青龍編
第16話 青龍見参…?
――ローベルトとの戦いから数週間。
天界軍の兵がローベルトの所在を捜索しているらしいが、未だに進展はないらしい。
ローベルトコンツェルンはそもそも人間だった社長をローベルトが始末して成り代わり、会社名も変えたものらしい。
それゆえ、本社のみローベルトの手の者だけだったらしい。
ビル崩壊は事故として処理。
天界軍の情報統制により、魔族関連の事はいつも通り伏せられた。
……未だに思う。あの場で仕留めてれば……と。
兵の犠牲もあったというのに逃げられた。そのせいで奴らの悪行はこれからも続いてしまう……
だが嘆いても仕方ない。ならば次合間見える時こそ必ず……
……もう一つ気がかりというか、不安な事があった。
ローベルトが今回の一件で自分に恨みをもった可能性。
アジトを破壊されたうえに、腕を落とされ、七人衆の一人トルーグは天界が捕虜として連行した。
……ここまでの事をすれば、逆恨みしてきてもおかしくはない。
……別に自分自身にかかってくるなら構わない。
だが悪党というのは、復讐相手の大事な者を誘拐なり人質をとる、といった下衆な事を思いつく連中が多いはず……
……また前みたいに家族が危険な目に合うなんて事があれば……
それだけは阻止しなければならない。
……俺自身が近くにいれればいいが、常にそうはいかない……
となれば……
そして俺は思い当たった。
♢
高校に登校すると、授業前に九竜に声をかける。……目立つ女の子だから、学園内だとあまり話しかけたくなかったがな。
「朱雀?なにか用?」
キョトンとする彼女に俺は一言。
「……天界軍に正式に入る」
「本当ですか!?」
あまりにも驚いたためか、大声で聞き返してきた。
……周囲の者が一部見てくる。
口元に人差し指を当て、静かにと合図を送る。すると慌てて九竜は頭を下げる。
「す、すいません……。その、心境の変化でも?」
「……そのかわりに、条件をのんでほしいと伝えてほしい。上の立場の人に」
「なに?おそらく、それなりの条件でものんでくれると思うけど」
「その、俺の家族とかに……ボディーガードとかつけてほしい」
九竜は口をポカンとしていた。
まあ、給料とかの相談辺りを想像してたのだろうな。
「ぼ、ボディーガード?ま、まあ可能でしょうけど……。なんでまた?」
「……俺がこれからも活動していくとなると、復讐として身内が狙われる可能性を考えた」
「まあ、ありえなくはないかもしれませんが、人間界にいる魔族がわざわざ天界軍の恨み買うようなことするとは……。おもえないんだけど」
「……ローベルトはやりかねない」
別に杞憂なら構わない。
だがもしもの事を考えると、気が気でない……
「じゃあ頼んでみるわ。兵の方を付けるか、家族になにかあれば、すぐわかるような装置を作ってもらうなり、してくれるでしょ」
「ありがとう……」
ホッとしたせいか、笑みを少しだけこぼした。あまり感情が表に出ない俺としては珍しい。
――と言っても、口元が少し笑ったくらいだが。
少しだけビクッとした九竜が、視線をすぐそらした。なにやら顔が赤い。
そのまま話を続ける九竜。
「ち、ちなみに家族は何人?」
「両親に、妹二人と弟一人の五人。後、幼馴染の神条ルミアも人数に加えてほしい」
「家族以外も?心配しすぎでは」
「ルミは一番、俺にとって近しい女の子だ。家族以外では一番危険だと思う」
「……ふ~ん」
……なんか冷たい視線を浴びせてきた。意味がわからない。
「……なんだ」
「い〜え。ただ前にも言ったけど、あなた許嫁がいる事忘れないでよ。あたしの親友なんですからね」
「……その子も狙われると?」
「いやあの子は天界にいるし、そもそも軍の上位ランカーだから……。ってそうじゃなくて!」
と、話してたらチャイムが鳴る。なら話はとりあえずここまでだ。
「……じゃあ頼む。あとその6人に比べれば、狙われる確率低いと思うが、余裕あれば友人のボディーガードも頼む」
と、言いたい事だけ言って俺は席に戻っていく。
「あっ!ちょっと!……もう!」
ため息つく九竜。
「はぁ。彼、あなたの事忘れてるうえに、他に大事な女の子がいるみたいよ。このまま放っておくとまずい事になるよ……ゆかり」
♢
――天界軍side。
所変わり、ローベルト捜索部隊として活動中のアゼル。
彼は今、魔族の痕跡があったらしい場所を調べていた。
「酷い有様やな」
周囲には干からびた、ゾンビのような姿に変貌した人間の死体が、数体転がっていた。
「普通の魔力吸収ならこうはならん。一体何があったんやここで」
建物に囲まれた路地裏。
薄暗いため周りがよく見えない。
兵に指示して明かりを灯すと……
地に魔法陣みたいなものが描かれていた。これは一体……?
