第5話 水星のリオーン 1

カッと宇宙の大海原に一つの閃光が走った。

それはみるみるうちに全てを白く染めていった。


一人の男はこう叫ぶ。


「オレは宇宙戦士リオーンだ!」


―─その日も蒸されるような暑さで、僕は家に一人で漫画を読んでいた。


「ピンポーン。」


僕は面倒くさげにドアを開けると、そこにはへんてこりんなやつが立っていた。

そいつは全身青くて、体はゴムみたいだった。


「まぁ立ち話もあれだし……。」

といってそいつは部屋にはいっていく。


僕はてっきり不審者だと思って、その場に立ちつくしていた。


そいつは勝手に冷蔵庫を開けて、麦茶を注ぎだす。

そして僕の分のコップまで用意して、ちゃぶ台の前に座れよと指示した。


僕は震えながら腰をおとす。


「実は今日は君に大事な事をいいたくてここに来たんだ。きみは地球たったひとりの戦士なのさ。」


ぼくはポカーンとしているだけ。

この時点までまだただの変態だと思っていた。


「私の名はリオーン。宇宙の彼方、水星からやってきた。そして私は水星の化身なんだ。」

「はぁ…。」


そのとき、突如ズシンという地響きが部屋に響く。


「おっと、話はここまで。予定よりは早いが…。」


そいつはリモコンみたいなのを手渡して来た。


「それは変身ボタン、とにかく一刻を争う。今すぐにでも押してみてくれ。」


「いやいや、意味が分からないし……。」

「いいからはやく!」


そいつの顔があまりに真剣だったので僕ももうヤケになってスイッチを押した。


すると、まばゆい光があたりをつつみはじめ、僕はそいつの体に吸い寄せられるに吸収されていった。


気付くと僕は闇の中にいた。あたりは何も見えない。

だけど前だけは透けていて、誰かの視界を見ているようだった。


(え、ここは……。)

(体を好きなように動かせ、お前の望んだ通りにおれの体は動く。)


どこからか声がした。


下を見てみると僕は自分の住む町をみおろしていた。


そう、僕は巨大化していたのだ。


なんだろうか、まるで僕が町の皆を支配してる感じだ。

僕の鼓動は自然と速くなって息も荒くなる。



「え?いったいなにが……あー!」


僕の家が粉々に壊れていた。


「おい、どうしてくれるんだよー。」


(しっ、静かにしろ!)


体の中、いや心の中から誰かに話しかけられた気がした。

(どこにいるんだ?)


(心の中だ。)


僕の声は地球全体にひろがるような勢いだったので、町中の人達がビクビクして僕の方をみていた。


(もうなんか僕意味が分からないよ……。で、これからどうすれば?)

(いまから町に現れるやつを倒す、それだけだ。)


「え、だれが……。」


僕はまた大声でしゃべりそうになって口に手を当てた。


(ほら、もう目の前にいるぞ。)


そこにはのっそりと佇む、また僕と同じ巨体の人間がいた。


「うわっ!」


(こら、だからしゃべるなって!)

(あ、そうだった。)


と、こちらが漫才じみた会話をしていると、いきなり相手は先手をうってきた。


ひょろーんとのびる長い手がこっちのボディだか機体だかに直撃。


いきおいよく倒れると共にバリバリと建物がつぶれる感覚。


(うわー、やべー!)


まさにテレビのなかでヒーローがやっていたことを、自分がやっているのだと冷静に自覚していた。


(は、はやく立ち上がるんだ!)


「分かってるけどもう何がなんだか!」


(こら、しゃべるなって!)


なんとかゆっくりと立ち上がってみわたすと、僕は凍り付いた。


白くて全体的にひょひょしたそいつは、熱心に足下の住宅を破壊していた。


アリのように逃げ惑う人達。


飛びかう悲鳴。


僕はなんと戦おうとしているのだろうか。


今この僕にこの町の人達の命が預けられているのか?


リオーンとかいうやつが中から話しかけているみたいだったが、放心状態で何言ってるか分からない。


(仕方ない……。)


そう心の中から聞こえた気がした。


瞬間、僕の体の支配の主導権は消え、心の中に意識が移って行った。


気がつくと操縦室のようなとこに座っていた。

中からはガラスみたいになって外が展望できる。


恐らくだけどここは胸のあたりに位置しているのだろう。


僕が体を動かしてもないのに、体は白いヤツに向かって直進しだす。


ふりおとされたチョップがやつの首にヒット!


「よし、いいぞ!」

思わず僕は叫んでしまう。


息もつかさず、うずくまったやつの顔面に膝蹴りがぶちこまれる。


白いヤツはそのまま持ち上げられて、湖にものすごい音をたててほうりこまれた。


「よっしゃー、いけいけー。」


僕は特等席でこの生々しい映像をみて、興奮した。

僕は自分がヒーローなんだという錯覚を覚えていた。


(ハァ、ハァ、これくらいでやつはくたばらん……。)


あいつの声がこだました。


リオーンというやつはひどく疲れている感じだ。


まもなく白いヤツはぬろ~んと立ち上がる。


するとバッと両腕がのびたではないか!


こちらの機体はひきづりこまれる形で海にもぐりこむ。


「うわっうわー!」


ガラスの景色が青黒い色一色に染まって、半ば僕はパニックになった。


(くそ、燃料がもうないな。)


心の中でまた声がした。


突然視界はもとにもどる。


立ち上がったみたいだ。


「ぬおおおおおお!」


こちらの体がすさまじい大声をだして、かと思うと白いヤツうまのりになった。


ガラス張りからうつっているのは、首をしめられてもがき苦しむやつの顔。


「グヒュ……ヒュググ。」


と声にならない声をもらしていた。


まさか正義のヒーローが敵をこんな形で倒すとは思っていなかった。


「はは……ハハハ!これは夢なんだ!そうに違いない、ワハハハ!」


やがて透明になりはじめて、しまいにはすぅーと消えていった。


僕の意識はそこで途切れた。


目を開けるとふとんの中。


懐かしいような古くさいような感じのにおい。


即座におじいちゃんとおばあちゃんの家だなと思った。


よかった。昨日のはやっぱり夢だったんだ!


「おきたね。」


ふすまをあけてきたのはおばあちゃんだ。


「おばあちゃん、なんでぼくここに…。」

「いいからいいから。あとでいいから居間に来なさい。紹介したい人がいるから。」


紹介したい人?だれだろ。


と思いつつ眠気眼でいってみると、


夢じゃなかった。そこにはあいつがいた。


そいつは何食わぬ顔でおばあちゃんおじいちゃんと喋っていた。


「ユウヤ。この人がお前をここまで運んで来てくれたんだよ。」

「はじめまして、リオです。」


なにがはじめましてだ。


すると、いいにくそうにおじいちゃんが口をひらいた。


「ユウ、お前にいわなくちゃならんことが…。」

「なに?」


「お前の母さんとう父さんは2人とも死んだ。」


…死んだ?うそでしょ。


「お前も知っているだろうが、あの町に巨人が二匹現れたんじゃ。今はもう世の中はその話で持ち切りじゃ。」


「まぁ、これからゆっくりやっていきゃいいさ。ほれ、みかん食うかえ?」


「うそだー!」


僕は泣きながら家を出て行った。


おぼあちゃん家は言葉の通りド田舎。


コンビニなんて歩いた所になく、あるのはおいしげる木々たちと山だけ。


もう外はまっくら。


僕は気付くと二年生か3年生くらいのときによく遊びにきていた森の中にいた。


あたりには白い霧がただよい、するのは小さい虫や鳥の声。


ひんやりとした空気が妙に気持ちいところだった。


一つだけやたらでかい巨木があって、そこは僕だけの秘密スポット。


僕は木に背をつけて、木と会話するかのようにかたりかける。


「ねぇ、木。母さん達死んじゃったてさ…。」

「さがしたぞ。」


ふと声がして上をむく。


あいつだった。


「こんなとこにいると危ないぞ。」


「うるせぃ、お前のせいだ、みんなお前のせいなんだ!お前なんかいなくなっちゃえー!」


そういってまた僕は走り出した。


―それから僕はぼくの抜け殻になった。


いくら田舎とはいっても山を越えたところに学校があるからと、ばあちゃんからそこをすすめられた。


でも僕は、毎日部屋に閉じこもって漫画を読んだりゲームをしたりしていた。


その間あいつはなにをしてるかというと、


じいちゃんの畑仕事を手伝ったり、


おれに学校にいくように説教したり、


あろうことか近所の子どもの人気者になって公園で遊んだりしてる。


正直、あいつの顔なんかみたくもない。


だが、ある日それまでの平和な暮らしはまたもやたちきられた。


いつものようにps2をやっていると…


"ズシン"


2階の窓から眺めると、また巨人がたっていた。


しかも、僕の大好き森の中にぽつんと。


そのとたん部屋の扉が開かれて、あいつが入って来た。


そしてすごい勢いで僕を外に連れ出し、変身ボタンを握らせて無理矢理ポチッと押させられる。


「チョッ…!」


前と同じように光が炸裂、僕はあいつの体に吸い込まれてゆく。


意識が戻る。


僕は森の中で、そいつと対峙していた。


この感じ、この感じだ。

自分の血が躍動している!


そいつは前のやつと同じタイプのロボットだったが、少し違った。


色は灰色で、片手には悪魔が持つようなフォークのようなヤリが握られている。


(こ、これはどうみてもこっちが不利だよな…。)


などと考えてるうちにも敵はフォークを突き刺して来た1


フォークはみごと胸に突き刺さり、それと共に僕にも激痛が。


「い、いてっ!」


はっ、しゃべってしまった。


それはともかく、でもどうして…?


まぁ、ロボットもののアニメではよくありそうなシステムだけど。


そんなことを考えているとまたもやフォークがとんでくる。


今度は右足をやられ、しかも貫通しているではないか。


僕も足をみると血が出ている!


(ぐぬおおーっ…!)


たえ難い激痛に、僕はその場にしゃがんでしまった。


ズシ、ズシとやつのちかづく音と木の折れる音。


(おい、何してる。立つんだ!)


そんなの無理だ。


あぁ、もう終わったな…。


と思った瞬間、僕は気付いてあたりをみまわし、そして探した。


あった、だがつぶされていた。


僕のお気に入りの巨木が。


その時僕の何かがプツンと切れる。


痛みも忘れて敵にタックルをくらわす。


気がつくと、僕は無我夢中で敵をたたきつけていた。


なんで僕だけ…!なんで僕…!


いつのまにか相手はまた光の渦に包まれて、そして消えていった。



時は過ぎ、僕は中学に入学することになった。


今日は入学式当日。


保護者が座る席をみてみると、いなくていいあいつがちょこんと座っていた。


なんでお前がいるんだよ…。


まぁそれはともかく、式も無事に終わった。


友達もすぐにできた。


同じクラスのノブアキ君だ。


どうやらノブアキ君はロボットアニメやらプラモデルが大好きらしい。


僕はある日までは自分の殻を破ろうと、がんばっていっていた。


だがその日の放課後で…。


僕は体育館裏で三年の人達にかこまれていた。


「おい、お前のとこにへんな変態が居候してるっていうのは本当か?」


「あぁ、オレは見たぜ。畑で仕事するイカれた奴をよぉ。」


「ぎゃはははは。」


僕は袋だたきにされた。


その日からまた僕は抜け殻になった。


あいつは家の中にいてもあらゆるところから顔をのぞかせては、こう言ってくれるようになった。


「ねぇ、学校行こうよ。」


二階の窓から、便器の中、おしいれ、時には天井に張りついてたりもした。


なんなんだこいつは、ほんとうに消えてほしいよ。


それでもおじいちゃん達はやつを気に入った。


「リオさんは肩もうまいねー。」


「そうですか?」


「ユウもリオさんを見習いなさい。」

「うるせぇやい!」


僕は乱暴な言葉をはいてまたこもっていった。


なぜかノブアキ君はしょっちゅうおみまいにきてくれる。


部屋の棚にはもらったプラモデルがいっぱい並んでいる。


そんなこんなで時間が過ぎ、夏休みが近づいて来たという時それは起こった。


おばあちゃんがテレビをつけてみろといううのでつけてみると、ニュースが流れていた。

というよりどの局もニュースだけ。


ニュースの見出しはどの番組も、


「またもや出没!謎の巨人。アメリカが消滅する!?」


ア、アメリカが消滅だって!?


「ぶっそうねぇ…。」


と隣でばあちゃん


物騒なんてもんじゃない。


僕は急に使命感やら罪悪感やら恐怖などに駆られた。


僕のせいなのか?

僕のせいで大勢の命が…。


僕はとてもいたたまれなくなって、家をとびだした。


気付くと僕は必死にあいつの姿をさがしていた。


ゲームセンター、畑、公園。


もしかしたら、あのロボットみたいなのに乗ったときの興奮が忘れなかったのかもしれない。


あーもう、なんでこういう時にいないのかね。


その日はあきらめて帰った。

もうきっと家に帰ってるか、そのうちくるだろうと。


だが、あいつはそれっきり姿を見せなかった。


ふ、まぁいいさ、なんなんだよあいつ。

母さん達が死んだのも、木がつぶされたも、いじめられのもあいつのせいなんだ。


だけど2人は悲しがって、オレをせめたてた。


「あんたがリオさんにきつくあたるから…。」


いなくなってほしいと思っててもいざとなると何か寂しいもので、僕は毎日のようにあいつを探しまわった。


ある日僕はいつものルートを変え、学校の校庭をみてまわっていた。


すると、いた!


あいつは体育館裏で不良達にかこまれていた。

僕はこっそり隠れてみることにした。


「おめえそれ着ぐるみか?」

「キメー。」


そいつは真顔で笑み一つないこぼさず言った。


「オレのパートナーの心を傷つけた者は許さん!」


「はぁ…?W」


不良の一人がなぐりかかったが、その場で起きた出来事が一瞬だったもんで僕は目を疑った。


次の瞬間には不良達はうめきながら地に伏していた。


手やら足やらが何か変な方に向いている。


僕は帰ろうとするやつの後ろから声をかけた。


「なんだみていたのか。」


「どこいってたんだ!」


「ふん、もうお前には関係ない事だ。新しいパートナーを探すためにちょっくらアメリカにいってたのよ。」


「いいや、関係なくない!」


僕は再び行こうとするやつの足を大声でとめた。


「ぼく戦う、戦うよ!」


僕は凛とした目でそう言う。


誰もいないまっくらな校庭に、ただただ声だけが響くのだった。


ある日の土曜日。


まっ昼まに僕はテーブをはさんでそいつと向き合っていた。


「前オレ達が一番最初にあった時いったことおぼえてる?」


とそいつ。


「あぁ。」


確かこいつは自分が水星の化身で名はリオーン。


そして僕が地球で立った一人の戦士だともいった。


「これから話す事をよく聞いて欲しい。」


とおもむろにかたりだした。


宇宙をしきるのは太陽で、自分の他にも金星、土星、火星、海王星、天王星、木星と一人ずつ戦士がいるらしい。


だが突然変異で生まれたダークプラネットが太陽にとりついてしまった。


次々に自分以外の戦士がダークプラネットの配下になり、リオーンは宇宙を救うために地球に逃げ込んだ。


そしてこの僕が地球のたった一人の戦士だという。


僕はにわかに信じがたかった。


「で、最終的にはどうすればいいの?」

「6人の戦士に勝ち、そこでやっとダークプラネットと対決するのさ。」


なおも説明は続く。


「ちなみに今まで倒して来た二匹は、天王星と木星ね。じゃ午後からは実技授業…。」


そいつの口がとまった。


「おい、いそいでテレビをつけてくれ。」


僕は不思議な顔をしつつ、いわれたままにする。


すると流れて来た映像が、


「大変です、例の謎の怪物が猛スピードで日本にむかっております。」


それはヘリコプターかなんかの上空からで、怪物が海を死にものぐるいで泳いでいる映像だった。


「うわぁ、なんだコイツ!」


そいつの姿は今までと全然違った。


人型ではなくクモみたいで、足を何本もはやしていた。

真っ黒な胴からひっそりと小さい両目が光っている。


「とにかく出動だ!」

「出動って何を!?」


「おれたちも海を渡って、コイツを食い止めるんだよ!」


僕たちが急いで玄関を出ると、真ん前にみおぼえる人物が立っていた。


ノブアキ君だった。


「ねぇ、ぼくも一緒にのせてよ。」


ノブアキ君の家は近くらしく、木星のやつをたおしたあの森から僕を担いで出てくるへんなやつを見たという。


「はぁ…しかたない。」


僕たちは変身するため森に向かう。


「本当はこうなる前に操縦方法をいろいろと教えてやりたかったが…。」


リオーンはそう言うとぼくとノブアキ君に手をつなぐように指示した。


「じゃぁいくよ。」


僕はボタンを押した。


とたん、煌煌(こうこう)しい光が僕たちを取り囲む。


「うわーっ!」


次の瞬間僕とノブアキは暗い何もない空間にいた。


前は透けていて巨人の視界がみわたせる。


立ちそびえる木達は膝ぐらいまでしか届いてない。


「うおー!すげー。」


ノブアキ君はおおはしゃぎだ。


(リオーン、どうやって海に行けばいいんだ?)


(強く念じるんだ。あのあいつのすがたを思い浮かべて同じ海にいきたいと強く念じろ!)


(だれ、どこから話してるの?)


僕は言われた通りに念じた。


すると次前を見たときには視界はガラリと変わっていた。


あたりは青で塗られていて、目の前にあのクモみたいなやつがいた。


あたまらへんの所でまるで蚊のようにヘリコプターが飛んでいる。


その時僕は気付いた。


こちらの機体がズブズブとしずみはじめてるのに。


(リオーン!どうすればいい!?)


(念じろ、空中を浮きたい!とな。)


何でもありだな、オイと思いつつまた言われた通りにしてみる。

だが機体は止まることなくどんどんと沈んでゆく。


(ダメだ!できないよリオーン。)

(大丈夫だ、お前なら出来る!)


もう頭までつかっている。


(ユウヤくんがんば!)


完全に沈没してしまったその時、


「バシャアァァァ!」


いきなり機体が海面をつきぬけた。


ノブアキ君 (やった!)


機体は海に足をつけるように立っていた。


(よし、これからが本番だぞ!)


とリオーンの声。


僕はクモ野郎としばらくなにもせずににらめっこをしている。


先に動いたのはクモだった。


パカッと背中の部分が開き、ランチャーみたいなのがでてきたではないか!


(やばい、やばいよコレ!)


ノブアキ君とパニくっていると、うってきた。


ものすごいスピードで放たれてきたミサイルの嵐。


"ズドン、ズドンズドン!"


「うわぁ~!」


(いてー!)

全身を鉄棒でボコボコにされたような痛み。


巨人の体はボチャンと海にたおれた。


(立て、立てユウヤ!)


「分かってるって!」


あ、またしゃべってしまった…。


それはさておき、おきあがりみわたした。


僕は驚いた。


クモは僕らを無視して、せかせかと日本の方へと向かっていたのだ。


(リオーン!どうすれば?)


(ジャンプ、おもいっきりジャンプだ!この巨人の身体能力はとてつもないんだからな。)


僕は一度足を折り曲げ、立ち幅の要領で精一杯ジャンプした!

バカみたいに跳ぶ巨人の体は驚くほど軽く思われて、綿雲をも飛び越えていた!


ピンポイントでクモの体の上に着地した!


クモはグチャグチャ、バリバリィとグロテスクな音を出しながらくだけた。

そこからオイルだか血だか分からない液体がこっちの機体に飛び散る。


こうして、案外あっけなく3回目の戦いは幕をとじたのだった。


リオーンのおかげかしらないけど、いじめはなくなっていた。


それどころか、子分のように不良達がやつのまわりについてタバコをつけたりしている。


僕はまた学校に行き始めたのだった。


ノブアキ君はよほどあの体験がスリリングだったのか、暇さえあれば次の戦いはいつかと聞いてくる。


そんなこんなで夏休みに入った。


相変わらずテレビやマスコミ巨人のことでもちきり。

そしていつのまにか、地元でよからぬ噂が広まってしまった。


それは僕が巨人のパイロットではないかという噂だ。

多分全身ゴムのへんてこりんなやつが近所をうろうろしてるからだろう。


クラスの子達とかには適当に精神病の兄がいるとか言い訳している。


僕はすっかり不良達のリーダーで、夏休みは二年も上の三年の不良たちと商店街を徘徊したりしている。


ある日の午後、その日はぼくとリオーンはトレーニングという事で家にいた。

なぜかノブアキ君もいっしょだ。


「練習といってもあんなデカイのでするわけにはいかない。そこでイメージトレーニングだ。」


いよいよイメージトレーニングがはじまった。


「いいか、まずはあの真っ暗なところにいるのを思い浮かべるんだ。」


蒸し暑い部屋の中で、3人の男が目をつむって正座していた。


「基本的にあのロボットは念じればなんでもできる。というよりロボットじゃないあれは水星の化身なんだ。」


リオーンは僕らが汗を垂らして目をつむってる間、ベラベラしゃべりだす。


外ではせわしなく蝉が鳴いている。


「ちなみにこの前のやつは土星ね。あんなのまだじょのくち、これからもっと強くなるから。


とか、

「2人でのって、片方の体を一人がもう一人が片方という風に分担もできる。」


とか、

「いちお君達は多くの命をせおっているのだからこれから毎日とトレーニングするように。」


とリオーンは言った。


僕は空想の中で色々と試してみた。


ビームソードみたいなものから、空をとんだり、透明になったり、ワープ、バズーカをとりだしたりした。


その日のトレーニングは終わり、ノブアキくんは帰って行った。


それからしばらくの間、ノブアキ君がうちにきてトレーニングする日々が続いた。


そしてある日、


「よし、2人とも今日までよく頑張ってくれた。今日は最終テストだ。」


最終テストの内容はこうだった。


「今から架空の星の化身と戦ってもらう。」


リオーンは一枚の紙に殴り書きしはじめる。


「戦ってもらうやつはこんなやつだ。そのベテルギウスさんだ。」


ベテルギウスさんというやつは、ただの全裸のおっさんだった。

一枚の葉っぱだけがあぶない所に張り付いているだけである。


おまけに頭にはパンツをかぶっている。


「ベテルギウスさんは強いからな、どうする?2人で一緒にやってもいいけど。」


僕はノブアキ君と一緒にベテルギウスを倒す事になった。


瞑想に入る僕とノブアキ君。


目を開けると僕は漆黒の中に佇んでいる。


「お。」


隣にはノブアキ君もいた。


前方の視界を見てみると、どうやらここはシュミレーションされた町のようだ。

ビルやら建物やらが密集している。


「いたよ。」


いた、ノブアキ君の指す方向に、ベテルギウスはいた。


パンツをかぶったおっさんはあろうことか、不良のように煙草をすってうんこ座りをきめこんでいるではないか!


「なめやがってー!」


僕はさっそく片手にマーキュリーソードをイメージ、そしてつくった。

マーキュリーソードというのは僕が水星の「マーキュリー」をとって、勝手につけた


ノブアキ君もマーキュリーソードをもう片方の腕でつくる。


僕たちはすでに2人でひとつの機体を操るのも楽勝だった。


二本の剣をふりまわすそれは、蛍光灯のような光がくねくねと踊りまくっているようにみえた。


パンツをかぶった全裸のおっさんは難なくよけた。


「えっ!?」


カエルのようにジャンプしたかと思えば、もう後ろにいたのだ。


その時、あーんとベテルギウスが口を開いた!

そしてなんとビームのようなものを吐き出したではないか!


次々と破壊されていく建物達!


僕たちは必死になってそれをよけた。


いったんでかいビルの後ろに隠れて、身を潜める。


「どうする?」

とノブアキ君。


「僕はソードをもつから、ノブアキ君はマーキュリーバズーカを持ってよ。」


とてもヒーローらしいとはいえないけど、ビルに隠れながらバズーカで狙撃(そげき)する作戦になった。



ベテルギウスは僕達を見失い、きょろきょろしている。

くすくすと見合って笑い合う僕達。


やがて絶好のタイミングが来て、バズーカの引き金が引かれた!

煙をあげながら、ミサイルが突進する。


ベテルギウスはミサイルを鷲掴んで、それを食べてしまった!


「だめだ、もう一貫の終わりだー!」


だがベテルギウスの体が急に膨らみはじめてそして、破裂した。


周りの建物には、シュールな音をたてて腸やら内蔵などがグチャッと飛び散るのだった。



僕がいつものように真っ昼間から一人でトレーニングをしているとある人物が家をたずねた。


ノブアキ君か不良達かと思ってあけるとそこにはかわいい女の子がいるではないか!


「ん、なに?」


「ちょっと入ってもいいかなぁ?」


女の子はにっこりと笑った。


僕は2つ返事でどうぞどうぞと家にあげた。


女は名を西村となのった。

同じ学校で同じクラスだった。


どうりで見た顔だと思った。


僕と女は同じベッドの上に座る。


「ところで、何のよう?」

僕は半ば卑猥なことを期待しながら聞いた。


「あ、あのね…ユウヤ君色々噂されてるじゃない?ロボットのパイロットとか。」


西村さんは俯き気味で、顔をあからめながら言っている。


僕は興奮してしまい、あそこはギンギン!


この雰囲気はもしかして…!


なんだこの雰囲気はもしかして…。


なんだこの雰囲気ぃぃぃぃぃ!!


と僕が妄想していると、


「ただいまー。」


と何食わぬ顔でスーパー袋をぶらさげた全身ゴムの変態が部屋に入って来た!


「きゃあー!」

甲高い悲鳴があがる。


「おっとスマン…。」

と言ってやつはでていった。


「ゴメン、あ、あれは精神病の兄で…。」


「やっぱり本当だったんだー!だってあの人ひとりごとマンと同じかっこうだもん。」


あの巨人は一人ごとマンとよばれているらしい。

僕がヒーローらしくもない事を大声でしゃべるからだろう。


「ねぇねぇ、本当のとこどうなの?ねぇ!」


顔を鼻すれすれまで近づけられて僕はまっかっか。


迫力に負けて僕は言ってしまった。


「うん、本当だけど。」


「うわー、やっぱり!」


彼女はなぜか分からないけどとても嬉しそうだ。


「あたしロボットもののアニメとか大好きなんだぁ。ねぇ、私でよければ付き合ってくれない?」


「は?」


僕はあまり突然のことで、内容が掴めなかった。


「そのかわりさぁ、私をロボットに一緒に乗せてほしんだぁ。ダメかな…?」


あぁ、なんでこういう子ばっかり僕のまわりには集まるんだろう…。

それにロボットじゃ…。


「うん、いいよ。」


でも西村さんはかわいかったから、okしてしまった。


西村さんは帰った。


その日、僕は放心状態だったり嬉しいやら、これからの事が楽しみやらでわくわくしながらお風呂につかっていた。


西村さんは僕とたくさん一緒に過ごした。


夏祭りに行ったり、ゲーセンで遊んだり、不良たちにも紹介した。


不良達やリオーンは羨ましがっていた。

彼女はリオーンともすぐうちとけたみたいだ。


もちろんイメージトレーニングの仕方、これから何が起ころうとしてるのか、宇宙のことについても話した。


それをふまえた上で僕と付きあってほしいと伝えたら快く受け入れてくれた。


次の芝脚が刺客がやってきたのは夏休みも終わりかけたころだった。


深夜、リオーンは僕と西村さん、ノブアキを森によびだしていた。


「ねぇリオちゃんだれ待ってるの?」


と西村さん。


「それは秘密さ。2人くるんだ。」


20分後くらいしたらそいつらはきた。


2人はリオーンと同じみたいなやつだった。


「こんばんわ。」

「こんばんわ。」


2人は兄弟のように声をそろえて言った。


「彼らは小さすぎてダークプラネットに見つからずにすんだんだ。


名も無い星だからナナシマンと呼べばいい。


目つきが鋭い方がナナシマン一号、鋭くない方がナナシマンに号だ。」


「はぁ…。」


そんなこんなで西村さんが一号、ノブアキが二号にのることに。


「準備はいい?行くよ!」


3人一斉にボタンを押した。


毎度同じ光り渦巻くシチュエーションで僕らは吸い込まれる。


「うわーっ、きゃー!」

「こら、しゃべっちゃダメだって西村さん。」


しじまとかした森にどでかい声が響く。


(よし、ユウヤ。三人で戦う訳だから場所が必要だ。そうだ、日本海をイメージするんだ。日本海にいきたいと思うんだ!)


「よしみんな日本海をイメージしてくれ。」


次の瞬間僕の化身はパッと姿を消した。


気付くと黒い色をした海の上に移動している。


遅れてノブアキが到着。


(あれ、西村さん大丈夫かな。それに敵の姿もない。)


すかさず化身の体が宙を浮くようにイメージする。

毎日やってたおかげですぐできた。


(実はまだむこうはついてない。お前も気付いてるだろうが、あいつらはオレがいる所にやってくる。だから被害をさけるために待ち伏せしたってわけだ。)


僕はリオーンオくせになかなかやるな、と少しだけ思った。


ナナシマン一号が遅れてやってくる。

西村さんも慣れない感じで空中を浮く作業に入った。


不気味な暗闇の中からは波の音が聞こえる。


僕が相手がどんなやうが想像しながら待っていると、そいつはきた。


容姿は周りが暗さと霧のせいで、よく見えない。

だが人形であるのは確かだ。


その時、


「いっけー!」


西村さんだ。


あっちゃー、こりゃかなり興奮してるな…。


ナナシマン一号は糸も簡単に片手ではじきとんでしまった。


「いったーい!」

「西村さん!」


僕は感情的になりそうだったが、踏みとどまる。


「ノブアキ、ここは勝手なことはせずチームワークを大事にして行こう。」


ナナシマン二号はこくっと頷いた。


シーンとした空気。


相手に動く気配はない。


僕は事前に右手にライフルを意識させて、ジャキンと構えた。

ノブアキはユニークな事に鉄球に鎖がついたあれを選択したようだ。


僕はゆっくりと相手に的をしぼった。


そしてゆっくりと引き金をひく。


その音が静寂を打ち破り、激戦のはじまりとなった。

敵は瞬きも許さぬ速度でそれをよけた。


僕が見渡すと、


「ノ、ノブアキうしろっ!」


ノブユキは振り落とされるやつの手だか何だかを危うくかわす。


「な、なんだコイツ!」


(だめだ、取り乱している…。)


「ノブユキーおちつけー!」


聞く耳ももたずナナシマン一号はブンブンと鉄球のかたまりにふりまわしている!


水しぶきが足下で舞っている。


ふと二号の方をみると、どうやら波の上で気絶しているようだった。


予想どうりノブユキは反撃をくらってふきとんでしまう。


その時僕は目を疑った。


確かに今やつは手から波動のようなエネルギー砲を放っていた。


そんな事できるもんなのか?


(おちつけよユウヤ。ちなみにこいつは海王星ね。)


うるさいな、んな事はどうでもいいんだ。


だけど僕の手も巨人の手も、ブルブルと震えていた。


素早くライフルを構え、再び敵に発射した。


今度は手応えがあった。

敵はぬぼーっと立ったままである。


「よっしゃ!」


だが違った。

四方に同じ奴が立っていて、囲まれていたのだ!


「リオーン、どうしよう!」


(知るか、自分で考えろ。)


そんな…。


僕は脳裏に一瞬で作戦の数々を展開した。


やつは時間などくれずに迫ってくる!


とっさに一つの作戦を選択した。


四体の分身は僕がいたところえ不思議そうにかたまっている。


そう、巨人の体は透明になっていたのだ。


(はは、バカだなぁ。ざまーみろ。)


離れたところから背中めがけて引き金をひく。


狙いどうり命中すると他の三体の姿がスッと消えた。


本物はくびすを返してそそくさと逃げ出す。


(ははは、誰が逃がすか。)


僕もあとを走っておい、少し追いついた所でもう一発ぶちこんだ。


敵はその場にドシャッとくずれおちた。


この感覚、この感覚、この感じぃぃぃぃぃぃぃい!!


僕はこの瞬間、僕の存在は化身にのることによって証明されている、そんな気がしたのだった。


かたがつく頃にはもう日がのぼりはじめていて、徐々に僕らを照らしつけてくる。


僕は近寄ってそいつの顔をみてギョッとした。


一つ目だった。


今回もまいど同じシチュエーションで、光り輝く光の粒がそいつの体を優しくなでてゆく。


赤く燃える陽の光と共に、そいつは消えていった。


楽しい夏休みは終わり、僕は学校という現実に戻される。


僕は学校の帰り、とある病院に向かっていた。


「あ、ユウちゃん!」


2つのベッドに並んでノブアキと西村さんが横になっていた。


僕は花束とフルーツの差し入れを手渡す。


「それじゃ。」


僕は病院をあとにした。

2人とも骨折だけですんだが、もう3人で戦うという話はなくなった。


それから僕は平凡な生活を送った。


地球を救うヒーローとは思えない平凡な生活を。


やがてマスコミどもがぼくの家にくるようになった。


いつかはくると思ってたけど。


この前の海王星とフォークのやつの戦いだけは誰にも知られていなかった。


理由はこうだろう。


一回目も二回目の時も僕の近くに現れている。

白っぽいやつが現れた直後に引っ越している。


家で変身したせいで僕の家だけポツンと壊れている。


極めつけは変人が家にいる事。


ある日家に帰ると取材陣が門のおしかけていた。


「ねぇねぇきみぃ、ちょっといいかなぁ。」

「本当に巨人のパイロットなの?」


僕はなにもいわず知らんぷりで家の中に逃げ込んだ。


ちょっぴりもてはやされて、いい気分でもあった。


パソコンを開いて僕の名前を検索してみる。


そこにはビッシリと巨人関連のページがヒットしてきた。


うっほー、僕有名人じゃん。


だけど肯定派の意見ばかりじゃなく、悪く言う人もたくさんいた。


といううよりはその方が多いんじゃ?というぐらい。


「オレがパイロットした方がマシw」

「いかにもいじめられてそうだな。」


顔写真も流出していまっている。


僕はショックで布団にもぐりこんだ。


なんだこの扱い…。仮にも僕はヒーローなんだぞ。


ヒーローなんだ、ヒーロ…。


僕はいつの間にか眠りについていた。


その夜電話があった。


「私ねー、もうすぐ退院できるんだぁ。うれしい?あとねぇ、ほんとロボット楽しかった!

ノブアキくんももうすぐ退院できるって。私はいつも看護婦さんが用意してくれたパソコンでアニメみたりしてる。暇があればいつもトレーニング…。」


というような事を延々と聞かされた。


だけど最後、


「テレビとかネットとかで騒がれて大変だろうけど頑張ってね。」


僕は涙しながら電話をきったのだった。


―それからまた化身があらわれるのにあまり時間はかからなかった。


前回と同じく深夜、森で変身をして、敵をまつ。

即座にそいつは姿を現した。


そいつの体は全部メラメラと燃える炎で覆われていた。


敵はいっこうに動かない。


するとそいつが口を開く。


「おぉ、懐かしい旧友よ。どうか苦しまずに私をいかしてくれないか。」


(きゅ、旧友?どうゆうこと?)


(あいつは火星の化身、フレアマン。オレとは仲がよかったんだ。お前の手でやってくれ、たのむ。)


僕は嫌な気分だったけど水星ソードをイメージし、形にした。


僕は彼にそっと近づく。


フレアマンは淀みなき目で僕はみていた。


僕はスパッと彼の首を切り落としたのだった。


太陽が昇らなくなった。


いや、昇らなくなったというより光らなくなった。


リオーンは


「いよいよ太陽がダークプラネットに浸食されししまった。」


と言っていた。


おかげで人々は昼も夜もまっくらな中で暮らさないといけなくなった訳だ。


それはさておき、あれからというもの僕はずっと考えていた。

ヒーローとは何なんだろう、と。


最近白いひょろひょろとした奴のもだえ苦しむ顔、フレアマンの瞳が頭にフラッシュバックする。


ある日、リオーンに家でゆっくりしてる時に聞いてみた。


「ねぇ、不思議に思ったんだけど光りながら消えてゆくやつらってどこに行くの?」


「魂が浄化されて元にもどるだけさ、死にゃしない。」


と言っていた。


本当のヒーローはもっときれいでかっこいいものとばかり思っていた。


だがどうだ。


地球に襲来する敵の首をしめたり、


グチャグチャにしたり背後からうちぬいたり、


ネットで陰口を言われるのがヒーローといえるだろうか?


巨大にロボットにのって恍惚にひたるヒーローなんて…。


火星のやつの件もあって浮かれいたせいか、僕は毎日のトレーニングもサボり気味になった。


不良どもと夜中に町を徘徊してまわる毎日。

弱そうな奴から金をせびりとったり、喧嘩にあけくれた。


おばあちゃん達はいいかげんそういう連中と付き合うのはやめなさいと言った。


だけど僕はやめなかった。


そんな荒れた生活が続いたけど、最後の一匹は現れなかった。

だんだんとマスコミたちも去っていき、きづくと中3になっていた。


オレはつくづくこう思うようになる。


もう一度あいつにのりたい、あれこそが僕の価値をしるしてくれるんだ!


と。


そしてやっと、やっと現れたのは夏休みが始まった直後だった。


部屋に響くズシンというう音オレは夜中に目が覚める。


「へへ、またせやがって…。」


オレは半ばリオーンをひっぱる形で森の中に入っていった。


「ユウヤ、最近全然トレーニングしてなかったけど大丈夫か?」


「へいへい分かってますよ。それじゃいくぜ、変身!」


ピカっと閃光が弾ける!


オレはグルグルとタイムスリップするかのように光の渦の中をただよっていた!


渦の中にはリオーンもいた。


(や、やばい、このままじゃ変身が失敗する!)


瞬時にオレはそう悟って、必死にリオーンの方に手をのばす。


やがて目も開けられないほど視界は白くなり、ギリギリのところでオレはリオーンの手をつかんだ!


目を開けるとそこは森ではなかった。


周りは田舎とは違いビルや建物がびっしりと隙間なく生えている。


(お、変身成功してる…。ふぅとにかく生きてて良かった。)


ハッ、とすぐに周辺を警戒する。


やはりいた。


そいつは全身金色で人型。

ただ異様にムキムキだった。


(ふっふっふっ、まっていたよ。)


(!?こいつ心の中にっ…。)


そいつは心の中に直接話して来た。


(そうだ、私はうるさいのは嫌いでな。この町の連中に騒がれてはかなわん。


それより、私が話したいのはお前じゃなくそこにいるもう一人…。


いるんだろ?水星の化身さん。)


(久しいな、水星の化身。ところでなぜあんな事をした?それにここはどこだ。)


心の中でのコンタクトはまだつづく。


(フ、変身自体を失敗させれば戦わなくても死んでくれるかと思ってな。東京、この国で一番にぎやかな所だ。

 

だがにぎやかな所なら外国にいけばたくさんある。


なぜ私がここを選んだか分かるか?)


(…。)


(それは私がSだからだ。人々が泣き叫び逃げ惑う姿が私は大好きなのだよ。

それを出来るだけ派手にお前達の国でやってやろうということだ!)


そのとたんにムキムキ野郎は全速力で大都会東京を走り出した。


(コ、コイツ正気か!?)


(さぁどうだ、この私をとめられるか!ハーハッハ。)


(ユウヤ!)

(いわれなくてもっ。)


オレもやつを止めるべく走り出した。


だが途中で追いつかないとみて、海で戦った時覚えた事を見ようみまねでやってみる。


ダメもとで手から出されたエネルギー砲は、軌道がずれてしまって当たらなかった。


(くそっ、どこまで行くつもりだよっ!)


もうやつの姿はみえない。


(逃がしたか!?)


と途方にくれてると追っていた方とは反対側の方からやつがきた。


(フハハハハ!かるーく一周してしまったよ。)


(この野郎!)


オレはカッとなって殴り掛かる。

やつは軽く足払いをし、オレはズドンと倒れた。


「なめやがっ…。」


金星はオレの上にまたがり、そして笑いながらたこ殴りしてきた。

金星の顔は恐いほど満面の笑みだった。


まっくらの世界でも鼻血がとめどなく溢れ出て、意識が遠ざかってゆく。


頭の中にいや、心の中に反響しつつ声が遠ざかってゆく。


(…て!ユウヤ立て!)


オレは根性でやつをはじきとばす。


すぐさま立ち上がり、水星ソードをつくりだそうとするが…。


ん?でない、ダメだ…集中力が。ダメだつくれねぇ!

こんなことならちゃんとトレーニングしとくんだった。


オレは目を閉じながら、ゆっくりと後ろに倒れていゆくのが分かる。


半開きの視界にうつったのは、薄気味悪く笑うあいつの顔だった。


オレは自分の部屋のベッドで寝ていた。


夢だったのか?

もういっそ全てが夢だったらいいのにとさえ思った。


いや、夢じゃない確かに殴られた感覚が…。


横には西村さんがいた。


「あ!おきた。」


おばあちゃんによると西村さんがずっと看病してくれてたらとのこと。

幸いにも傷は鼻の骨が折れる程度ですんだ。


まてよ、オレが生きてるってことは…勝ったのか?


その翌日にでも六人で集合して緊急会議を開いた。


六人というのはオレとリオーン、西村さんとノブアキ、そしてなぜかナナシマン一号とナナシマン二号までもがきていたからだ。


理由をきくと暇だったから、と答えた。


「みんな知ってるだろうが、やっとこないだ六人目を倒した。」


何故かオーッと巻き起こる拍手。


「6人目!?あの金色ドS変態野郎を倒したのか?」


リオーンの話では緊急システムというのを使って、オレのかわりにリオーン戦ったらしい。


リオーンはいつも胸のあたりにあるモニター室みたいなところにいて、緊急システムはパートナーがもし死んだりしたときのためにあるんだとか。


だけどエネルギーの消費量も多いそうだ。


オレは一番最初に白いやつと戦った時の、リオーンが息をきらしていた謎がとけた気がした。


とにかくオレはあの金星に勝ったと聞いてホッとした。


「これから近いうちに太陽と合体したダークプラネットが降り立つだろう。

あいてはこれまでとは桁違いの強さだ。だから皆はなにも手をださないで私とユウヤにまかせてほしい。」


皆、賛成してくれた。



西村さんもノブアキもとても心配してくれて、励ましの言葉をくれた。

皆は夕方になって解散したが、西村さんは家にとまって家にとまってゆくことになった。


リオーンには部屋には入るなと念を押しておくのを忘れない。


夜まで好きなアニメのことやらをいっぱり語りつくした。


そしていよいよ緊張の就寝時間。

2人で一つのベッドに入って肩を並べて目をつむる。


聞こえるのはかすかな寝息と時計の音。


西村さんのあったかさが肩を流れて伝わってくる。


本当にこれだけで幸せ


と、いう訳にもいかなかった。


「西村さん…おっぱい触ってもいい?」


「いいよ。」


ときたのでオレは震える手でほっこりふくらんだ小さな胸に手を置いた。


最初は置いてるだけだったけどもう我慢出来ない!


もみしだく。


勢いよく、もみしだく。

オレはあそこをはちきれんばかりにギンギンさせながら、激しくもんだ。


「いたっ!」


西村さんがそう叫んだのでオレはもむのをやめた。


うとうとと、オレは胸に手を置いたままねむっていった…。


―夏休みも中盤。


オレは今までの穴を埋めるかのごとく毎日イメージトレーニングをみっちり行った。


あの戦いを機にオレは反省した。


そして決めた。


自分なりのヒーローをつらぬいて地球を守る、と。


それ以外は前となんら変わらない。


できるだけ西村さんと過ごして、夏祭りに一緒に行く、不良達とゲームをする、あの六人で花火もした。


あっというまにいとおしい時間はすぎ、そして夏休みの最後の日にそいつはやってきた。


窓から森の方をのぞくと、今までみたこともないような美しい光を放つ何かがいた。


オレとリオーンはおばあちゃん達に気付かれぬようにそこへ向かう。

そこでオレらがみたもの、それはまさに太陽そのものだった。


灼熱でゆらめく炎の渦を体に巻き付けた、一つの玉だけがそこにはあった。





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