら、今までの言動が普通の人でも演技といいわけたつ。……青龍なら調べれば何かしらわかると思うんだけど……」


 青龍一族の血筋なり調べれば、出てきそうなものだからだ。


「でも天界軍からの情報は未だになし。どういう事なのかな……」



 ――神邏side。



 東田追跡中の俺だが……

 何故かルミアと夏目もついてきてる。


「……危険かもしれないんだが、なんでついてくるんだ?」

「危険ならなおさらですって。私回復とかできますし!」

「そうそう。私もシンの手助けくらいできる。東田がなにかしてこようとしたら守ってやるよ」


 ……やる気満々の二人。


 ルミアはともかく、夏目は魔力も扱えないただの人間……

 むしろそっちが危険だ。


 それに俺は今や朱雀なうえに、魔力を扱える。ただの人間が喧嘩ふっかけてきても、問題なく返り討ちにできる。心配は野暮だ。


 だが夏目にとっては今も、喧嘩したことないし、できない男と俺の事を思ってるのだろうな。

 天界などを知ってると言っても、話半分じゃあまり理解してなくても仕方ないが……


 ――俺は二人に忠告する。


「……一応言っておくが、東田は黒で多分間違いない。青龍か魔族かは知らないが」

「だから神邏くんが選んだんですね」

「……一番怪しかったからな」

「なにか決め手でもあったんですか?」


 ルミアの質問に軽く頷く。


「あいつ……。俺が一言も告げてないのに、魔族の事知ってたんだ」

「え?」

「俺はとしか言ってないのにな」


 他の二人は引っかからなかったのだが東田だけ、その安い引っ掛けにかかっていた。


「……少なくとも知ってるという事で人間の線は消えた。まあ天界関係者とかなら話は変わるだろうが、そんな情報ないしな」

「なら道中で人を襲うとかみたいはボロだせば、どっちか判明するわけですね?」

「そういうことになる。……昨日の今日だし、警戒してなにもしないと思うが」


 だがありえなくはないと思っている。あんな引っ掛けにあっさりかかるくらいだからな。警戒してない可能性もある。


 ただ……。まだなにか引っかかる。


 もし、東田が魔族だったりしたらあっさりし過ぎてる。なにか裏があるように感じてくる。

 ……そんな簡単にいくだろうか?そういう疑問に満ちていた。


 ちなみにこの怪しい三人に、引っ掛けるための罠が用意されている。

 それは人気のないところに、酔っ払いの人間を置くことだった。 それも数人。

 儀式というのがどういうものかはまだわからないが、複数の人の命を使っていた。

 酔っ払いなら寝てるし、暴れられる心配もない。あからさまな餌だ。これでもし食いつくようなら、教団の魔族確定と言っていい。

 ただこれもあからさまだし、そう上手くいくとは思えない。


 追跡中の三人は天界軍の伝令部隊によって、情報を共有中。

 なにかあればすぐ互いに連絡がいくようになっているが……



 まず動きがあったのは、東だったらしい。

 奴はやっと本屋を出るとUターン……。学園への道のりに戻っていく。


「え?なに、戻るの?なら……」


 罠の場所を変更するまでと、九竜は動くもよう。


 一方比賀士のほうも急にUターンしだしたらしい。

 北山は不思議がる。


「あ?なんだなんだ?バレたんじゃないよな」

「こっちは比賀士君の家じゃないよ。というか学園に戻ってるのかな?」


 大泉の声が聞こえた。


「なんでだ?忘れ物でもしたのか?ならこっちも罠変更の合図だ!」



 ……そして東田のほうはというとUターンはない。

 順調に家への道のりを通り、予定の罠が張ってある地点へ……


 俺は警戒しつつ、息をのむ。


「……こっちはなにもないな。まさか簡単に引っかかりはしないだろうが」


 東田は突然止まり、何かを察知したかのように路地裏へ。

 その路地裏に罠が張ってある。

 酔っ払い数人、人気ひとけもない。

 急ごしらえな罠だから、怪しいと感じられてもおかしくはない。

 だが別にここでかからなくても、後日ボロを出すのを待つだけだし、単なる実験にすぎないわけなのだが……


「……おい、嘘だろ?」


 俺は少し驚いた。


 東田は薄気味悪い笑みを浮かべると魔力を発し、爪を伸ばして酔っ払いに襲いかかろうとしていた。

 ……本当に引っ掛かるなんて……


 だがさっきも言った通り、これは罠だ。

 本物の酔っ払いではない。

 魔力をたれ流したホログラムだ。


「んあ?なんだコレ?」


 爪で引き裂こうとしていたのだが、触れないホログラムに驚いている東田。

 その背後から俺は、東田を蹴り飛ばす。


 ――ズガッ!


「ぬわ!」


 ゴミ箱に突っ込み、倒れる東田。だがすぐ起き上がる。


「て、テメエは!?」

「まさかこんな簡単に引っかかるとは思わなかったが……東田、お前魔族だな?」

「ヒヒ。ばれちゃ仕方ない……な!」


 煙幕を張られた!


