第9話 ローベルトコンツェルン
この日、またあの夢を見た……
いつものように戦い、誰かに殺されそうになり、誰かに助けられる夢。
……だが今回少し変化があった。
俺を切ろうとした相手と、かばってくれた人の顔が見えた。
切ろうとした相手は、顔にかかるほどの長い前髪をした銀髪ロン毛の美形の男。おそらく魔族。
そしてシャドという名前だと何故かわかった。その夢の中では名乗っていなかったのに……
一方かばってくれた人は……
予想通り……
父親の美波火人その人だった……
♢
先日の戦いから時は過ぎ、一ヶ月ほどたつ。それからも幾度か魔族と戦いつつも、危なげなく処理してきた。
ちなみに安野はピンピンして、元気に野球に勤しんでいる。夢と簡単に信じてくれたし、本当によかった。
そしてこの日はまた、天界軍の指令があったため、俺、南城、九竜、北山の皆でいつもの場所に集まる。
ふと友人の北山が目に止まる。
彼は目をパチパチと閉じたり開いたりして、大きくあくび。
……やけに眠そうにしているな。
「……寝不足か?」
「あ~まあ疲れもあるかな。師匠の修業という名のしごきがキツくてな」
「……師匠ってどんな人なんだ?」
「酒くせえオッサンだよ。別に美人のお姉さんとかきたいしてたわけじゃないけど、もっと他にいなかったのかって言いてえよ。でもまあ実力はガチだけどな」
北山は頑張っているようだ。才能もありそうだし、いずれもっと大物になるかもしれない。…俺も負けてはいられないな……
「帰りも遅くなるから、兄貴に何してるか聞かれて困るぜ。まあ適当に誤魔化してるけどよ」
「いいのか言わなくて。…俺の家は単身赴任してる母以外は事情知ってるが」
「いいんだよ。別にやめろとは言われねえだろうけど、いちいち説明すんのも面倒だし」
そんな面倒くさがりな北山の態度に九竜は言う。
「ご両親には説明したほうがよいのでは?」
「あ~ウチ両親共に亡くなってんだよ。だから兄貴が親代わりなんだ」
「え、ごめんなさい……」
……心底申し訳なさそうにする九竜。失礼なこと言ったと思ったのだろう。
「いやいやいいって、もう死んでからだいぶたつし。下にチビ達もいるし、親戚にバラバラにやっかいになるとこだったけど、兄貴がいいとこに就職決まってさ、そっからはあいつが親なんだ」
「年、離れてるの?」
「ん~まあ5、6歳くらいな。元々はクソヤンキーでおれも嫌ってたんだけどよ、その一件からはわりと改心して、今じゃ親みてえにうるせえのよ」
やだやだと言いつつも、笑っている北山。
俺はそのことを知ってはいるが、その兄とは会ったことない。
でもよく兄と喧嘩しただの、よく話に出るから兄弟仲がいいとはわかっていた。
「兄弟の面倒見てんのか。……できた兄貴だな」
意外にも南城が話に入ってきた。すると北山は照れくさそうにする。
「いや、そんなたいそうな兄貴じゃねえってホント。昔はクソで今も口はわりいし、小遣いもあんまくれねえしよ。そこそこいい給料もらってるはずなのにだぜ?」
「どこに勤めてるんだ?」
「ローベルトコンツェルンとかいう大きな会社だぜ。よくもまあ、あんな兄貴が入れたもんだよ」
ぴくりと眉を動かし反応する南城。
「おいそこ、……今回の指令に関係あるかもしれねえぞ」
「へ?」
その間に、また映像がどこからともなく俺達の前に映りだす。
『皆集まっているな』
黄木司令が映像に映り俺達四人を確認。
『実はな、今回は今までとは違い楽な仕事ではない』
楽……というのもあれだが、確かに今のところは魔族といっても労せずに倒せる相手ばかりだった。
……今回の相手はそうはいかないと言う事だろうか?
