第10話 最大のピンチ

関は昼のトレーニングを終え、汗を流したのちに、プロテインを飲んでいた。

ヴィーガンなのでソイプロテインだ。

東山のことを考えていた。

昨日は配信がなかった。

空気を吸うかの如く、次から次に嘘をつき、撃たれ強さは過去最強といっても過言ではなかった。

別に職があるわけでもなく、四六時中酒を飲みヨレているだけの生活だ。

Youtubeでの配信で初めて手に入れた大金であり、酔いしれていたはずだ。

なぜ、アルコール中毒でもあり、配信中毒である東山が配信をしなかったのか。

ほとぼりが冷めるのを待っているのか。

東山のボロを見つけ早く捲りたい。

一度、ハメられ、視聴者から攻撃をされたときの衝撃が頭をよぎる。

そのとき、スマホから通知音がなった。

見てみると、ライブではなく、動画投稿という形で東山が動画をUPしたようだった。

見てみると地べたに横たわった状態でモザイク処理されていた。

内容としては

組織にやられた。

今も拘束されている。

それだけだった。

東山に対してイラついていたこと、狭山のタイソンが組織にやられたと動画をだし、それがバズって多くのユーチューバーが真似をしていたことから、便乗していると思った。

ただ、背景からしてアイツの家ではない。

アイツの家だったら湿って人の体重だけで凹む腐りかかった畳のはずだ。

台所付近だとしても、板のはずだが、モザイク越しでもコンクリートだとわかる。

コンクリートだから、ホテルでもない。

リスナーと一緒になって遊んでいるな。

東山の動画から居場所のヒントを見いだせないかと、何度も見直す。

全神経を耳に集中し、東山の声ではなく、外からの音だけを聞くようにする。

車の音と、虫の音がかすかに聞こえる。

これなら大丈夫だろう。

エンジェル投資先の企業で、微細な音から居場所をある程度限定させるAI技術を開発していたので、動画データを送信する。

この会社は早くも実績をあげており、警察から依頼を受けることもあるのだ。


1時間後に返信がきた。

虫の音から、生息地を特定し、車の音から交通量と特定したようだった。

機会で読み取った際に、微弱の電車音もようで、かなり的が絞られていた。

墨田川、荒川、多摩川が候補としてあがっている。

その中でも有力とされているのが、多摩川沿いにある、川崎市幸町だった。


人の聴力では聞き取れないほど微弱な音声を拾い、複数の情報から場所を特定するとは恐れ入る。


早速、電気自動車である、テスラに乗って有力候補である川崎市幸町へ向かう。


東山を捲ってやる。

頭の中では、科捜研に扮した関が現場を撮影しつつ、ルミノール反応を確かめるという刑事ドラマ仕立てで考えていた。

当然、もう東山もその場にいないだろうし、仮に組織だったとしても、一時的に使っただけだろうから危険はないはずだ。


グーグルアースで廃屋などを調べたら候補となるのが3つあった。

その中でも一番大きい廃工場へと向かう。

もし、ここが違っていたとしても他の場所を探すだけだ。

内容が異なっていたのであれば徹底して、荒川や墨田川沿いへ移動すれば良い。


そうこうしているうちにたどり着き、一番近くのコインパーキングへ行く。


機材の入ったバッグを抱え、廃工場へと歩いていく。

服装は紺色のツナギで胸に関と黄色で刺繡を入れてある。

廃工場近くとなり、泥まみれの足場がぬかるんでいて少し歩きにくい。

滑らぬように注意しながら足元を見ると、複数の足跡が残っていた。


ちょっと待てよ。

しゃがんで足跡を確認する。

サイズもまちまちでソールの形状も多種多様だった。

いくらリスナーと一緒に劇団をやっていたとしても、せいぜい2,3人程度のはずだ。

けれども、足跡は何倍もの種類がある。

もしかして…。

東山を捲ることばかりを考え、劇団と決めつけていたけど、もしかしたら、本当に拉致られていたんじゃないのか?

走馬灯の様に過去の記憶が蘇る。

オレオレ詐欺の逮捕者に「川崎国」のタトゥーがあったと報道されていたこと。

鶴見のトキと会った帰りに川崎国のタトゥーを入れた奴らに襲われたこと。

ここも川崎…。

ちょっと態勢を整える必要があるかも知れない。

早い段階で気付いて良かったと車へ戻ろうとする。

少し離れたところから若者の声が聞こえてくる。

ルミノールキッドは少し値が張ったけど仕方ない。

全力で走って逃げるしかないが、逃げる方向から若者が来ている。

姿を隠す場所を探すも、廃工場くらいしかない。

若者が来ているということは、廃工場の中にはもっと多くの人がいる可能性がある。

まずい状況だ。

普段だったら、こんなヘマなんてしないのにと思ってもどうしようもない。

腹を括り、荷物をその場に置いたまま走ろうとするが、ぬかるんだ足場が、それを邪魔する。

気が付けば、黒いパーカーを来た若者数名に囲まれていた。

両手をあげ「降伏だ」と告げる。

笑いながら近づいてくる。

全員が未成年者のようだ。

中には中学生くらいの男もいた。

関は相手との距離だけに集中していた。

間合いに入った瞬間、少年の鳩尾に前蹴りを叩き込もうとするも、ぬかるんだ泥によって滑ってしまう。

転倒は避けられたものの、少年が襲いかかってくる。

その瞬間、首元で電気音が聞こえブラックアウトした。

廃工場から来た奴に強烈なスタンガンを首の後ろに打ち込まれたのだ。





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