第3話 毒消し草

 彼は串刺しにした魔物の首が動かなくなるのを確認してから、両方の剣を引き抜いて血のりを飛ばすために数回振った。そうして背中にある二つの鞘に、目線を移動することも無く見事に収納して見せた。


「少年、危ないところだったな。丁度私が通りがかって良かった」

男は蓮に向かってそう言った。頭髪は金髪で、どう見ても日本人の面持ちではない。しかし何を話しているのかは蓮には完璧に理解することができた。それは日本語にしか聞こえなかった。


突然の出来事の連続で、どうしていいのかが直ちには分からなかったが、助けてもらったようなのでここはお礼をいうべきだろうなとの考えに至った。

「助けていただいて、ありがとうございます」

そう頭を下げた蓮に向かって男が言う。

「しかし少年、君は妙ないで立ちをしているな? どこか他の国のものなのだろうか?」


蓮は自分の姿を確認してみた。下はユニクロのジーンズでスニーカーを履いている。上は少しサイズの大き目な長袖Tシャツを着ている。男の話す言葉は確かに日本語の様に聞こえたが、どうもこの世界にユニクロはなさそうだ。塾帰りだったので背中に参考書や問題集、筆記用具などが入ったカバンを背負っていることにこの時初めて気が付いた。


男が着ている鎧はハリウッド映画に出てくるようなデザインで、街中で着ていればコスプレでない限りは違和感ありありだが、この森の中で魔物のなきがらの前に立っていると妙に馴染んでいた。


蓮は迷っていた、自分がこの世界に転移してきたことはもうなんとなく分かってはいる。しかしこの世界の事情も全く知らない現在、ここで転移者であることを告げる事は果たして得策なのかどうか……。しかしこのままこの森に放置されれば、またいつ先ほどのような魔物に襲われるか分からない。見たところこの男はなかなかの腕っぷしがありそうだ。他に人間のいる場所……できれば町などに連れて行ってもらった方が良さそうだ。ここは先ほどの男からの質問に乗っかることにした。


「ええ、やや遠方から来たんですが親ともはぐれて森の中で迷ってしまいました」

そう言いながら背中のカバンを指さした。なんとなくカバンを背負っていると旅の人という感じがするかと思っての事だ。


「おお、それは気の毒に……この森を通るという事は多分ご両親は王都にむかっていたのだろう。私も用向きが終われば王都に戻るので送って行ってあげよう。少々お待ちいただけるかな」

男はそう言って森の奥の方へと歩いていく。


蓮は一人置いていかれても困るのでそのあとを追う。しばらく行くと湧水が出ている場所に辿り着いた。その湧水でできた小さな水溜りの横に、見たことのない草が花を携えて群生していた。


「この森にはこの毒消し草を摘みに来たんだよ。君の国ではどうか分からないがこの草はここらでは貴重でね。私はこの場所しか生えているところを知らない」

そう言ってから男はその毒消し草を摘むかと思えば、そのままその植物の前で腕を組んでしばし考え込んでいる。


「どうかされたんですか?」

そう聞いた蓮に男は答える。

「この草は貴重なので、必要な分だけ採取して後は残しておきたいのだが、どれぐらい摘んでいいものかを考えていた」


「それはどのように使うものなんですか?」

 蓮は聞いて見た。

「先のヒュドラとの戦いで、結構な兵が毒でやられてしまってね。一株で3人分の毒消しにはなるんだが、やられた兵の数が結構多かったから摘む量が難しい」


「毒にやられた兵士は何人ぐらいなんですか?」

蓮は再び質問する。

「26人だ」

男はそう言ってから、指を折りながら3人、6人、9人と足し算を始めた。

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