軍の上層部に連絡するアゼル。
なにか情報があるかもしれないと判断。
――しばらくして軍から連絡がくる。ホログラムが送られてくると、相手は黄木司令だった。
「司令!ご足労かけます!」
「うむ。ところで連絡にあった魔法陣だが、それは赤龍教団という宗教団体の仕業だな」
「赤龍教団?たしかローベルトコンツェルンと同様に、人間界で徒党をくんだ魔族の団体ですよね。日本ではなく海外を拠点にしてて、確か滅ぼされたって聞きましたけど?」
「ああ。そこの教祖ドレイク・アバターが死に、幹部もほぼ死亡。組織としては瓦解したと情報にある」
「なら生き残りが?」
「そんなところだろうな。奴らの儀式を行う魔法陣とそれは、酷似してるし間違いなかろう……」
残党……それなら死にぞこないみたいな連中だろうし、恐るるにたらんとアゼルは思う。
「そういや誰が教団ぶっつぶしよったんすか?」
「
「は?青龍?」
青龍というと神邏の朱雀と同じ四聖獣。東と春を司る、青い龍の姿をした四神。
ちなみに朱雀は南と夏を司る。
だがアゼルは初耳だった。
青龍になった者がいたなんて。
「司令、誰か青龍へと覚醒したもんがいてはるんですか?聞いたことありまへんのですけど。青龍一族いうとたしか軍の中だと……」
「軍のものは青龍になってはおらん」
「え?で、でも今青龍と」
「……まあその辺の話は後日説明する。今は赤龍教団残党の話だ」
確かに今回の指令とは関係のないことかと、言及するのはやめた。
「教団は前に教祖の指示で、ある一定の地点でこのような魔法陣をいくつか作り上げた。一つ作るのに、人間を犠牲にしてな」
このゾンビのような、いたたまれない姿にされて殺された人々は、この魔法陣を作るために利用されたというわけだろう。
「魔法陣を複数作り、それらをつなげ、魔界へのゲートを作りあげ、四魔獣の赤龍を召喚しようと企んでいたらしい」
「四魔獣って、魔界でいう四聖獣クラスの魔獣の事ですよね?」
「うむ。まあそれは教団が潰されたように阻止されたらしいが、今回のケースがそれに似ている事に気づいてな」
「残党が赤龍を?」
「そうなるだろう。奴らが制御なんてできる訳がないが、召喚されるだけでも何が起きるかわからんからな……」
「つまり儀式の阻止と、残党の始末が今回の指令って話っすね?了解や」
ローベルトとは関係のない別組織との戦いになりそうだ。映像が消え、さて任務開始と思った途端。
――カランコロンと缶が転がり、落ちる音が鳴り響く。
音がした方を見ると、ガタガタ震えてる中年のおじさんの姿がそこにあった。
「なんやおっさんどうした。てかいつからここにおった?」
「あ、あんたらがく、来るずっと、前から」
尋常じゃないほど震えている。
何に怯えているというのか……
「おっさん。あんたまさか、ここでなにがあったか見たんか?」
激しく揺するとおっさんは土下座しだす。
「ひ、ひぃ!か、勘弁してください許してください!殺さないでぇ!」
「は、はぁ?そんなことせんわ。つーかあんたが見た魔族とは、敵対関係やし」
「ま、魔族?あの化け物達のこ、事?」
「やっぱなんか見たんやな。悪いようにはせえへんから、なにがあったか教えてくれへんか?」
自分達は敵じゃないと説得し、やっと少し落ち着くおじさん。
――そして話し出す。
「そ、その。駅から近道になるんで、この路地裏通ったんだけど……。人の悲鳴が聞こえたんだ」
「それで?」
「なにか事件でもあったのかと、お、思って恐る恐る覗いたんだ。そしたら人が、何かを抜かれてて、そのせいでこ、こんな姿に」
儀式の現場を見て、怯えていたようだ。……だが一つ疑問を持つアゼル。
「やってた奴は?てか見たことバレなかったんか?おっさん」
「は、バレた。おれもそれで連れてかれそうになって、そしたら、知らない子に助けられた……」
「助けられた?どんなやつや」
「く、暗かったから、顔はわからない」
「そうかい。で、どう助けられたんや」
「二人で戦いだして……。そしたらなにか気配を感じたらしくて、ふたりとも逃げてった」
気配……。アゼル達の事だろうか?
