第8話  魔力吸収

 ――隣町の市民球場。

 そこで安野達野球部は、他校との練習試合をおこなっていた、


 俺と南城が現場につくと、周囲は煙に覆われていた。


 俺はズボンのポケットからキーホルダーを取り出す。

 このキーホルダーは武器精霊スピリットウエポンのリーゼが変身している姿。


「リーゼ」

「は~い」


 呼びかけに答えて、彼女は剣へと姿を変えてくれる。


朱雀聖剣サウスブレイドか?それ」


 と南城が聞いてきた。

 ……武器聖霊の別名かそれ?


「武器精霊だ。剣の名前は知らないからわからないが……」


 すると、リーゼが変わりに答える。


「名前はそれであってるよ。名前も知らなかったのはダサすぎないお兄さん?」

「……いや、聞いたことないから知らないのもおかしくないだろ」

「いやいや朱雀たるもの知ってないと〜」


 何時ものように笑うリーゼ。


 ……まあいい。

 俺は剣に魔力を集中し、前回覚えた技、かまいたちを弱めに撃つ。


 すると煙だけが吹き飛んでいく。

 強く撃たない理由は、もしそこに人がいたら危ないからだ。

 だから最低限の強さで放った。


 ――煙がはれていく……


 はれた視界を確認すると、多くの人が倒れている事に気づく。

 さらに確認すると、唯一立ってる何者かの姿が見えた。

 ……その者は角の生えた、見るからに魔族。そして今まさに、その魔族が誰かの腕をつかみ、へし折ろうとしていた。つかまれているのは……安野!


 なりふり構わず俺は安野の元に向かい思い切り、魔族の側頭部を蹴り飛ばした!


 バアギィッー!と骨のきしむ音が響きわたる。


 魔族はピッチャーマウンドから、レフトの定位置あたりまで、グラウンドを削るように吹き飛んでいった。


「み、美波……く、ん」


 安野は俺に気づく……

 彼は震えて恐怖に歪み、涙を流していた。


 そして、先ほど掴まれていたほうと逆の腕は……すでに折られていた。


「お、オイラこれじゃ野球、が……」


 そう言い、安野は事切れた。


「安野!」

「安心しろ、気絶しただけだ」


 南城がすぐさま安野の安否を確認してくれた。


 命に別状なかったのならよかったが……。この折れた腕ではそう簡単に治らないかもしれない。となると今年の県大会は……


「いてて。てめえまさか朱雀かあ?」


 蹴られた所を触りながら立ちあがり、俺の元へ歩き近づいてくる魔族。


「……だったら?」


 ……怒りを抑えつつ俺は聞く。


「まじかよ。本当に邪魔しにきたのかの言った通りじゃねえか……」


 ……情報屋?


「今日ほんとに邪魔しに来るとはよ~あいつの情報は信用できるって事か?」


 ……どうやら今日俺が、この場に現れる事を知っていた者がいたらしい。……何者だろうか?


「しかしわからねえな」


 南城が口をひらく。


「この安野って奴だけでなく、倒れてる人間も全員生きてる。魔力喰うのにもたついてたようには見えねえが」


 みんな無事なのは良いことではあるが、南城にとっては違和感しかなかったようだ。


「ただ始末するだけなら、そりゃすぐ終わるがよ、魔力を喰うのは魔族によって早い遅いがあるからな」


 ということはこいつが遅かったから、間に合ったということか?


「それにおれは魔力を喰うのが下手でな。少しでも相手から放出してもらわねえと喰えねのよ」

「だから恐怖を感じさせたってわけか」

「そういうこっと」


 ……どういう事だ?

