第12話 ローベルトという魔族
―――――――――――――――
「「ローベルト、貴様ごときでは魔界の勢力図に割り込む事など、永遠にできん。大人しく死を選ぶか、我が軍門に下るか……。選ばせてやろう。余はどちらでも構わんがな……」」
―――――――――――――――
「おのれ、おのれおのれおのれ!」
机の物を、全て蹴り飛ばすローベルト。
「帝王めぇ!!……はっ!」
眠っていたローベルトだったが、悪夢を見て、飛び起きたようだった。
「くっ、下らん。昔の夢を見るとはねえ」
……どうやら悪夢というより、昔あったことのようだった。
「帝王カオス。……魔帝の後継者を名乗りおって新参者が……。今にみておれ。あのときは逃げることしかできなかったが、この人間界を皮切りに、力を蓄え、いつの日か必ず……」
野望のため、この人間界に居着いたようだ。
元々名のしれた魔族が、落ちぶれたといった所だろうか?
「む?トルーグの魔力を感じぬぞ?」
部下の異変に気づいたローベルト。
「驚いたねえ。まさか殺られたというのかい?天界軍などに」
ローベルトもまたあの日、神邏と出会った日が、フラッシュバックする。
「そうか、彼も来てるんだっけね。朱雀を喰えば、吾輩はどれだけのパワーアップを果たせるんだろうか?……わくわくが止まらんよ」
ヒゲを触りながら、卑しく笑う。
「クフフ。さあ早く上がってきなさい朱雀。ローベルトコンツェルン総裁、ローベルト・リヒターゼが相手になるよ」
◇
――神邏side。
俺達三人は最上階へと、たどり着く。南城は、この階に踏み行った瞬間、何かを感じとる。
「……なるほど、なかなか強力な魔力をひしひしと感じる。挑発してんのか知らねえが、ここにいるぞと言わんばかりに、魔力出してやがる」
ローベルトの魔力を感じたらしいな。いや、ただ強い魔力を感じただけならそうとは限らないか。
……どちらにせよ、俺はそういう感知能力にはまだ疎い。だから魔力なんて感じない。
ただ、ここにローベルトがいるのならば……
「……さっきの魔族、嘘はついてなかったわけか」
「だな。余裕こいてやがる証拠だ。イラつかせるぜ」
舌打ちする南城。
「美波、アゼル、お前ら最初は手を出すな。オレさまがまず一人で相手する」
「……意図は?俺達では相手にできないって話だが、……一人じゃきついんじゃないのか?」
Bランクの魔力の持ち主。俺達三人よりも強いと聞く。
……やるなら三人がかりがセオリーだろう……
自信家だから一人で充分だの、プライドが許さないからだの、言ってくるか?
と、思いきや……
「まず俺さまがタイマンして、様子を見る。奴の能力なり、戦術を確認するためにな。無理そうなら加勢でもしてくれりゃいい」
まともな意見だった……
自分の力を見せつけるなどと前に言っていたが、時と場合を考えているのかも。
それとも心境の変化でもあったのだろうか?
「おいおいらしくないやないか、南城。一人で充分だ、手出し無用!とかいうかと思うたんに」
付き合い長そうなアゼルすらこういうなら、やはり性格的に言ってもおかしくないのだろうな。
「Bランク相手だ、多少は慎重になる必要がある。油断は死をまねくからな。無論やれるなら一人で始末してやるよ」
心境に変化があったにせよ、なかったにせよ、ローベルトはそれほど警戒すべき相手なのだろう。
Bランクの魔力……。ピンとはこないが俺達三人よりランクは上と聞くと、一筋縄ではいかないのだろう。
南城を先頭に、少し離れて俺とアゼルが続く。
最上階も普通の会社のオフィスにしか見えない。とても魔族につかわれてる場所とは思えない……
――社長室の看板が見える。
「あの部屋か」
まず南城だけが先行し、すぐさまドアを蹴破り、乗り込む算段。
「よし……行くか!」
南城は意を決してドアの前に……
ド!ゴン!!
