第11話  アゼル・ディボルト

「許せねえ!許せねえ!ぶっ殺してやる!」


 ボロボロになりながらも、北山はリヴィローに攻撃を仕掛けていた。

 ……しかし傷が深いせいか、まともに当たらないし、一撃も軽い。


「乱よ、そりゃねえぜ?曲がりなりにも一緒に過ごした兄弟じゃねえかよぉ。そんなに怨むなんて、兄ちゃん悲しいぜぇ〜?」


 ヘラヘラ笑いながらそんなこと言われても、嘘としか思えない。

 いや、たとえ本心でもこの男は実の兄を殺してるのだ。北山の心中を考えればそう簡単に許せるわけがない。


「こりゃ兄として、教育してやらんとなぁ」


 そう言った後、リヴィローは北山の貫かれた腹部を蹴り上げた!


「がっ!?」


 まともに声も出ないほどの激痛を感じる北山。

 貫通した傷口を狙った一撃だ。  尋常ではない痛み。それだけで失神しかねない。

 常人なら立っていることもできないだろう。


 だが北山は這いつくばらない。それでも立っていた。


「おっ!偉いぞぉ。さすがはユニコーンの力を得ただけはあるなぁ!じゃあ今度は……」


 リヴィローは手を挙げる。

 すると鉄糸がその腕に絡み、縛られる。


「ん?何だぁ?」

「北山くん逃げて!」


 九竜姫御子が駆けつけてくれたのだ。鉄糸は彼女の仕業だ。


 彼女は北山の傷を見て、もうまともに戦えないと判断。


「ここはアタシ一人でなんとかします!」

「一人で?嬢ちゃん、笑えねえ冗談……」


 腕に絡んでいた鉄糸が、一瞬で燃えた。


「だなぁ~」

「な!?そっ、そんなアタシの鉄糸が……」

「そんなちゃちな金属性魔力で、おれ様を倒せるわけねえでしょ〜」


 九竜自身、手に負えない相手かもと判断。


「北山くん!ここは……」


 九竜の言葉を無視して、腹を抑えながら、北山はリヴィローに殴りかかる。

 当たっても効くわけもないが、遊ぶかのようにリヴィローはゆっくりと避ける。

 

 九竜は言うこと聞かない北山に大声で叫ぶ。


「なにしてんの北山くん!その傷で!」

「うるせえ!!」


 怪我人とはおもえないほどの、九竜以上の声量で北山は叫んだ。


「こいつはな!おれの兄貴のかたき、なんだよ!だから……おれが、倒さなきゃいけねえんだ!」


 血反吐吐きながら、決死の覚悟をしている。


「うんうん立派だぞぉ乱ぇ~。兄ちゃんも鼻が高いよぉ」


 涙を流しながら、おちょくるリヴィロー。

 涙を流してるのはただの演技だろう。本当に感動しているわけではない。


 九竜は思う。このままでは北山は一緒に逃げてくれないと。

 かといって自分じゃリヴィローに勝ち目はない。これでは北山を助けるという約束を果たせない。

 どうしようかと考える九竜……


 そして――1つの決断をする。


「……こうなれば乗りかかった船!」


 九竜は北山の元に走り、彼の腹部の傷口にそっと魔力を送った。

 暖かい魔力。それの影響か、傷の痛みが和らいでいく。

 北山の頭は理解に追い付いていなかった。


「え?なにを……」

「言っとくけど、あたしは回復魔術は下手だし、最低限の応急処置くらいしかできないから!あとついでにあたしの魔力を託す!それでこいつを倒しなさい!」


 どうやら回復しつつ、自分の魔力を北山に分け与えたようだ。

 そして九竜はほとんどの魔力を北山に送りきり、膝をついた。


「はぁはぁ。……逃げずにここまでやってあげたんだから、勝ちしか許さないから!」

「ありがてえ……。やっぱ好きだぜ姫ちゃん」


 痛みはある。だが動けなくはない。


 これなら戦える――

 それに魔力も九竜のおかげで回復したし、万全に近い状態で戦う事ができそうだった。


「おやぁ〜?ずいぶんと元気になったようだな。でもよぉ、それくらいで勝てると思ったなら、大間違いなんだよなぁ」

「それはどうかね。おれの全力見せてやる!」


 ユニコーンによって作られた武器の杖を顕現。そして、いきなり大技!