天界軍がこの場に来ることに気づいて、二人は去った?
「ってことはなんや、さっきまでいたんか奴ら。どこに逃げてったかわかるか?」
「い、いや……。ただ、助けてくれた方は青龍?とか言われてた」
「なに!?青龍やと!?」
まさかの発言だった。
先ほど話に出ていた、教団を滅ぼした青龍が近くに?
それが事実なら、残党を始末しにきたのやもしれない。
「魔族に青龍か。とりあえず奴らを目撃した人でもおるか、探して見るか?」
と思い当たったアゼルだが、その前に。
「アゼル殿!路地裏から出てった者を目撃したという方が!」
「なんやと!お連れしろ!」
連れてこられた人は、近くで屋台でたこ焼きを売ってる方だった。その人の証言は、
「そこからなんか、学生服着た子が二人だけ血相変えて出てったよ。他には誰も見てない」
「学生服?ふたりとも?」
青龍の方は学生だったとしても、魔族の方は違和感感じる。逃げた時だけ人に擬態したのか?
他に出てった者を見ていないならそうなる。
「学生なら授業中じゃねえのか?遅刻か?って思いながら見たから、間違いねえよ。確か近くの大きな学園の制服着てたな」
ここから近くの学園となると……
「美波や南城の通ってるとこやないか……」
彼らの通う学園の生徒に青龍と、生徒にすり替わった魔族が……?
アゼルは怯えてたおじさんに、もう一度問いかける。
「なああんた、その二人学生服着てたんか?」
「え!ええっと……。そ、その、わ、わからない……な。そうだったかな?」
何故かシドロモドロ。
視線もキョロキョロしてて、なんか怪しい。というかそうだったかな?ってなんだとアゼルは思った。
「おい、あんた……。なにか隠してないよな」
「か、隠してなんか!な、ないさ、ただ、まだ怖くてあまり思い出したくないだけさ……」
本当だろうか……?
「まあええわ。兵の皆さんはこのまま周辺を調べたり、目撃者を探してくださいや」
「アゼル殿は?」
「ワイは……南城らに報告して、手伝って貰うわ」
♢
――神邏side。
学園の昼休み中、俺はいつもの友人達と、昼食をとっていた。
そんな輪の中に九竜が入ってくる。
「お食事中失礼、す、……じゃなくて美波君、少しよいかしら」
「シンに話?別にここですればいいじゃん」
友人の女の子、夏目が言った。
九竜は視線が泳ぐ。
「少し込み入った話で……」
「それなら尚更聞きたいね。なあ神条?」
「……そうですね。私も聞きたいです」
夏目もルミアも視線が怖い。……なんかバチバチしてる。
九竜が助け舟を求めるように、こちらを見る。二人を邪険にできないようだ。
……おそらくさっきの話のことだろうな。一応天界の話だし、人に聞かれるわけにはいかないのだろうな。
すでに知ってるルミアと北山はいいのだが夏目は……
いや、まてよ……
今は須藤ら他の友人はいない。
事情を知らない友人は、今この場には夏目だけ。
彼女、実はこの中では俺と一番付き合いが長い。幼稚園からの幼馴染。となると天界の事を聞いてたりして知ってる可能性もある。
それなら話しても問題ないかもしれない。
同じ軍の北山とは情報共有しておきたいし、ルミアには……あまり隠し事したくない。
そう思い俺はまず……
「……なっちゃん、天界って知ってるか?」
ストレートに聞いてみた。
ちなみに夏目のことは昔からなっちゃんとあだ名で呼んでいた。
「天界ぃ?それってシンが中学の時転校……ってこれ内緒だったか……」
知ってる様子だった。
いやそれより中学……?その辺の事も知ってるのだろうか…?
「も~なっちゃんったら」
ルミアがぷんすかしてる。
この様子だと、ルミアも知ってたのか?それはつまり……
「ルミ……。最初から天界のこととか知ってたのか……?」
「あの、……はい。思い出してほしくなくて黙ってました……。後、実は私も心配で天界の学園に通ってましたし……」
「……え?」
さらに想定外の事実。
天界の学園に通ってた?
