8話 緑の聖剣

「あ、あなたたちは一体…?」


 一人の少女がこちらを見ている。銀色の長い髪に、赤いメッシュが入っている。背は女性としては普通くらいだろう。年齢は十代後半と見られる。服装も至って普通だが、腰に剣を差している。


「名乗るほどの者じゃあないさ。」


「カッコつけんな!」


 カツヒロが兄にツッコむ。


「どうかしましたか?」


 ハルキは冷静に尋ねる。


「いえ、少し驚いただけです…。魔法が使えるんですね?」


 少女は言った。


「いーや、違うで。これはイトコパワー!」


 タクヤが自慢そうに言う。一瞬、少女の眼差しが鋭くなり、また元に戻った。


「おい、イトコパワーなんて言っても通じないだろ。もうちょっとあ~た~ま~を、使え。」


「え~、だって…。」


 たしなめられて不服そうなタクヤを傍らに、ハルキは続けて質問する。


「その剣、あなたは一体…?」


「あ、これは…。少し探し物をしていて…。護身用として渡されたんです。」


「探し物ってなーに?」


 相変わらず割り込んで来るのはタクヤだ。


「それは…。」


 少女はポケットから地図を出すと、それを広げて見せた。大陸内部の地図だ。森林地帯の中に、一つバツ印がついている。


「それは、聖剣の地図じゃないのか?」


 突然、驚いたような顔でメガネくるくる博士が言った。


「これは、緑聖剣…。」


 メガネくるくる博士はじっくりと地図を眺めている。


「聖剣って、何ですか?」


 タイキが尋ねる。


「話すと長くなるぞ。まず…」


 メガネくるくる博士は長い話を始めた。あまりにも長かった為、ここでは少し省略して簡潔にまとめておく。


・この世界には、6本の聖剣がある。

・聖剣を使えば強大な力を手に入れられる。

・そして、6本の聖剣を集めた者は、世界を支配する程の力を手に入れる。


 話終わると、メガネくるくる博士は眼鏡を取り外してハンカチで拭いた。


「そのうちの一本が、ここにある…?」


「そうじゃ。じゃが、聖剣には守り主という、強い神獣がついている。それらに勝利し、認めてもらえなければ聖剣を手に入れることは出来ない。」


「じゃあ、あなたは聖剣を手に入れようとして、ここに来た、そういうこと?」


 タイキが少女に尋ねた。彼女は軽く頷いた。


「でも、何の為に…?」


 ハルキが尋ねようとしたが、少女はそれを無視していた。


「俺達も手伝いましょうか?」


 タイキは言った。すると突然少女の顔がパッと明るくなった。


「ぜひ、お願いします!あなたたちのような味方がいれば心強いです!」


「俺達も丁度暇だったから、いいよな、みんな?」


 ハルキ、カツヒロ、タクヤも頷いた。


「ワシはこの港で食料を買ってくる。気を付けるんじゃぞ。」


「分かりました。それじゃあまた。」


 四人は少女と共に、内陸の森林地帯へと向かっていった。


  ○ ○ ○


 少女の名前はルカというらしい。年齢は偶然にもタイキと同じ。ただ自分の事についてはそれ以上話さなかった。一方四人は、自分たちが幹部Aという怪人によって全てを奪われ、イトコ神から力を与えられたことを語った。


「それで、あんな力を使えたんですね?」


 ルカは納得したように言った。


 聖剣がある場所は、港からは意外と近く、二時間ほどで行けた。山脈の中でも一際大きな山があり、そこに聖剣はあるという。地元の人たちからは神聖な山とされていて、山に登ろうとする人はほぼいない。五人は近くの村の人たちに話を聞いて、山に登り始めた。しばらく山道を歩いていると、突然黒い影が集団で五人を取り囲んだ。


「お前たち、一体何しに来た。」


 目の前に、忍者のような恰好をした人が姿を現した。


「聖剣を取りに…。」


「何?それは通すわけにはいかない。引き返せ!」


「分かったよ、じゃあね~。」


 素直に帰ろうとするタクヤの首をハルキは掴む。


「おい、ここは戦うシーンだろ!ちゃんとやれ!」


「わかったよ~。おりゃぁぁぁ!」


 突然暴風が荒れ狂い、木々は揺れ、忍者たちは吹き飛ばされた。


「ほらみんな、行くよ!」


 タクヤは戦闘シーンを一行で終わらせ、山を駆け上って行った。


「ったく、あいつ強いじゃねえか。なんで帰ろうとしたんだよ。」


 四人はタクヤを追いかけ、山を登って行った。

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