「受けてみろ!スプラッシュホーン!」


 水の魔力が作り上げた、長く巨大なユニコーンの角。その一撃がリヴィローに……





 ――神邏side。


 ローベルトコンツェルン本社。


 俺と南城がビルの前に来ると、 天界軍の兵が大勢倒れている。

 一応魔族や妖魔も倒れてるが少ない……

 奇襲をくらった影響で、天界軍の被害のほうがデカかったとわかる。


 ……会社の中に入ると、そこにも倒れた味方と敵。

 だが生きてる兵の方々もいた。傷ついた様子で座っている。


「お、おお援軍のランカー殿か?」


 ベテランらしきおじさんの兵が俺達に気づいた。南城が軽く頭を下げ、名乗る。


「◇の8南城春人です。状況は?」

「奇襲はくらったが妖魔は全滅、魔族もだいぶ始末しましたぞ。だが異能七人衆とかいう幹部の奴に我々や低ランカーの方がほぼやられてしまい……」

「生き残りとその幹部は?」

「軍の生き残りはここにいるもの以外ではアゼル殿だけですな。我々を休ませて一人で上に。……敵幹部はアゼル殿よりも前に上に登って行きました。自分が出るまでもないと思ったのではなかろうか……」


 ……周りを見渡すと、敵はこの階にはもういないように見えた。


「アゼル殿がいなければ全滅し、敵ももっと大勢生き残ってたかもしれませんな。……本当に感謝しかありませんぞ」

「まああいつの実力なら容易でしょう。ということは予定通り、雑魚共はあらかた殲滅出来たと」

「はい。犠牲は予定以上でしたがね……」

「作戦がバレてなければな……。何故バレたのかは知らねえが」


 悔しそうにしている南城。


「だが死者を弔うのは後だ。自分達はアゼルと合流するのでここは任せます」

「ええ。お気をつけて」


 行くぞと南城は首を振って合図すると走り出す。俺は兵の方々に頭を下げ、南城を追う。


 ……しかし口が悪いと思っていたが、南城って敬語使えなくはないんだな。


「情報が入った。アゼルは今15階にいるらしい行くぞ」


 電話とかしたそぶりはないが、どこから情報が入ったのだろうか?

 ……俺がそんな疑問を持ったことに気づいたか、南城は言う。


「天界軍には伝令とかを伝える部署があってな。能力で兵の脳内に情報を送ったり、こっちから渡す事もできる。アゼルが現在地をそこに送って、伝令部隊を通してオレ様に伝わったんだよ」


 なかなか便利だ。

 いちいち電話なりするより、そっちのほうが早くていいだろう。


「まあ兵同士でやりとりはできねえがな」


 ――15階にたどり着く。とはいえ広い。部屋も何個もあるし探すのは大変……


 ――ドガアン!!


 ……なにやらデカい爆発音が鳴り響いた。

 戦闘中の音だろうか?


「わかりやすいじゃねえの。音がした方へ向かうぞ」


 二人で音のした周辺へと向かうと……

 背の低い魔族が一人。

 そして少し離れたところに立っている、袖のない軍服を着た男の姿が見えた。


「アゼル!」


 南城はその袖のない軍服の男に声をかけた。


「なんや南城。無事だったみたいやな」


 ニヤッとするアゼルという男。

 ……情報によると♧の9だと言われてた人か。


「無事も何もまだ戦ってもねえよ。疲れたなら変わってやるぞ」

「アホぬかせ。まだまだ準備運動みたいなもんやで。そこの七人衆とかほざいてる奴はワイが倒すからそこで見とけや」

「じゃあお手並み拝見」


 南城はその場で座り込む。

 手助けもせず、アゼルの戦いを見物するようだ。

 俺は一応南城に聞く。


「……いいのか南城」

「あいつの実力は折り紙つきだ。相手がそのローベルトとかいう大将ならともかく、幹部程度ならわけねえだろ。……多分」


 多分という言葉にズコッと、こけそうになるアゼル。


「おいおいそこは信じろや。お前とは長い付き合いなのに。……学園時代切磋琢磨したやろがい」

「お前別の学園通ってただろうが。大会とかでよく出くわしただけだ」

「だからわかるんやろ。ライバルみてえなもんやしな~。美波、お前もやで」


 話を振られるとは思わなかった。まあ俺は南城と同じ学園に通ってたらしいから、このアゼルという飄々とした男とも顔見知りでもおかしくない。


「久々に見せたる。ワイの圧倒的実力を」


 黒い魔力がアゼルを覆う。


「「珍しいな闇属性の魔力じゃないか」」


 木属性の精霊イリスが反応。


 (闇属性?)

 

 俺は心の中で話しかける。


 別に聞かれてもいいのだが、普通の人には聞こえない、自分の精霊との会話なわけだしな。

 ……普通に喋ったら独り言ブツブツ言っているように思われる。


「「ああ。基本五大属性とは別の、特質三属性の一つだ」」

(基本もよく知らないが……俺の木属性は基本なんだよな?)