 逃がすか!煙を吹き飛ばし、視界を晴らす。


「ルミとなっちゃんはここにいてくれ。すぐ軍の人が来るから」


 そう伝えると、俺は東田を追う。


「待ってられるか。どんなもんか見に行ってやる」


 ……この時、夏目は言う事聞かず後を追いだしていたらしい。


「あ!なっちゃんダメですよ~」



 ――北山九竜side。



 この情報は北山と九竜にも伝わる。


「え?東田が?じゃあ比賀士は白か?」

「なら東君も?」


 と二人が反応するが……伝令部隊が続ける。


「そのようですが、朱雀様はそのまま二人は追跡を続けるようにと言われております」


 ……二人は疑問に感じた。


 魔族が東田なら、残り二人は人間か青龍。青龍は人を襲いやしないだろうし、放っておいても構わないはず。ならここはみな合流して、教団の生き残りを仕留めるべきなはずなのに……と。


「……ん?」


 比賀士が罠周辺に来るも……。 まったく意に介さず、酔っ払いを無視して素通りしていった。

 つまり罠にはかからなかった。


「やっぱ問題ねえじゃん。おれは行くぜ!太郎ちゃん悪かった!もういいぜ帰ってもよ!」

「えっ!?北山君?」


 大泉を置いて、北山は神邏の元へ向かってしまった……


 九竜はというと。


「う~ん一応朱雀は上司になったわけだし」


 考えながら東を見張っている。


 こちらもまた罠地点につくも、東もまた素通り。酔っ払いをろくに見もせず去って行く。


「……まあそうよね。魔族ではないんだし」


 その後も追跡すると……

 東は学園に戻ってきた。


「……なんで?」


 そして東は体育館裏の人気ひとけのない場所へとやってきた。


「……怪しい。一体何を」



 ――神邏side。



 一方俺は逃げまどう東田を追う。


 奴は人の姿をしたまま、今度は逆に人通りの多い場所へと走り逃げている。


「くっ、これだと攻撃するわけにも……」


 かまいたちなりで動きを止めたいのもやまやまだが、こう人がいては撃つ事はできない。


 後ろを向き、東田は余裕を見せながら煽る。


「へっ捕まえられるものなら捕まえてみな!」

「……上等」


 ふと前を見ると、先回りしていた夏目の姿が!


「なっちゃん!?」

「別ルート走って追いかけたら、マジで挟み打ちできるとはな。私も運いいな!」


 何をバカな事を!

 待ってろと言ったのに……


 夏目はただの人間だ。

 そんな相手が道を塞ぐというなら、当然東田がすることは……


「死ねえ!」


 東田の手が銃へと姿を変え、夏目に銃口を向ける。


「させるかあ!」


 無我夢中で俺は地に魔力を送り込む。そしてそれは地中を潜り、一瞬で東田の足元へ。


 烈風が巻き起こり、銃口がぶれ、あさっての方向へ魔力の銃弾が飛んでいった。


 誰にも当たらなかったが、大きな銃声が鳴った。そのため周囲の人達が大騒ぎする。


「キャー!」「何だ何だ!?」「銃声!?」

「だ、誰か警察〜!」


 パニックになる民衆。

 そんな人混みをうまく避け、超スピードで東田の元へ走る。

 東田は烈風の影響で身動きを封じられていた。


 俺は思いっきり東田の頭を地に叩きつけ、動けないように乗りかかった。


 ――ドガアア!!


 地に口を擦り付け、まともにしゃべれない状態にした。


「ごばばばばっ」

「はあはあっ……。なっちゃん!無事か!?」


 俺が問いかけると夏目は腰が抜けたのか、女の子座りしてボー然としていた。


 だが彼女はすぐにはっとする。


「し、シン……。あ、ああ大丈夫だ……」


 いきなり銃を突きつけられたんだ。こうなっても仕方ない……

 いかに強がっても女の子なんだとわかる。


「……よかった。本当に……」


 心からの安堵。

 銃口を向けられたときはどうなる事かと、心配だった。


 しかし無我夢中でやった今の技は一体……?


「「面白い技じゃないか、地中を潜っているときはただの魔力だったのに、地上へ飛び出すと風へと姿を変え、対象を襲うとは」」


 魔力に宿る精霊イリスが関心する。


「……俺自身よくわからなかったがな……」

「「それ故に攻撃というより、動きを封じるのが精一杯だったのだろうな。後で名前をつけようじゃないか」」


 ……なんかウキウキしてるイリス。


「はあはあ……。やっと、追いつきましたよ……」


 遅れてルミアもやってきた。


「も~なっちゃんったら、そんなとこに座り込んでどうしたの……神邏くん?あれ?もう捕まえちゃったんですか!?」

「まあ、な……」

「それはよかったです!誰か軍の人でも呼びます?」

「もう向かってるだろう……。まあ、」


 俺は東田を睨みつける。


「個人的には、始末したくもあるがな……」


 夏目が殺される可能性があった。自分自身、よくわかるほど東田に対し頭にきていた。


 ……未遂だったからそこまではしないが、もしも最悪の事が起きていれば……。俺は……

 どうするだろうかな?


