7話 旅の夜明け
「どこへ向かっているんですか?」
ハルキがメガネくるくる博士に尋ねた。船は島を出て、朝日を反射してキラキラと金色に輝いた海を進んでいる。
「とりあえずは大陸で食料を買うつもりじゃ。次に何をするかはお前たちが決めなさい。」
「は、はい…。」
自分たちで決めろと言われても、どうすればいいのか全く分からない。ハルキはため息をついた。他の三人はまだぐっすり寝ている。ハルキは早起きなのだ。
「それにしても、この船凄いですね。」
ハルキは甲板から船全体を見回して言った。改めて見るとやはり大きい。前から後ろまでは十メートル以上はあるだろう。天に向かって突き出した柱に、大きな帆が張られている。甲板の下は二階建てになっていて、二階部分に生活空間、一番下が倉庫になっている。
「そうじゃろう?昔愛用していた物を修理、改良を重ねたんじゃ。見た目は古風じゃが、最新式の技術をあちこちにつかっておる。帆を畳んでもエンジンで動くから、自由に動けるんじゃ。そしてこっちが…。」
流石博士、話し始めたら止まらない。だがハルキは発明好きだ。熱心に聞き入っている。
○ ○ ○
「よっしゃ、着いたぜ!」
カツヒロが両手を高く上げてバンザイのポーズをとる。
「うう、吐きそう…。」
タクヤは船酔いでフラフラしている。温暖な大陸の港町は、たくさんの人と品物で賑わっていた。
「ここは翡翠港。昔から栄えて来た歴史ある港町じゃ。」
「翡翠港、前に何度か来た事あるな。たしか、あっちの肉まん屋がうまいんだぜ。」
タイキが指さした露店からは、長蛇の列が伸びていた。ガックリとした様子で四人は辺りを見回した。しかし今日は一段と人が多い様で、どの店も混んでいる。
「これじゃあまともに朝食も食べられないな…。」
ハルキはしょんぼりした様子だ。
「そんなことだろうと思って、朝食は用意しておいたぞ。ほれ。」
メガネくるくる博士は、小さな鞄からおにぎりを人数分取り出した。
「それなら早く言ってくれよ、腹が減りすぎて死にそうだ。」
ハルキに続いて皆おにぎりにかぶりついた。その時だ。遠くの方で一段と大きな騒ぎ声が聞こえた。近くにいた人たちも皆、音の方を向いている。
「何だコラ、俺様に逆らう気か?」
「そっちこそ、喧嘩売ってんのかオラ?」
群衆に囲まれ、二人のいかつい男がにらみ合っている。
「やる気かテメェ?」
「手加減はしねぇからな。」
「ちょっとそこのお二人さん、喧嘩しちゃダメダメ、仲良くね~。」
突然タクヤが二人の大男の間に入り、無理矢理握手をさせようとした。
「おいタクヤ、何してるんだ!」
大男二人はタクヤを睨みつけた。
「あ、これ、マズいやつ…?うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
タクヤは宙に投げ飛ばされ、数メートル吹っ飛んだ。
「さあ、喧嘩の続きだ。かかって来い。」
「オラァァ!」
男たちは街中で殴り合いを始めた。しばらくの間、戦いは互角だったが、段々一人が劣勢になって来た。フラフラした所に顔面を一発殴られ、片方が倒れた。
「へッ、勝負ありだな。」
「まだだ、もう許さねぇぞ。オラァァ!」
突然負けた方の男の身体から黒い闇が放たれ、男は黒い怪人に変身した。
「うわぁ、ば、化け物!」
もう片方の男は腰を抜かし、その場にへなへなと座り込んでしまった。
「何?人間が怪人に…?」
想定外のことに四人は驚いた。
「あれは、ダーク・ゴッドに魂を売った人間だ。ダーク・ゴッドに服従する代わりに、闇エネルギーを与えられて人外の姿に変身するんじゃ。能力は個体によって様々じゃが、実態がある分、ダーク戦闘員の数倍の強さはあるじゃろう。」
メガネくるくる博士が説明した。とにかく、強い敵だということに変わりはない。
「中身は人間だけど、倒してもいいのか?」
タイキが尋ねる。
「ダーク・ゴッドに魂を売った悪人じゃ。更生して自分で戦いを放棄しない限り、犠牲は仕方ないじゃろう。」
「…そう、だな。」
言い聞かせるように、タイキは頷いた。
「何ゴチャゴチャ言ってんだ?死にたいのか?苦痛を与えてやるからとっとと闇エネルギーを生み出せ!」
怪人が向かってきた。行くぞ。四人は頷き合った。
まず、ハルキが水をかけた。
「カツヒロ、行け!」
「ああ、俺に任せとけ。」
バチバチバチッ、ドカーン!
カツヒロが雷を落とす。水にぬれた怪人は、感電のダメージをより強く受け、動きが止まった。
「こっからは俺らに任せろ。行くぞタクヤ!」
タイキが手から炎を出す。と同時にタクヤが風を巻き起こす。空気を取り入れた炎は渦を巻いて怪人を包み、焼き焦がす。
「アチチチチ、貴様ら、まさかイトコか…?」
「ご名答。さぁ覚悟しな、燃やし尽くしてやるよ。」
「お前、思ったより弱いな。もっとあ~た~ま~を、使え。」
「速攻でぶっ潰してやる、痺れるぜ!」
「えっと、えぇ、俺のおしりは割れている!」
「タクヤお前、なんでおしりなんだよ。ここはもっとかっこいい決め台詞を言うシーンだろ?」
「えー、だって思いつかなかったんやもん。」
四人は右足にそれぞれのパワーを纏い、怪人を取り囲んで構えた。
「行くぞ、イトコキック!」
適当な名前の必殺技で、四人は四方から取り囲むように飛び蹴りを食らわせた。逃げ場を失った怪人は、爆発した。闇エネルギーを取り込んだ者は、死ぬときに爆発するのだ。
「よし、勝った…。」
太陽が空からイトコたちを照らしていた。
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