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私の料理は“普通”の人が食べたらそこまで美味しくない。
それは分かっているけれど、どうしてもこういう料理が止められない。
「食べられそうですか?」
「たぶん・・・。」
中田部長が頷き、両手を合わせてから来客用のお箸でゆっくりと食べ始める。
それを見ながら念の為、スマホを握り締めた・・・。
無言でゆっくりと食べる中田部長を見てから、忘れていた飲み物・・・ミネラルウォーターをコップに入れて出した。
それからは、中田部長の真正面に座り・・・
時間を掛けて食べる中田部長の姿をよく観察しながら、私はスマホを握り締めていた・・・。
「ご馳走さまでした・・・。」
「はい・・・。」
中田部長がご飯を食べ終わってから、また2人で無言になる・・・。
食器を片付けるでもなく、私は中田部長の姿を真正面から見て・・・中田部長も私を無言で見詰め続け・・・
お互い、見詰め合ったまま・・・
見詰め合い続けたまま・・・
30分が経過した。
時計を確認したら23時になろうとしている。
「そろそろ帰りますか?」
「もう少し・・・。」
「そうですか・・・。」
なんだか気まずい雰囲気の中、食器を片付ける。
スマホはエプロンのポケットに入れたまま、食器洗いをしながらも何度か中田部長の姿を確認した。
中田部長は真正面を向いたまま動かず大人しく座っている。
食器洗いが終わった後、ゆっくりと中田部長の目の前にまた戻った。
しばらくすると、中田部長の表情が少し穏やかになり・・・
「ご飯、ありがとう。」
「いえ・・・。」
それで、また無言になったかと思ったら・・・
中田部長が甘く整った顔で、真面目な顔をして、私を見詰め・・・
口を開いたかと思ったら・・・
「俺と、結婚してください。」
と・・・。
「け・・・結婚ですか?」
「うん。」
「突然、結婚ですか?」
「うん。」
「付き合う前の段階も、付き合う工程も全て飛ばして、結婚ですか・・・?」
「うん。」
突然出てきた“結婚”に驚いているけど、念のため確認していく。
「結婚を前提に、という意味ですか・・・?」
「そうじゃない、結婚したい。」
「いつまでになどの期限は・・・?」
「明日にでも。」
そんな子どもみたいな発言に戸惑う。
「どうして、そんなに急いで結婚を・・・?」
「急いでるわけじゃない。」
「じゃあ、どうしてですか・・・?」
その質問には中田部長は口を閉じた。
口を閉じたかと思ったら、甘い顔を苦しそうな顔にして私を見ている。
「俺は・・・」
そう呟いた後・・・
中田部長は黙ってしまって・・・
何も言わなくなってしまった・・・。
中田部長が何も言わないので私もどうしていいのか、他に何を聞けばいいのか分からず・・・。
結婚も、そんなに急に出来ないし・・・。
ちゃんと、付き合ってから・・・。
ちゃんと、好きな人と・・・。
ちゃんと、好きな人と・・・
そう思ったので、念の為、確認をする。
「中田部長って・・・私のこと、好きなんですか・・・?」
「うん・・・。」
「それは・・・それは・・・恋愛としてですか?」
「うん・・・。」
「恋愛としてっていうの、分かっていますか・・・?
女としてっていうことですけど・・・。」
「うん・・・。」
全てアッサリ答えられ、戸惑う・・・。
だって、いつから?
いつから・・・?
約1年半も仕事だけの関係だったから、この1ヶ月で?
何のキッカケも思い付かない・・・。
ある日突然、次に会った時には“瑠美たん”と呼んで、あんな感じになったから。
「瑠美たんは・・・」
“瑠美たん”という呼び方のことを考えていたら、中田部長からそう呼ばれ・・・
「俺のこと、男として見れない・・・?」
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