第五話 聖獣ユニコーン
――北山と九竜side。
「基本的にただの人間は魔族に勝てない。例え人間が大人で、魔族が小さい子供でも」
先ほどの戦場から少し離れた川岸に、九竜姫御子と北山乱は避難していた。
そこで九竜は魔族と人間の実力差を説明していたのだ。
「それは魔力の差と言っても過言ではないわけ」
「魔力に差があるから勝てねえって?でもさっきの化け物は……」
「あれは妖魔で魔族じゃない。とるにたらない生物。もう絶滅でもしてるかもしれない、ゴブリンとかオーク辺りと変わらないレベルの」
妖魔にも種類がいろいろいるようだが、どれも大した存在ではないようだ。
「あなたは人間にしては高い魔力があったため、その魔力が漏れて力に変えれたから、妖魔まではなんとか倒せたわけ」
「なんかチクリとくる言い方だな。……まあいいや。で、それくらいじゃ魔族には勝てないと?」
「そう。まあ仮に自分の魔力を使いこなせても、魔族は倒しきれないでしょうけど。何度も言うようだけど所詮人間レベルだから」
……人間にしては高い魔力。
それはつまり、人間レベルを越えた力ではないということ。
魔族を相手取るなら、人間レベルの魔力では太刀打ちできない。
「つまり、どうあっても今の俺じゃあ魔族には勝てねえって言いてえわけな?」
「そう。ランクでいえばGをギリ超えてるFか、それ以下程度の魔力なので……」
「それでさっき言ってた聖獣と契約してみるか?って話になんのな?」
逃げてる途中に九竜が呟いた発言だ。
聖獣と契約。……神邏の四聖獣とは別物だろう。
あれはその一族の天界人が、何百年かに一人なれるかなれないかなどと言っていた。
つまり契約などするわけではないし、なりたくてもなれないらしい。
だが今回の話は契約さえすれば、力を手に入れられそうに聞こえる。
九竜は続ける。
「聖獣と契約すれば、魔力に身体能力といった力が飛躍的に増大する」
「つまり奴らと戦えるくらい強くなるってことだよな!すげえぜそれ!さっそく頼むぜ!」
「簡単に言ってるけど、タダで契約させてなんてあげられないけどいいの?」
「……へ?金取んのか!?」
聖獣との契約がどういうものかは分からないが、当然簡単に与えるわけにはいかないだろう。何かしら条件があってもおかしくない。
九竜は首を振る。
「お金じゃないよ。ただ魔族と戦う力を得るなら、天界軍としてこれからも戦う必要が出てくるってこと。聖獣との契約は天界軍の特権だから、そうやすやすと与えられないの」
天界軍に本来もらえる力を、軍人ではないものが使うことは許されない。……そういう事だ。
北山は頭をポリポリかく。
「ようわからんが、そこに入れば力くれんなら喜んで入るぜ。金じゃねえならまったく問題ねえよ」
「あんな連中と戦い続けるんだよ?死ぬかもしれないけどそれでも?」
「男に二言はねえよ。そんなことより、おれは美波にだけ戦わせて逃げ続ける人生のが嫌だっつーの」
神邏は入らないと言っていたけど、北山は入る事を決めてしまった……
「てかおれみたいな素人、軍に入れちゃってもいいのか?それに聖獣ってのも、あんたの許可で勝手にやってもいいくらい偉いの?」
「まあその辺の話は聖獣との契約成功してからの話なんで」
「あ、そういうこと」
聖獣との契約の成否が厳しいのなら、素人だろうが成功してしまえば軍に入れても問題ないと言う事だろう。戦力になるのだから。
「で、何すんのまず」
「聖獣との契約板、これに魔力を注ぐ。まあでもその前にどの聖獣と契約するか考えようか……。相性なり属性魔力、なんなら生年月日とかでも成否が変わるんで」
ブツブツ考えてる九竜を尻目に、北山はその契約板を持ってみる。
何かいろいろ書いてある銅色をした鋼鉄の板。なかなかずっしり重い。
「スキあり!」
九竜の背後から魔族と思わしき、角を生やした男が襲いかかってきた!
「危ねえ!」
北山は板を持ったまま魔族を殴りつける……と、板が光だし、北山の拳もつられて輝く。
すると本来ならとるにたらないはずの北山の一撃が……
魔族の首を折って、地に叩きつけたのだ。
「ゴハッ!」
魔族は血を吐き、地面に倒れる。
「え?え?何だこりゃ!?なんかわからねえが、すげえ力を感じるぜ!?」
北山の全身から魔力が溢れ出している。
神邏の時と同じだ……
それはつまり聖獣の力を……?
「はっ?どういう事!?まだ何もしてないはずでしょ!?」
魔族の存在や、助けられたことよりもまず、北山の急激なパワーアップに目がいく九竜。
まず契約板を確認しようとするが……
「え?契約板どうしたの?」
北山の手元にそれはなくなっていた……
「ありゃ?どこいったんだ?」
キョロキョロして探す北山。
「いやつーか手放した覚えねえぞ」
「「もう必要はねえよ。契約はとりあえず完了したからな」」
どこからともなく声がする。
北山はキョロキョロしながら問う。
「完了しただあ?お前聖獣ってやつなのか?」
「「おう!それも上級レベルの聖獣ユニコーンだ。よろしく頼むぜ相棒」」
なんだかわからないが、契約が成功していたらしい。やけにあっさりと……
「そんなまさか……。たまたま魔力がそそがれて、すぐさまユニコーンが契約を許したと?なんで?しかも上級!?わけがわからない……」
九竜も想定外すぎて反応に困っていた。北山はそんな九竜を見て思う。
「なんかめっちゃ驚かれてるけど、こんなあっさりとはいかねえもんなのか?」
「「契約成功速度じゃナンバー1かもしれねえぜ。誇りなよ乱」」
「おっ?俺そんなすげえのか!?」
自慢してもいいのかってテンションで、彼ははしゃぐ。
「「いや、おれっちがてめえをすぐ認めたってだけで、すごくはねえよ」」
「認めるに足る男だったってことだろ?」
「「いんや?別にてめえは優れたとこなんか感じねえし、他の聖獣なら見向きもしてねえかもしれねえ。例え下級聖獣でも」」
調子のんなよと言いたげ。
北山は疑問に思う。
「ならお前はなんで」
「「人間に興味あったってのと、力を貸すんでもいいから戦いに興味があったからかね。あと単純にお前の人間性気に入ったから」」
相当変わり者なのだろう。
選ばれた理由をかんがえると運が良かっただけのようだ。
「気に入ったって会ったばっかじゃん」
「「お前が契約板を持った時点で情報は聖獣達に筒抜けになる」」
「個人情報保護法とかねえのか!どんな情報いったかは知らんけども!」
「「聖獣との契約に嘘は厳禁だからな、基本的になんでもだ」」
……なんか嫌だなと思わざるえなかった。知られて困るようなものはないが。
「でも戦闘狂みてえな奴だなお前。ユニコーンって言ったらたしか懐くのは女、それも処……」
「「すべてのユニコーンがそうと思わねえことだな」」
「その中でも相当なかわりもんってことか」
「おい、人間あの程度で倒したつもりかぁ」
魔族が折れた首をバキボキ鳴らしながら治し、立ち上がってくる、
魔族は首折るくらいでは死なないのだろうか?
「へっいいさ。手にした力の実験してやるぜ」
「「これ使え」」
ユニコーンは北山の手に、光る魔力の球体を出現させる。
「なんだこりゃ」
「「聖獣と契約すると魔力で作り上げた、聖獣の力を秘めた武器を扱えるようになる」」
「おっ!武器か。ならかっけえ武器がいいな。剣とか槍とか……」
魔力の球は姿を勝手に変えていく……
きらびやかな水晶みたいなものを頭につけた杖へと……
「え?なにこれ」
「「杖だ」」
「え?」
もう一度見る。
太めな棒にも見えがちだが、やや短く黒い。先ほど言った水晶が魔力を秘めてるように見える。
杖だ。
どう見ても……。杖だ。
「うおおおおい!武器っつったろ!杖とはどういう了見だあああ!」
北山の想像していたものとは、えらい違いだった。
しかもガタイのデカい北山に短く小さい杖の武器とは、見た目的にもかっこよくない。
「「お前じゃおれっちとの相性とか使い勝手とか魔力など考えて武器なんて作れないだろうから、作ってやったんだよ」」
「勝手に作った事を怒ってるんじゃねーよ!なんで杖なんだって話だ!」
「「おれっちがいいと思ったんだからいいんだよ」」
杖でどう戦えと言いたいのだろうが、敵を目の前にして言い合いしてるヒマなどあるのだろうか……
案の定――
「くたばれこのガキがあああ!」
魔族が動き出す。
「ち、とりあえず杖でぶん殴って……」
「「仕方ねえ、手をかしてやる」」
「――!!」
急激に北山は力が抜ける
魔力が杖の水晶部分に集中されると、同時に放たれる。
水の魔力というより、水が大きく放出されたかのよう……
そしてその水はユニコーンの角を形どり、対象の魔族の腹部を。
――貫いた!