――立った瞬間、ドアが突き破られ、蹴りが顔面にクリーンヒットし、壁に叩きつけられた。
……くらったのは南城の方だ。
ローベルトが先に仕掛けてきたのだった。
蹴りをくらった南城は、後ろの壁にめり込んでしまっていた……
「て、テメエ何さらしとるんや!不意打ちなんて!」
アゼルはあまりの衝撃にうろたえている。
冷や汗をたらし、先ほどまでの余裕な態度はなくなっている。
「おかしなことを言うね君。戦いだよ?不意打ちも立派な戦術さ。むしろこっちは三人を相手に迎え撃とうとしているんだ。それくらいしても問題なかろう」
考えが甘かった……
……油断はしないと三人とも思ってはいたが、それは戦いが始まったらの話しだった。
……すでに敵の本拠に攻めこんでいるんだ。
敵が目の前にいなくても、細心の注意をするべきだった。
……無警戒で敵の大将のいる部屋に来た。
それがすでに油断だったのだ。
「なめた真似しよってからに!ぶっ潰す!」
「待て!」
俺の静止を無視して、アゼルは怒りに身を任せ、ローベルトへ殴りかかる。
「ふん!」
ローベルトは足を上げ、アゼルの拳をガード。
ギイン!と金属音が鳴り響いた。金属音……?
奴のズボンに少し穴が空いて確認できたが、別に金属の足などではない。普通の足、というか肉体だった。
「金属性の魔力か!」
「御名答」
アゼルがローベルトの魔力を見破った瞬間、腹部に蹴りを入れられ、そのまま奴の頭上へと高く上げられる。
そしてもう片方の左足で、天井へとさらに蹴り上げた。
「ぶっ!ぐはっ!!」
あまりの速度の連撃にアゼルはまったく対応できず、天井を突き破る。首から上だけが天井に突っ込んでおり、首から下はプラプラとぶら下がった状態。
……そのまま動かない。
「おや、どうした?」
両手を前に出すローベルト。
「止めろ!」
俺が止めにはいるも、遅い。
両手から発っせられた魔導弾が、アゼルに直撃。
その影響で、天井が青空の見えるほど大きな穴を開けた。
そしてアゼルは床に落下してくる。
落下し落ちてきたアゼルを確認すると、白目向いて気を失っていた……
だが、息はあるように見えた。不幸中の幸いだ。
先ほど、あれだけの強さを見せたアゼルがこうも簡単に……
南城の方も、不意打ちくらったせいか立ちあがってこない……
……あっさりと二人がやられた。……これがBランク。ローベルトの実力か。
「さ~てと。次はいよいよメインディッシュかね」
俺を見て卑しく微笑むローベルト。何の話か問う。
「……俺がメインディッシュ?」
「そうさ。なにせ朱雀、どれほどの魔力か楽しみだよ」
睨み合う俺とローベルト……
「いやしかし、久しぶりだねえ朱雀。ひと月ぶりくらいかい?あの力の覚醒の日から」
……忘れもしない。
俺の
そして皮肉にも、力を思い出すきっかけとなった日。
「いやはや驚いたよ、あのときは。君が天界人だったこともそうだが、まさかあの伝説の四聖獣、朱雀とはねえ。あの日になったのかい?」
……厳密に言えば違うらしい。なった日の記憶はないが……
ただ忘れていた力を思い出しただけって話だ。――だがこいつに、
「いちいち答える気はない……」
「そうかいそうかい。ただ失態だったよ。生き残り出した事で、天界に吾輩たちの行動がバレたわけだしねえ。それからというもの、部下も失敗続き。君に会ったのが運のつきかね」
「……俺に会ったからじゃない。
お前が、俺の家族に手を出したからだ」
大事な家族のために覚醒した力。俺だけなら、思いださなかったかもしれない……
