第6話  南城春人

 ――???side。


 天界という人間界とは別の世界。

 そんな世界の、ある飲み屋に男はいた。先輩に連れられてやってきていたのだ。


「いやしかし聞いたかよ?」

「なにがだよ」


 先輩らが話をしてるさなか、男は黙ってドリンクを飲んでいた。

 男は未成年なため酒ではない。


「軍に新人が入るらしいんだ。それも二人」

「へえ、変わった時期に入隊者か。なんでだ?どっかの学園で飛び級卒業者でも出たのか?」

「いや学園の生徒でもないらしいんだ。人間界からのスカウトだと」

「人間界から?まさか人間なのかよ」

「片方はそうらしいけどよ、実はもう一人は」


 先輩の話はまともに聞いていなかった男は、ドリンクのおかわりを注文しようとしていた。

 だが、次の一言で動きが止まる。


「朱雀らしいんだよ。入隊者」


 男は素早く先輩の方を見る。あまりに想定外の発言だったのだろう。

 先輩らの会話はつづく。


「朱雀!?人間界に一族いたってことか?混血?」

「そうらしい。それもあの元天界四将軍の英雄、美波火人殿のご子息だとか」

「火人殿の息子!?バカな!あいつは天界に反旗を翻した大罪人で、始末したんじゃなかったのか!?」


 一人がうろたえて立ち上がる。

 冷や汗かいて、ビビってるかのように。


「違う違う。修邏しゅうらの事じゃない。もう一人ご子息がいたんだよ」

「え?そ、そうなのか?……ふう驚かしやがって」


 汗をふいて席に座る。


「そっちが勝手に勘違いしただけだろ」

「てかもう一人息子?いたっけ?」

「知らなかったのか?ほら、元々は♡のクイーン、神咲の……」


「あの」


 ドリンクを飲んでた男が、話にはいってくる。


「その話、本当ですかね。朱雀があの美波神邏って……」

「なんだ春人、急に……。聞いた話だとそうらしいぞ」

「あいつが……朱雀!?」


 春人と呼ばれた男は、歯ぎしりしていた。





 ――神邏side。


 俺はあの後帰宅すると、家族に報告。天界軍の手伝いをすると。


 あまりいい顔はしなかったが……


「自分で決めたのなら、親として尊重するよ。でも君はまだ子供。無理はしないこと、そして死なない事を約束してほしい」


 義父ちち水斗が譲れる条件だった。

 本当は反対したいだろうに、息子の決めたことだからと許してくれたんだと思う。


 ……申し訳ない……


「はい。俺も死にたくはないんで、適当に人助けしますよ」


 少し笑いながら、安心させるように俺は言った。


 妹二人も心配してそうだったので、大丈夫だよと軽く言っておいた。

 とはいえあまり納得してそうではなかった。

 特に詩良里ちゃんは……


 ――翌日の朝。


 まだ妖魔の件が心配なので、二人の妹にお隣さんの幼馴染、ルミア。そしてルミアの弟と妹もふくめて一緒に登校した。


 ついでなのでルミアにも軍に協力することを伝えたら……


「そんな!危ないですよ!」


 ダメダメと反対してきた。まあ読めてたが。俺は心配いらないと言い聞かせる。


「別に俺一人で全部やるわけでもないし、無理はしないから……」

「それでもですよ!」

「……人を見捨てれないし、第一俺には力がある。戦える力があるのに、それを振るわないのは罪と思わないか?」

「まったく思いません」


 ……

 悩みもせず真っ向否定された。

 まあ、考えは人それぞれだしな。


「言ったらなんですが、私は他人がどうなろうが、神邏くんが無事ならそれでいいんで」


 急に冷たい表情になってきたルミア。

 常に笑顔の女の子で、今も笑顔ではあるのだが、雰囲気的にわかる。付き合い長いから。


「詩良里も、……見捨てるってのはよくないと思うけど、おっぱいさんの意見にさんせ〜かな……」


 少しバツが悪そうに手をあげる詩良里ちゃん。


「……賛成してくれるのは嬉しいですけど、そのあだ名、いい加減やめてもらいたいですね」