「ごふぁ!!」
血反吐を吐き散らし、白目を向いて魔族は一瞬で絶命。
かなりの破壊力だ……
魔族を一瞬で蹴散らしたその威力に、唖然とする北山。
「す、すげえ……」
「「お前は水属性だったみてえだな。名付けて、スプラッシュホーンってとこか」」
「これならどんな野郎もぶっ潰せるんじゃねーか!?」
ウキウキな北山。
自分の力に自信ができたようだ。
そんな北山に釘を指すユニコーン。
「「甘えよ。そんな簡単にいくかよ。相手は魔族といっても、雑魚中の雑魚なんだから調子のるなよ」」
「え?そうなのか?」
「「人間界で小悪党みてえなことしてる連中なんて、総じて雑魚だ。少なくともこいつはカス中のカス。魔力ランクもF程度だろ」」
Fは低ランクなのだろうか?
兎にも角にも、無事撃退に成功したのだから良しとしよう。
◇
――神邏side。
俺は魔族を倒した後、一目散に北山の元へ向かう。時間として10分かそこらだろうか?
辺りをキョロキョロしながら探していると、二人を発見する。
倒れてる魔族も見受けられる。
どうやら無事なようだな……
俺は二人に話しかける。
「北山、無事だったか。……この魔族は九竜さんが?」
「いえ、北山君が」
「北山が?」
「彼は聖獣ユニコーンと契約してもらい、力を得たのですよ」
「……聖獣と?」
俺は北山を見ると、彼は自慢げに腰に両手を当てていた。
「どうよ美波!これでおれも闘えるぜ」
「すごいな……。そうなると俺と同じという事か?」
「いや、それは違いますね」
九竜が首を横にふり否定する。
「彼は上級聖獣と契約ですが、あなたは四聖獣、別名四神という神の聖獣……最上級の聖獣となった方、四聖獣そのものですし」
「……よくわかんねえけど、美波はおれのユニコーンよりすげえのか?」
首をかしげる北山。まあ俺もそこのところはよくわからないが。
九竜は頷く。
「まあ格が違うと言ってもいいでしょうね」
「なんだよ~じゃあおれと美波は、力の差がデカいってことか?」
ガッカリする北山。
九竜は続ける。
「力の差はあるでしょうけど、現時点では聖獣の差は関係ないです」
「……それはどういう」
「四聖獣の力はなった時点で、100%使えるわけではないのですよ。聖獣との契約とは違ってね」
契約した場合は100%力をもらえるが、四聖獣の場合は本人の力量が必要ということだろうか?
「……なら今の俺は、朱雀の力を半分くらいしか使えてないとか?」
「半分?一割にも満たないでしょう」
「一割……」
……現時点では四聖獣の力を使えてないに等しいという事になるのか?
北山はそれを聞くと、
「ん?ちょい待てよ。一割以下しか朱雀の力ないのに、美波のほうが強いのか!?それでもユニコーン以上の力あるってことか!?」
「そんなわけないでしょ。下級聖獣ならともかく、上級聖獣のユニコーンがそれ以下のわけがない」
呆れ顔の九竜。北山は尚更納得いかなそうに言う。
「じゃあなんでだよ?ユニコーンは力100%手に入れてるんだろ?」
「決まってるでしょ?あなたが弱すぎたからよ。多少魔力あっただけの人間がベースなら、ユニコーンの力があってもそこまでが限界」
元が弱すぎるならパワーアップもたかがしれてる。……そういうことか?
「一方朱雀は二年前に修業してた期間があったから、パワーアップなくとも戦えるのです」
……そうなると。
俺は呟く。
「……なら俺が魔力を開放した時、朱雀の力を引き出したわけじゃなく……」
「元の自分の力を思い出しただけですね。二年前、元々持っていた力を」
朱雀の力ではなく、元々持っていた力……
自分自身で戦える力を得ていたとは、あまり信じがたいな。……朱雀の力ありきと思っていたから……
俺は思う。
「二年前、俺はなにをして力を得たのだろうか……?」
「当時のあなたを知らないので、あたしは何もわかりません。許嫁の子なら知ってるかも」
……許嫁?