「「そうだ。だから相性的にはまったく関係ない属性だな。まあ暇な時に属性について教えてやろう」」


 珍しいうえに、初めて見る属性なわけだし興味深い。

 俺はその戦いぶりをじっくり見ることにした。


 相対してる魔族は機嫌悪そうに口を開く。


「テメエよ。マジで一人でやる気かよ。オレっちを誰だと思ってんの。異能七人衆トルーグ様だぞ」

「いや知らんがな。幹部いうても、こんなちゃちな組織のじゃあたかがしれとる」

「殺すぞ!」


 このトルーグという魔族、背が小さく声も女みたいに高く、子供みたいな容姿をしてる。

 案外本当に女なのかもしれない。

 腕の筋肉は隆々で並の人間の腕の太さではない。


 一体どれほどの実力なのか……


「とりあえず勝ったら大将のローベルト、どこにおるか答えてもらうで」

「ローベルト様なら最上階の社長室でティータイム中だ」


 まだ戦っても無いのに答えだした?何故?


「へ?本当か?嘘やないやろな」

「嘘なんかついとらんわ」


 この魔族関西弁がうつってるぞ……


「どうせお前らは三人まとめてここで死ぬ。だから冥土のみあげに教えてやったのよ」

「三下のセリフやな」

「ああん!」

「御託はええからはよ来いや。雑魚としか戦っとらんから、ストレスマッハやで。まあお前も雑魚やけど」


 両手を前に出すトルーグ。


 すると周りのイスや机などが動きだす。そしてそれらの物体が一斉にアゼルを襲う。


「ポルターガイストとかいうやつか?なんや異能言うから、もう少しマシな能力でも使ってくんのかおもたわ。ガッカリ」


 アゼルは凄まじい速度の拳で、それら物体を粉々に全て粉砕してみせる。


「スキあり!」


 トルーグはアゼルの左腕を指す。……その後異変に気づく。


「あ?左腕が……動かん?」

「ヒヒヒお前の左腕のコントロールは奪った。その左腕はオレっちの所有物となった」

「は?何言って……」


 トルーグの発言すぐ、アゼルの左腕が本人の意志を無視して、関節とは逆に動きだし……


 ――ボギィ!と骨の折れる痛々しい音が鳴った。なんだ……?

これが能力なのか?


「ありゃ……」

「どうだオレっちの異能超術!なにも物体を好きに動かせるだけじゃねえ!相手のからだだろうが、なんだろうが所有権を奪い、いのままに操れるのさギャハハ!」


 上機嫌に自分の能力をペラペラ喋る。もう勝った気だからだろうか。

 ……その油断が命取りになるというのに。


「超能力みたいなもんか?まあ珍しいっちゃ珍しいが、そんなたいそうなもんやないな」


 腕を折られた割には、余裕の表情で分析するアゼル。


「そもそも能力なんて、魔力の高い者なら魔族や天界人に限らず、手に入れる事ができる。能力一つでドヤッてるのはまだその粋にすら達してねえくせに、能力持ちになって浮かれてるアホのすることや」

「このクソ虫があ!」


 やすい挑発にのるトルーグ。図星なのかただ愚かなのか……


「こうなったら遊びは終わりだ!てめえの脳のコントロール奪って、てめえの意志に関係なく自殺でもさせてやんよ!」

「もう遅えよ」


 トルーグが行動する前に、アゼルは一瞬で距離を詰めていた。


「は、速……」

死犬撃デスブリッド!」


 黒い禍々しい魔力がアゼルの右拳に集中――

 そしてその一撃がトルーグに直撃!


 トルーグは血反吐を吐き散らし。


「ぐぼあっ!……つ、強すぎる」


 一撃でノックアウト……

 地べたに這いつくばった。


「やっぱ雑魚やったわ。能力に自信あったみたいやが遅いし、支配力も大したことはない。属性相性が悪くもなければ、恐るるにたらんやろ。なんの属性か知らんけど」


 ペっと唾をトルーグに吐きかけた。

 曲がりなりにも幹部相手に圧勝する実力……。確かに強いかも。


「オレさまなら属性相性悪かったとしても、あんな雑魚余裕だがな」


南城がケチつけだした。


「んあ!?ならワイも余裕や」

「さっきと言ってる事ちげえぞ」

「うるっさいわ!」


 くだらない喧嘩をしている……

 まあ喧嘩するだけ……というし。


「「……神邏、このアホ共放っておいて先に行ったらどうだ」」


 イリスが呆れている。


 (いや、そうもいかないだろ。なにせ次はあの……)


 ――俺は思い出す。

 朱雀の力を取り戻すきっかけとなった日。家族を狙い、危険な目に合わせた妖魔を引き連れた魔族……ローベルトを。


 (今度は本物のご登場か。……決着つけてやる)


 あの日の決着を。


「……ところで天界人なのになんで関西弁なんだ?天界に関西があるわけでもないだろ」

「ん?あるわけないやろ。雰囲気や」


 なんだそれは……


 ――つづく。



「いよいよ敵の大将のおでましらしいですよ。果たして勝利はできるのでしょうか?まあ勝利の女神の私が、神邏くんについているので大丈夫でしょう!……誰か笑いました?」


「次回 ローベルトという魔族。 あんな変な奴には負けませんよね!」



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