第7話 名門一家
南城に宣戦布告される。
だが、人間界で魔族と戦う仲間なわけだし、手柄にも興味はない。
争う理由はないから、言葉半分に聞いておけばいいか……
そんな時、誰かが走ってくる。
「はあはあ……。いたいた朱雀!ちょっとあなたねえ」
九竜姫御子だった。
あの後、囲んでた男子たちを振り切って来たのか?何で血相変えてきてるのかはわからないが。
「質問攻めされてるあたしを、助けようとは思わないんですか!?」
「それくらいで助けを求められてもな……。それに嫌なら断ればいいのでは?」
「あたしは他人を押しのけたりとかしたくないんですよ。あたしを知りたいって人たちをないがしろにできない」
だからって頼られてもな……
クラスメイトも嫌がってないと思ってるんだろうし、それで割り込んだら角も立つ。
……結局自分が傷つきたくないから、他人になんとかしてほしいというのか?この人は。
「……悪いんですけど、俺はそんなことする性格でもないし、変に庇ってルミ達に疑われたくないんで。……極力学園だとあまり関わりたくないんですが」
「は、はあ?あたしがなんのために来たと……」
「……理由は検討つくが、人気者と常にいると仲疑われたり、魔族とかの会話聞かれそうだから……」
「ま、まあ魔族についての事はあまり聞かれるわけにはいきませんけども仲というのは?……あ、」
はっとする表情を見せる九竜。
どうやら気づいたらしい。
……もし年がら年中近くでコソコソ話し合ってたら、そういう話が好きな人達とかに噂されてもおかしくない。
美人と噂がたつなら嬉しい奴もいるかもしれないが、俺は違う。
妹やルミアとかにそう思われると困る。
「学園ってのも面倒なものですねえ。あの子がいないから、多少噂たってもよさそうなものですが仕方ない……」
九竜は南城に気づく。
「南城、どうしてあなたが……。まさか揉めてるとか?子供みたいに朱雀の座をとられてスネてるの?元々ライバルだったらしいけどいちいち……」
「うるせえんだよ小娘。階級下のくせによ」
「はあ!?」
「ピーピーうるせえ優等生が来たし戻るわ」
南城はテクテクと教室に戻っていく。
北山が九竜に聞く。
「姫ちゃん。なんだよあいつは」
「南城春人、彼も同期でありながら天界軍幹部のエリート。実力はあたしよりはるかに強い……」
……なんかあだ名で呼んでるな北山。その違和感に気づいた九竜は、
「ところで姫ちゃんってあたしのこと?変なあだ名つけないでほしいのだけど」
「いーじゃんか。おれと君の仲じゃないの」
「仲って聖獣の契約手伝っただけなんだけど……」
まあ仲良いのは結構な事だが、それより……気になることがある
「……南城と俺はなんか関係あったんですか?」
自分を敵視するかのような南城の態度が気になり俺は九竜に質問した。
「聞いた話ですけど、同じ学園で切磋琢磨するライバルみたいなものだったらしいですよ。あのプライドの高い男が、あなたの事は曲がりなりにも評価してたらしいし」
「同い年で、幹部にもなるようなエリートと俺が?」
……あまり信じられなかった。天才と凡人みたいなものだろうに。……その頃は俺自身、朱雀ではないはずだし。
「朱雀になる前でも実力はあったのでしょう。それは今の力を見ればわかりますしね」
「そこが引っかかる。才能など俺には」
「まあそこは知らないですけど、突然姿を消したライバルが、自分がなりたかった朱雀になって戻ってきたなんて話聞いて、面白くないだけでしょう。子供なんですよ彼」
エリートともなると、いろんな人から期待もされていただろう。
そんな人達の期待を裏切ってしまった。
だからこそ俺が朱雀と認めれないとかか?……まあ憶測だが。
「彼もあたしも天界でもかなりの名家なんで、気持ちはわからなくもないですけどね。親達からのプレッシャーとか。だから同期に負けられない気持ちが大きい」
「名家って事は姫ちゃんってお嬢様だったりすんの?」
「まあ、否定はしないけど」
「ふ~ん、ところでさ」
「なに?」
「美波と姫ちゃんなんで互いに敬語なんだ」
単なる北山の疑問だった。
ルミアみたく、誰にでも敬語ならともかく九竜はそういうわけではないし。……それは俺も同じだが。
「同い年じゃん」
「あ、いやあたしは朱雀相手だから……」
四聖獣ということで目上の人だからという判断だろうか?