「どうやら許嫁の事も忘れてるらしいですね。あなたが朱雀とあたしに教えてくれたのは、その子なんですよ」
許嫁って親同士が決めた子どもの結婚相手だよな?……うちの両親がそんな人用意してたなんて、にわかには信じがたい……
「美波、お前許嫁なんかいんの?」
「……憶えてないけどな。……悪いがこの話は内密に頼む」
「ん?まあいいけどよ。あれか?神条とか妹ちゃんに知られたくないとかか」
「……まあそんなとこ」
ルミアには特に知られたくない……
「ちょっと待って。朱雀あなた本命でもいるのですか?それだとあの娘が可哀想なんですけど答えてくださいよ」
なんか九竜さんが怒りだした。
俺は反論する。
「……なんでそんなこと、あんたに言わなきゃいけないんですか」
「いやまあ関係ないですし、親の決めたことだから強くは言えませんけど、あの娘の気持ちは知ってるんで……」
……気持ち?まさか俺なんかを好きとでも言うのか?あまり考えられないが。……そもそも許嫁って親同士が決める事だし。
……などとごちゃごちゃと言い合って、いつまでもここにいたら。
「なんだ朱雀いたのか」
現場に黄木司令と西木さんの二人がやってきた……
「黄木司令!西木将軍!」
九竜さんが敬礼ポーズ。
俺と北山は棒立ちだが。
「お二人が来られるとは思いませんでした」
「魔族撃退を軍から聞いてな。まだ我々も人間界にいたから、ついでだ」
どうやら今回の件を九竜が天界に連絡していたようだ。
魔族の処理などをしてもらうのだろう。
「離れた所に気絶してる魔族と妖魔。そしてここに死んでる魔族。計3人か?」
「はい」
「ご苦労。……朱雀お前がやったのか?」
俺は首を振る。
「……いや、俺一人では」
「ん?」
黄木指令が、なら九竜かと彼女を見ると、北山に気づく。北山はえっへんポーズ。
「まさかこの小僧が?そんなバカな……」
しかし北山に何かを感じた様子を見せる。
「聖獣?どういう事だ」
九竜を睨む。
「あっ、いえその……」
軍の命令ではなく、九竜が勝手にやってしまったことなのか?ならいろいろとまずいのでは……
「……まあ今はそのことはよいか」
軽くため息つき、後回しにするようだ。
「朱雀、お前は戦うのが怖いのではなかったのか?」
それは軍に入らない事を、黄木司令がそういう理由と決めつけただけだがな……
「なのに何故今回戦った」
「……死ぬのはごめんですけど、だからといって、目の前の救える命を見捨てる気にはなれない。そんな事したら罪としか思えない」
「……」
「俺が出来る範囲の事ならしたかった。……ただそれだけですよ」
俺は思っていた事を告げた。
二人がどう思うかは知らないが。
「朱雀ともその話しまして、とりあえずサポートしました。人間界の事ならおそらくこれからも協力してくれるでしょうし、そのままサポートすれば軍の良さも知り、入る気になるかもしれませんよ」
九竜が補足してくれた。
だからまだあきらめないでほしいと言いたいのだろうか。俺を軍に入れることを。
「黄木殿、我々は人手不足ですし、とりあえず人間界限定でも良いではないですか」
西木さんも背中をおす。
「そうだな。やる気があったことには安心したぞ。前は言いすぎた。すまん」
軽く頭を下げる黄木司令。
……失礼ながら、下の者に頭下げれる人とは思わなかった。
そこまでしなくてもいいのだがな……
「いえ別に……。頭、上げて下さい」
「で、どうだろうやってもらえるか?」
あまり気は進まないが、見捨てる選択肢がない以上、断る理由はない……のかもしれない。
人間界限定なら、行動範囲的にもなんとかなるかもしれないし。
家族のみんなには悪いが……
「出来る事なら、やってみます」
……了承した。
俺は一時的かはわからないが、条件つきで軍に協力することにした。
「あ、おれも力得たから軍に入るぜ。金とかもらえんだよな?」
北山が割って入る。
「……聖獣なら戦力になるだろうし良かろう。だが九竜、後で詳しい説明してもらうぞ」
「は、はい……」
九竜は頭を下げる。
こうなることは理解していたはずだが……
彼女、わりと何も考えず北山に契約させたのかもしれない。少し抜けてるのかな……?
――つづく。
「追って来るかと思いきや私達来ませんでしたけど、一応このあと合流したんですよ。全部終わった後だったので、触れられなかったですけど」
「え?それでもヒロインかって?はい!神条ルミアはメインヒロインです!」
「次回
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