ということは……
「ルミ、魔力使えるのか……?」
「まあ、はい……」
意外な事実だった。まさかルミアが……
「隠しててごめんなさい……」
「あ、いや……。責めてるわけじゃない。驚いただけで」
「おれはなんも知らなかったわ……」
一人蚊帳の外だったらしい北山。
「あの、朱雀……だから」
九竜が早くどうにかしてくれと言いたげ。
「ああ悪い……。ここのみんなは事情を知ってるから、入隊の事なら話しても構わない」
「はあ、まあそういう事なら」
ホログラムを手のひらから写し出す。
黄木司令の姿が映る。
「九竜から聞いたぞ朱雀、入隊する気になったらしいな」
「ええ。……そのかわり」
「よかろう条件はのむ」
家族の身の安全を保証してくれるなら、何も迷う必要はない。
すでに戦う事は決めていたわけだし。
家族には心配かける事になるが……
「神邏くん。やっぱり入るんですか……」
ルミアが心配そうにしてくれてる。とてもありがたいが……
「悪い。そのかわり死なないし、あまり傷つかないようにするから」
「……なら私も入りましょうかね。回復とかできますし……」
「いや、何言って……」
「歓迎するぞ神条。お前の実力は聞いているからな」
黄木司令が許可しだした。
聞いている……?つまり天界の学園時代の実力が相当高かったのだろうか?
人手不足とも聞いているし、戦力になる人員はほしいということか……?北山もそうだったし。
「朱雀、安心しろ。入れるとしても、お前と常に同じ任務につかせる。危険な任務なら呼ばないようにもしてもいい」
……それならばまあ……いいのだろうか?
……ルミアを危険な任務につけたら、ボディーガードも意味なくなりそうだし本末転倒だが、余裕ある任務中心でなおかつ回復役とかなら危険も少ないか?
ルミアにダメと言っても聞かなそうだし……
「ところで階級だが、朱雀は◇の10となる」
10って……?
「上位ランカーだ。いきなりこの立場は破格だぞ。南城達よりも上だからな」
「上すぎるのでは……」
「そもそも歴代四聖獣は最高幹部の座についていた。まだ使いこなしてないとはいえ、10でも低いくらいだ。気にすることはない」
いきなりの出世で他の人たちから反感とかないならいいが……
「……それから、元最高幹部の天界四将軍だったお前の父、火人の遺産も後日説明しよう」
「遺産?」
「金ではないが、それは後日だ」
……皆目検討もつかない。
金じゃない遺産……?土地とかか?
「で、入隊さっそくで悪いが、指令がある。実はだな……」
赤龍教団なる残党の話を、全員に話す黄木司令。それについてまとめると……
「この学園に魔族と青龍が紛れ込んでいる……?」
「ああ。見つけ次第魔族は始末なり捕縛、青龍は丁重に我ら天界軍の元に案内してほしい」
……案内?
「青龍もお前と同じく天界軍の者ではないのでな」
つまり俺のように入隊してもらいたいわけか。だから丁重に案内しろというのだろう。
「つーかどうやって見つけりゃいいんだ?リヴィローみたいに擬態うまい奴なら、そう簡単に見つけられやしねえぜ」
経験者でもある北山の意見。確かにその通りだ。
「怪しい奴片っ端に天界に連れてって調べてもらうか?」
「手荒な真似はよせ。もし青龍にそんなことをすれば、天界に不信感を与え、入隊が絶望的になる。すでにあまりいい印象を持ってない可能性があるから尚更だ」
「それはどういう……?」
「うむ、おそらく、その青龍は天界から追放された、一部の青龍一族の者だと思われるのだ」
追放……理由は知らないが、それなら天界を恨んでいる可能性も確かにある。手荒な真似をするなというのもそういうことか。
「天界の者ではなく、我々が把握していない青龍となると、それ以外考えられん。軍としても追放したとはいえ、背に腹は代えられんしな」
ただそうなると……
「それじゃあ、どうやって魔族かどうかとか調べるんすか」
北山が聞いた。すると司令は答える。
「候補は三人にまで絞れ込めた。どうにかして見つけるほかあるまい」
三人……だいぶ絞れ込めたようだ。一人は魔族、一人は青龍一人、後はただの人間という事か。
……間違っていなければの話だが。
「三人ならいけそうな気がしてくんな」
「これがその三人だ」
三人とも同学年の生徒だった。
……俺は三人とも面識がない。
大人しめ、爽やか、ヤンキー。そんな印象だった。
果たして誰が魔族で、誰が……青龍なのか。
――つづく。
「題名に反して、青龍は出てきませんでしたね。まあ?付きだったので……」
「次回 誰がだれなのか う~ん誰なんでしょうか」
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