「……俺は特に理由はなかったが」
初対面からの流れというか、同い年とも知らなかったし相手も敬語だから流れで……
「……まあ同じ学園にいることだし敬語はやめようか。九竜さんもタメ口にしてほしい」
「え、ですけど朱雀どころか階級も多分あたしより上になるかと」
「……どうでもいいよそんなこと。同い年だし」
「……まあそういう事なら」
北山のツッコミなかったら、他の人に言われてたかもな。別に変には思われないだろうが一応……
――その後教室に戻る道中……
「なあ美波、お前クラスの女共にも言われてたけどまじで姫ちゃん興味ねえの?」
九竜に聞こえないようにコソコソ話しかけてくる北山。
「ないけど。……それが?」
「マジで?すっげぇ美人じゃん。カワイイじゃんか」
「……いや美人なのは否定しない。だからといって興味もつとかは別の話だ」
「変わってんな。そんなんじゃ好きになんねえってか」
「ああ。というか、いろいろと好みじゃない。失礼だけどな」
それを聞くとなんかニヤニヤしだす北山。
「そうか……そっかそっか。ならよ美波、応援してくんねえかなおれと彼女をよ」
応援……恋の応援ということだろうか?それはつまり……
「北山、彼女が好きなのか?」
「ああいいね。惚れちまったよ」
顔を赤くして、照れくさそうに言った北山。
「そうか。別にかまわないんだが……。北山」
「なんだ?」
「……お前確か武内が好きとか言ってなかったか?」
武内というのは
共通の友人の関係で、北山は彼女に好意を持っていた事を俺は知っていた。
「ん?晶子ちゃんの事も好きだぞ」
?????
「いや、お前今九竜さんが好きと……」
「だからそうだってば」
?????
「二人共好きって事か?同じくらい?」
「そうそう!どっちも付き合いたいくらい好きだ!」
……まあ、気が多いのは仕方ないことだ。
それに付き合って二股かけてるわけでもないし、好きな人が二人いても問題はないだろう多分。
付き合ってからひとりにしぼるとかでもいいわけだし。もしくは互いに同意があれば二股だろうが勝手にすればいいだろう……
……よって問題なしと判断する。
「……まあ頑張れ」
「おう!でも安心しろよ。気が多いとはいえ、お前の幼馴染とか妹ちゃんには惚れないようにするからさ」
「……そうしてくれると助かる」
教室に戻ってくると隣のクラスの安野が寄ってきた。
北山が手を振る。
「おっ安っち!サンキューな南城とかいうやつと話せたぜ」
「それは良かったゲス。ところで二人共、放課後試合の応援来れないでゲスか?」
安野は野球部。練習試合でもあるのか?
「お、練習試合か?いいね、行くぜ今年はレギュラー取れそうなのか?」
「ふふふ行けそうでゲスよ。3年の先輩達の最後の夏でゲスからね頑張らないと」
やる気にみちみちている。
「どこでやるんだ」
「えっと隣町の、……忘れたでゲス。後で聞いとくんで来てくれでゲスね」
「ああ」
安野の試合を見に行く約束をした。
……したのだが……
放課後すぐに、天界軍からの指令があったらしく集合をかけられた。
とりあえず学園の屋上に全員が集まる。
すると、どこからともなく映像が送られてくる。
なにもない空間からだ。
テレビとか置いているわけではない。
映像には黄木司令が映る。
「呼んだのはほかでもない。周辺に魔族が現れたと情報があった。始末してくるんだ」
……応援にはいけそうもない。
「朱雀、そういえばお前魔族は仕留めた事なかったな。人と思う必要はない。後始末も我々がするから安心して消せ」
……やけに物騒な言い方。
少し嫌そうな表情を俺はしていたのか、それに気づく黄木司令。
「嫌そうだな。まあ無理強いはせん。再起不能にしておけばこちらとしても文句はない」
「……いいんですか?」
「よくはないが、簡単に人を殺せるようなやつのほうが危ういからな。まあなれるまではよしとするだけだ」
意外と物わかりがいいというか、優しいな。……こんなこと思うのは失礼か。
「……でだ。本題に戻すが、ここ最近スポーツの試合が中止になっていること知っているか」
初耳だった。
「あ~なんかサッカーの試合だかが中止になったとか聞いた気が」
……北山は聞いたことあるみたいだな。
「人間界の警察の報告によると、魔族の襲撃があったかららしい」
「な~る。って警察とは協力関係なんすね」
「警察などは我々を把握し、救助を求めてくるのだ」
警察の情報網もあれば、魔族を感知しやすくなりそうだしな。
「被害状況は?」
「……今回の魔族はバカとしかいいようがない」
「……?」
「こんなだいそれた事すれば、我々にバレるのは当然なのにな」
それはつまり被害がデカすぎるということだろう。隠密的に動かず大々的にやったのか?