「捕えた魔族共から吐かせた情報だが、ここの所の犯行はほぼ全て同じ組織によるものらしい」
「へえ、人間界に逃げ込んできた連中でも、組織なんか作ってるんですね」
関心する南城。どことなくバカにしたような表情だが。
……今の発言、少し気になるところがあった。だから俺は聞く。
「……逃げ込んでって、なんの話だ?」
「ん?知らねえのか。だいたいの魔族は、魔界からの争いに負けて、人間界に逃げ込んできた奴らなんだよ」
……初耳だった。俺は続けて聞く。
「……奴らが人を襲い、力を得ようとしているのは魔界に戻るためなのか……?」
「野心家な奴ならありえるが、諦めてこの世界で好き勝手暴れたい連中もいるだろうし、それぞれだろうな」
魔界と違い人間界なら敵はいない。……そんな安全圏で非道な事を楽しむなんて、ろくでもない話だ。
そんな連中を野放しにしないために、天界が人間達を守っているのだろう。
『話を戻すぞ』
黄木司令が咳払いして言った。
……今は話の途中だったな。
「今人間界では徒党を組む魔族がわりといるらしいが、……今回の組織はその中でも最大勢力と噂だ。そこのボスの名はローベルト」
……その名、どこかで聞いたな。すると九竜が手を上げる。
「その名前、朱雀の家族が襲われてた時、聞いた気がします」
九竜の発言で思い出す。
あの日、……確か部下の妖魔が従っていた相手の名前が、そのローベルトだった。
その場にいたのは偽物だったが。
※1話の出来事。
「うむ。そのローベルトは魔界でも名が知られているほどの男らしい。……情報による推定だが魔力ランクはBランク相当と聞く」
「Bランク!?」
「そんな奴が人間界に!?」
九竜と南城が驚愕しているが……。俺にはピンとこない。
「それって強えの?」
俺の変わりに、北山が耳ほじりながら、あんま興味なさそうに聞いた。
南城は冷や汗滴しながら答える。
「強えなんてレベルじゃねえよ。天界軍の上位ランカークラスだ」
「ん?それって上の幹部ってことだよな?じゃあ軍の人の多くは太刀打ちできないって事か?」
「そうなる。オレ様や九竜じゃ手に負えないかもしれねえ……」
南城と九竜のランクは◇の8と7と言っていた。
北山が♧の3で下と言っていたから、トランプの数字通りなら13が一番上となるだろう。つまり8と7なら真ん中くらいで上位ランカーではない……
九竜は不安そうに黄木司令に聞く。
「10以上のランカー、……来てもらえるんでしょうか……?」
『増援、というか兵はだすが、上位ランカーは無理だ』
「何故です!」
『それぞれの上位ランカーは天界の守護なり、魔界の調査なりで今は向かわせることはできん』
「……そんな。なら四将軍の内一人でも……」
「もっと無理だ。なんで上位ランカーより上の最高戦力が出せると思った」
四将軍……。上位ランカーよりも上の階級があるようだな。
「変わりと言ってはなんだが、アゼルの奴を援軍として送る。5人を中心として今回の指令受けてもらう。悪いがな」
「わかり、ました……」
あまり納得いってなさそうな九竜……
「ところでアゼルって?」
北山が南城に聞いた。
「オレ様達の同期だ。階級は♧の9だから、お前の上司とも言えるな」
北山も♧だからか?
「上司?まともに軍の連中とも話してねえのに、そんなこと言われてもなあ」
「まあ◇は◇としてとか部隊を分けられることなんて、ろくにねえからどこだろうが上の階級なら上司みてえなもんだが」
幹部とはいえ、まだまだ上はいるようだな。
黄木司令は話を続ける。
『あるタイミングで付近の住民は皆退避させておく。そこからは直接乗り込んで、ローベルトとその一派を討ち取れ』
「捕らえなくてもいいんすね?」
『ああそうだ。ローベルトはかなりの長い期間、この人間界で悪行をおこなっているらしい。その上Bランクなどと天界としてもやっかいこの上ない存在を放ってはおけん。故に始末してもらいたい』
「そういうことなら。……へっ腕がなる」
南城はBランクと驚いてはいたものの、ローベルトを恐れてはいないみたいだな。
むしろ拳を鳴らしてこの戦いを楽しむようにも思える。……頼もしい奴だな。
一方の九竜は不安そうな表情。
二人は相反していた。
「攻め込むと言う事は本拠はわかってるんすよね?」
「ああ。奴らの本拠は大会社ローベルトコンツェルンだ。そこの本社ビルに乗り込む」
……ローベルトコンツェルン?
