第四話 武器精霊
「まず友人さんがどこにいるか調べましょ」
九竜姫御子は地面を指先でなぞるように、何かを描く。
すると魔法陣みたいなものが浮かび上がる。……すごいな、こんなこともできるのか。
「……どうやら病院にいないようですよ」
「え?……あいつ、入院したんじゃなかったのか……?」
「……今動いて正解だったかも。何やら友人さんに不穏な魔力を持った存在が近づいてる」
こんなことで、そこまで詳細にわかるのか……
「……まさか、魔族?」
「そうかも。――早く向かったほうがよさそう」
俺らは全速力で、北山の元へと向かう……
♢
一方その頃――北山side。
「は~そんな何日も入院なんてしてられねーよな。兄貴にも悪いし、チビ共の面倒も見ねえといけねえし」
わりとピンピンしていた。
だから1日しか入院しなかったのだろう。
そんな道中、――近くでガサガサ何か音がする。
「ん?」
振り返るも、誰もいない。
「ん~~?なんか気配感じたんだが。……ストーカーか?いやあ俺もついにモテるようになったか!」
おめでたい男だ。
お気楽というかなんというか。
――とはいえ自分の身に危険が迫ってるなんて、普通思わないだろうが。
後ろの音は当然のように、北山を狙いにやってきた妖魔だった。
「アレだ。ローベルト様ガ言ってイタ。イイエサと」
「そういう事だ。とりあえず捕えてローベルト様に届けろよ。今ここでお前らが喰うなんてことはするなよ。したら始末するからな」
角の生えた魔族と思われる奴が、妖魔に釘を刺す。
「ワ、ワカッてる」
奴らは様子を伺っているようだ。
この前、莉羅をさらったときのように慎重に事を運ぶよう。
北山はあまり人気のない所を通る。これは襲ってくれと言ってるようなものだ。
そして案の定……
「オッ!あのマヌケ、襲いヤスイ場所ニ!」
妖魔がウキウキしながら動く。
「……おいおい、いくらなんでも、こんな都合いい場所歩くとか怪しくねえか?――って言っても、人間風情にゃ何もできやしねえか」
多少怪しむも、さほど気にしない魔族。
まあ当然だろう。
普通人間が妖魔や魔族を、罠にはめるなど非現実的。捕らえたり、ましてや倒すなんてまず不可能。
魔力を扱える人間なら話は変わってくるだろうが……
他に人っ子一人いない事を確認すると、すかさず妖魔は北山に襲いかかった!
――北山はすぐさま振り返り、妖魔の顔を確認。
驚くどころかニヤリと笑い――
妖魔の顔面めがけて拳を振り下ろした!
ボゴッッ!
何かが凹むかのような、重い一発をお見舞い。相手が人間なら、鼻骨でも折れるかのような一撃。
北山のガタイならありえる話。
とはいえ相手は妖魔だ。
それくらいではダウンもとれない……と、思いきや尻もちついて妖魔は後ろに倒れ込んだ。
「この前はビビって不覚とっちまったがよ、今度はそうはいかねえっつーの!」
不敵に笑い妖魔にのっかる北山。
「オラ。行くぜえ!!」
全力で拳を振り下ろす!
「ブベッ!」
妖魔は血反吐を吐く。
だが容赦せず、何回も何回も殴りつける!
拳に黒い血がつくほどに!
……血?
血が出るということは効いているのか?
「ほおーあのガキ、無意識ながらも少し魔力が拳にのってるじゃねーのよ。大した力じゃねえが、あの程度のカス相手なら充分効くわな」
関心しながらも、妖魔を助けようとはしない魔族。
「トドメだおらぁ!!」
渾身の一発を妖魔の腹に!
「ガッガ……」
妖魔は口元をガタガタ震わせて気絶した。
見事としか言いようがない……
不意打ちかましたとはいえ、妖魔を仕留めたのだから。
「ハァハァハァ。……へっどうだ。こんなに殴ったのは初めてだが、さすが俺。強えわ」
北山は少し息があがっている。
そんな男に魔族は称賛する。
「やるじゃんお前さん。わざとここに俺らをおびき寄せたんだな?」
「ああそうだ。なんかつけられてるって気づいて、昨日のリベンジしてやろうと思ったんだよ。ボコボコにぶちのめせば、俺や美波達にちょっかいだそうなんて思わなくなるだろうからな」
強さを見せつけ、二度と手を出させないように北山は動いたようだらしい。
「ふ~ん。だがそりゃ無理だな。お前らはローベルト様に目をつけられたし、そもそも、そんな妖魔の中でも群をぬいたカス虫仕留めたくらいじゃ、牽制にもならんよ」
この言い分を信じるとこの魔族は、倒れてる妖魔とは段違いに強いと言うことになるだろう。
「へっそんなことやってみなきゃ」
北山は拳を握りしめ……
「わかんねえだろうが!」
殴りかかる!