 ため息混じりなルミア。まあ悪口みたいなものだしな。……前に注意したんだが。


「……で、世界一カワイイ幼馴染と、カワイイ妹が心配してるわけなんですけど、それでも聞いてくれませんか?」

「……悪い。気持ちはありがたいが決めたことなんだ」


 申し訳ないが、今更意見を変えるつもりはない。やれるだけやると決めたから……


「……はあ。仕方ないですね。絶対無理したらダメですからね。死ぬのは当然ダメだし、その誰よりも綺麗な顔に、傷もつけちゃダメですからね神邏くん」


 意外とあっさりと折れてくれた。

 ならルミアの条件は必ず守らないとダメだ。

俺は頷く。


「善処する」

「約束ですよ?あと、私にできることあれば言ってくださいね。手伝いますので」

「ああ。……何かあればな」


 指切りする俺とルミア。


 ――一方詩良里ちゃんはむくれてた。


「もう、お父さんと一緒で、あっさりと認めちゃうんだから!信用できないなおっぱいは」





 無事学園に着く。

 教室に入ると、北山が寄ってくる。


「オッス美波」

「おはよう」

「いや大変だったな昨日はよ」


 確かに大変な1日だった。……軍の人も来るし。


「そうだな。……ところでお前、本当にいいのか?軍に入ったらしいが」

「おう!悪党は許しちゃいられねえし、なんか金もくれるらしいし、貧乏なおれには願ったり叶ったりだぜ!」


なんかお気楽そうだな。……危険なのわかってるのか?


「簡単に言うが、……死の危険あるぞ」

「そう簡単にやられねえって。昨日の連中余裕だったし」

「あいつらは弱い部類らしいから、あまり調子にのらないほうがいい……」

「心配性だな。あ、そうだおれ、ランカーって幹部にいきなりしてもらったぜ。♧の3だとか。まあ下のほうらしいけどよ」


いきなり幹部に……?

それだけ上級聖獣の力に期待されてるのだろうか?


「「そうなると、神邏はどれだけ上の幹部になるのだろうな」」


魔力の聖霊、シルフィードのイリスが語りかける。


「お兄さんは結構すごい階級なんじゃないの?あ、でもおじさん怒らせたし、正式に入ったわけじゃないから幹部じゃないかもね!」


 キャハキャハ笑う、武器精霊スピリットウエポンのリーゼ。

 彼女は今、俺の鞄のキーホルダーに化けてる。武器に変われるからこういう芸当もできるらしい。


「……あまりしゃべるな。人に聞こえる」


 小声で注意する。


「「大丈夫だ私の声は私自身が表に出てこない限り、他人には聞こえない」」

「例外でぇ~、あーしにはイリスの声、聞こえるようにしてもらってるけどね〜」

「リーゼは?」

「あ、あーしの声は聞こえるね。じゃあ黙っときま~す。えへ!」


 リーゼには常に注意しといたほうがよさそうだな。……キーホルダーがしゃべってるとか怪しまれてしまう。


「「ところで、気にならないのか階級」」

「別に。……ただあまり高すぎると角が立つから、ほどほどにしてほしいが」


 素人でかつ新人が、あまりにも高い階級だと変な目で見られたり、嫌われる可能性も考えられるしな。変な嫉妬とか受けたくない。


……ふと北山の耳にピアスがついている事に気づいた。


「ピアス、つけ始めたのか」

「あ、いやよ兄貴がくれてさ。似合わねえし、いらねっていったんだがしつこくてよ。まあプレゼントだし、しょうがなくつけてやることにしたんだよ」


 少し照れくさそうしてるが、本心で嫌なわけではないのだろう。

 兄と仲いいようでなによりだと思う。


 ……兄、か。


「なあ美波、話変わるけど今日転校生くるらしいんだけどよ」


 ちなみに今は5月。

 わりと半端な時期だが……

 

 まさか、と、俺は思う。


「なんか、……あの人が転校してきそうな気がするんだが」

「おっ、気が合うな。おれもそう思ってたんだよ。ただよ」

「ん?」

「転校生二人なんだよな」


 二人……?