 そう疑問を持ったが、意味はこのあとすぐわかることになる。


「恐怖、つまり感情を昂ぶらせて少しでも魔力が漏れ出させ、そこから吸い殺すわけだな」


 感情の爆発。……それは俺自身も経験したこと。それにより魔力が放出されたわけだし。


 ……つまりそれと同じ事。

 安野達を恐怖という感情で支配し、その流れで魔力が漏れさせたって事か。

 そうして漏れた魔力を喰う。そんな作業を奴はしていたってことか。


「とりあえず、全員逃げられねえように眠らせて煙幕張ってよ、少しずつ痛めつけて喰うつもりだったのよ。あんまモタモタする気なかったんだが、そのガキがあまりにも情けないから面白くなっちまってなあ」


 安野の事だろう。


「漏らして泣きだして命乞いして傑作だったぜぇギャハハ」

「……それ以上笑うな……」

「お?キレてる?じゃあてめえの魔力も!」


 キレかかってる俺の様子を見て、魔族は俺の魔力をつかみ喰らおうとする……が、


「あり?魔力を引っ張り出せねえし、く、喰えねえ!?」


 引っ張る事も、魔力を吸収することもできない。


「当たり前だろ。バカかてめえ」


 南城が呆れた。


「力をコントロールできる相手の魔力を、そう簡単に喰えたり引っ張り出せるわけがねえ」

「クソが!」


 魔族は後ろに飛び少し離れる、


 奴はなんとも思わず、ここの人達を皆殺しにして魔力を喰うつもりだったはず。

 何故そこまでするのか……

 喰わないといられないのか?

 ……そう思うと、俺は聞かざるおえなかった。


「……おい。魔族は、魔力吸収しなければ生きられないのか?」


 許される事ではないが人の食事と同じで、取らなければいられないとなれば、まだ話は分かるが……


「は?そんなわけねえだろ」


 やはりそんな理由ではなかった。


「ならなんでこんなことを……」

「旨いし少しだが戦闘力も上がる。しない理由あるか?別に体に害があるわけでもねえし」

「……人の命を変わりに奪うんだぞ」

「だからなんだっつーの。人間なんて下等生物がいくら死のうが、絶滅しようが知ったことかよ」


 ……少なくともこいつは見下してる人間の命など、まるで気にしていない。埃を払う程度にしか感じていないようだ……


「下等生物なんざ俺らの餌になりさえすればいい。それしか生きてる価値なんざねえんだよ」


 価値……?

 生きるのに価値……?


 はっきり言って、聞き捨てならない……

 なんでここまで見下されなければならない。

 弱いから?それとも気に入らないからか?

 ……いやこんな奴の戯言、聞く必要等無い。


 ここまでの悪人なら、加減なく倒す事ができるだろう。

 なにを気にする必要もない。

かえって叩き潰しやすくていい。


「そこの下等生物はでも、楽しませてくれたぜ。腕折るとき、野球ができなくなるとかほざきながら泣き叫けんでよ」


 耳障りなほどのデカい声で笑いだす魔族。


「じゃあ腕残して殺すか?って言ったら鼻たらして、死にたくないでゲス〜って……」


 瞬間――南城が左手を炎の魔力で燃やし、始末しようとする、


 ――ドン!


 そんな南城より先に俺は、剣の一撃を魔族にお見舞いしていた。

 ……全くの無意識で。


「ガッハ!み、見え……」


 動きにまったく反応できなかった魔族は、たったその一撃だけで倒れた。


 ……見下した人間にやられた気分はどうだと聞いてやりたい。


「はぁっはぁっ……」


 つかれたわけではない……

 だがあまりにキレたせいだろうか、俺は肩で息をしている。


 速さは今までで一番出ていた気がする。……そして今の一撃も重かったと思う。

 それが理由での疲労かはわからないが……


 南城はその光景に驚いた顔をしていた。

 今の速さに南城も脱帽して……くれてるのかな?


「……」


 南城は安野の腕を診る。

 魔力を送りながら、折れた腕の方向を戻していく。


「……何を?」

「ちょっとした回復術だ。魔力の一撃で折られたならそううまくはいかねえが、そういうわけではねえし多分治せるぜ、すぐに」

「そうなのか……?」

「ああ。よっぽどの事でもねえと、天界の技術で人を治すのは禁止されてんだが……まあこの際仕方ねえ」

「……悪い」

「お前に礼言われても仕方ねえよ」


 腕も無事に治るならよかったと、心の底から思う。


 こんなことが何度もあると考えると、朱雀として戦う事にしてよかったと思わざるえない。俺が今日、この日に力がなかったら…… 

 安野を助ける事ができなかったかもしれない。


「こいつには夢でも見てたとか言っとけ。腕さえ無事ならそんなに疑問に思わんだろ」


 確かに折られたはずの腕が無事なら、夢とおもってもおかしくないかもな……


「倒れてる人たちは?」

「魔族を見ないで気絶してるならほっといてもいいが違うなら……面倒だが、特殊部隊に今日の出来事だけ記憶消してもらうか」

「記憶を……?」

「ああ。詳しくは知らねえができるらしい」


 記憶を消せる……?

