第2話 双頭の魔物
蓮がこの世界に飛ばされてきてからもう一ヶ月が経とうとしていた。彼が最初にこの世界に降り立った場所は深い森の中だった。一体だれが何のために自分をこの世界に転移させたのかは分からないが、どうせならもっと人が多いか、見晴らしの効く場所にして欲しかったと今でも思う。彼は特段植物に詳しいというわけではないので、森の中だと最初異世界に転移した事にも気付きはしなかった。
ただすぐにここは元居た自分の世界ではないという事は分かった。そう、転移して間もなく魔物と遭遇したからだ。初めて見るこの世界の魔物はオオカミに似た姿をしていた。前にいた世界でオオカミを見た記憶は無いので、イメージが重なっただけという感じだが、犬にしては毛が逆立っていて大きな牙が口から飛び出していた。オオカミを漫画や写真では見たことがあるので、きっとそんなに間違ってはいないはずだ。いや、オオカミだと牙は口から出ていなかったかもしれない。
しかしそんな細かい話はどうでもいいというぐらい、自分のイメージしていたオオカミとは違うところもあった。首が二本あるのだ。しかも体がはるかに大きい。自分の背丈以上あるどころか、それは大型のダンプカー並みの大きさだった。
『あ、これは死ぬな』と一緒の内に悟ってしまったので、焦る事も恐怖に震えることも忘れてしまっていた。ここで殺されて終わりなら転移なんかさせるなよと心の内で叫んだが、文句を言う相手もまわりにはいそうに無かった。
どうせ逃げたところで逃げ切れるようにも思えなかったので、動くことはしなかった。人は死ぬ前に自分の歩んできた人生を走馬燈のように見ると聞いたことがある。しかし、走馬燈ってなんだろうとその時に思った。こんなことなら疑問を持ってすぐに『走馬燈』の意味を調べておけばよかった。とにかく死ぬ直前にそこまでの人生を思い出すのだろう。
そう言えばここに来る前に自分はどこにいたのだろうか? 記憶は曖昧だが塾の帰りだったような気がする。蓮は小学六年生で、中学受験のために塾に通っていた。ただ父親がその方がいいと言うからそんな気になっていただけで、正直自分としては別に公立中学校に行ってもいいと思っていた。その方が小学校の同級生とも、ある程度は一緒の学校に通うことができるからだ。
いや、もうそんな事はどうでもいいかと思い直した。
逃げようともせずその場を動かない蓮に、その双頭の大きなオオカミに似たな魔物はじりじりと近づいてきた、そうして突然に飛びかかってきた。流石にそうなると反射的に蓮は手を前に掲げて目を瞑ってしまった。
……何秒経っただろうか、すでに死んでいるはずだった蓮は恐る恐る目を開いた。
目が開くという事はまだ生きているという事だ。開いた目の前には魔物の胴体があった。しかしその両首は無く、首の付け根にあたる切り口からは血が噴き出ていた。切り落とされた二つの首は地面に転がり、まだ大きく動いている。
その両首を、上から更に両腕に持つ二本の剣で地面に串刺しにする一人の男の姿がそこにはあった。魔物は首だけでも蓮の背丈よりも大きかった。それを上から串刺しできる程にその人物の体も大きかった。彼は白銀色の鎧を身にまとっていた。
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