 一人は予想つくが、あと一人はただの転校生?それとも……


「おいっすー。美波君北山君!」

「お、おはようふたりとも」


 他の友人達もやってきた。


「ああ、おはよう」

「おーす」


 まあどちらにせよ、あまり関係ないかと考えるのをやめた。

 予想した相手が来たら、とりあえず他人のふりでもしておこうか……


 そして転校生の一人は、予想通りの人物だった。


「九竜姫御子です。皆さんよろしくお願いいたしますね」


 ニッコリと自己紹介している。


 ……やはりか。

 転校生は、天界軍の絶世の美女さんだった。


 おそらく天界軍としての仕事を、彼女も人間界中心にされたのだろう。俺のお目付け役なのかなんなのかは知らないが……

 そしていつでも連絡取れるように、学園に入ったと言ったところか。


 もう一人の転校生は隣のクラスだから誰かは分からないが、天界関係者の可能性はおおいにある。


 一方、アイドル顔負けな美女の転校生にクラスの男子達は大歓喜の渦。


「か、可愛すぎねえか」「推せる……」「やべえよマジで!」


 ……これはクラス内で話すと角がたちそうだな。

 ファンクラブでもできそうだし、常に男共の注目の的になってるなら、魔族とかの事も話しづらくなりそうだからな……


 転校してきた意味がなくなりそうで、本末転倒ではあるが、九竜にはあまり近づかないほうがいいかもな。


 ――休み時間。


 案の定注目の的で、多くの男子に囲まれ、九竜さんは質問の嵐に見舞われている。


 そもそも転校生って時点で多少注目されるし、こういう目にあいやすい。そのうえ美女じゃ当然こうなるか。


「大変ね~転校生は」


 同情するように友人の女の子、須藤満すどうみつるが言う。

 ベリーショートのスポーティで、背や他の所も小さく中学生みたいな風貌。


「まああんな美人だし仕方ないんじゃない?」


 同じく友人の夏目円花なつめまどかが頷いた。

 背丈が高く、ロングヘアーで制服を着崩して少し不良っぽい子。胸も大きくスタイルもいい。ちなみに俺の昔からの幼馴染でもある。


「確かにてめえらと比べたら月とスッポンだもんな!」


 北山がゲラゲラ笑う。さすがに失礼だろ……


「ああ!?」


 凄まじい目つきでにらみつける夏目。須藤は北山にヘッドロックをかける。


「がが!そ、そんな事するから女として差が出るんだよ、お前らは!」

「るせー!」


 須藤と北山がじゃれてるなか、夏目が俺に話しかける。


「まああのバカはいいとして、シンは興味なさそうじゃん転校生の事」

「え?……まあな」

「あんだけの美女でも関係ないって感じ?」

「……ないな」


 そもそも初対面の時点で俺は興味無かった。今更な話。


「まあウチらで美人は見慣れてるもんな」


 ケラケラ笑う夏目。


「どの口が言ってんだ」


 また北山が余計なことを……


「こいつは一回シメたほうがいいかな」

「おわよせ!二人がかりは卑怯!」


「な~んか楽しそうですね」


 もう一人の幼馴染、神条ルミアが寄ってきた。


「神邏くん、あの人なんでまた」

「学園一緒のほうが協力しやすいからだろ……」


 ルミアは事情知ってるから、九竜の事を話しやすくていい。


「だがまああの人気じゃ、近寄る気にもならない。できるだけ避けたい」

「それがいいですね~。私としてもあんまり仲良くできなそうなんで九竜さんとは」

「苦手か?」

「……ええまあ、いろいろと」


 ルミアはああいう子苦手なのか。


 すると夏目も近づいてきて、


「察しろシン。女の子にはいろいろあんの」

「……?」

「まあ私と神条ほどの美人がいるんだから、お前もあまり関わらなくてもいいだろ?」

