第13話  絶ち切る華

 下の階に落下してから、互いに様子を見るかのように俺とローベルトの睨み合いが続いている。


「……」

「……」


「ちぃ!」


 業を煮やしたローベルトが、先に動き出す。


 最初に俺を攻撃したように、長い足から繰り出される蹴りの連撃。

 だが今回の俺は、その蹴りの一発一発を完全に見切り避けきる。

目が慣れたのか、それとも……


「実戦にまさる修行はないと聞くが、いくらなんでも早すぎるよ。なんなんだ一体!」

「……俺が知ったことか」


 蹴りを剣でガードして、軽くいなす。……それにより、体制が少し崩れたローベルト。

 俺はそのスキを逃さず、今度はこっちの渾身の蹴りをローベルトの脇腹にぶつける。


「ぐふっ!」


 ローベルトが血反吐を吐く。

 明らかに効いている様子だ。

 全身金属のような体だろうが、魔力が拮抗してれば通じるわけか。



「こうなれば奥の手を使わせてもらおう。目立つから避けたかったがね!」


 ローベルトの目の色が変わる。

 今までよりも、はるかに速い速度で俺の目の前に近づき――!しまった!?


 俺は頭をつかまれた。


「離せ!」


 掴まれたまま剣でローベルトを斬りつけるも、奴は耐え、俺を離さない。そしてそのまま持ち上げられ――

 

 ローベルトは大ジャンプ。


 天井を突き破り、屋上をも突き抜ける。そのまま天高く、上昇を続ける。

 街のビルなどが、ジオラマみたいに小さく見えるくらい大きく上昇。


「な、何をする気だ……」

「今にわかるよ」


 不敵に笑い、ついに上昇をやめると……


「はああああああ!!」


 その叫びとともに、ローベルトは俺を思い切り下に投げ捨てた!


 とてつもない高さから、勢いよく落下する俺……


 この高さはさすがにまずいな……。魔力を全身に集中し、ガードしてみるか……

 それで死なずにはすむだろ。


 急降下しながらビル、いや、ローベルトコンツェルンに落下。


 ――ドガガガガガ!!


 屋上に落下すると、その床を突き破り下の階に。そしてさらに床を突き抜け、勢いよく落下し続ける。


 最上階は35階なのだが、そこから20階くらい下にまで落ち続ける。

 ――勢いが止まらない。


 ……だが魔力でガードしてるため、大してダメージはない。血の一滴すら出ないし。

 ……拍子抜けとは言わないが、全然大丈夫で驚くな……


 落下速度は変わらないし、この様子だと一階まで落ち続けるかもな。

 でもこれならまったく問題がない。ダメージないし。

 これで終わりなら助かるが……


 ――と思っていたら……


 ローベルトがすごい勢いで落下してくる!


 そして俺の間近へ!

 奴は右腕一本に、全力の魔力を集中し……


「グラウンド・クラッシュ!」


 そう叫ぶと、渾身のラリアットを俺へとぶつけた!


「がはっ!」


 ラリアットは床に俺がぶつかるタイミングで、直撃させてきた。


 そして俺はその勢いのまま一階へ急速落下!

 最後の一階部分の地面に落下すると、その衝撃で……

 ローベルトコンツェルンという名のビルが、


 ――ドガガガラガラガガラ!!


 無惨に崩落!全てが崩れ落ちていった。

 大地震によって全崩壊した家みたいに……





 人は避難してたし、軍の兵も離れていたので、ビルの落下に巻き込まれてはいなかった。


 ――南城とアゼルを除いて。


 ビルの残骸の柱などをどかし、埋まっていた南城が出てくる。


「くそっ……。なんなんだ?何が起きやがった」


 突然崩落したビルに、驚きを隠せていなかった。実際急に崩れ落ちたわけだし、うろたえるのも仕方ない。


 南城はアゼルを守りつつ、彼自身も魔力でガードしていたので、大して傷も負ってはいないのが幸いした。


 周りを見渡す南城。


「これだけの建物が崩れ落ちるなんて一体何が……」


 その視界にローベルトを発見する南城。


「て、てめえ!」


 声に反応し振り返るローベルト。


「おや君か。無事だったんだねえ」

「てめえ、美波はどうした?」

「朱雀の事かい?フフフ」


 いつもの卑しい笑みがこぼれる。


「始末したよ」

「な、にぃ……?」


 そんなまさか……と、言いたげな表情をする南城。

 実力を考えれば敗北もおかしくないのだが、それでもあまりに信じられなかったのだろうか?


「くそが……」


 南城は手のひらに炎を出し、戦闘準備。


「おやおや、負けるとわかってても吾輩に挑む気かい?天界軍というのも大変だね。命あっての物種というのに」


 少しずつ南城に近づいていくローベルト。


「しかし朱雀……。あの若さでかなりの実力者だったね。後で死体を掘り起こし、魔力を頂くつもりだが、本当の名前くらい聞いとくべきだったよ」


「……美波神邏だ」


「へえそんな名前なのか……い!?」


 美波神邏の名を名乗ったこの声は……


 ――当然俺、本人の声だ。


 ローベルトはすぐさま、声のした方角へ振り向く。そして愕然。

 驚くのも無理はないのかな?


 その振り向いた先に奴自身、死んだと確信したはずの男……

 美波神邏、つまり俺が立っていた。


 ……とはいえ重症ではある。ピンピンはしてない。頭部から激しい出血、額が血に染まっているし、体も傷だらけ……

 だが両足で立っていられるし、致命傷ではない。戦う余力ならある。


「お、おのれ、まさかあれをくらって生きているとは……」


 とっておきの大技だったのだろうな。あの自信満々な表情から推測できる。それを耐えられた事に、驚きを隠せてないのだろう。


 ……だが、すぐに冷静さを取り戻すように落ち着く。


「いや、どうせもう戦う力など残っておるまい。吾輩のとっておきの一撃を受けたのだからな……」

「……どうかな?」


 一言俺が告げると、ローベルトの視界から消える。


「速っ、」


 ローベルトが反応する前に、剣で斬りつける。


「ぐわあああ!!」


 激しく転がるように吹っ飛ぶローベルト。かなり効いているように感じる。奴自身も疲弊しているのだろう。


 ……倒せるかも。


「殺れ、美波!」


 南城が叫んだ。


 ……殺れ?

 殺せということだよな……?


 ローベルトを見る……

 片目に傷があり、両の目の白い部分と黒い部分が逆なだけで、見た目は人間とさほど変わらない。

 魔族とはわかっているが、人間みたいな存在を殺す……


 ……あまり、気は進まない……

 そもそも殺生自体、できればしたくなどない……


 妖魔は見た目が恐ろしく、必死だったからなんとかやれたが、今回は違う。


 ――でも悪党だ。

 野放しにしたら、何をしでかすかわからない。


 ……でも何故悪い事をするのだろうか?まずそこに疑問をもった。


「ローベルト、あんたなんで人を襲う」

「は?何だね急に。魔力吸収のために決まっておろう」


 前に聞いた他の魔族と言い分が同じだ……


「魔力が旨いから?強くなりたいから?どちらにせよ、それだけの事で人を殺すのか?」


 命を奪うということをこいつらはわかってるのか?しなくてはいけないことなのか?

 命をなんだと思っているんだ?


 ……そんな多くの疑問が俺にはあった。


 だがそんな疑問をあざ笑うかのように奴は……言う。


「人間が死ぬからなんだと言うんだね?人間なんて下等な種族、いくら死のうが知ったことではない」


 ――やはり、

 部下が部下なら大将も同じだ。


「吾輩にはな、魔界にいる憎き敵を始末するために、強くならねばならん。だが今の吾輩ではそれができん。だからこそ、下等な種族は力を得るための礎となってもらうのだ」

「……お前の勝手な理屈で人を殺すのか?」

「ゴミのような命に利用価値を作ってやるのだぞ。むしろ感謝してほしいくらいだよ。吾輩の力となれることをな!」


 こいつの言い分は理解できない。いや、したいとも思えない。


 まさに下衆そのものだ。

 自らのために進んで死ねと言っているようなものだからな。


 ……こんなやつ放っておけば、被害が増す。


 殺すしか……ない。


 俺は朱雀聖剣サウスブレイドを天に掲げるように上げる。

 そして剣そのものに魔力を集中させる。


 ――風が舞う。

 大気が、引き寄せられる。


「なんだ……?とんでもない魔力を秘めた風、そして大気が美波の剣に集まってやがる……」


 と、南城。


 引き寄せられた大気が、風が、竜巻を生む。


 周囲の物まで竜巻に引き寄せられていく。そして引き寄せられた瓦礫などは風により、塵となるように切り刻まれ、消滅していく。


 竜巻は緑色に変わり、さらに強大になっていく。

 どんどん物が引き寄せられ、切り刻まれている、だが南城達生物は引き寄せられない。

 理由は俺が竜巻をコントロールしているからだ。


「あ、ありえん……。なんだこの風は!?なんだこの魔力は!?」


 冷や汗をかいて、怯えるようにうろたえるローベルト。


 俺は剣を右方向へゆっくりと下げる。竜巻は剣一本に集中される。


 それから右手で持っている剣を、左方向へ。左の腰の近くに下げ、居合のような構えをとる。

 その状態で風と魔力がさらに集まる……


 まずいと判断したローベルトは、攻撃が来る前に、全魔力を込めて魔導弾を放つ。


「死ねえ!!」


 魔導弾が俺に直撃する前に――


絶華ぜっか一閃いっせん


 朱雀聖剣サウスブレイドによる、左切り上げを放つ。


 その一撃、剣にまとっていた竜巻がバカでかい剣の形に変貌。

 ――まさに風の刃。


 そして……その太刀筋は地を裂き、辺りのものを消滅させていく。先ほどの魔導弾も例外なく消えさる。


 そして剣はさらに長く伸びる。

 伸びた刃はローベルトへと向かう。


「――っ!」


 グラウンド・クラッシュによる一撃のダメージのせいか、少し手元が狂った。痛みはなかったのにだ。

 ズレた事により太刀筋は、ローベルトの右腕に直撃した。


「ぐああああああ!!」


 周囲に響くほどの奴の悲鳴。


「がああああ!腕が!吾輩の腕があああ!」


 絶華による斬撃で、ローベルトの右腕は完全に切り捨てられた。

 切れた右腕は……跡形もなく、塵も残さず消滅した。

 おまけに右肩も吹っ飛んでいる。


 ローベルトは全魔力を右腕に集中していた。それが絶華により、腕ごと切り裂かれ、消滅した。


 つまり……、もう奴にはほとんど魔力はなくなったことになる。

 戦う力など、もう奴にはないということだ。


 それが意味することは……


 ……勝負はもうついたという事に、ほかならない。



 ――つづく。



「お見事ですね。勝っちゃいましたよ。私の応援あっての事ですかね?ただとどめ……させるんでしょうか?」


「次回 情報屋 ……あれこの名前は……」





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