その名前はさっき聞いた。確か北山の兄が勤めている……
「え?そこの会社が?魔族の?どういうこったよ」
北山がうろたえだす。
……当然の話だ。
黄木司令は答える。
『そこの社長ローベルトが魔族なのだ』
「な!?なら兄貴に伝えねえと!」
『待て。お前の兄そこに勤めているのか?それも本社か?』
「え?ああそうだよ、それがなんだよ。だからそこは危険って伝えねえと……」
目を閉じ、少し言いづらそうにする黄木司令。
だが、ゆっくりと口を開く。
『おそらく……手遅れだ』
「……は?」
『お前の兄はこの世にもういない可能性がある』
「何言ってんだよ!普通に今日も朝、元気に会社に通勤したぞ!」
大声で信じられるかという態度を見せる。
……確かに今日会っているのならそこを疑う余地はないな。
今殺されたとかなら話は変わるが……
『今日通勤……か。そもそも、その人物が兄じゃない可能性があるのだよ』
「また訳のわからん事を!おれが兄貴と他の奴を間違えるわけねえだろ!」
『魔族にはな、喰った相手に擬態できる者が一部存在するのだ。すでに社員が魔族とすり変わっているという情報もある』
「そんなはずあるか!」
周りを気にしないほどの怒号を発っする北山。
「兄貴はなにも変わったところはなかった!すり変わったっていうなら、何かしら違和感あるはずだろ!」
『記憶のコピーくらいしているだろ。違和感なくても不思議ではない。本社の社員はおそらくほぼすり変わった魔族だ。何食わぬ顔で人間として生活してるのだろう』
「信じねえ。……信じねえぞ!」
北山は飛びだして行く。
……冷静さをかいているし、まさか……
「おい、あいつ一人で行く気じゃねえだろうな」
南城の言葉に俺は同意し頷く。
北山の性格からしてありえる。
『まあいい作戦決行だ。とりあえず奴は止めに行ったほうがいい』
映像は途切れた。
「……北山を追おう」
俺達はとにかく、暴走気味な北山を止めに走って行った。
――天界side。
映像を消した後、黄木の元へ西木がやってきた。
「黄木殿!さすがに今回の任務は彼らだけに任せるのは危険かと!」
「そうは言っても、やってもらわねば困る」
「朱雀のランクですらCランク相当なはず、勝ち目は薄いんですよ!」
「……あいつの潜在能力はその程度ではないはず。その力に期待するしかあるまい」
「なにをバカな……。だめだったらどうするのですか?ここは四将軍でも向かわせてもよいくらいではないですか。なんなら僕、行きますよ」
西木がそう言うと……
「ダメだ!我々のその油断で天界の守護をおろそかにしたから、火人が殺されたのだぞ!」
必死な形相で黄木は止める。
西木は励ますように言う。
「……あの時の帝王軍進攻は読めなかった出来事、気にし過ぎですよ。司令の責任ではありません」
「だが、あのような事は二度と起こしてはならんのだ……」
「そう思うならその事情、子供の朱雀には伝えるべきでは?」
「……確かに奴に負担をかけるわけだし、父親を亡くしたきっかけは某にあるわけだしな」
帝王軍の進攻……それが神邏が見る夢の話なのかもしれない。
父火人が亡くなったきっかけの戦いというのなら……間違いない。
……帝王軍とは一体?
――つづく。
「これはなかなかやっかいな相手になるのかもしれませんね。神邏くん、無事に戦い抜いてほしいです。そうメインヒロインのルミアちゃんは思っています」
「次回 北山兄弟。悲しい出来事が起きるやもしれませう……。語尾にせうってつけたらなんか可愛く見えません?」
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