第四話  武器精霊

「まず友人さんがどこにいるか調べましょ」


 九竜姫御子は地面を指先でなぞるように、何かを描く。

 すると魔法陣みたいなものが浮かび上がる。……すごいな、こんなこともできるのか。


「……どうやら病院にいないようですよ」

「え?……あいつ、入院したんじゃなかったのか……?」

「……今動いて正解だったかも。何やら友人さんに不穏な魔力を持った存在が近づいてる」


こんなことで、そこまで詳細にわかるのか……


「……まさか、魔族?」

「そうかも。――早く向かったほうがよさそう」


 俺らは全速力で、北山の元へと向かう……





 一方その頃――北山side。


 北山乱きたやまみだれは病院を去り、自宅へと帰宅しようとしてる最中だった。


「は~そんな何日も入院なんてしてられねーよな。兄貴にも悪いし、チビ共の面倒も見ねえといけねえし」


 わりとピンピンしていた。

 だから1日しか入院しなかったのだろう。


 そんな道中、――近くでガサガサ何か音がする。


「ん?」


 振り返るも、誰もいない。


「ん~~?なんか気配感じたんだが。……ストーカーか?いやあ俺もついにモテるようになったか!」


 おめでたい男だ。

 お気楽というかなんというか。

 ――とはいえ自分の身に危険が迫ってるなんて、普通思わないだろうが。


 後ろの音は当然のように、北山を狙いにやってきた妖魔だった。


「アレだ。ローベルト様ガ言ってイタ。イイエサと」

「そういう事だ。とりあえず捕えてローベルト様に届けろよ。今ここでお前らが喰うなんてことはするなよ。したら始末するからな」


 角の生えた魔族と思われる奴が、妖魔に釘を刺す。


「ワ、ワカッてる」


 奴らは様子を伺っているようだ。

 この前、莉羅をさらったときのように慎重に事を運ぶよう。


 北山はあまり人気のない所を通る。これは襲ってくれと言ってるようなものだ。

 そして案の定……


「オッ!あのマヌケ、襲いヤスイ場所ニ!」


 妖魔がウキウキしながら動く。


「……おいおい、いくらなんでも、こんな都合いい場所歩くとか怪しくねえか?――って言っても、人間風情にゃ何もできやしねえか」


 多少怪しむも、さほど気にしない魔族。


 まあ当然だろう。

 普通人間が妖魔や魔族を、罠にはめるなど非現実的。捕らえたり、ましてや倒すなんてまず不可能。

 魔力を扱える人間なら話は変わってくるだろうが……


 他に人っ子一人いない事を確認すると、すかさず妖魔は北山に襲いかかった!


 ――北山はすぐさま振り返り、妖魔の顔を確認。

 驚くどころかニヤリと笑い――


 妖魔の顔面めがけて拳を振り下ろした!


 ボゴッッ!


 何かが凹むかのような、重い一発をお見舞い。相手が人間なら、鼻骨でも折れるかのような一撃。

 北山のガタイならありえる話。


 とはいえ相手は妖魔だ。

 それくらいではダウンもとれない……と、思いきや尻もちついて妖魔は後ろに倒れ込んだ。


「この前はビビって不覚とっちまったがよ、今度はそうはいかねえっつーの!」


 不敵に笑い妖魔にのっかる北山。


「オラ。行くぜえ!!」


 全力で拳を振り下ろす!


「ブベッ!」


 妖魔は血反吐を吐く。

 だが容赦せず、何回も何回も殴りつける!

拳に黒い血がつくほどに!


 ……血?


 血が出るということは効いているのか?


「ほおーあのガキ、無意識ながらも少し魔力が拳にのってるじゃねーのよ。大した力じゃねえが、あの程度のカス相手なら充分効くわな」


 関心しながらも、妖魔を助けようとはしない魔族。


「トドメだおらぁ!!」


 渾身の一発を妖魔の腹に!