拳が魔族の顔面に直撃――
「ん~?効かねえなあ」
魔族は微動だにしていない。
まったく効いてなどいないと、わかる。
「そんなバカな!」
「何驚いてんだよマヌケ」
魔族が北山をあざ笑い、すぐさま殴り飛ばす。
「うあああああ!」
勢いよく飛ばされ、転がるようにコンクリートの地面に倒れた。
地面に肌を裂かれ、焼けるような痛みが北山を襲う。
「があああいってええ!」
「おー痛そうだな。まあわざと気絶しないくらいに、力も抑えたからな~。生意気な奴だし、痛めつけて痛めつけて痛めつけてから、魔力を吸い尽くしてやる」
拳をポキポキならす。
イラついているのか、必要以上に傷つけてから殺そうとしている。
北山は痛みで動けない……
「や、やべえ、やっぱ無謀だったのか……」
諦めと恐怖が出てくる……
「さあお楽しみ……」
――と言った瞬間、頭部が何者かに蹴り飛ばされ、魔族は頭から地面に叩きつけられた。
「ぬごあ!」
蹴り飛ばしたのは――神邏だった。無事間に合ったのだ。
「北山!大丈夫か」
「み、美波……」
九竜も遅れてやってくると――
「ご友人はあたしが保護するので朱雀は」
「こいつらを仕留めます」
「よろしい」
九竜が北山を背負い、その場を離れる。…九竜の身長は160あるかないかくらいで、北山は190越えた大男なのだが、軽く背負っていった。
魔力を使いこなすとパワーもそれだけ高められるという証拠だ。
「お、おいあんたは戦わないのかよ」
「ええ。必要ないでしょうあの程度の相手なら」
「妖魔って奴より強いらしいぞ!」
「知ってますよ。でも魔族とはいえ、魔力ランクも低レベルのようだし大した相手ではないわ」
……自分はそんな大したことない相手に、手も足も出なかったのかと、北山はショックを受ける。それと同時に悔しさも滲み出す。
九竜はそんな様子を見て……
「悔しそうですねえ」
「当たり前だろ!俺は守るどころか美波に守られるしかできねえなんてよ!」
「彼は朱雀ですし」
「すげえ力得たのはわかってんよ!でもだからって美波一人に全部任せるなんてできねえよ!それじゃ、あいつの親友なんて胸張って言えねえだろ!」
何もできない、自らの力のなさを嘆く……
力のない自分が割って入るのは邪魔なだけだとわかるから、九竜に離せとは言えない。
力さえ、力さえあれば。……そう北山は思わざるおえなかった。
「力、ほしいんですか?戦う力」
九竜は質問した。
「は?そりゃほしいよ」
当然だろという態度。
「ん?もしかしてくれんのか力!」
「あ~いや、あたしがあげれるわけではないんですけども……」
「なんだよ煮え切らねえな」
「聖獣と、契約してみたらどうです?」
「……へ?」
♢
――神邏side。
俺は先ほどの魔族との戦闘をしているのだが……
「オラオラオラオラ!」
魔族は両手をブンブン振り回しながら、魔力の玉を俺にめがけて投げまくっていた。
「魔力、飛ばせるのか……」
と、俺は関心しながら、全弾手刀で切り裂き消す。
別に周りに人もいないからよけてもよかったのだが、どういう技か確認するために触れてみた。
「なんだてめえ
魔族が呆れるように言った。
……放出した魔力の玉の名称だろうか?
記憶の片隅にあったのか、なんとなく聞いたことあるような気がする……
「言っとくが、これは魔族特有の力だ!人間や天界人にはできねえよ!」
「……へえ」
魔族にしかできない芸当の遠距離技――魔導弾か。……憶えとこう。
「「神邏、魔導弾は撃てなくとも遠距離技は使えるよ」」
木属性の精霊、シルフィードのイリスが語りかけてきた。
俺は聞く。
「……どんな技?」
「「まず、この間もらった剣を出すんだ」」
「出す……どうやって?そういえば気づいたら消えてたな。剣」
持ち帰った憶えも、九竜に渡したわけでもなかったのに、俺の手元から消えてた。
「「あれは特別な剣。四聖獣だけが使う事のできる
「いや、すごい武器なのはわかったが出し方が……」
「「契約は完了してると言ったろ?呼び出せるはずだ」」
「呼び出すと言ってもどうやって……?」
ふと自分の右手に視線が動く。
「……ん?なんだコレは」
俺は右手の薬指に見知らぬ指輪がついている事に気づいた。
……いつの間に?
「てめえ、さっきから何ブツブツ言ってやがる!」
こうやってしゃべっている間も魔族による攻撃は続いていた。
回避しながら、指輪に注目。
「いつの間にこんなものが?」
「「武器精霊だな。武器以外のものにも化ける事が出来る性質がある。おそらく今までも何かしらの物になって、お前のからだにくっついていたんだろ」」
「かくれんぼでもしてたのか……?」
「うん、そんなようなもんかも〜」
カタカタ指輪が動きながら肯定の返事があった。
……
指輪がしゃべった?
……普通ならめちゃくちゃ驚くところだが精霊とは聞いていたし、イリスがしゃべるように
だからほぼ無表情だったと思う。
「あっれ?もっと「しゃべった~!」とか言ってめちゃくちゃ驚くと思ったのにつまんな~。で~も~あーしの存在に、全然気づかなかったのは雑魚すぎ〜って感じだったよね~」
キャハキャハ笑う
声は高めでキャピキャピした感じなので、この子も女の子だな……
イリスと比べると精神年齢幼そうな子だ……
イリスは言う。
「「いいから剣の姿になってやれ」」
「なに〜命令〜?なんか嫌な感じ〜」
ふてくされてる。子供みたいだ。
……それなら、
「すまない。剣になってもらえないか?…えっと、」
優しく頼んでみるが、この子をなんて呼んだらいいかわからない。
「あっ、名前?……え~っと、……じゃあリーゼで」
え~っと?じゃあ?
今考えたみたいように聞こえるが偽名か?
まあそこは今どうでもいいことか。とりあえずリーゼと呼ぼう。
「リーゼ。……じゃあ頼む」
「はいは~い。イケメンなお兄さんに頼まれたら、しょうがないな~なーんて」
笑いながら指輪が光だし、俺の手元に移動……そして光が大きくなり、剣の形へと変わっていく。
この前はただの日本刀みたいな形だったが、今回は鍔が両翼のような形で、刃も刀というより剣の姿になっていた。
宝石みたいなものも真ん中に埋め込まれてる、ややきらびやかな剣。
「前と違うな……」
「この前は〜変な女に連れてこられてムカついてたから、ただの刀の姿してただけだよ〜。そんなこともわかってなかったの〜?」
「ああ。……つまりこれが、本当の君の姿にってわけか?」
「へ?そ、そ~だよ〜綺麗でしょ?綺麗な顔なだけの雑魚なお兄さんには、もったいない代物なんだよ~」
「なるほどね。……それだけだいそれた代物なら、俺でも戦っていけるかもな」
煽ったつもりかもしれないが、その程度の事では腹は立たない。これくらいかわいいものだ。
「……まーそういう事だからお兄さんは雑魚でも、あーしの力で勝たせてあげるよ」
「助かる」
「う、うん……」
なぜか少し照れるリーゼ。素直に褒められると思わなかったか?
「「この小娘、気に入らんがまあいい。とりあえずその剣に魔力を注いでみるんだ」」
イリスの助言通りにやってみる。
というかこの前は魔力が溢れていたからなんとなく使えたが、今回も上手くいくのだろうか?と思っていたのだが……
手足を動かすように、簡単に魔力の流れを操作し、剣へと伝えることができた。体が思い出したのかやけにあっさりと……
「「それをただ放出してみるんだ」」
「放出と言ってもな」
「「振ってみろ。そして魔力への集中をといてみればいい」」
とにかくやってみるか……
もちろん相手の魔族めがけて、……剣を振る。
すると、孤を描いた風の刃が剣から放出された。
「何ぃ!」
魔族は驚いて逃げようとするも、遅い。魔導弾ごと魔族を切り裂いてみせた。
「ギィヤアア!!」
魔族の左腹部を切り裂いて勝負あり、死んではいないが、もう動けないほどのダメージを与えられたとわかった。
「「これが木属性魔力による基本技かまいたちだ。中遠距離戦で使える風の刃。まああまり遠距離すぎると威力が下がるが」」
簡単に撃てたし、使い勝手はかなり良いな……。遠距離技があるとないとでは、大違いだし、いい技を教えてもらった。
「ぐっくそ……」
魔族は逃げようとでもする気なのか、もがいている。だがまともに動けないようだ。
「……諦めろ。それ以上動くと死ぬぞ」
「ここまでか……。しかしさっき逃げたやつは無事かねえ」
苦しみながらも小さく、小鳥のさえずりのように笑いだす魔族。
俺は首をかしげる。
「なんの話だ。……まさか仲間がいるのか?」
「その通りだ。近くに俺の仲間が潜んでる。おそらく俺は見捨てて、あの小僧を狙いに行ったんだろうな。ヒヒヒざまあみろ」
「……九竜さんがいるから大丈夫だとは思うが……」
一抹の不安を感じる……
「北山は力のない一般人だから、ちゃんと守ってるよなあの人……」
この前の俺とは違い、力のない人なんだし……
そう思うもとりあえず俺は、二人の後を追う事にする。
――つづく。
「……あれ?私、また出番なかったですね。ま、まあこれからこれからです。なにせメインヒロインなんで。ていうかまた新キャラ女の子ですか……」
「次回 聖獣ユニコーン。四聖獣とは別物の聖獣?なんでしょうか」
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