2
そして月曜日、お昼休みから戻りエレベーターに乗っていると・・・
「瑠美たん、お疲れ!!」
「中田部長、お疲れ様です。
今日は本社ですか?」
「副社長と打ち合わせなんだよね。」
中田部長がそれはもう甘い顔で笑いかけてくる。
それに苦笑いをしながら、チラチラと視線を感じるエレベーターの中で2人で並んで立っている。
「瑠美たん、今日定時?
ご飯食べに行こうよ!!」
「中田部長、“瑠美たん”止めていただけますか?」
「じゃあ、瑠美?」
「それはそれで困ります。
“伊藤さん”で。」
そんな会話をしつつ、エレベーターを2人で降りる・・・
2人で、降りる・・・。
「副社長室、まだ上ですよね?」
「・・・やべっ!!!」
そんな中田部長に笑いながら、もう1つ大切なことを言っておく。
「中田部長、今日は月曜日なので23時までの勤務ですよね?」
「そうだった・・・!!」
凄く残念そうな顔を見ながらもまた自然と笑ってしまう。
「行ってらっしゃい。」
それだけ言って、階段の方へ少しだけ中田部長の背中を押した。
そんなことをした後の女子トイレの中・・・
「伊藤さん、一成君と仲良いの?」
個室から出たらさっきのエレベーターに乗っていた女の人がいたので、聞かれると覚悟をしたら予想通り聞かれた。
「そんなことはないはずなので・・・ちょっと、戸惑っています。」
「伊藤さんそういうの免疫なさそうよね。」
「ああいう時、どうすればいいですか?
見て分かる通り、私はそういう関係はサッパリでして・・・。」
別の部署だけど、美人な人で・・・。
秘書課で1番美人な人で仕事もよく出来る。
ここは素直に教えてもらうに限る。
「別に良いんじゃない?
伊藤さんが良いなと思えば付き合えば。」
「え!?そんな感じですか!?」
「他に何があるの?」
「中田部長は私が好きということではないかと・・・思っていて。」
「さっきあんなに凄かったじゃない。
瑠美たんって何よ?」
それにはまた苦笑いをしてしまう。
「1ヶ月くらい前から急にそう呼び出して・・・。
それまでは“伊藤さん”って呼んでいて、約1年半・・・。
なのに急に、なんのキッカケもなく急にあんな感じになったんです。」
「一成君なりにキッカケがあったんじゃないの?」
秘書課の人が口紅をキレイに塗りながら言ってくる。
「そうなんですかね・・・。
そう・・・なのかな~・・・。」
「新卒の女の子とか2年目3年目の女の子から凄い人気だから、早めに掴まえときなさいよ。」
「私がですか!?
そういう子達ではなく、私が!?」
「両思いだったら、そんなの関係ないわよ。」
秘書課の美人な女の人からの教えは、こんな内容だった・・・。
それから、数日後・・・
「伊藤さん、合コン行かない?」
あんな教えをしてくれた秘書課の美人さんが、定時ピッタリに法務部の部屋へ来てそう言った。
固まっている私のデスクまで向かってきて、キレイに塗られた口紅がついた口を開いた。
「急ぎの仕事あるの?」
「いえ・・・。」
「じゃあ、行くわよ!
1人キャンセルが出ちゃって今まで粘ったけど誰も掴まらなかった!!」
急いで片付けをさせられ法務部長や他の人達に挨拶をすると、法務部長だけが珍しく少しだけ笑っていた。
合コンの前、秘書課の美人さんからの教えはこうだった。
“私にはもう時間が残されていないから、伊藤さんのことは気にしない”
“1人でどうにかしなさい”
“最悪、座っているだけでいいから”
そう、教えられていた。
その言葉の通り、秘書課の美人さんは私のことは気持ちが良いくらい無視をしていた。
なので、前半は1人でどうにかした。
そして、最後の教えの通り・・・
私以外盛り上がる人達を端の席から眺め、少しだけお酒をまた口にする。
後半は一言も喋ることなく、喋り掛けられることもなく、ただ座っているだけだった。
そんな感じで、人生初めての合コンは終わった。
二次会に行くみんなに挨拶をして、私は1人で一人暮らしの部屋に帰っていく。
金曜日の夜、いつもより遅い電車に揺られ窓から見える夜の景色を眺めた。
あんな風になるだろうなと想像はついていたので、そこはダメージがないけれど・・・。
私は今年26歳で恋愛経験がない。
今年・・・私は26歳になる。
今年も1歳年を取る・・・・。
12月3日の誕生日で、私は26歳になる。
あと2ヶ月弱で、私は26歳になる。
いつからか誕生日が来ることが嬉しくなくなった。
誕生日なんて、誰が考えたんだろう。
昔は嬉しかった誕生日も今では何も嬉しくない。
何も嬉しくない・・・。
何も、何も、嬉しくない・・・。
そんなことを思いながら、電車のつり革に掴まっていると・・・
スーツのジャケットの腕の所をクイッと引っ張られた。
驚き、振り向くと・・・
「中田部長・・・。」
中田部長が、いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます