第12話  ローベルトという魔族

―――――――――――――――


「「ローベルト、貴様ごときでは魔界の勢力図に割り込む事など、永遠にできん。大人しく死を選ぶか、我が軍門に下るか……。選ばせてやろう。余はどちらでも構わんがな……」」


―――――――――――――――


「おのれ、おのれおのれおのれ!」


机の物を、全て蹴り飛ばすローベルト。


「帝王めぇ!!……はっ!」


 眠っていたローベルトだったが、悪夢を見て、飛び起きたようだった。


「くっ、下らん。昔の夢を見るとはねえ」


 ……どうやら悪夢というより、昔あったことのようだった。


「帝王カオス。……魔帝の後継者を名乗りおって新参者が……。今にみておれ。あのときは逃げることしかできなかったが、この人間界を皮切りに、力を蓄え、いつの日か必ず……」


 野望のため、この人間界に居着いたようだ。

 元々名のしれた魔族が、落ちぶれたといった所だろうか?


「む?トルーグの魔力を感じぬぞ?」


 部下の異変に気づいたローベルト。


「驚いたねえ。まさか殺られたというのかい?天界軍などに」


 ローベルトもまたあの日、神邏と出会った日が、フラッシュバックする。


「そうか、彼も来てるんだっけね。朱雀を喰えば、吾輩はどれだけのパワーアップを果たせるんだろうか?……わくわくが止まらんよ」


 ヒゲを触りながら、卑しく笑う。


「クフフ。さあ早く上がってきなさい朱雀。ローベルトコンツェルン総裁、ローベルト・リヒターゼが相手になるよ」





 ――神邏side。


 俺達三人は最上階へと、たどり着く。南城は、この階に踏み行った瞬間、何かを感じとる。


「……なるほど、なかなか強力な魔力をひしひしと感じる。挑発してんのか知らねえが、ここにいるぞと言わんばかりに、魔力出してやがる」


 ローベルトの魔力を感じたらしいな。いや、ただ強い魔力を感じただけならそうとは限らないか。


 ……どちらにせよ、俺はそういう感知能力にはまだ疎い。だから魔力なんて感じない。


 ただ、ここにローベルトがいるのならば……


「……さっきの魔族、嘘はついてなかったわけか」

「だな。余裕こいてやがる証拠だ。イラつかせるぜ」


 舌打ちする南城。


「美波、アゼル、お前ら最初は手を出すな。オレさまがまず一人で相手する」

「……意図は?俺達では相手にできないって話だが、……一人じゃきついんじゃないのか?」


 Bランクの魔力の持ち主。俺達三人よりも強いと聞く。

 ……やるなら三人がかりがセオリーだろう……


 自信家だから一人で充分だの、プライドが許さないからだの、言ってくるか?


 と、思いきや……


「まず俺さまがタイマンして、様子を見る。奴の能力なり、戦術を確認するためにな。無理そうなら加勢でもしてくれりゃいい」


 まともな意見だった……

 自分の力を見せつけるなどと前に言っていたが、時と場合を考えているのかも。


 それとも心境の変化でもあったのだろうか?


「おいおいらしくないやないか、南城。一人で充分だ、手出し無用!とかいうかと思うたんに」


 付き合い長そうなアゼルすらこういうなら、やはり性格的に言ってもおかしくないのだろうな。


「Bランク相手だ、多少は慎重になる必要がある。油断は死をまねくからな。無論やれるなら一人で始末してやるよ」


 心境に変化があったにせよ、なかったにせよ、ローベルトはそれほど警戒すべき相手なのだろう。


 Bランクの魔力……。ピンとはこないが俺達三人よりランクは上と聞くと、一筋縄ではいかないのだろう。


 南城を先頭に、少し離れて俺とアゼルが続く。

 最上階も普通の会社のオフィスにしか見えない。とても魔族につかわれてる場所とは思えない……


 ――社長室の看板が見える。


「あの部屋か」


 まず南城だけが先行し、すぐさまドアを蹴破り、乗り込む算段。


「よし……行くか!」


 南城は意を決してドアの前に……


 ド!ゴン!!


 ――立った瞬間、ドアが突き破られ、蹴りが顔面にクリーンヒットし、壁に叩きつけられた。


 ……くらったのは南城の方だ。


 ローベルトが先に仕掛けてきたのだった。


 蹴りをくらった南城は、後ろの壁にめり込んでしまっていた……


「て、テメエ何さらしとるんや!不意打ちなんて!」


 アゼルはあまりの衝撃にうろたえている。

 冷や汗をたらし、先ほどまでの余裕な態度はなくなっている。


「おかしなことを言うね君。戦いだよ?不意打ちも立派な戦術さ。むしろこっちは三人を相手に迎え撃とうとしているんだ。それくらいしても問題なかろう」


 考えが甘かった……


 ……油断はしないと三人とも思ってはいたが、それは戦いが始まったらの話しだった。


 ……すでに敵の本拠に攻めこんでいるんだ。

 敵が目の前にいなくても、細心の注意をするべきだった。


 ……無警戒で敵の大将のいる部屋に来た。

 それがすでに油断だったのだ。


「なめた真似しよってからに!ぶっ潰す!」

「待て!」


 俺の静止を無視して、アゼルは怒りに身を任せ、ローベルトへ殴りかかる。


「ふん!」


 ローベルトは足を上げ、アゼルの拳をガード。


 ギイン!と金属音が鳴り響いた。金属音……?

 奴のズボンに少し穴が空いて確認できたが、別に金属の足などではない。普通の足、というか肉体だった。


「金属性の魔力か!」

「御名答」


 アゼルがローベルトの魔力を見破った瞬間、腹部に蹴りを入れられ、そのまま奴の頭上へと高く上げられる。

 そしてもう片方の左足で、天井へとさらに蹴り上げた。


「ぶっ!ぐはっ!!」


 あまりの速度の連撃にアゼルはまったく対応できず、天井を突き破る。首から上だけが天井に突っ込んでおり、首から下はプラプラとぶら下がった状態。

 

 ……そのまま動かない。


「おや、どうした?」


 両手を前に出すローベルト。


「止めろ!」


 俺が止めにはいるも、遅い。


 両手から発っせられた魔導弾が、アゼルに直撃。

 その影響で、天井が青空の見えるほど大きな穴を開けた。

 そしてアゼルは床に落下してくる。


 落下し落ちてきたアゼルを確認すると、白目向いて気を失っていた……


 だが、息はあるように見えた。不幸中の幸いだ。


 先ほど、あれだけの強さを見せたアゼルがこうも簡単に……

 南城の方も、不意打ちくらったせいか立ちあがってこない……


 ……あっさりと二人がやられた。……これがBランク。ローベルトの実力か。


「さ~てと。次はいよいよメインディッシュかね」


 俺を見て卑しく微笑むローベルト。何の話か問う。


「……俺がメインディッシュ?」

「そうさ。なにせ朱雀、どれほどの魔力か楽しみだよ」


 睨み合う俺とローベルト……


「いやしかし、久しぶりだねえ朱雀。ひと月ぶりくらいかい?あの力の覚醒の日から」


 ……忘れもしない。

 俺の義父ちちに妹と、義弟おとうと。……三人を危険な目に合わせた妖魔共の頭領。


 そして皮肉にも、力を思い出すきっかけとなった日。


「いやはや驚いたよ、あのときは。君が天界人だったこともそうだが、まさかあの伝説の四聖獣、朱雀とはねえ。あの日になったのかい?」


 ……厳密に言えば違うらしい。なった日の記憶はないが……

 ただ忘れていた力を思い出しただけって話だ。――だがこいつに、


「いちいち答える気はない……」

「そうかいそうかい。ただ失態だったよ。生き残り出した事で、天界に吾輩たちの行動がバレたわけだしねえ。それからというもの、部下も失敗続き。君に会ったのが運のつきかね」

「……俺に会ったからじゃない。

お前が、俺の家族に手を出したからだ」


 大事な家族のために覚醒した力。俺だけなら、思いださなかったかもしれない……

 奴が家族に手を出した、……それが運のつきだったんだ。


「二度とお前らに、家族を傷つけさせない……」

「ほう……、なら吾輩を倒すと?」

「ああ、そうだ」


 武器精霊スピリットウエポンリーゼに指で合図。彼女は黙って朱雀聖剣サウスブレイドに姿を変える。

 何時もの調子でぺちゃくちゃ俺を煽り出すかと思ったが、空気を読んだようだ。


「「神邏、気をつけろ。奴は金属性の魔力……。私、いやお前の木属性の魔力と相性悪い」」


 風の聖霊イリスの助言。


 ……そうなのか。木だから火にでも弱いのかと思ったが。


「「人間界でいう五行と同じだ。最悪木属性の相性だけ把握していればいい。悪いのは金、良いのは土だ」」


 ただでさえBランクの格上なうえに相性も悪いとはな……

 だが、それでも勝つしかない。

 今やまともに戦えるのは、俺ただ一人なのだからな……


「どうした?かかってこないのかい?」


 ローベルトは手招きしてくる。ムカつく態度だ……


「とりあえず……。仕掛けるか」


 まず剣で斬りかかる。

 ――横薙ぎ。

 しかし、軽く躱される。


 続けて斬りかかる。ななめに、縦に、横に、すかさず連続で。


 ……だが全てを紙一重で避けられる。


「なかなか速いではないか、驚いたよ。これは吾輩も本気でいかねばなるまい!」


 ローベルトは素手で剣をつかむ!そして奴は右足で孤を描くように、俺を蹴り上げる。


 その衝撃で宙を舞いきる前に、左足での連撃を放ってきた。


 ドッドムゥ!!と蹴りの音が響く。


「――!」


 俺は勢いよく、転がるように壁に激突した。


「ゴホッゴホッ」


 血反吐を少し吐きながら、俺は咳き込む……


「おや、まだ意識があるかい。やはりそこの二人とは違うね」


 関心して軽く拍手するローベルト。

 ……バカにしているのか、本気なのかは知らないがな。


「ん?」


 ローベルトが俺とは違う方向に視線を向ける。

 俺も視線を動かすと……

 後ろからヨロヨロしながら、南城が立ちあがって来ていた。


「舐めやがって……。殺す!」


 無事でなによりだが、フラフラしており、とても戦えるような状況ではない……

 ――なら、


「南城、そこのアゼルって人連れて、離脱してくれ……」

「あ?何言ってやがる、一人で勝てる相手じゃねえってお前が言ったんだろ」

「そうだな……。だが」


 アゼルを見る。……完全に気を失っている。

 南城は意識があるとはいえ、あの不意打ちが相当効いたかフラフラだ。

 ……これでは三人がかりもクソもない。


 それに……


「……悪いが倒れてる人を守りながら戦えるほど、余裕がない……」


 言い方は悪いが……

 この状況だ、仕方ない。


「ちっ……アゼルが邪魔だな。確かに」


 頭をかきながら、ため息をつく南城。


「わかった。こいつは安全なところに連れて行く。だがすぐ戻ってくるからな」


 俺一人に任せる気は毛頭ないと言いたげ。最悪それでも構わない。


「……わかった。ならついでに下の兵の人達も、ビルから避難するよう呼びかけてくれないか?」

「……?まあいいが」


 疑問をもったようだが、あえて深くは聞かずに、南城はアゼルを担ぎ戦線をひとまず離脱。


 ……意外にもローベルトはなにもしないで待っていた。


「……悪いな。待っていてくれたのか」

「いやいや。あんな小物どうでもいいからね。それに喋りながらも君は、吾輩に対して意識をそらしていなかった。どうせ不意打ちにならんならと思ったまでよ」


 先ほどの反省で、一切の油断はしないと俺は決めていた。常に気をはって、奴の動きも注意していた。


「邪魔者はいなくなったわけだし、第二ラウンドといくかい?」

「……そうだな」


 ――言った瞬間、俺はかまいたちを放つ!