「ガッガ……」


 妖魔は口元をガタガタ震わせて気絶した。


 見事としか言いようがない……

 不意打ちかましたとはいえ、妖魔を仕留めたのだから。


「ハァハァハァ。……へっどうだ。こんなに殴ったのは初めてだが、さすが俺。強えわ」


 北山は少し息があがっている。

 そんな男に魔族は称賛する。


「やるじゃんお前さん。わざとここに俺らをおびき寄せたんだな?」

「ああそうだ。なんかつけられてるって気づいて、昨日のリベンジしてやろうと思ったんだよ。ボコボコにぶちのめせば、俺や美波達にちょっかいだそうなんて思わなくなるだろうからな」


 強さを見せつけ、二度と手を出させないように北山は動いたようだらしい。


「ふ~ん。だがそりゃ無理だな。お前らはローベルト様に目をつけられたし、そもそも、そんな妖魔の中でも群をぬいたカス虫仕留めたくらいじゃ、牽制にもならんよ」


 この言い分を信じるとこの魔族は、倒れてる妖魔とは段違いに強いと言うことになるだろう。


「へっそんなことやってみなきゃ」


 北山は拳を握りしめ……


「わかんねえだろうが!」


 殴りかかる!


 拳が魔族の顔面に直撃――


「ん~?効かねえなあ」


 魔族は微動だにしていない。

 まったく効いてなどいないと、わかる。


「そんなバカな!」

「何驚いてんだよマヌケ」


 魔族が北山をあざ笑い、すぐさま殴り飛ばす。


「うあああああ!」


 勢いよく飛ばされ、転がるようにコンクリートの地面に倒れた。

 地面に肌を裂かれ、焼けるような痛みが北山を襲う。


「があああいってええ!」

「おー痛そうだな。まあわざと気絶しないくらいに、力も抑えたからな~。生意気な奴だし、痛めつけて痛めつけて痛めつけてから、魔力を吸い尽くしてやる」


 拳をポキポキならす。

 イラついているのか、必要以上に傷つけてから殺そうとしている。


 北山は痛みで動けない……


「や、やべえ、やっぱ無謀だったのか……」


 諦めと恐怖が出てくる……


「さあお楽しみ……」


 ――と言った瞬間、頭部が何者かに蹴り飛ばされ、魔族は頭から地面に叩きつけられた。


「ぬごあ!」


 蹴り飛ばしたのは――神邏だった。無事間に合ったのだ。


「北山!大丈夫か」

「み、美波……」


 九竜も遅れてやってくると――


「ご友人はあたしが保護するので朱雀は」

「こいつらを仕留めます」

「よろしい」


 九竜が北山を背負い、その場を離れる。…九竜の身長は160あるかないかくらいで、北山は190越えた大男なのだが、軽く背負っていった。

 魔力を使いこなすとパワーもそれだけ高められるという証拠だ。


「お、おいあんたは戦わないのかよ」

「ええ。必要ないでしょうあの程度の相手なら」

「妖魔って奴より強いらしいぞ!」

「知ってますよ。でも魔族とはいえ、魔力ランクも低レベルのようだし大した相手ではないわ」


 ……自分はそんな大したことない相手に、手も足も出なかったのかと、北山はショックを受ける。それと同時に悔しさも滲み出す。


 九竜はそんな様子を見て……


「悔しそうですねえ」

「当たり前だろ!俺は守るどころか美波に守られるしかできねえなんてよ!」

「彼は朱雀ですし」

「すげえ力得たのはわかってんよ!でもだからって美波一人に全部任せるなんてできねえよ!それじゃ、あいつの親友なんて胸張って言えねえだろ!」


 何もできない、自らの力のなさを嘆く……


 力のない自分が割って入るのは邪魔なだけだとわかるから、九竜に離せとは言えない。

 力さえ、力さえあれば。……そう北山は思わざるおえなかった。


「力、ほしいんですか?戦う力」


 九竜は質問した。


「は?そりゃほしいよ」


 当然だろという態度。


「ん?もしかしてくれんのか力!」

「あ~いや、あたしがあげれるわけではないんですけども……」

「なんだよ煮え切らねえな」

「聖獣と、契約してみたらどうです?」

「……へ?」





 ――神邏side。


 俺は先ほどの魔族との戦闘をしているのだが……


「オラオラオラオラ!」


 魔族は両手をブンブン振り回しながら、魔力の玉を俺にめがけて投げまくっていた。


「魔力、飛ばせるのか……」


 と、俺は関心しながら、全弾手刀で切り裂き消す。

 別に周りに人もいないからよけてもよかったのだが、どういう技か確認するために触れてみた。


「なんだてめえ魔導弾まどうだんも知らねえのか」


 魔族が呆れるように言った。

 ……放出した魔力の玉の名称だろうか?

 記憶の片隅にあったのか、なんとなく聞いたことあるような気がする……


「言っとくが、これは魔族特有の力だ!人間や天界人にはできねえよ!」

「……へえ」


 魔族にしかできない芸当の遠距離技――魔導弾か。……憶えとこう。


「「神邏、魔導弾は撃てなくとも遠距離技は使えるよ」」


 木属性の精霊、シルフィードのイリスが語りかけてきた。


 俺は聞く。


「……どんな技?」

「「まず、この間もらった剣を出すんだ」」

「出す……どうやって?そういえば気づいたら消えてたな。剣」


 持ち帰った憶えも、九竜に渡したわけでもなかったのに、俺の手元から消えてた。


「「あれは特別な剣。四聖獣だけが使う事のできる武器精霊スピリットウエポン。魔力を集中して込められる、数少ない武器の一つ。朱雀となった時点で契約は完了していたはず」」

「いや、すごい武器なのはわかったが出し方が……」

「「契約は完了してると言ったろ?呼び出せるはずだ」」

「呼び出すと言ってもどうやって……?」


 ふと自分の右手に視線が動く。


「……ん?なんだコレは」


 俺は右手の薬指に見知らぬ指輪がついている事に気づいた。

 ……いつの間に?


「てめえ、さっきから何ブツブツ言ってやがる!」


 こうやってしゃべっている間も魔族による攻撃は続いていた。

 回避しながら、指輪に注目。


「いつの間にこんなものが?」

「「武器精霊だな。武器以外のものにも化ける事が出来る性質がある。おそらく今までも何かしらの物になって、お前のからだにくっついていたんだろ」」

「かくれんぼでもしてたのか……?」


「うん、そんなようなもんかも〜」


 カタカタ指輪が動きながら肯定の返事があった。


 ……


 指輪がしゃべった?


 ……普通ならめちゃくちゃ驚くところだが精霊とは聞いていたし、イリスがしゃべるように武器聖霊スピリットウエポンがしゃべるのも何もおかしくない。だからそこまでは驚かなかった。


 だからほぼ無表情だったと思う。


「あっれ?もっと「しゃべった~!」とか言ってめちゃくちゃ驚くと思ったのにつまんな~。で~も~あーしの存在に、全然気づかなかったのは雑魚すぎ〜って感じだったよね~」


 キャハキャハ笑う武器精霊スピリットウエポン

 声は高めでキャピキャピした感じなので、この子も女の子だな……

 イリスと比べると精神年齢幼そうな子だ……


 イリスは言う。


「「いいから剣の姿になってやれ」」

「なに〜命令〜?なんか嫌な感じ〜」


 ふてくされてる。子供みたいだ。

 ……それなら、


「すまない。剣になってもらえないか?…えっと、」


 優しく頼んでみるが、この子をなんて呼んだらいいかわからない。


「あっ、名前?……え~っと、……じゃあリーゼで」


 え~っと?じゃあ?

 今考えたみたいように聞こえるが偽名か?


 まあそこは今どうでもいいことか。とりあえずリーゼと呼ぼう。


「リーゼ。……じゃあ頼む」

「はいは~い。イケメンなお兄さんに頼まれたら、しょうがないな~なーんて」


 笑いながら指輪が光だし、俺の手元に移動……そして光が大きくなり、剣の形へと変わっていく。


 この前はただの日本刀みたいな形だったが、今回は鍔が両翼のような形で、刃も刀というより剣の姿になっていた。

 宝石みたいなものも真ん中に埋め込まれてる、ややきらびやかな剣。


「前と違うな……」

「この前は〜変な女に連れてこられてムカついてたから、ただの刀の姿してただけだよ〜。そんなこともわかってなかったの〜?」

「ああ。……つまりこれが、本当の君の姿にってわけか?」

「へ?そ、そ~だよ〜綺麗でしょ?綺麗な顔なだけの雑魚なお兄さんには、もったいない代物なんだよ~」

「なるほどね。……それだけだいそれた代物なら、俺でも戦っていけるかもな」


 煽ったつもりかもしれないが、その程度の事では腹は立たない。これくらいかわいいものだ。


「……まーそういう事だからお兄さんは雑魚でも、あーしの力で勝たせてあげるよ」

「助かる」

「う、うん……」


 なぜか少し照れるリーゼ。素直に褒められると思わなかったか?


「「この小娘、気に入らんがまあいい。とりあえずその剣に魔力を注いでみるんだ」」


 イリスの助言通りにやってみる。

 というかこの前は魔力が溢れていたからなんとなく使えたが、今回も上手くいくのだろうか?と思っていたのだが……


 手足を動かすように、簡単に魔力の流れを操作し、剣へと伝えることができた。体が思い出したのかやけにあっさりと……


「「それをただ放出してみるんだ」」

「放出と言ってもな」

「「振ってみろ。そして魔力への集中をといてみればいい」」


 とにかくやってみるか……

 もちろん相手の魔族めがけて、……剣を振る。


 すると、孤を描いた風の刃が剣から放出された。


「何ぃ!」


 魔族は驚いて逃げようとするも、遅い。魔導弾ごと魔族を切り裂いてみせた。


「ギィヤアア!!」


 魔族の左腹部を切り裂いて勝負あり、死んではいないが、もう動けないほどのダメージを与えられたとわかった。


「「これが木属性魔力による基本技かまいたちだ。中遠距離戦で使える風の刃。まああまり遠距離すぎると威力が下がるが」」


 簡単に撃てたし、使い勝手はかなり良いな……。遠距離技があるとないとでは、大違いだし、いい技を教えてもらった。


「ぐっくそ……」


 魔族は逃げようとでもする気なのか、もがいている。だがまともに動けないようだ。


「……諦めろ。それ以上動くと死ぬぞ」

「ここまでか……。しかしさっき逃げたやつは無事かねえ」


 苦しみながらも小さく、小鳥のさえずりのように笑いだす魔族。

 俺は首をかしげる。


「なんの話だ。……まさか仲間がいるのか?」

「その通りだ。近くに俺の仲間が潜んでる。おそらく俺は見捨てて、あの小僧を狙いに行ったんだろうな。ヒヒヒざまあみろ」

「……九竜さんがいるから大丈夫だとは思うが……」


 一抹の不安を感じる……


「北山は力のない一般人だから、ちゃんと守ってるよなあの人……」


 この前の俺とは違い、力のない人なんだし……

 そう思うもとりあえず俺は、二人の後を追う事にする。


 ――つづく。



「……あれ?私、また出番なかったですね。ま、まあこれからこれからです。なにせメインヒロインなんで。ていうかまた新キャラ女の子ですか……」


「次回 聖獣ユニコーン。四聖獣とは別物の聖獣?なんでしょうか」

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