 俺が二年前の天界に関する事を中心とした記憶喪失……まさかそれが理由なのか?


「なんだ?お前の記憶喪失が、それが理由かと思ってるのか?」

「あ、ああ……」

「俺は知らねぇが、記憶を消す装置は魔力に抵抗力のないっつーか、魔力の低い人間にしか効果ねえって話だ。お前には効かないだろ」


 なら、違うのだろうか……?





 ――南城side。

 天界に一人報告に戻った南城。


 司令室に入るとそこには西木だけがいた。

 ならばと、変わりに彼に報告した。


「ご苦労だったね春人。朱雀にもそう伝えておいてくれ」


 西木は労う。


「魔族は?」

「連行してきました。焼き殺してもよかったんすが……」

「いやそれでいいよ。何か聞き出せるかもしれないからね」


 報告が終わったが南城は突っ立ったまま戻らない……


「どうしたんだい?」

「……美波の力には驚かされましたよ。俺の力を見せつけるどころの話じゃなかった。朱雀になるだけはある」


 西木は少し驚く。

 それは神邏の強さのことではなく……


「意外だね。君が簡単に認めるなんて」

「奴のことは出会った時から認めてましたよ。俺のほうが強いとは思ってましたが」


 すっと会釈して、後ろを向く南城。


「でもこのままで終わるつもりはないですがね。朱雀一族の名門としての意地を見せつけてやります」


 南城は部屋から退出した。


(前から認めていた?……それは朱雀になる前からということだろうか……)


 西木は思う。

 それは意外というか、変というか、何かおかしいことだった。


(彼の記憶を消したのは特殊部隊と聞いている。機密情報にされているが……)


 神邏の記憶は予想通り天界が消したようだった。


(それは火人さんを失いかつ、息子の朱雀まで失う事を恐れた彼の母が、黄木殿に頼んだからと聞いている。天界のことを忘れれば戦わないはずだと)


 だがそれは……


( でも南城が認めるほどの力を持つ者なら魔力の抵抗力があり、消すなんてできないはず。)


 矛盾することだった。


(いやそもそも当時から朱雀だったならその母を説得して軍に入れるよう手配したはずでは?記憶を消すなんて頭にはならない)


何かおかしい…そう思わざるえなかった


(自分と黄木殿が彼が朱雀と知ったのは九竜の情報からだ。彼女がどこで知ったのかは知らないが、朱雀になったのはその記憶を消した日……あの思い出したくもないが進攻してきた日らしい)


 記憶を消した日に朱雀だったのは間違いない。

 なら何故気づかなかったんだ?という疑問が残る。

 そんなことあるのだろうか?


 特殊部隊とはそもそも魔力感知などのスペシャリストらしく、まずそんな失態はない。


(なら特殊部隊は嘘の報告をしたのか?なんのために?)


「……まてよ魔力がないのが嘘なら、なんで朱雀は記憶を失っているんだ?」


 そこもまたおかしな話だった。


「冷静にかんがえれば記憶消去も細かくかつ、一部の記憶だけ消すなんて芸当はできない。つまり装置で朱雀の記憶が消えたわけではないとわかりそうなものだと言うのに」


 頭をかかえる西木。


「記憶については朱雀に何もあえて言わなかったが……調べたほうがいいかもしれないな」



 ――つづく。



「転校生に力を見せつけるも新たな謎が……神邏くんの記憶喪失は単なる偶然なんでしょうか?…と、メインヒロインのルミアちゃんは気になりますね」


「次回 ローベルトコンツェルン あれ?なんか聞いたことある名前ですね」



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