「……ふ、確かにそうだな」


 茶化さず俺は肯定した。

 まあ実際、二人は美人だからな。充分すぎるほどに……


 ルミアはそれを聞くとニコニコする。


「ですよね~。特に私は世界一かわいい女の子ですし、九竜さんになんて負けませんよ!」

「そうだな。負けてないよ全然」

「えっへへ〜ですよね~。神邏くんはわかってますね~」


 自信満々に、自らを世界一かわいいと自称できるルミアはすごい。


 確かにかわいいけど、そこまで言い切るとなると他の女の子から顰蹙かいそうで心配ではある。

 ……俺はまあ、同意した事でわかるようにルミアを世界一カワイイと思ってるが。事実がどうであれな。


 甘やかすなと言われかねないがな。……それを助長させるように肯定してるわけだし。


「ちょっと夏目〜この須藤満ちゃんはかわいくないっての〜?」

「お前もかわいいって子供みたいで」

「何ぃ!」

「私は本当にかわいいって思ってますよ満ちゃん」

「お、さすがルミア!」

「私には負けますけどね〜」

「……はいはい」


 女子トークの最中。


「「神邏、もう一人の転校生、見に行くか?」」


 イリスが語りかける。


「…まあ、気にはなるな」


 隣のクラスだし、のぞいて見るかと思う。


「隣は安野がいるしな……」


 安野とは友人の男だ。

 彼に聞けば、どんな奴が転校生かわかるだろう。


 俺は立ち上がり、隣のクラスへ。


「美波?どこ行くんだ」


 北山が呼び止める。


「……もう一人の転校生も天界関係者か、見てくる」

「ならおれも行くぜ。バカ女共に付き合ってられねえし」

「……あまりそういう事、言うもんじゃないぞ」


 クラスを出る俺と北山。





「わりーな安っち」

「いいでゲスよ」


 小柄で坊主頭の安野に頼み、転校生を教えてもらった。


 九竜と違い、誰にも囲まれていない。


「名前は南城春人くんでゲスね。なんか態度悪くて、近寄ってきた子とか追い返してたし」


 腕組んで機嫌が悪そうに見える。


 オールバックの赤い髪。

 背丈とがたいはわりと普通な中肉中背。

 目つきは鋭く、近寄りがたい雰囲気がすごい。


 遠目で見ていた俺達三人に気づく南城。

 すると近寄ってくる……


「ツラかしな……」


 俺をにらみ、そう言った。


「おいおい、ちょっと見てただけでキレてんのか?」


 北山が割って入るが、


「そんなわけあるか。別件っつーか知ってんだよ。こいつをな」


 俺を知ってる?

 ……それはつまり天界関係者と言う事か?





 人気の少ない体育館裏にくる……


「記憶ねえらしいな美波」

「……俺を知ってるのか」

「まあな。同じ学園に通ってたからな、天界の」


 二年前の中学生時代の話だろう。その時の知り合いなのだろうか?


「一応言っといてやる。俺は朱雀一族の名門、南城家の跡取り。そして朱雀に一番ふさわしい男だ。お前と違ってな!」


 宣戦布告するかのように指差す。


「俺のランカーとしての階級は◇の8、そして人間界守護の任務を与えられた。それで見せつけてやるよ。どちらが朱雀にふさわしいかをな」


 すでに朱雀の俺に言っても無駄だろ。……他と違い、俺が朱雀そのものらしいのに……



 ……つづく。


「な~んか面倒そうな人出てきましたね。嫌な感じ。ちなみに今回はメインヒロイン出番ありましたね!」


「次回 名門一家。いいところに生まれた人ゆえの苦悩があるのかもしれませんね。興味ないですけど」

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