「下らん」


 蹴りで軽くかき消される。

 すると奴の視線の先に、俺はすでにいない。

 今のかまいたちは目眩ましというか、囮だ。

 視線をかまいたちに向けたスキ。その間に、ローベルトの背後に俺は移動していた。


 かなりの速度だったと思う。

 自分で自分に驚くほどの速さだった。

 魔力を足に集中することで、今までの自分とは比べ物にならないスピードを出せた。


 これも体に染み付いた動きだろうな。今まで考えもしなかったことなのに、なぜか今いきなりできた事だったから。


 奴の後ろをとり、剣を振る……

 ――が、


 しゃがんで避けられる。

 奴は後ろを振り向いてもいないのにだ。背後に目でもついているのかと、思わざるえない避け方……


 その状態のまま、俺に蹴りをお見舞いしようとしてきたが、それは反応して避ける。


 俺はその反動で、後ろにジャンプして距離をとる。


 ……やはり一筋縄じゃいかない……

 そう思っていると……


 ローベルトが険しい表情をしていることに気づく。先ほどまでの、なめたような卑しい笑みがない。


「今の一撃のスピードも速かった。恐ろしくね……。先ほどとは雲泥の差だ。手加減でも今までしていたのかい?」


 ……そんなわけあるか。

 ただでさえ格上……そんな余裕あるわけがない。


「もし違うというなら、戦いながら成長してるとでもいうのかい?」

「……さあな。知らない」

「そういう短期間で成長するものは危険すぎる。もし本当にそうなら、今のうちに始末するのが1番だ」


 ローベルトは全身から魔力を吹き出す。目に見えるほどに実体化。緩やかなオーラが、ローベルトの全身をつつんでいるかのよう。


「いくぞ」


 俺めがけ、一直線に跳んでくる。


 怒涛の勢いで、拳の乱打、蹴りの乱打を繰り出してくる!

 だがそれらを剣で弾くなり、避けるなりで全てをいなす。


「本当に成長してるのかもしれないね!これはこれは恐ろしい!!」


 必死な形相で、攻めの手を緩めないローベルト。

 俺もまた必死に回避する。

 ……避けれてはいるが、防戦一方だ。

 このままでは埒が明かない…… 

 

 背後に意識がわずかにいく。

 ……壁がある。押され気味で、少しずつ後ろに下がっていたため当然。

 壁を背にしたら避けられなくなるかも……


 いや、違う。

 ならそれを逆手にとればいいと判断する。


 ローベルトはもう防ぎきれまいと思ったか、渾身の蹴りを放つ。


 ……今だ!


 俺は壁を背にした後、全力で蹴りを避ける。

 蹴りは壁を粉砕する。だがそれにより、足が壁に突き刺さりほんのわずかだがスキができた。


 俺はそのスキにまず一撃!


 斬撃がローベルトに直撃!


 ギインとまたも金属音。

 全身の魔力が奴を守っているのかもしれない。


 いや知ったことか!なら連撃するまで!


 ローベルトは避けきれず、斬撃を受けまくる。

 だが金属音からして、効いていない……か?


 ガアン!!


「――!!」


 ローベルトは膝をつく。効いた……?


 ならばこのチャンス、逃すものか。……俺は続けて、斬撃を高速で繰り返す。


 手でガートするなり、避けるのに必死になっていくローベルト。 さっきとは形勢逆転。


 ちなみにもう足は壁から抜いている。一撃をくらい、軽く吹き飛んだ影響でだ。


「くっおのれ……」


 ――ズバッ!


 ついに魔力のガードを破り、薄皮一枚だが、ローベルトのひたいを切った。少しだけ黄緑の血が流れる。


 ……いける!そう、思った。


「舐めるなあ!!」


 ローベルトは床に穴を開ける。

 その衝撃で、下の階に俺とローベルトは落下。


 上手く受け身を取れず落ちた事で、ローベルトに距離を取られてしまった。


 ……だが今の一連の動きを見て、勝機を感じた。


 ……これならあの技を使えば勝てるかも。そう判断する。


「「神邏、なにか勝算がありそうな顔をしているな」」


 イリスはそんな俺の考えを読む


 (ああ。この前やった絶華って技、あれを全力で撃てば……)


「「あれか。……その太刀筋を受けし者、花弁のように散るのみ。――絶ち切る華……。絶華ぜっかとかいう」」


 なんか呪文を唱えるように、技を言うイリス。


 ……なんかすごそうな技だったんだな……


 前に撃った時は無我夢中。魔力の集中とかもしていない。


 恐らく、あの技の威力はあんなものじゃない。

 フルパワーで撃てれば……


 一筋の光明が、俺には見え始めていた……



 ――つづく。



「盛りあがってきましたね。次回神邏くんの必殺技で、敵の大将やっつけてくれるでしょう!」


「次回 絶ち切る華 必殺!絶華・一閃!」

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