「それにしても、神邏くんの大声が聞こえてここにこれたんですけど、珍しいですね~あんな大きな声だして」

「……まあ、ずいぶん久しぶりに大きな声出したかもな……」


 それだけ必死だったからな。


「君たち!だ、大丈夫なのかい!」「怪我とかは!」「そいつ銃持ってたのによく取り押さえたね!」


 パニックになった民衆の皆さん方が騒ぎだす。

 銃をもった男を俺が取り押さえた事で、冷静さを取り戻し、話しかけてきたようだ。

 正確にいうと手が銃になっているのだが、そこまでは気づいてないよう。


 俺は怪我はないことを皆に伝える。


「あ、……いえ、大丈夫です」

「本当かい!?」「すぐに警察来るから!」

「いや~すごい勇気だよ」


 褒められて少し照れくさい……


「……照れてる神邏くん……カワイイ」


 どこからともなくカメラを取り出したルミアは、俺をパシャパシャと撮影しだす。


「人見知りカワイイ……。赤くなってる神邏くんカワイイ……。え、エヘヘ〜」


 ……ヤバいくらいニヤけ、ヨダレを少したらしているルミア。

 ……どうしたんだルミア。よだれふけ。


 身動きを封じられ、完全に捕らえられた東田はというと。苦悶の表情でもしてるかと思いきや、


「ひ、ひひひひひ」


 何故か笑っている……


「朱雀よお、これで勝ったつもり、いやこれで我ら教団の策をやぶったつもりかあ?」


 ……なんだ負け惜しみか?

 だが、こいつのこの余裕な態度……。やはりまだなにかあるのだろうか……?

 俺の予想した嫌な予感通りに奴は言う。


「おれの任された指示はなあ……お前の注意をひきつけ、学園から離れさせる事だったんだ」

「――何?」

「人間界で活動してる天界の連中の中で、一番厄介なのがお前と情報屋に聞いていたからな。そこで上司の指示で、おれが囮になったんだよ。儀式の邪魔をさせないためにな!」


 罠にかかったのはわざとだったということか……


「……儀式とはなんだ?他に仲間がいるのか?」

「もう遅いからな……。教えてやるよ。仲間ならいるぜ。お前らが疑ってた人物の中にな」


 ――!!


 魔族はやはり一人ではなかったのか……


 発見された魔族は一人だった。そして残党が複数いるとは思わなかったから、天界軍は油断していたのだろう。二人目がいるとは思わずに。


 では儀式なんてものを仲間がいるのに、一人でやっていたというのか?


「儀式はな、そもそも上司がやってた事で、おれはただ一緒に今までいただけだ」


 一緒?


「わからねえか?そもそもお前らどうやっておれらの事知ったんだ?」


 アゼルを通じて軍に、それから俺達に伝わったらしいが……


「聞いた話だと、魔法陣を見て教団の物と判断したらしいが……」

「それで魔族が一人と判断した理由は?」

「……目撃者……」

「だよな?」


 目撃者のおっさんが一人の魔族に襲われたところを、青龍に助けられたと言う話と聞いている。


「目撃者が青龍と魔族一人と言ってたんだろ?もしもそいつが脅されて、嘘の情報を流したとしたら?」


嘘……?魔族が一人ということ?

いやそれも間違ってはいないが、



「……まさか、青龍がいたという話は」

「そう!真っ赤な嘘だ!目撃者に嘘を言わせ、一人の魔族を隠す。青龍を仲間に入れたい天界は強行手段で、我らを捕らえる方法を取れなかった!」


 東田は計画を話した。


 ……完全に踊らされていたのだ俺達は。襲われた人間が嘘を言うと思わなかったのだろう。


 してやられた……


「そしてたまたま、おれらと候補に入っていた人間……そいつを儀式に捧げる事で、任務は完遂されるのだフヒハヒハ!」

「そうはいかない。他の二人は仲間が見張っている……。どうにかしてくれてるはずだ」

「なにぃ!?おれがそうそうに正体明かしたのだから、こちらに向かってるんじゃ……」

「念のために尾行は続けさせてる。こんなこともあろうかとな……。で、お前はいい加減寝てろ」


 思いっきり魔力を手に込めて、東田を地にたたきつけた。


「がっ……」


 東田は気絶。


 なにはともあれ、二人にそのまま見張るように指示しておいてよかった。そう思っていたのだが……


 北山は……ここへ向かっていたらしい。




 ――北山side。



 この情報が北山に伝わると……


「や、やべえ!早く戻らねえと!」


 急いでUターン。

 間に合うのだろうか……?



 ――つづく。


「いいコレクションが増えました〜エヘヘ。レアな神邏くんはいつ見れるかわかりませんから、いいカメラは常備必須ですね」


「次回 あやまってくんない? ……誰にですかね?」

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