「その場にいた者全員が殺されたらしい」
想像以上の被害だ……
だがそれほどの大事件ならニュースとかになってそうなものだが。
「魔族の脅威は知らせたほうがいいとは思うがパニックにもなり得るため、基本的には情報統制している。お前らが詳しく知らなかったのはそのためだ」
なるほど。……人間が魔族に詳しくないのはそのためか。だが……
「そんな被害が起きる前に気づければ……」
守れたかもしれない。俺はそう思わざるえなかった。
黄木司令は重い口調で言う。
「……仕方ないことだ。人間界の事件も未然に防げることなど稀だろう?事件が起きて初めて犯人や魔族を捕らえられる」
「つまり方法はない……と?」
「魔力の感知力が高ければあるいは……とは思うが、距離があるとかすぐ襲われたりなどすればさすがに間に合わんだろう」
「それでも可能性は……」
「まあいくらかは助けれる可能性はあるな」
なら感知の修業でもしてみようかと思う。そうすれば助けれる人の範囲も増えるかもしれないから。
「感知修業でもする気か?フッその甘さといい、人を守りたいという気持ちといい、お前は火人より真菜香に似ているな」
母親に似ていると軽く笑う黄木司令。その発言は俺を驚かせた。
なぜなら……
「……母に似ていると言われたのは初めてです」
「そうなのか?」
「……はい」
母親に限らず、父親の火人もそうだがな。……外見もそんなに似ていないし、性格にいたってはまるで違う。
根暗というか、無口というか、そんな俺と違い母親は明るく、騒がしい人物だから。
「あいつもお前のような甘い戯言をよく語っていてな。いや、お前以上だろうな。悪人でも殺しはダメだとか犠牲者を出さず助けろだとかな。当人の真菜香はなんの力もないというのに」
……俺の知る母は確かにそういう事言ってもおかしくない人だ。正義感に溢れて、曲がった事が嫌いな人だしな。
「……まあそんなあいつも火人の死の後は天界に関わる事を辞めたがな。子供まで関わって、死ぬのを恐れたのだろうな」
「……」
そういえば母にはまだ軍に協力すること伝えていなかったな。
……それを聞くと、かなり心配させそうだ。
「っと話がそれたな。それで魔族の話だが、居場所はまだわかってない。だが同じようになにかの試合会場で大胆にやってくる可能性がある。我々を舐めてるとしかおもえないからな」
天界軍を恐れていないからこその、大胆行動の可能性はあるかもしれない。
「とりあえず今スポーツの試合をしてる場所に手当たり次第向かってみてくれ。朱雀と南城、お前ら二人に任せる。九竜は待機でユニコーンは任務から外れろ」
「……へ?」
行く気満々だった北山は唖然とする。
「な、なんで?」
「お前はまだ戦力としては不十分、ある人物に鍛えてもらう」
「修業ってこと?構わねえけど、今は一刻を争うんじゃねえの?」
「不十分といったろ。安心しろ。できる師匠をつけてやる」
少し納得いかなそうな北山だが、ここはしぶしぶ言う事を聞く。
「そんなのしなくても強えと思うがしゃーねえな。……なあ美波」
「……なんだ?」
「まず安っちのとこ行ってみてくれよ。たしかその事件起きた周辺なんだよ」
――!それは一大事かもしれない。
「わかった。任せてくれ」
俺は南城と共に現場へ向かう。
何事もなければよいのだが……
――つづく。
「おかしいですね。私の出番どこ……」
「次回 魔力吸収。そういえばどうやって吸収するんでしょうね」
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