第13話

予想外に扉が開いたことから体が硬直する。


東山は腹を括って突き飛ばし、逃走しようと駆け出す。

奇声を上げながら近づいてくる奴らもいたが、殴り飛ばした。

酒が抜けたことで思い通りに体が動いたのだ。

これなら突破できる。

若かりし頃の暴走族連合時代に匹敵する体の軽さだった。


出口付近に差し掛かったところで、ニヤニヤしながら仁王立ちをしている奴がいたので殴り飛ばそうと,パンチを繰り出した瞬間、ボディーを喰らって膝を付いてしまう。


後ろから来た関が、勢いをつけたままサイドキックをするも当たらなかった。

完全に見切られていた。


ニヤニヤしていた男は手の甲を向けてくる。

そこには「川崎国」のタトゥーだけではなく、青い龍も一緒に彫られていた。

「残念ながら逃げられないよ」と言いニヤついていた。


東山と関の動きが完全に止まってしまう。

その隙を見て、川崎国のメンバーたちが襲いかかってくる。


ニヤ付いた男は手を上げ制止させる。

「まあ、待てよ。キングが東山とやってみたいんだってさ~。関はエースと俺が貰うからさ。」


ニヤ付いた男は、ジャックと呼ばれていた。

恐らく、キングを筆頭にエースとジャックが幹部として君臨しているようだ。

その証拠にジャックが行動してからは誰も動いていない。


ジャックはメンバー達に説明をしていた。

キングが東山とやるのは、元暴走族連合の総長を狩ったという称号が欲しいからだ。

川崎国は地元ヤクザの下請けをしていて、そのヤクザや川崎の暴走族が、暴走族連合と揉めた過去があったのだ。

その抗争は手打ちとなってはいるが、気持ち的にくすぶっている奴らも多く、半殺しにすることで手柄を得る目的があった。


関は心の中で呟く。

こんな半グレ連中のダシに使われるなんてごめんだ。

特殊詐欺で奪った金もヤクザに流れてんだろ。

キングってのがどれだけ強いか知らないが、これ以上劣勢になるのは困る。

正直、ジャックも相当強い。

今、ジャックの肩に手をのせている奴はエースだろう。

同じくらい強いのなら、かなり厄介だ。

膝を付いている東山を見ると、目が合った。

闘志は失われていない。


東山は不思議な感覚に包まれていた。

アルコールが抜けたことで、モヤに包まれていた世界が一遍していた。

暴走族連合時代の感覚が徐々に戻ってくる。

脳が沸騰し、相手を仕留めることしか考えられない。


東山が一気に立ち上がり駆け出そうとした動きをみて、関も駆け出す。


その瞬間、ガチャっと音がした。

ゆっくりと扉が開く。

逆光で一瞬、誰なのか確認は取れなかったが、すぐに姿を確認することができた。

絶望感が込み上げてくる。

大柄な彼は、強者だけが持つオーラを身に纏っていたのだ。

周囲の空気が凍り付くような感覚になる。


周りを見ると、ジャックとエース以外は90度のお辞儀をしている。

間違いなくこいつがキングだ。


ゆっくりと周囲を睨みながら口を開く。

「こいつか、俺がやるから手を出すな」


メンバーたちは壁際まで後退し、直立不動となる。

そんな中でも、エールとジャックは不敵に微笑みながら自由に動いていた。


キングは、右手を胸元にあげ、東山に向かって掛かって来いとアピールしている。

それを見た東山が、大振りのフックを打ち込もうとするも、顔面にジャブを入れられ、右足をすくい上げるように蹴られ、派手に転倒する。


それでも、東山は立ち上げりジャブで牽制しながら、ストレートを繰り出そうとするも、前蹴りを喰らって吹き飛ぶ。


キングは東山を見ながら「狭山のタイソンってのは一発で泣いていたが、同じくら弱いな。ゆっくりで良いから立てよ。」


いくらアルコールが抜けたとは言っても、何十年も酒に浸かりこみ、運動なんで皆無な中年だ。

勝てっこない、それどころか、逃げる体力すら削ぎ取られる。

関はどうにか突破口を開こうと考えるが、一筋の光明すら刺さない。

これ以上、東山が攻撃を喰らえば終わりだ。

どうにてもなれという思いで、キングに向かって行こうと動こうとした瞬間、ジャックとエースが、キングとの間に入ってきた。


クソと、心の中で呟き、一気に距離を詰め、ローキックを入れるも防がれ、もう1人が殴りつけてくる。

骨に来る痛みを感じる。

よく見ると、手にはメリケンをしていた。

卑怯だと言いたいが、言った所で逃がしてくれるわけでもないので、次の攻撃に備え、一定の距離を取る。


その間に、東山はゆっくりと立ち上がるが、ダメージから膝が来ているようで、少しふらふらしている。

それでも、必死に手を動かし果敢に攻撃をしている。

キングは両手を顔の横に持っていきガードをしながら、横に移動し、子供を相手にしているように、明らかにゆっくりとしたパンチを顔に当てている。


東山は壊れた玩具の様に、ひたすらパンチを繰り出す。

苦しい、酸素が足りず脳がうつろになっていく。

それでも、手は止められない。

手を止めたら、二度と動けなくなる気がするからだ。

きっと、その時は全てが終わる。

そんな恐怖を振り払うように必死にもがくように打ち込む。

けれども、腕に重りが付いたように重くなっていく。

その重りはパンチを繰り出す毎に倍々で重くなっていく。

次の瞬間、吹き飛んだ。

地面について始めて気が付く、何か攻撃を喰らったんだ…。

世界が波をうつように歪んで見える。

自分自身も軟体動物になったみたい感覚に陥り、世界と一緒に揺れていた。

どくん…。

世界が一瞬暗転する。

「東山ってゾンビだよな。いっくら殴っても立ち上がってくる。」

少年の様な笑顔を見せていた。

お前誰だよ?。

そうか…。

お前か…。

「マジでさ、弱いんだか強いんだかわからんのがお前だ!仲間になれよ。」


東山は暴走族連合に入った時のことが脳裏に浮かんだ。


柴山に襲撃されたのは中学3年生の頃だった。

先輩に誘われたまま摩天楼という暴走族に入っていた。

と言っても、代替わりして2人しかいない。

もちろん、後輩もいない。

調子にのって、頭角を現してきていた暴走族連合の文句を言いまくっていた。

どうせ耳に入らないだろうと思っていたが、近所のドン・キホーテに買い物に行ったら小さな奴に声を掛けられた。

それが柴山だ。

ついてこいと言ってき。

小さいから弱いだろうと思ってついて行ったら、路地を曲がった所でいきなり短く切った鉄パイプで殴られた。

運良く脂肪たっぷりの腹だったから、そこまで痛くなかったので、殴ろうとするも連打を喰らい一気に撃沈。

逃げようと思い立ち上がるも何度も何度も襲ってくる。

それの繰り返しだった。

運良く急所から外れていたことと、体格差があったことで致命傷にはならなかった。

数日後、満面の笑みで柴山が現れ言ったセリフだ。

この小さい奴が怖く、言われるがまま暴走族連合に加入したのだ。


不思議と揺れが治まっていた。

まだ立てる。

あの日のように。

立ち上がろうとすると足に力が入らないが踏ん張る。

「この目になったら俺は止まんねぇぞ。」

東山はゆるりとジャブを撃つ。

さっきまでの力んだジャブと違いスピードが乗っているのがわかる。

柴山、ありがとうな、と心の中で呟いた。

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モグラ 左座 @zouza

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