奴が家族に手を出した、……それが運のつきだったんだ。
「二度とお前らに、家族を傷つけさせない……」
「ほう……、なら吾輩を倒すと?」
「ああ、そうだ」
何時もの調子でぺちゃくちゃ俺を煽り出すかと思ったが、空気を読んだようだ。
「「神邏、気をつけろ。奴は金属性の魔力……。私、いやお前の木属性の魔力と相性悪い」」
風の聖霊イリスの助言。
……そうなのか。木だから火にでも弱いのかと思ったが。
「「人間界でいう五行と同じだ。最悪木属性の相性だけ把握していればいい。悪いのは金、良いのは土だ」」
ただでさえBランクの格上なうえに相性も悪いとはな……
だが、それでも勝つしかない。
今やまともに戦えるのは、俺ただ一人なのだからな……
「どうした?かかってこないのかい?」
ローベルトは手招きしてくる。ムカつく態度だ……
「とりあえず……。仕掛けるか」
まず剣で斬りかかる。
――横薙ぎ。
しかし、軽く躱される。
続けて斬りかかる。ななめに、縦に、横に、すかさず連続で。
……だが全てを紙一重で避けられる。
「なかなか速いではないか、驚いたよ。これは吾輩も本気でいかねばなるまい!」
ローベルトは素手で剣をつかむ!そして奴は右足で孤を描くように、俺を蹴り上げる。
その衝撃で宙を舞いきる前に、左足での連撃を放ってきた。
ドッドムゥ!!と蹴りの音が響く。
「――!」
俺は勢いよく、転がるように壁に激突した。
「ゴホッゴホッ」
血反吐を少し吐きながら、俺は咳き込む……
「おや、まだ意識があるかい。やはりそこの二人とは違うね」
関心して軽く拍手するローベルト。
……バカにしているのか、本気なのかは知らないがな。
「ん?」
ローベルトが俺とは違う方向に視線を向ける。
俺も視線を動かすと……
後ろからヨロヨロしながら、南城が立ちあがって来ていた。
「舐めやがって……。殺す!」
無事でなによりだが、フラフラしており、とても戦えるような状況ではない……
――なら、
「南城、そこのアゼルって人連れて、離脱してくれ……」
「あ?何言ってやがる、一人で勝てる相手じゃねえってお前が言ったんだろ」
「そうだな……。だが」
アゼルを見る。……完全に気を失っている。
南城は意識があるとはいえ、あの不意打ちが相当効いたかフラフラだ。
……これでは三人がかりもクソもない。
それに……
「……悪いが倒れてる人を守りながら戦えるほど、余裕がない……」
言い方は悪いが……
この状況だ、仕方ない。
「ちっ……アゼルが邪魔だな。確かに」
頭をかきながら、ため息をつく南城。
「わかった。こいつは安全なところに連れて行く。だがすぐ戻ってくるからな」
俺一人に任せる気は毛頭ないと言いたげ。最悪それでも構わない。
「……わかった。ならついでに下の兵の人達も、ビルから避難するよう呼びかけてくれないか?」
「……?まあいいが」
疑問をもったようだが、あえて深くは聞かずに、南城はアゼルを担ぎ戦線をひとまず離脱。
……意外にもローベルトはなにもしないで待っていた。
「……悪いな。待っていてくれたのか」
「いやいや。あんな小物どうでもいいからね。それに喋りながらも君は、吾輩に対して意識をそらしていなかった。どうせ不意打ちにならんならと思ったまでよ」
先ほどの反省で、一切の油断はしないと俺は決めていた。常に気をはって、奴の動きも注意していた。
「邪魔者はいなくなったわけだし、第二ラウンドといくかい?」
「……そうだな」
――言った瞬間、俺はかまいたちを放つ!
「下らん」
蹴りで軽くかき消される。
すると奴の視線の先に、俺はすでにいない。
今のかまいたちは目眩ましというか、囮だ。
視線をかまいたちに向けたスキ。その間に、ローベルトの背後に俺は移動していた。
かなりの速度だったと思う。
自分で自分に驚くほどの速さだった。
魔力を足に集中することで、今までの自分とは比べ物にならないスピードを出せた。
これも体に染み付いた動きだろうな。今まで考えもしなかったことなのに、なぜか今いきなりできた事だったから。
奴の後ろをとり、剣を振る……
――が、
しゃがんで避けられる。
奴は後ろを振り向いてもいないのにだ。背後に目でもついているのかと、思わざるえない避け方……
その状態のまま、俺に蹴りをお見舞いしようとしてきたが、それは反応して避ける。
俺はその反動で、後ろにジャンプして距離をとる。
……やはり一筋縄じゃいかない……
そう思っていると……
ローベルトが険しい表情をしていることに気づく。先ほどまでの、なめたような卑しい笑みがない。
「今の一撃のスピードも速かった。恐ろしくね……。先ほどとは雲泥の差だ。手加減でも今までしていたのかい?」
……そんなわけあるか。
ただでさえ格上……そんな余裕あるわけがない。
「もし違うというなら、戦いながら成長してるとでもいうのかい?」
「……さあな。知らない」
「そういう短期間で成長するものは危険すぎる。もし本当にそうなら、今のうちに始末するのが1番だ」
ローベルトは全身から魔力を吹き出す。目に見えるほどに実体化。緩やかなオーラが、ローベルトの全身をつつんでいるかのよう。
「いくぞ」
俺めがけ、一直線に跳んでくる。
怒涛の勢いで、拳の乱打、蹴りの乱打を繰り出してくる!
だがそれらを剣で弾くなり、避けるなりで全てをいなす。
「本当に成長してるのかもしれないね!これはこれは恐ろしい!!」
必死な形相で、攻めの手を緩めないローベルト。
俺もまた必死に回避する。
……避けれてはいるが、防戦一方だ。
このままでは埒が明かない……
背後に意識がわずかにいく。
……壁がある。押され気味で、少しずつ後ろに下がっていたため当然。
壁を背にしたら避けられなくなるかも……
いや、違う。
ならそれを逆手にとればいいと判断する。
ローベルトはもう防ぎきれまいと思ったか、渾身の蹴りを放つ。
……今だ!
俺は壁を背にした後、全力で蹴りを避ける。
蹴りは壁を粉砕する。だがそれにより、足が壁に突き刺さりほんのわずかだがスキができた。
俺はそのスキにまず一撃!
斬撃がローベルトに直撃!
ギインとまたも金属音。
全身の魔力が奴を守っているのかもしれない。
いや知ったことか!なら連撃するまで!
ローベルトは避けきれず、斬撃を受けまくる。
だが金属音からして、効いていない……か?
ガアン!!
「――!!」
ローベルトは膝をつく。効いた……?
ならばこのチャンス、逃すものか。……俺は続けて、斬撃を高速で繰り返す。
手でガートするなり、避けるのに必死になっていくローベルト。 さっきとは形勢逆転。
ちなみにもう足は壁から抜いている。一撃をくらい、軽く吹き飛んだ影響でだ。
「くっおのれ……」
――ズバッ!
ついに魔力のガードを破り、薄皮一枚だが、ローベルトのひたいを切った。少しだけ黄緑の血が流れる。
……いける!そう、思った。
「舐めるなあ!!」
ローベルトは床に穴を開ける。
その衝撃で、下の階に俺とローベルトは落下。
上手く受け身を取れず落ちた事で、ローベルトに距離を取られてしまった。
……だが今の一連の動きを見て、勝機を感じた。
……これならあの技を使えば勝てるかも。そう判断する。
「「神邏、なにか勝算がありそうな顔をしているな」」
イリスはそんな俺の考えを読む
(ああ。この前やった絶華って技、あれを全力で撃てば……)
「「あれか。……その太刀筋を受けし者、花弁のように散るのみ。――絶ち切る華……。
なんか呪文を唱えるように、技を言うイリス。
……なんかすごそうな技だったんだな……
前に撃った時は無我夢中。魔力の集中とかもしていない。
恐らく、あの技の威力はあんなものじゃない。
フルパワーで撃てれば……
一筋の光明が、俺には見え始めていた……
――つづく。
「盛りあがってきましたね。次回神邏くんの必殺技で、敵の大将やっつけてくれるでしょう!」
「次回 絶ち切る華 必殺!絶華・一閃!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます